第二百三十九話 子供達の日常
第二百三十九話 子供達の日常
金髪で黒目という、この世界では比較的珍しい特徴を持つタルヤ・バスクホルドは、いつもの講義を受けていた。隣には腹違いの弟で銀髪、碧眼のミエスもいる。
二人は基本的な語学の勉強を中心に行いつつ、時には武術の訓練、魔法の訓練を行っていた。
エストニア歴では三五九年の生まれだが、独立した事によりここではサヴェラ歴が使用され、今はサヴェラ歴四年。本来なら四歳である二人だが、既に見た目はエルフとしては十歳を超える程度になっている。
普通に考えれば五歳という年齢は、クラディ基準で小学生になるかどうかだが、成長が著しい二人や、同時期に生まれた女の子達も、普通に成人としての知識を吸収出来るレベルにまで達していた。ただ、それと教育が追いつくかどうかは別問題である。
もちろん今後の事を考えて、教育者となる者は養成している所だったが、まさか五歳で大人と遜色ない知識の吸収をされると、教える側も下手な事は出来ず、しかも相手は領主の実子だ。当然エリーナなどの方針も聞かされてはいるが、それ以上に教える側が戦々恐々とするのに時間はかからなかった。
「私が跡継ぎである事は理解しています。ミエスが私に何かあった際の予備という点も含めてです。ですが私達はまだ四歳。こういった話は、本来早いと思いますが?」
別にタルヤは今の状況が嫌いという訳では無いし、恵まれているとすら思っている。それに自信や弟、妹たちが特殊であるという点も理解しているが、この世界の常識を知らない訳ではない。当然、本来四歳という年齢は、まだ政治的な事を直接学ぶのが早いと思っているだけだ。
バスクホルド家専任教育者の一人として任命されているヒルダ・ヴェサラは、タルヤの言葉にどう返答して良いのか一瞬詰まる。
エルフ族の彼女は、元々エストニアムア王国時代に他の領で教育者として働いていたが、親族に対するあらぬ疑いにてこの地に一族ごと強制移住させられたうちの一人だ。そんな中、バスクホルド子爵家時代に能力を買われ、早期から教育関連の事に従事してきた。今では王家付きの立場にまでなり、まだ四十三歳というエルフとすれば若いという自覚もあるが、それでもバスクホルド王家に忠誠を誓う一人である。
「タルヤ様の仰る事は十分に分かります。正直私も早いのではないかと思う事はありますが、お二人があまりに覚えが良いので、本来の予定が前倒しになっているのです」
実際一年が四百九十日もあるこの世界で、しかも専任者が指定されている状況では、普通よりも教育について早く進む。そしてタルヤ達があまりに物覚えが良い事にも、その事に拍車をかけていた。
「また、本来であれば同年代の子達とのふれ合いも重視したい所だったのですが、前の紛争や戦争などにより、まだまだ子供達の数が少ないのもその理由です。そしてこれが一番の理由ですが、同年代の子供達とのふれ合いでは、お二人は明らかに浮いてしまわれます。正直、既に下手な大人よりも知識はあるはずですよ?」
「それは分かっているよ。母上にも、それについては聞いているから。一般論を言っただけと思って欲しい。別にヴェサラ先生を困らせたい訳ではないから」
タルヤの言葉に、ヴェサラは思わず安堵する。
「私も個人的には、政治の話をするのは早いと思っていますが、お二人の成長があまりに早く、周囲から前倒しでと言われているんですよ。もしお二人に何か希望があれば、そちらを優先するようにお伝えしておきますので、遠慮せずに仰って下さいね?」
「分かったよ。ところでベッティーナお母様の方の兄弟達は、やはり違ってくる事になるのかな?」
「そうですね。ベッティーナ様がお産みになられましたお子様達は、まだ勉強をするような状況になっておりませんので」
「兄上。そろそろ授業の再開を……」
ミエスはタルヤと違い、この辺の件についてはあまり考えないようにしている。異母兄弟であるという事もそうだが、そもそも自分たちが特殊だと割り切っているからだ。
「ああ、悪い。先生、授業を再開して下さい」
こんな形で今日も授業は続くが、ヴェサラとしてはやはりまだ教えるのは早いのではないかと思う事があるのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方その頃、エリーナがの子である長女エミリアと、イロの子であるブリタ、ドロテーアの次女、三女は、メイド数人と共にベッティーナの子である三男ヘンリッキ、四男ヨエル、四女タイナと共にいた。
エリーナやイロの娘たちも、当然領主の娘としての教育があるが、彼女たちの場合は結婚後の事などもあるので、その為に男子に比べ時間的余裕があるとされた。ただ、その分のしわ寄せが長男と次男に行っている事など子供達の誰にも知らされていない。なので男子組だけが普通よりも高度な教育を早く受ける事になった事に、本来なら男子組は文句を言うべきだろうが、知らなければ文句も言えない。そしてこの方針は、エリーナとイロの方針でもあった。
そんな彼女たちは、将来あるであろうダンスパーティーの練習が終わり、今は茶会を楽しんでいる最中。もちろん作法などを学ぶ目的もあるが、少なくとも作法に関しての教育は終わっていると言って良いだろう。
「お兄様達も、毎日大変よね」
ブリタの問いに、エミリアとドロテーアがカップを静かにソーサーへ置いた。
「お兄様達は仕方ないです。特に二人は跡継ぎとなる可能性が高いのですから」
ドロテーアはそう言いながら、側にあった茶菓子を一つ摘まみ、そのまま口に入れた。
「ドロテーアの言う通りね。まあ、私が領主になる可能性も多少はあるかもしれないけど、二人がいる以上は、その可能性はとても低いわね」
エミリアもそう答えると、お茶のおかわりを近くのメイドに頼む。そのまま注がれる琥珀色の液体からは、芳醇な香りが立った。
「一応、私から後で言づてを頼んでみるけど、多分今は無理よ? 何せ、お母様達がその気なんですもの」
エミリア自身は、兄達は無理をさせられているだろうという事は、何となく察していた。しかし母親の教育方針に口を出せるとも思っていない。
何せここはまだ生まれて間もない国。当然今後兄達が、近隣の町で領主としての経験のため、どこかの町の管理を任されるだろうと考えている。
そんな彼女たちの会話を聞きつつ、何人もいるメイド達はベッティーナの子供達をあやしている。本来ならベッティーナが率先してやりたがっていたが、領主の妻としての仕事もあり、どうしても都合が付かない場合が多くなりつつあった。
そしてメイド達は、エミリア達の会話を後ほどエリーナ達に伝える事も忘れない。見た目や精神年齢が高そうだといっても、やはりエリーナ達からすれば、まだまだエミリア達は子供でしかない。
それぞれの思惑が動く中、クラウディアだけが子供達とは少しばかり距離を置かれている事になるが、それをあえてエリーナ達は彼に伝えないようにしていた。クラウディアはすでに今の仕事量で、かなり無理をしている事など彼女たちには分かりきっていた事だからだ。
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