第二百三十七話 アルフヘイム
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翌日、建設大臣としてリストにあったアンセルム・ダロンドというコボルト族の男性を指名する。立ち会いとしてエリーと首相のアルホ・ヴァータモイネンが同席。建設関連の事は、基本的に彼が一手に引き受ける事となるだろう。
元々彼は鉱山地帯で働いていたが、その施設管理などを重点的に行っていたのと、その施設の出来映えに周囲からも一目置かれる存在であった。
無論他にも候補がいたので、その候補に挙がった者達にも彼の元で働いてもらうように手配した。せっかくの有能な者を遊ばせるのは、それこそ無駄だろう。前世で言えば副大臣や官僚などだ。
それから議会にて建設大臣を新たに任命した事を伝え、さらに領都再開発計画案を実行するように議会へと書類を提出。事前にエリー達が手回しをしていたのだろう。計画案はすぐに承認される事となった。
この時点で、既に私の議会での役割は終わりであり、後は議会などに任せる事にする。何よりこの計画で、王城が正式に建設される事も決まっており、こちらもある程度引っ越しをする準備がある。ところがそれもエリー達が主導して行うという事となり、私は執務室に溜まった書類を片付ける事になった。
しかしそれも私専属の執事であり、尚且つ私が国王となった事で、アウヴォ・ヴァスコラが執事長や秘書などを兼任している。無論他のメイドなどもそれぞれ役割分担が変わったり、新たなメイドが入ったりなどで、書類仕事自体はさほど問題なく進む。
むしろ問題となっているのは、首相や大臣、議員職を作った事による秘書の存在だ。誰でも良いという訳でもなく、かといって余りに閉鎖的な人事では、後々に問題となりかねない。基本的な人選は大臣や議員に任せてはいるが、それでもこちらで多少のチェックは必要となる。基本的なチェックはヴァスコラを含めた者達に任せてはいるが、最後のチェックは私がする必要があるので、その確認だけでも膨大な量となってしまう。
一通り最初の束となっていた書類を終えると、ヴァスコラが数枚の書類を差し出してきた。普通なら書類の山ごと持ってくるので、何か特別な意味があるのだろう。
「これは?」
数枚の書類を受け取りながら、一番上のページに目を落とす。そこには『首都名称変更計画案』とだけ書かれており、次のページをめくると、何やら今のアマデウスという名前を変更したいという内容が、長々と色々な理由を付けて書かれていた。
「国として生まれ変わりましたので、首都の名称だけは地名由来ではなく、新しく付け直した方が良いという意見が議会から届いております。ちなみに関連する投書もかなりの数があったようで、それを元に議会が動いたようです」
町の各所には所謂『投書箱』が設けられており、そこに色々な意見を投書する事が出来る。無論匿名での投書が可能であるのだが、一部には悪戯でしかないような物もあるので、そういった物は先に投書箱から中身を回収した職員が排除し、残りを議会の方へと提出する仕組みだ。その中でも特に意見が多かったり、今後必要性が高いと思われる物は、優先的に議会で議論され、私の許諾が必要な案件については、今回のように議会から私へと書類が届く事となる。
「それにしても、かなり数があるな」
ざっと候補を見ただけで、三十は下らない。それだけ多数の意見があったのだろうし、議会である程度は絞ったはずだが、これ以上は無理だったのだろう。
「ちなみにだが、私がこの他に案を出しても良いと思うか?」
「それは構わないかと。むしろこれだけの数が出ており、実質的に議会ではまともに候補が決まらなかったと考えるべきです。もしクラウディア様に案があるなら、そちらが採用される可能性の方が高いかと思われます」
ヴァスコラはむしろ私が案を出した方が良いとすら、暗に言っているようにすら聞こえる。まあ、確かにある程度は絞ったはずだが、それでも三十以上だ。議会でも有力な候補が決まらなかった事が容易に想像出来るし、何よりリストに記載されているのはこの世界のアルファベット順であり、有力候補の指定すら無い。
「それ程、急いで決める必要が?」
確かに投書された意見は重要だろうが、町の名前を変えるとなると、多方面に影響が出る。それを分かっているのだろうか?
「これは議長と首相から聞いた事で、あくまで私的意見として聞いて欲しいとの事でしたが、クラウディア様が正式に王となり、国名が変わりました。議会の発足だけでは無く、今後の国のあり方にも影響が出る事が多く決まったので、国名を変えたのであれば、首都の名称変更は今が最も最適ではないかと。ちなみにですが、私も同じ意見であります」
確かに国名を変えて、首都の名前を変えるというのは、前の世界でもある話だ。そういった事であれば、相応に考慮すべき事なのだろう。
ただアマツカミボシが言っていた、恐らく昔この付近にあったであろう、アルフヘイムという国名が脳裏に浮かぶ。
独立したとはいえ、基本的にここの住人の大半はエルフだ。もちろん他の種族もいるが、これからアマツカミボシが我々に助言なり色々な形で加わるとなると、そこに配慮した方が後々にやりやすい気がしないでもない。もちろんこれは単なる勘であるし、そこに具体的な根拠など皆無だが。
そしてもう一つ。個人的に気に入らないのが、私の名前を模したであろう首都の名前候補が多い事だ。正直それは恥ずかしい。
「そうか。確かにそこまで言うのであれば、検討に値する事なのだろうな。ただ、このリストは正直どうかと思う」
「それは私も気になっておりました。流石に陛下の名前を易々と付けて良いかと言われると、私もそれは同意しかねます」
「一応、理由を聞いても?」
「国名もそうではありますが、首都の名前を度々変えるような事は、周辺国にも迷惑がかかる可能性があります。そして初代とはいえ、王命をもした名称というのは、必ずしも長期間維持されるとは限りません。実際に他国で前例もある事ですし、もっと他に適した名前があれば、そちらがよろしいかと具申します」
この世界でも、トップが変われば首都などの名称が変わるという事はある訳か。それは確かに色々と不都合になりかねない。
「ところで、君はアルフヘイムという名を聞いた事は?」
「アルフヘイムでありますか? 初めて聞く名前ですが……」
「アマツカミボシから聞いたのだが、昔エルフの事を示す名称の一つであったらしい。この国は確かにエルフ以外もいるが、基本的にはエルフが中心の国家だ。まあ、名称の由来を別に開示する必要は無いと思うが、言葉の響きからしてもアルフヘイムは悪くないと思うが、どう思う?」
「そうですね……私には判断しかねる事もありますが、言葉の響きという意味であれば、他の候補と比べても遜色ないかと思われます。また由来の意味を問われても、種族の構成から考えて反発は少ないかと」
「そうか。なら、議会に首都の名称をアルフヘイムにしてみてはどうかと伝えて欲しい。もちろん案の一つでという条件でだ。確かに私は国王であるが、周囲が不満に思う名称はその後に関わる。その点も含めて、議長や首相に伝えてくれると助かる」
「分かりました。こちらの方でお伝えしておきます。ちなみに綴りはどの様な物でしょうか?」
一応アマツカミボシから当時の綴りは教わっているが、今使われている言語とは必ずしも一致しない。仕方なく、今の綴りで比較的書きやすい綴りにする事にした。書きにくい綴りにする意味はないだろう。
こうして後日、この町――首都となるこの地――の名称が、正式にアルフヘイムと決定された。
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