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第二百十六話 新たな火種

 国内開発に力を注ぎつつ、一応は隣国……とは言っても、現状ではエストニアムア王国の監視を行っている。


 独立宣言をしてから既に四ヶ月経過し、今は十一月。この世界では一年が十四ヶ月あり、今は夏の終わりだ。因みに十二月から十四月までが秋に相当する。


 そんな事よりも、大事なのは軟禁状態のエストニアムア王国王太子などが外部と連絡を取っている様子も無く、同時にエストニアムア王国からの情報も事実上途絶状態。前に開発した富嶽モドキの二つを偵察用に装備を調え、エストニアムア王国の王都エストニアムアやその周辺地域、またさらにその周辺国を超高空から偵察を行っているが、上空からの偵察では細かい事までは把握出来ない。


 ただどうやらエストニアムア王国に対して、周辺国が軍事侵攻を行う徴候は捕らえており、しかもエストニアムア王国はどうやら防御態勢が整っていないようだとの報告も受けた。


 だからといって、僕らが出来る事は無い。正直国境の守備だけでもまだまだ数が揃っておらず、比較的侵入が容易である地点に戦力を分散させている状況。本来であれば戦力は集中運用する事が理想的だと思うのだけど、兵器も人員も足りない状況では出来る事は少ない。


 しかも偵察隊の情報では、時間が経過する程エストニアムア王国周辺へ軍が終結しているのではとの未確認情報が多数報告されている。超高空からの偵察なので、どうしても詳細が分からないのが不便だ。


 でも、僕らの戦力ではこの地を守る事が限界。とてもじゃないけど、エストニアムア王国への軍事支援は不可能だ。それに過去の事を考えれば、とてもじゃないけど支援するのも躊躇う。


 それでも可能な限りの情報収集は怠っていないし、不確定要素が多いとはいえ、エストニアムア王国は明らかに不利な状況である事は僕にだって分かる。


「それで、状況はどの程度あれから分かったのかな?」


 執務室に首相のヴァータモイネンさんと、国防大臣のオッリ・ペララさんを呼び出し、状況説明を求めた。今回はエリーだけ同席だ。


「偵察機の情報を総合した所、旧バーレ王国に反乱の兆しがあるようです。しかし、こちらは以前に武装解除が行われているため、影響は最小限かと思われます」


 ペララさんは手元のメモを見ながら、僕でも分かるくらいにイラついている。


「また国境を接している国で、特に軍を大規模に抱えている三国が侵攻をする可能性が極めて高いかと」


「一応、その三つの国の名前を聞いて良いかな?」


「それぞれバシュレ王国、ヘニッヒ王国とリスラ王国に動きが見られます。巧妙に森の中などに隠れてはいるようですが、陛下が以前開発された熱源探知魔道具で相当数の集団が隠れているようです。流石に詳細はそれ以上分かりかねますが」


 それを言うと、ペララさんは溜息をついた。無理も無いと思う。


「それから未確認の情報ではありますが、その三国に対して後方のフォルオ帝国が何らかの支援をしている可能性もあります。偵察機の情報では、三国に対しての物資輸送がかなり頻繁に行われておりますので。また三国はフォルオ帝国から食糧の供給を行っており、恐らくは裏取引が行われているかと。三国は共に食糧の自給率ではギリギリと聞いておりましたので」


「という事は、三方面からの侵攻がエストニアムア王国に起る可能性があると? それに対応出来る軍備を、エストニアムア王国は用意出来そう?」


「現状を考えると無理です。偵察機の情報では、エストニアムア王国の大半の兵士が王都の警備に割かれている模様です」


「じゃあヴァータモイネンさんに聞きたいけど、仮にエストニアムア王国が崩壊したとして、ここへの影響は?」


「すぐに影響が出る事は無いかと。全てではありませんが、主要な国境の道には兵士を派遣しておりますし、三国ないしは後ろに控えているフォルオ帝国が首都を完全に抑えるのに、それなりの時間はかかるはずです」


「その根拠を教えてくれるかしら? 首都に兵士が集まっているのなら、それなりの対応をするはずよ」


 エリーの質問に、二人は揃って首を横に振った。


「現在の王都に残っている兵力は、正直訓練度合いはそれなりにありますが、数が圧倒的に足りません。一国ならいざ知らず、三国からの同時進行には長くは持たないはずです。ただし王都を完全に掌握するには、住民への対応も行うはずです。全ての住人を殺害するならいざ知らず、流石にそこまでは行わないでしょう。そんな事をすれば占領した旨みが無くなってしまいますので」


 ペララさんの意見には賛同だ。恐らくは主要な閣僚や国王を捕縛する事が第一目的で、見せしめに殺害するのは抵抗してきた者達のはず。


「分かった。所で軟禁している彼らに、何か動きは?」


「静かなものです。ただ、何かをエストニアムア王国から託されている可能性はあります。その点は十分に警戒するべきかと」


 その辺はヴァータモイネンさんの部下が常に警戒している。本来ならペララさんの役割だとは思うけど、人員不足は深刻。何か手を打つ必要が早急にありそうだ。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「王子、やはり予想通りの展開になっているようです」


 避難しているアールニ・アールト・エストニアムア第一王子に対して、担当武官が報告する。


 いくら軟禁されているとはいえ、それなりの手段を使えば多少の情報は入手出来る。


「それで、この先どうなさるおつもりですか?」


「今は堪える時だ。今の我々に出来る事は何もない。むしろ軟禁程度で済まされている事が彼らの温情と思わなくてはならないだろう。それに彼らの力は間違っても侮ってはならない。我々が知らない高度な兵器を多数保有しているのは明らかだ。数はまださほどでも無いようだが、たった一つでも騎士団一個中隊は軽くあしらえると考えて行動するべきだ。彼らに敵対するのは、愚かでしか無いだろう」


「はっ。では、今まで通り様子を見る形となりますか?」


「不本意ではあるがね。他の王子や王女達にも、間違った事をしないように伝えて欲しい」


 そんな王子の手元には、暗号化された一枚の紙が置かれている。これがバスクホルド子爵家……今はバスクホルド王家か。彼らにバレているのは恐らく間違いない。しかしそれをわざと放置しているという事は、我々に考える時間を与えている事なのだろう。


「とにかく早まった行動だけはしないでくれ。残念だが、エストニアムア王国の崩壊は時間の問題と考えるべきだ。ならば、我々は泥水を啜っても生き延びる事を優先すべきだ」


 どちらにしても、ここでおかしな事さえしなければ生きながらえる事は出来るだろう。死んでは何の意味もない。後は状況を正確に得る事だろうが、それも今は難しいだろう。


「幸い我々は、軟禁されているとはいえこの屋敷の中では比較的自由を得られている。無駄な抵抗は彼らの不信を買うだけだ。それだけは何としても避けて欲しい」


 王子はそう伝えると、手元の紙に再度目を落とす。その間に、担当武官は静かに部屋から退席した。今は形などどうでもいい。プライドよりも優先すべき事など、山のようにあるのだから。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

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