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第二百四十一話 開発と日常

 首都アルフヘイムの大規模区画整理に伴い、様々な施設が取り壊されては建造されてゆく。特に初期に建造した建物群は、その全てが取り壊しとなり、その中には私達の住居も含まれている。


 今は仮設の住居となり、少なくとも屋敷とは言えない。せいぜい三階建ての石材仮組み住居で、大きさも前世で言えば比較的小さな集合住宅といった所だろう。


 私達の住居こそ、部屋の全てを内部で行き来出来るようになっているし、何人かのメイドを含めた使用人なども住む事が出来るようになっているが、他に作られた一般住民用も基本的に外観は同じだ。ただし、当然家族単位で住居が独立するような形になっているので、一つの建物につき十二世帯が住む事を前提とした作りとなっている。しかも後で解体が簡単なようになっているため、もしそれなりの規模の地震があれば倒壊は免れない。この周辺に地震がほぼ無い事が確認されたために採用されただけで、当然新しく建築中の建物は、それなりの耐震設計はもちろん、耐火構造やそれなりの防音処置などが施される。


 それらの技術の一部は、シオツジやアマツカミボシから提供された情報による物も多く、石灰を用いないコンクリートのような物も使用される事となった。その際に石材を細かく砕いた物も流用可能なため、特に今後は規格外になる石材を優先して細かく砕く作業なども行われており、その技術もシオツジからの提供だ。他にも防音素材の作り方などが提供され、それがこの領地で比較的豊富にあり、他に使い道があまり無かったので、新しい産業としても期待出来るだろう。


 同様に道も再整備される事となり、前世のアスファルトとは多少異なるものの、見た目はアスファルトと同様で強度も高い道と、その左右に設置される排水口や道の地下に作られる水道管や下水管、魔導線などの各種インフラが設置される。


 魔導線とは、電気の代わりに魔力を通す電線のような物で、これを各家庭などを含めた建物全体に行き渡らせる。これにより魔力を用いた様々な機器を使用する事が出来るようになり、アルフヘイムでは様々な魔力を用いた魔道具が人の魔力無しで使用可能となる。しかも前世のような火力発電と違い、魔導炉で発生させる魔力はその生成から使用まで一切空気を汚さない。必要なのは定期点検と、数年に一度だけ拳大の魔石を補充すれば大丈夫な事だ。


 最初魔導炉は魔石補充なしに魔力を永遠に生み出す物だと思っていたのだが、実際は違っていた。


 確かに魔導炉は莫大な魔力を生み出し、それを最初に発生させる魔力は僅かで構わない。しかし考えれば当然な事で、無から有は作る事など出来るはずが無い。エネルギー保存則はどの世界でも同じだ。


 魔導炉とは魔石の魔力を最大限効率よく魔石から魔力を取り出すだけだ。なのでどうしても必要量に応じた魔石は必要なのだが、その効率があまりに良いため、一般には魔力を永遠に生み出す物と考えられていただけだった。当然都市単位などで魔力を供給する事ともなれば、定期的な点検は当然として、魔石の補充も必要になる訳である。それでも前世のエネルギー供給量から考えれば、圧倒的に魔導炉が優れている事には変わりなく、しかも原子炉のような放射線や、ましてや厄介な放射能のような危険性も無い。設計さえ間違っていなければ爆発する事も無く、意図的に爆発させるにはそれなりの方法があり、これから設置する魔道炉には対策済みである。現行品についても順次改修予定で、非常時には魔力を用いて都市丸ごと守る結界も作る事が出来るため、その有用性は語るまでも無いだろう。


 家庭はもちろん、行政施設など様々な所に供給される魔力は、そのままコンセントのようになった場所へ、魔導誘導線と名付けた各機器にある細い線を通して魔力が供給され、例えば電灯のように光る魔灯やキッチンにある魔力コンロ(魔力供給型熱発生器)など、さまざまな魔力を用いる道具へと供給される。今のところは魔力コンロや魔灯などが主な機器になるが、今後は魔力式の冷凍冷蔵庫など、家庭でも役に立つ物を開発しているので、今までよりも鮮度を保ったままでの料理が増える事だろう。業務用では魔導エレベーターも完成し、それらに魔力が供給される事となる。道には魔灯を若干強力にした外灯が電灯のように等間隔で設置される事で、夜の安全性も確保出来る。


 ちなみにだが、今の時代は一定量の降雪がある地域を除けば、冷蔵保存の方法は魔法を除いて無いと言える。そして物を冷やすだけに魔法を使うのは効率が悪いという認識が一般で、食料の保管に用いる事は無い。なので乾燥や燻製を用いた保存食が主だった物であり、季節の食料を食べる事は出来たとしても、前世のような季節に関係ない食料が手に入る事は無いと言える。さらに肉類は新鮮な物を除けば燻製が一般的で、肉類の供給が少ない時期には燻製肉が多く食卓に並ぶ事となる。


 牧畜などは一応行われているが、そもそもこの地が棄民の地であったため、今までは牧畜が行われる事は無かった。現在は行っているが、需要に体しての供給量がまだ間に合っていない。そして数日間の旅行などを行う時には、大抵が保存性の良い乾燥肉や漬物のような物などが一般的で、どちらも味ははっきりと言って不味い。これは誰でも感じている事らしく、今は保存食の品質向上のために予算を割り振っている程だ。


 そもそも俗に言う所の魔法の袋であっても、普通の民間人が用意出来る物はさほど量が入らない。そこには大抵貴重品を入れる事の方が多いため、どうしても食料は不味い保存食となっているのが現状だ。


 しかし保存食の品質向上が出来れば、これは特産品となる可能性も秘めている。それ故予算を多めに割り振ってでも、新たな保存食の開発は待たれる所だ。


 話を戻して外灯については、深夜帯は消灯させる。この世界では空気があまり汚れておらず、星も綺麗だ。今のところ本格的な天体観測といったような事はされていないが、今後はこの星の事やその他の事も含めて、色々と観測するための処置でもある。


 それに例え外灯を消しても、最初は巡回兵を、後に警察を正式に発足させ、そこから見回りをさせる予定だ。なので夜だからといって治安が急に悪くなる事は無いだろう。それに交番制度も導入予定である。また各家庭には、その家族のみが基本的に開け閉め出来る魔導具化された扉を設置するため、緊急時に兵士などが解除しない限りはドアは簡単に開かないように防犯処置も行う。扉や窓などを壊せば別だろうが、そんな事をすれば大きな音が出るのは当然であり、その時は各家庭に配布される非常装置を起動させる事で、付近の兵士などが駆け込む事になる予定となっている。治安対策には万全とは言えなくとも、力を入れるつもりだ。


 他にも試験的ではあるが、シオツジから提供された情報にある浄水設備や浄化設備を用いた上下水道の本格的稼働、ゴミ収集後の自動分別と資源の回収にゴミの効率的な焼却とその煙の浄化など、前世でも無い技術がいくつもある。本来なら本格稼働を早くしたい所ではあるが、流石に未知の技術もあるので試験運用からとなった。むしろ公共設備に関して言えば、試験運用をする場所の方が多くなっている。しかし同時に本格稼働に目処がつけば、かなりの部分が自動化される。そうなればそこに割いていた人員を、別の所に向ける事が出来るので、多少ではあるが人員不足を補えるだろう。最終的には何事も人の手がいるので、人員が不足している以上は、効率化出来る所は効率化させなければならない。


 そういった事が重なり、私は執務室の書類と格闘・・しながら、時にはアマツカミボシの所で様々な技術供与などを受ける毎日。当然休みが削られていくが、今回は都市そのものを丸ごと作り直す事になるので、多少は仕方がないと諦めてもいる。それに忙しいのは私だけではない。議会や新たに設置された省庁なども、次々と新しい事が始まり、連日遅くまで仕事をする姿が当然のようになっている。


 もちろん適度に休むように伝えているし、それは私も実践する事にしているが、それも毎回では無い。当然私が十分に休みを取れない事を知っているので、他の皆も無理をしている。何度も無理をしないように言ってはいるが、その張本人がこれでは、意味など半減するだろう。


 私も休みには、家族の時間を大切にするように心がけるようになったと思う。特にこの世界での一年は四百九十日であり、それを十四の月に分けて一ヶ月が三十五日。当然七で割り切りれ、一ヶ月は五週となっており、一週間は七日だ。しかし休日の概念が特にないので、特定の日に休むという習慣が無い。そこで週の始まりを原則として休みとし、基本的に役所などで働く者にはその日を一日休日にするように制定した。他の民間人が全く同じという訳にはいかないが、同じように週の初めを休みとするか、それが難しい場合は週に一度は休みを設けるように法律で定める事とした。そして肉体労働者系統には、休みが決まっているという事は好評なようだ。今まで休日の概念が無かったので、余計なのだと思われる。


 そもそもこの世界の住人となって私も忘れがちだが、この世界では一日が四十八時間になっており、流石にこの時間の考え方を修正するつもりは無いが、週や月の呼び方は地方によってかなり差がある。それこそ同じ曜日を『月の日』や『精霊の日』といった風にだ。そして元々ここは棄民の地とも言える場所だったため、色々な呼び方が混在して混乱する光景を見かけるのもさほど難しくない。そこで週を一から五で数え、月も同じように一から十四で数えるように規定した。すぐに浸透は難しいだろうが、それは時間が解決するだろう。いずれ数字では無い呼び方も出てくるだろうが、今はまず簡易的にでも呼び方を統一させなければ今後に差し障る。


 朝の仕事前や夜の仕事終わり、同じ建物の中にいたとしても仕事中に家族とふれあう事はほとんど無い。そこで可能な限り休日などは、子供達ともふれあう機会を増やすように心がける事にした。とはいえそのうち五人は下手な大人顔負けの知識を既に持っており、文字通り子供と言えるような雰囲気があるのはベッティーナが産んだ三人だけだ。まあ、これについては今さらしかたがないと思う事にしている。そもそも私やエリーナがほぼエンシャントエルフと同じ存在になっていて、イロもハイエルフからエンシャントエルフの間に近い状態にあるので、前例が無いのもあるが考えるだけ無駄だろう。その代わり五人の子供達は私やエリー、イロに対して色々な助言をしてくれるようになったのは嬉しく思う。これも少し変わった形ではあるが、子供の成長だと思えば嬉しい事だし、今後が楽しみだ。


 そしてエリーとイロは再び妊娠した。まあ私もやる事はやっているという事ではあるが、今後の事を考えれば王族候補はある程度確保しなくてはならないという現実もある。ついでと言っては何だが、オッリ・ペララなど多数の者達が結婚をし、子供も生まれた。まだまだ建設ラッシュなどで仕事は多いが、男性に出来る事と女性に出来る事ではやはりエルフなどの色々な種族があるとしても、どうしても差は出てくる。なので特に女性達は出産ラッシュが続いているが、これもある程度平和になったおかげだと思う。それに子供達の誕生で、男達には以前よりもさらにやる気が満ちている感じもするので、それはそれで悪くはないのだが、ただ働き過ぎには注意して欲しい所だ。


 ベッティーナに関して言えば、どうやら種族的に妊娠周期がかなり固定されているようで、一年でもある程度決まった時期しか妊娠が難しいらしい。まあ彼女の子供は文字通りまだ小さいし、あまり焦ってもしかたがない。


 前回の戦争で、この地に避難してきた者達の帰還はほぼ終了したが、今度はこちらの開発ラッシュなどに伴い、移民希望者が増えてきた。


 当然エストニアムア王国の許可も必要であり、さらにこちらでスパイなどの問題を発生させかねない人物で無いか調査が必要であり、当然厳格な審査をしている。例え元が単に農民であったとしても、その調査は厳格に行っており、最低でも審査が通るのに一ヶ月はかかっているが、この国の安全を考えればしかたがないだろう。それを待てないという者は、二度と再移民の申請は通らない。これらの事はエストニアムア王国にも通達しており、今のところは特に問題にもなっていない。


 むしろ戦争でかなりの戦費がかかったためか、それまで国内の各領に配分されていた補助金のような物が不足しているらしく、言っては何だが移民を止めるつもりは無いようだ。それはそれで将来的にどうかと思うが、正直被害はエストニアムア王国側は金銭的な物が主だった物とはいえ、無い袖は振れない以上、王国としても国の中央の基盤を固める事を優先していると思われる。まあ、相手国が賠償金などを支払えなくなった理由は、私の命令で敵の首都を含めた町などをほぼ焼き払ってしまった事にもあるようだが、これについては反省するつもりは無いし、何を言われてもこちらが引き下がるつもりは全く無い。


 そもそもこちらもエストニアムア王国程では無いにしろ、前回の戦争でかなりの戦費を使用しているし、食料についてもかなり消費した。特に避難民の食料についてはかなりの痛手だったと言える。その保証的な金銭の請求をエストニアムア王国の要請により先延ばしにしている以上は、文句など言わせるつもりは無い。


 それにしても発掘して使用している土木機械などは大変便利だ。


 アマツカミボシなどによると、元々はどうやら石油系のエネルギーを動力源としていたらしいが、それを魔力で動くように改良した物だけが残っているらしい。本来ならさらに多くの機械類があったらしいが、この星に最初に来た者達は原油などを調達する事がすぐに出来ず、動力源の変更を早期に変更する事にしたという。おかげで今は私達が助かっているのだから、何が幸運を呼ぶか分からないとは、まさにこの事だろう。


 発掘品を研究した新たな開発なども既に行われており、少数ではあるがそれらも動き始めている。まだ試作段階というので本格運用では無いにしても、今後はさらに必要になる可能性がある以上は、我々だけで新たに作れるようになる事は望ましい事だ。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です。


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