第二百十七話 人が足りないから、禁忌の手で?
「やはり人手不足はどうにもなりません。どの鉱山も掘れば掘る程有望な鉱脈ばかりで、現場からは『閉鎖などとんでもない』と言ってきますし、精錬工場も『もっと設備と人員を寄こしてくれ』の一点張りです。しかも現在軍方面に多量の金属を使用しているので、あっても困らない事を向こうが知っている事が何よりも厄介です」
「死亡率が高い原因は既に分かりました。しかし、子供達が成長して働けるようになるまでは、どこを基準とするかにもよりますが三十年は先の話です」
「農産物の破棄は、現場からかなりのクレームが出ています。これ以上破棄を続けると、むしろ反乱などの要因にもなりかねません」
仮設議事堂の側にある会議室で、僕やエリー達三人と、首相や大臣関係者など集まって会議をしていた。
それぞれ資源開発大臣のペッレルヴォ・リュハネンさん、医療大臣のターヴェッティ・アルホネンさんに、食料大臣のステラ・カフコヴァーさんの言葉だ。
「何とかなるなら……こんな会議は開かないわよね」
イロは難しい顔をして僕を見る。
「今までろくにまともな仕事をさせられず、奴隷のように扱われていた反動なのかもしれません。まあ、実質奴隷と同じ扱いでしたね」
首相のアルホ・ヴァータモイネンさんが、そう言ってから首を横に振った。
「そうは言うけど、人がいないのは分かっている事だよね? 現場にもそれは伝わっているはずだけど?」
まだまだ量産には若干の無理があるのだけど、試しに試作した活版印刷で一週間に一度は新聞が発行されており、それぞれ主要な所に無償配布されている。内容は新しく議会で決まった事や、現状の国内情勢などが主。
そもそも金属製の判子を使用しておらず、木材なのが部数を発行できない原因なんだけども、やってみて分かったのが使用する文字があからさまに多い物と少ない物が多い事。今はそれを統計的に調べるために、木を用いた印刷にしている。ある程度使用頻度が多い物が分かってきたら、金属製の物に順次変更はする予定だ。
ある程度印刷などが安定してきたら、有償化と広告掲載も考えている。前世でいう所の政府広報の域をまだ出ていないかな?
そもそも印刷という概念はあったのだけど、それは前世の日本で言う版画みたいな物。板に文字を掘ってそれを用いて印刷していた。それでも普通の人達が新聞のような物を目にする事はなく、今までは問題なかった。
「陛下、提案が」
一瞬誰の事を言っているのか分からなく、すぐに僕の事だと分かって相手を見る。オッリ・ペララさんだ。今は国防大臣だけども。早く陛下という言葉に慣れないと、いい加減不味いよね。
「何かな?」
「以前地下で大量に見つかった、冷凍睡眠状態の彼らを活用できませんか?」
「それは……」
言いたい事は分かる。多分彼ら、彼女らを使えば、この問題はかなり簡単に解決するはずだ。数の調整も徐々に増やせば問題ないので、いきなり全員を目覚めさせる必要は無い。
ただ、本当にそれをやってしまってよいのかが分からない。
確かに短期的にはそれで問題ないと思うのだけども、長期的に考えた場合に、どこかで綻びが出ないかが心配だ。しかもそれが正直どんな事か予想できない。色々な可能性はあるはずだけど、それを全て対策する時間も無いと思う。
「今後の事について悩まれているのであれば、それは理解できます。ですが、現状では国防を預かる身としても、もっと人員が増えない事には頭打ちです。それに現状で元々いた千数百人では、やはり無理がありすぎます。以前にも伺いましたが、地下にあるあの機械ですか? あれも我々に協力的だと聞いています」
「エリー、どう思う?」
「そうね……確かにペララ大臣の言っている事は、私も理解できるわ。何より人が足りない以上、そしてそれを比較的簡単に改善できる方法がある以上は、少しずつ目覚めさせる方法で対応するしか無いんじゃないかしら?」
エリーは僕よりも早く、ペララさんなどを大臣と呼ぶのに慣れたようだ。そんな風に慣れる事が出来るスキルがあるなら、正直欲しいと思う。
「イロとベティは?」
「私も賛成」
「私も賛成ですね。それにエストニアムア王国の現状を考えると、人はある程度増やしておいた方が楽だと思います」
「言われれば確かに……」
偵察機には、新たに開発した魔動無線装置が積み込まれており、逐次その情報が入っている。それによると、最短で一ヶ月もせずにエストニアムア王国へ軍事侵攻が行われるとの予想だ。だけどもろくに今まで支援してこなかったエストニアムア王国へ、正直僕らが手助けをするのも躊躇う。何よりここの地に移ってからの内乱もあった事だし。
「分かった。人数に関してはちょっと相談してみる。一応希望として、週に何人くらい用意した方が良いかな?」
大臣同士で少し話し合うと、四百人との答えが返ってきた。最低人数という話ではあるけど。
「じゃあ、関係各所にはそちらから連絡して欲しい。どちらにしてもあと二週間程は現状で我慢してもらえるように伝えてもらえないかな? 前に聞いたら、出来れば冷凍睡眠から回復させるのに、それくらい余裕があると健康面などのチェックも完璧になるらしいから。まあ、もっと早くても大丈夫らしいんだけど、確実な方法を選択したいし」
本当はさらに一週間あれば、それぞれ配置する場所に関連した教育も完璧に記憶させた状態で目覚めさせる事が出来るらしいんだけど、そこまで待たせるのは無理かもしれない。
「それとペララ大臣は少し残ってくれるかな。エストニアムア王国の事で相談したい事があるから」
そう言うと他の大臣達は、早々と会議室を後にする。全員が出ていくのを確認した執事さんが扉を閉めて鍵をかけた。
「それで、エストニアムア王国はどうなると思う?」
「現状では滅亡は回避不能です。そして問題なのは、難民がこちらに押し寄せてくる可能性が高い事でしょう。ですが今の我々には、それを十分に止める手段がありません。いえ、無理ですね。長い国境線を全て見張る事など不可能ですから」
「そうだね……。じゃあ、仮に難民を受け入れるとして、そっちに人をもっと増やせば対応できるかな?」
「それは……出来るとは思います。ですが、兵士としてすぐに使える人間はおりません」
まあ、思った通りの回答。
「じゃあ、こうしよう。何人かそれぞれの分野で優秀な兵士を数日貸してもらえるかな? その人達の記憶を元に、別枠で冷凍睡眠状態の人を多めに目覚めさせるから。ただこの方法だと、記憶を一部眠っている人達に移す事になるから、二週間じゃなくて三週間は時間を見て欲しい」
「その程度であれば構いません。むしろ整備関係の人員も増やしたい所ですので、優秀な者を選抜します」
「ありがとう。本当は、こんな手段は使いたくないんだけどね。眠っている彼らは、本来僕らとは違う存在のはずだから」
「ええ。ですが、贅沢を言える状況ではないかと」
「そうだね。こっちも準備があるから、選抜の方を頼むね。エリー。悪いけど、僕とペララさんとの中継役になってくれるかな? 僕は数日地下のアマツカミボシと話をする必要が出てきたみたいだ」
「良いわよ。あれとまともに話が出来そうなのは、正直クラディだけだと思うし。ね、みんな?」
エリーがそう言うと、イロとベティは首を縦に振る。そんな認識だったんだ。まあ、仕方がないのかな?
「じゃあ、準備もあるし急がないと。イロとベティは他の事を頼めるかな? ちょっと忙しくなりそうだけど」
「そのつもりよ。ね、ベティ?」
「はい。そのために私達がいるんですから、クラディは今やる事に集中して下さい」
どんな形であれ、理解者がいるって良いよね。
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