第二百二十一話 目標と手段、理想と現実
2017/07/03 6:19
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エストニアムア王国への三国同時侵攻は、偵察機のおかげでかなり詳細に掴んでいるけども、王国側からの救援要請でもない限りは手出ししない事で、皆と一致している。
これは別に僕らが対処可能かどうかという事じゃなくて、正式な救援要請も無いのに手を貸す気が無いだけだ。それはエリー達も同じ。大臣職や議員になった人には、何か思う所がどうもあるらしいけど、表立っての反対はされていないし、彼らは彼らなりにやる事があり、はっきり言えばそれどころじゃない。
何より相手の進行を止める事だけを考えれば、はっきり言って爆撃だけでかなりの損害を与えられるのは分かっているけども、じゃあそれに使用する爆弾などはタダじゃない。しかも使用可能な爆弾は僕が前世の知識とかから拝借した物が大半で、流石に核兵器とまではいかないけども、この世界では十分すぎる程のオーバーキルとなる。すぐに僕らが関与して、しかもこの世界ではあり得ないような攻撃力を持っているとなれば、いずれは僕らが何らかの手段で狙われるだろうし、いくら国境を接していないとはいえ、それを安心材料にする程愚かじゃない。
それでも開発した爆撃機は前世でいう所のB―1という名称になった。もちろんこの世界の言語なので、厳密にはBの文字が違う。個人的には富嶽と名付けたかったけども、当然この世界の人達は知らない名前だし、単純に機体としてはそれで構わない。ただ、開発者や操縦士関係などからは、既に愛称で呼ばれ始めており、その名前は『ニスカラ重爆撃機』と呼ばれている。ニスカラというのは、過去に大戦果を挙げた人名らしいのだけども、流石に僕らは詳しい事まで知らない。
一応だけども既に完成済みで十五機まで増えたこの爆撃機のうち、六機は爆装済みで基地待機をしている。搭載しているのは主に空中破砕爆弾。地上三百Mを魔法技術で感知し、その高度で大量の金属を主にした破片が地上に降り注ぐ。クラスター爆弾とは違い、単なる金属片なので爆弾その物が不発にならない限りは敵上空で大量の金属片が、魔石と魔法を組み合わせた炸裂で地上へ音速近い速度で降り注ぐ、まさに悪魔の兵器と言っても過言じゃ無いと思う。まあ、これらの爆弾は最悪僕らのサヴェラ立憲王国へ敵が進軍してきた時に使用する事が前提で、少なくとも僕らの国へ侵攻してきた場合は容赦するつもりはない。その為の隠し球的爆弾も用意しているし、その他の兵器もある。
他にも魔法爆弾を搭載しており、半径三百M程度を火の海にするだけの威力を持つ広範囲殲滅爆弾も搭載済みだ。これらを搭載した爆撃機は、議会の承認を得ずとも僕の指示ですぐさま発進、攻撃可能。横に長く爆撃した場合は、想定で最低でも一Kの幅を持ちながら、長さ二十Kを殲滅出来ると予想している。例えオーバーキルだとしても、国を守る立場としては綺麗事を言うつもりはない。
「クラディ。ちょっと疲れているみたいね」
屋敷にある喫茶室――空いている部屋を改装した休憩室みたいな物だけど、そこで考え事をしながらいると、いつの間にかイロが部屋にいた。その後ろには三名のメイドさん達がお茶と茶菓子を持ってきている。
「まあね。僕らは何があってもここを守る。その為には可能な限りの手段を講じるつもりだけど、でもそれは今の所エストニアムア王国を無視する形だし、本当にそれが良い事なのかまだ分からないから」
「エストニアムア王国は、私達に対して十分な対応をしなかったのよ? 私から言わせてもらえば、クラディは気にしすぎ。それに目的は私達の安全確保であって、エストニアムア王国はそこに今の所含まれないわ。そしてここを守るための手段はクラディが用意したのだから、後は偵察に出ている人達に監視を続けてもらう以外は無いわね。少なくとも、私はクラディが今やっている事を否定なんかしないし、むしろ賛同するわ。エリー達二人も同じ意見よ。クラディが前世で暮らしていた世界とは、ここの世界は違うの。思う所はあると思うけど、今はこの世界のやり方で守りを固めないと。いい加減、クラディも覚悟をちゃんと決めないと」
分かっているつもりではいるんだけど、それを実行に移すとなると、やっぱりまだまだダメだと思う。三つ子の魂百までって言うけど、前世の記憶があると、もっと酷い事になるのかもしれない。
「人を殺したくないという気持ちは、私だって似たような物よ。でも、だからといって私達はこの国を守る責任がある事くらい理解しているわよね? クラディがどうしても判断に迷うなら、私達がそれを支えるためにいるのよ。優先順位はあくまでこの国の人達を守る事が第一。出来れば迷いを捨てて。それにエストニアムア王国だって彼らなりには努力していたのは分かるでしょ? 言い方は悪いけど、恩を売ってその分私達が有利な方向にするのも、また私達の役目よ。何より私だって関係の無い普通の人達が殺されるのは、はっきり言って嫌だわ。だからクラディ。今出来る事が何なのか、無理にとは言わないけど考えて」
今までも同じ事を何度か言われた気がするけど、もう覚悟を決めないといけないんだとは思う。後は、それをいつ実行するか。
本当はこんな事が嫌だから議会を作って、そっちにある程度の権力を委譲したかったんだけど、思うようには事が進んでくれないのは、今が乱世の時期だからなのかなとは思う。
「さて。難しい話はこの辺にしましょう。ここにいたという事は、どこかで現実から逃げたかったんじゃないの?」
イロには敵わないな。まあ僕の行動なんて、正直予想しやすいのかもしれないけど。
「少しはお茶でも飲んで、気分を変えないと。その間の話し相手くらいなら、私だって喜んでするわ。それにベティも呼んでいるから、もう少ししたら来るわよ。もっと私達を頼りにしていいんだから、それだけは忘れないでね」
そう言ってからイロはやっと椅子に座る。それと同時に、メイドさん達がお茶の準備を次々と行っていく。
きっと僕の悪い癖なんだろうな。一人で抱え込んでしまう事って。
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