第二百二十話 交渉
2017/06/27 7:38
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エストニアムア王国と直接連絡が取れなくなりだいぶ経つが、それでも僕らが事実上軟禁している王族は、何らかの手段で最低限の情報を得ている事は知っている。
ただ一応は暗号化されているようであり、僕らが見た所で意味は分からない。正確には意味が分かりづらい。
それでもここ最近は、エストニアムア王国が緊迫状態になっている事は手に取るように分かる。何故なら国境に押しかけている難民が一気に増えているからだ。
一応は兵士を追加で派遣しているのだけども、とてもじゃないけどそれを超える勢いで難民が押し寄せているらしい。難民収容施設の建設を行っても、収容出来るのは今の所一割が良い所。まあ、前世で言えば四畳半程度の部屋に共同トイレとシャワーで、一部屋に四人住む事が前提なんだけど。もちろん無理に収容すれば倍くらいは収容出来るとは思う。でもその場合、衛生管理とかそっちに問題が出るのはわかりきっているし、今はとにかく収容施設の増設を行いながら、こちらの指示に従った人だけを受け入れている状況だ。
ただ正直言えば、今回の件で厄介な事も起きている。何人かがあからさまに武装したまま無理矢理入ろうとしたり、どこの暗殺者だと言われても仕方がないような装備を持ち込もうとした例が出た事だ。
その為に仕方なく僕らが取った行動は、難民審査時に全裸になってもらい、こちらで用意した服に着替えてもらう事。持ってきた食料も事前に作った魔動式金属探知機のような物で、全てを調べてから返却しているし、そもそも体内に何か隠し持っていないか、それらを判別するためにも使っている。
最初こそかなりの抵抗があったのだけども、こちらが指定した持ち込み不可のリストを掲示し、審査時に隠し持っていた場合は二度と審査を受けられないようにしたので、少しだけど混乱は収まった。
それと長い国境線を無理に越えようとした場合に、人は必ずその後に道を探そうとする。審査時に渡される認証用のドッグタグを持っていない場合は、人が移動出来そうな場所へ重点的に罠を仕掛けた。これで全部とは思わないけど、大半が罠に引っかかって捕縛されている。当然その場合は強制退去となり、今現在は難民申請を受ける事すら出来ない。
「全く、こうも毎日難民が多いと後が怖いよ」
エリーとペララさんの前で、思わず愚痴をこぼす。
いくら武装解除状態とはいえ、あまりの数だ。すでに元の人口を超えている。彼ら、彼女らがその気になれば、反乱を起こすのはそう難しくない。何せこの世界には魔法があるのだから。見える武器だけが武器じゃない。
「流石に収容所全体に魔法発動を妨害する結界は無理がありますね。ですが、一応は周囲の柵などに魔法無力化をさせてはいます。気休め程度にしかならない可能性もありますが」
気休め程度にしかならないとペララさんが言うには理由がある。あくまでその結界は妨害であり、無効化ではない。当然強力な魔法なら妨害出来ない。
「現在突貫工事で、収容施設の周囲に堀を掘らせています。完成すれば、少なくとも今まで以上に出入り口は制限されます。まあ、自前で飛行出来る種族には関係の無い事ですが、無いよりはマシかと」
「クラディ。高望みしても仕方がないわ。それにエストニアムア王国が仮に崩壊すれば、次はここが狙われる可能性もあるわ。むしろ私はそっちの方が高いと思うのだけど、軍にあまり詳しくは無い私でも、今の戦力では対応が出来ないとはい言わなくても、こちらにもそれなりに犠牲が出ると思うの。町の住民は限られているし、前に聞いた事があるゴーレムだったかしら? アレを作る事は難しいの? それなら人員不足の解消にも多少は役に立つと思うけど」
「色々試したんだけどね……」
そこで思わず溜息が出てしまった。
「量産となると、ゴーレムをコントロールする物が大量に必要になる。それを用意する時間が無いんだ。前に見せた航空戦力でも十分対応は可能になりつつあるけど、問題は攻撃に使う爆弾かな? そっちの生産がまるで追いついていないし」
どちらかを優先すれば、当然そのしわ寄せは他に来る。全く踏んだり蹴ったりとは、こんな事を言うんだと思う。
そんな時、執務室の扉がノックされた。入室を許可すると、慌てた感じでエストニアムア王国関係者の軟禁を行っている一人が入ってくる。
「陛下。緊急の用件との事で王太子以下五名が話をしたいとの事です」
「緊急? それで話の内容は?」
ペララさんが険しい顔をしながら尋ねたけど、内容は分からないらしい。ただ、軟禁先の屋敷で話をしたいそうだ。少なくとも無理に屋敷から出たいという訳ではないらしい。
「ペララさん。悪いけど信用の出来る部下を四名連れてきてくれるかな? 流石にこの状況で話があると言う事は、何かあるんだとは思う。エリーは来る?」
「そうね……私も同行するわ。ペララ大臣。護衛をさらに倍に増やして、完全武装で。流石に襲ってくるとは思わないけど、用心したに超した事はないはずよ」
エリーの提案に僕も同意すると、急ぎ話を聞く用意を始めた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
二時間程で用意を終えて、僕らは護衛と共に軟禁先の屋敷へと行く。当然屋敷の中には他にも監視している者がいるけども、急な話だしこちらが下手を打つ訳にはいかない。
通されたのは一つだけ作った応接室。そんなに広くはないけども、僕らが入っても余裕がある程度の広さはある。
中にいたのは王太子である継承権一位のアールニ・アールト・エストニアムア他、エストニアムア王国の王子、王女ばかり五人。全員が武装していない。それどころか、護衛すらいなかった。
ソファーに座るよう勧められ、僕とエリーだけが座る。当然他の護衛は立ったままだ。何よりペララさん以下、数人の護衛は僕らを即時に守れる配置。
「突然の呼び出しに応じて頂き感謝します」
話し始めたのは王太子。他は静かにしている。
「今回はお願いがあり、このような形を取らせて頂きました。本来なら我々が直接行く事が通常だとは思うのですが、我々の安全も確保したいが為に、このような形になり申し訳ございません。どうかご無礼をお許し下さい」
王太子とはいえ、彼は一度立ち上がって深々と礼をする。普通なら考えられない事だけども、同席している他の王族は黙ったままだ。
「それで、用件は?」
僕らは世間話をしに来た訳じゃないし、それは相手も分かっているはず。
「既に情報は掴んでいるかと思いますが、エストニアムア王国は崩壊の危機にあります。いえ。そう遠くない時期に、崩壊するのは免れないでしょう。当然国が崩壊すれば、我々の立場など紙屑同然です。そこで我々が何度も協議した結果、サヴェラ立憲王国及び陛下に現在のエストニアムア王国の王族としてではなくても結構ですので、保護をお願いしたいと思います。当然今までの身分は関係ありません。こうなってしまった以上、我々は王族としての務めを果たせなかった責任があります。無理を承知でお願いしているのは十分に承知しているつもりですが、我々の知識も可能な限り提供するつもりです。身分は平民でも結構ですので、どうか保護を前向きにご検討頂ければ」
その言葉に、思わず僕どころかエリー達も絶句している。無理もない。平民の扱いでも文句はないと、エストニアムア王国の王太子が自ら言っているのだから。
「もう少し理由を聞きたいかな。そんな事を簡単に言える立場じゃない事くらい、僕らは分かっているつもりだ」
「難民の保護を、もう少し何とかして頂ければと。難民の説得は、我々が率先して行います。今は、少しでも命を救って頂きたいのです」
再度頭を深々と下げる王太子に、僕らは顔を見合わせた。
「我々で現在可能な事は、恐らくそれ以外に無いかと。もちろんそちらの指示には従います。ですが、少しでも救える命があれば、私の命に代えても何とかしたいのです」
僕を見る目は真剣だ。少なくとも、そうそう嘘を言っているようには見えない。彼らは彼らなりに、自国民の保護を優先したいのだろう。
「気持ちは分かるが、こちらも収容施設の建設に時間がかかっている。そう簡単に受け入れ人数を増やすのは難しい」
すぐにペララさんが反論したけど、どうやらそれは彼らにとって織り込み済みのようだ。
「収容施設の建設には、我々も参加します。また、テントとなる素材もそれなりにあります。最低限風雨がしのげるだけでも良いのです」
再度、彼は頭を下げる。
「エリー、どう思う?」
「そうね……率先して難民を説得し、私達に反乱を起こさないと誓えるのであれば、必ずしも悪い話ではないわね。でも、貴方たちはそれで良いの? 王族でしょう?」
「崩壊する国の王族など、何の価値もありませんよ」
王太子はどこか自嘲気味に笑っていた。
「君らがしっかりと説得してくれる事と、収容施設の建設を本当に手伝うのであれば、陛下、私は反対する理由は少ないです」
どのみち人が足りない状況だ。彼らが本当に説得してくれるのであれば、今までよりも多少は混乱を抑え込む事は出来るかもしれない。
「言いたい事は分かった。この件については、すぐに結論を出す訳にはいかない。それは理解していると思う。だけども、僕らも無用な混乱は望んでいない。数日待ってくれないかな? その間に結論を出そう。この国は今までの国と違って、僕らだけで全てを判断出来ない。だけども、君らの言いたい事は理解したつもりだ。できるだけ早く返答はする」
これは一度議会と相談した方が良い案件だ。
「とにかく、数日待って欲しい」
それでその日はお開きになったが、結局僕らは条件付きで彼らの提案を採用する事にした。何せこれ以上難民を放置する訳にはいかない。
こちらの武装兵士を護衛兼監視役として、王太子達は難民の説得を行う事になった。
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