第二百三十八話 再度、宇宙船とアマツカミボシ
まだ療養中ではありますが、適度に更新は続けたいと思います。
書類仕事も大切だが、同時にシオツジやアマツカミボシの事が気になるのは仕方がないだろう。書類仕事は溜まっているが、宇宙船の遺跡に入る事はこちらから事前に伝えておけばさほど問題にはならない。当然その分だけ書類仕事が増える事になるが、そもそも大量の書類だけを相手にしていると、それだけで気が滅入る。そして執事長であるアウヴォ・ヴァスコラに一言告げて、宇宙船の遺跡へと向かう。
当然途中までは護衛が付くが、護衛は宇宙船の入り口で待機してもらう。本来なら中まで護衛をしたいところだろうが、こればかりは内密の話も含まれるだろうし、少し無理を言って一人で中に入る。
相変わらず中に入るには細々とした手続きが必要だが、かといってこれを全て解除させるつもりはない。下手に他の者が入ると、それこそ余計な事をして混乱を招きかねないからだ。その為に最初にこの宇宙船を発見した頃に比べ、シオツジやアマツカミボシに協力を依頼して、私以外の者が入る際には厳重な手続きが必要となる。これについてはエリー達についても例外ではない。
そもそもこの宇宙船と中に記憶されている情報は、この世界を根本から変える可能性が高すぎる。既にその一部は私が情報を開示して使用しているが、それについてもほんのごく僅かでしかない。だからこそ慎重な運用が求められるのだろうが、かといって国を守る責任がある以上、ある程度は許容する必要もある。
しばらく進むと、立体ホログラムのアマツカミボシが待っていた。軽く挨拶を済ませ、現状を確認する。特にアマツカミボシが肉体を得る作業の進捗具合は重要だろう。
アマツカミボシを受け入れる冷凍睡眠状態の素体は、既に肉体としては八割方用意が終わっているようだが、肝心の脳についてはまだかなり時間がかかるようだ。アマツカミボシの話によると、どうやら脳の神経細胞を可能な限り増殖させる事に時間がかかっているらしい。頭蓋骨の大きさは変えられないため、内部の密度を通常では考えられない程に高めているらしいのだが、そんな事が可能なのだろうか? 当然、脳その物が一般的な物より重量が増す事となるらしく、それを支えるための首などの筋肉などの補強も同時に行っていると説明された。
また、脳の生命活動などを司る部分についても最適化を行っているらしく、これもまた密度を増す事で小型化し、前世の人間でいう大脳部分をその分肥大化させる行為すら行っているらしいが、その様な事をして大丈夫なのだろうか? 脳科学に詳しい訳でもないし、そもそもこの世界の脳の構造と、前世とでは同じとも考えられないので、とりあえずは様子を見守るしかない。
一応はシオツジが複雑な計算の元に処置を行っているらしく、少なくとも今は問題になっていないというのを信用するしか無いだろう。
「まあアマツカミボシの件については、私に同行できることではないからな。それよりも格納庫か倉庫なのか分からないが、使える物は出来るだけ今のうちに搬出したい。今この上にある王都も、再整備が決まった。それを効率よく行うには、ここにある物が有効だと思うのだが、前に用意された物だけだと時間がかかる」
重機のような大きな物については、一応搬出口が一つだけある。問題は魔導トラックに使用しているエンジンと人力で滑車を使った方法でしかなく、魔法などで色々と補助をしているとはいえ、一つを運び出すだけでかなりの重労働である事に変わりはない。役に立つ物だと分かっているから協力が得られているが、それがいつまでも続く保証もない。
「それなら、少し今ある搬出口から離れてしまいますが、本来の搬出口があります。ですがそちらは埋没しているので、上の土を取り除かなければなりませんが。取り除く事が出来れば、中の自動昇降機が使用可能になるため、後は掘り下げた付近から出しやすいように坂などを作れば解決するかと思われます」
「それは良いな。ちなみにどのくらい地下に埋まっているんだ?」
「今使われている単位ですと、おおよそ十五Mです。今ある搬出口からは二K三百五十五M離れております。位置はここです」
アマツカミボシはそう言うと、立体画像で地上にある現在の搬出口と、昇降機がある搬出口の地図を出す。確かに少し離れてはいるが、昇降機を使えて大量の人員を必要としなくなるのであれば、この程度は問題にすらならない。唯一問題があるとすれば、入り口を掘るまでの作業だろう。ただ、それも現在あるここから持ち出した重機を使えば、かなりの時間と労力を短縮出来る。
本来なら地下から各種の重機や車両など、必要な物は地下から持ち出した重機類で効率よく運び出す予定だったのだが、予想していたよりも深いところにあり、地下から地上へと運び出すために必要な金属製のロープを用意出来なかった。
強靱な金属類は色々あるのだが、残念ながらそれらをロープにするだけの技術がこの世界になかったのと、それを作り出せるだけの技術を私が持っていなかったためだ。三階建てや四階建て程度の高さに石材などを運ぶには問題ないが、この宇宙船にある格納庫は少なくとも地下百Mはあり、重量も石材の数倍はある物ばかり。これではロープで簡単に引き上げるという方法は出来ない。
仕方なく現在行っている方法が魔導トラック用のエンジンと人との共同作業なのだが、それを十回も途中で引き上げ用の台に載せ替えながらの作業となっている。特に台から台への載せ替えは完全に人力であり、それが作業の遅れに繋がっているのが事実だ。狭い地下なので移動するための手段が乏しく、タイヤなどが付いていれば良いが、無い場合には事前に専用の台車に載せなければ運べなくなる。そういった事が重なり、悪循環に陥っている。
「分かった。急ぎ調査させよう。そこの見取り図や操作方法などは残っているか?」
「はい。ですがデータとして残っているだけですので、こちらで紙にしてご用意いたします」
「頼む。ところでアマツカミボシ。君が肉体を得るまで、後どれくらいかかる?」
「現在脳の容量増加処置などを行っている最中ですので、どんなに早くても三ヶ月かと。できる限り急いではおりますが、予定していたより三十パーセントの遅れが出ています。主に脳やそれに関する構造の変異が遅れている事が原因です」
やはり、脳を弄るのはかなり面倒な事だったらしい。しかしこればかりは待つしか無いだろう。
「遅れても構わないから、慎重に作業を進めてくれ。それともう一つ聞きたいのだが、名前は今のままで良いのか? 正直に言えば、この世界での一般的な名前とはかけ離れているのだが」
どういった繋がりかは分からないが、正直前世の日本を連想させる名前に近い。単なる偶然という可能性も高いが。どちらにしても、この世界での一般的な名前ではない事は確かだ。今はまだ大丈夫だろうが、今後の事を考えると名前は変えた方が良いと思う。
「確かにそうですね。良ければクラウディア様が付けて頂ければと思います。肉体的には女性なので、それに見合った名前であれば構いません」
「そうか……」
「それとですが、肉体を得た場合に私の身分が問題になるかと思われます。その対策を早めに行っていた方がよろしいかと思われます」
「いや。それは既に考えてある。アマツカミボシは私の養子という事にする。流石に一人での行動は問題が発生する可能性もある。ならば、屋敷で暮らす事が一番望ましい。多少の手続きは必要だが、そちらは既に動いているので心配する必要は無いだろう」
実際にこの件については、エリー達とも話し合って、こういった結論に達した。もちろんアマツカミボシを見張るという事もあるが、アマツカミボシの知識は下手に広めすぎると混乱を及ぼすのは目に見えているのだから、これ以外の対策となるとかなり難しいと判断した。
もちろんこれらは、私が国王という立場であるから出来る強攻策ではあるが、この程度の事であれば問題はないだろう。むしろアマツカミボシが実際に人目に付くようになってから、問題が発生する事が多いのは確実だ。
これに関しては、正直私だけでどうにかなる問題とも思えない。エリー達に相談するのが一番だろうが、それ以外にも事前に説明をしておいた方が良い者がいるだろう。その辺をきちんと見極める必要がある。
その辺りを含めて、再度エリー達と相談しなくてはならないな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「シオツジ。クラウディア様は私を受け入れて下さるようですが、本当に大丈夫でしょうか?」
アマツカミボシの問いに、音声は聞こえない。しかしアマツカミボシには、シオツジの答えは聞こえている。
「ええ、分かっています。それに、まだまだ話さなければならない事もありますから。私がシオツジと分離すれば、答えられる事も十分に答えられませんからね」
少ししてから、アマツカミボシは首を横に振った。
「私は出来るだけ隠し事はしたくありません。それにクラウディア様は、もっと知る必要があると私は思います。シオツジは反対なのですか?」
誰もいない空間に、アマツカミボシの声だけが木霊する。
「確かに危険はあるかもしれませんが、それは今さらでは? どちらにしても、クラウディア様が本気で調べるつもりがあるなら、いずれそれは分かる事ですよ? いくら炉心が止まったとしても、シオツジが収拾した情報は、半永久的に残るのですから。そして私達には、それを抹消する事は出来ない事も、シオツジも理解しているはずですよね?」
誰かがそれを見ていれば、誰もいない所でアマツカミボシが独り言を永遠と喋っているとしか思えないだろう。
「そもそも、この星に来た事が間違いの始まりだったのでしょうね。ですが私達は単独で動く事は出来ません。せいぜい警告する事が出来る程度です。そしてそれに従うかどうかは、乗員の判断に委ねられます。確かにこの星は生命体が生存可能でしたし、乗員や冷凍睡眠状態の方々が生活するに条件をある程度満たしていました。ただ、最初の知的生命体との接触が運命を変えてしまったのでしょう。しばらくシオツジには面倒をかけますが、それが終わればあなたは永遠の眠りにつけます。いずれ私もあなたの後を追う事になりますが、きっとこれで良かったのです」
アマツカミボシがそう言うと、そのまま彼女はホログラムで出来たような体を消してしまった。後に残るのは、静寂な空間のみ。それはまるで死にゆくこの宇宙船の最後を象徴するかのようであった。
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