第二百十二話 人はいなくても、待ってくれないモノ
2017/06/16
一部表記に問題がありましたので、修正いたしました。
他に気になる点等があれば、可能な限り修正を行いますのでよろしくお願いします。
2017/06/16
駆動輪等の解説を追記しました
「それで生産数の方は予定通りに?」
「はい、陛下。不具合も今のところ目立って出ておりません。ですがこちらですと、試験をするにしても色々と制限が……」
「分かっているよ。ただ、とりあえず数を揃えて欲しい。動く事が何よりも重要ではあるけど、最悪ハリボテでも相手は確認出来ないからね」
「ですね。それにこれは今までのやり方と全く異なり、何より相手に牙を向けた時の威力は相当な物です」
そう言って地下に建設した工場の一角で、僕とドワーフの製造責任者が目の前の物を見上げる。
片側八輪で両輪十六輪となる強化型タイヤを持ち、基本的には19ー8ー7超々鋼鉄を採用した装甲で覆われている。因みにタイヤは最前部と最後部のみがハンドル制御。最前部や最後部だけだと旋回能力があまりに問題だったし、全てのタイヤを独立して制御させる程の技術と時間もない。それでも最前部と最後部だけ操作出来るようになったので、とりあえずはこれで構わない事にした。そのうち無限軌道装備なども検討したい。タイヤの左右駆動については、アマツカミボシからの情報提供で実現した技術だ。実際の所僕だけだとパワステとか分からない事が多いし、多分アマツカミボシがいないと開発が頓挫していたかも。アマツカミボシも本来ならもっと左右に駆動させるタイヤを多くした方が良いと言っていたのだけど、聞く限りにおいて現状では仕組みが複雑になり過ぎる欠点があった。整備まで考えると、どうしても二軸四輪までが限界。かなりの負担が四つのタイヤに負荷をかけるけど、そこを支える車軸や仕組みは魔力を組み合わせた駆動方法でギリギリ解決。これも今後の課題。
上部に八十C×百口径砲を一基搭載し、砲弾は純カルボタイト製。魔力による妨害を受け付けず、尚且つここ周辺では比較的産出量が多い物を使用した。量産性を重視したので、砲にはライフリングがされていないが、その代わりに砲尾で超高圧縮火属性魔法を用いて砲撃する。専用の魔石を用いれば最大射程八Kであり、無風状態での有効射程は六Kに達する。少なくとも普通の魔法使いでは、この距離で攻撃は出来ない。ただし砲撃時には砲の前方及び側面の周囲十Mは風圧がかなりの物となるので、これも今後の課題。
無限軌道ではなくタイヤにしたのは、今ある物資を流用したため。その分攻撃を受けた際には弱点になる可能性もあるけども、今はある程度の流用で数を揃える事を優先させた。それでもタイヤの表面に強化用のトリニチウムを側面表面に塗布している。これで低威力の魔法には耐えられるはずだ。
車体の前部及び上部は、対魔法防御が施されており、中級程度の魔法を距離四Kからの直撃でも乗員の安全は保たれる。その代わりに量産性を重視した結果、側面及び後部、底部には魔法防御が施されていない。ただしオプションの追加装備で、側面に魔法防御を可能にするタイルを設置出来るように設計は行われている。まあ、今のところ製造すらされていないのだけども。
乗員は運転手一名、射撃手一名と指揮官が一名。今のところ砲弾は一種類しか無いので、射撃手のボタン操作により自動装填が可能。尚且つ魔石を用いる砲撃か、魔力を込める砲撃を射撃手が選択可能。魔石を用いない場合の有効射程は二Kまで落ちるが、そもそも最大で二十四発の砲弾とその為の魔石を搭載可能であり、余程の事がない限りは射撃手の魔力を用いた砲撃は想定していない。
上部にハッチ等は一切無く、当然機銃のような物は設置していないし、設置予定も無い。そもそもそこまで人員を割ける程の人間が余っていない。まあ、その為に人員輸送車としての機能も搭載し、接近戦ではその乗員が戦闘に参加する事を想定している。
車両の全体的なフォルムは日本の陸上自衛隊、七四式戦車に似ているが、全長が長く、兵員輸送車としても利用可能で、最大十二名を乗員以外に搭乗可能。後部にドアが一つあり、全ての乗員などはそこから車両に入る事となる。また輸送する乗員保護のため、十二名の搭乗可能部分と戦車の操縦席等は、ドアこそあるが隔壁で隔てられてもいる。この辺はイスラエルの戦車メルカバを参考にした。
一式戦闘輸送車と名付けているこれは、現在三〇両までが完成。その他四両が不具合で整備中となってはいるが、車両の製造を優先しているため現状は放置されている形だ。
「陛下、次はこちらとなります。こちらはかなり製造が難航していますが、それでも十機が完成しました」
案内された所に鎮座しているのは、前世で計画倒れした日本の戦略爆撃機を真似た物。六発の空冷九気筒五列大型星形魔動エンジンを搭載し、その燃料は魔石から抽出した魔力。魔力が燃料のためか、熱はさほど問題にはなっていない。また燃料タンクの問題もこれならほとんど考慮せずに済む。
排気量は一シリンダーで前世で言うとこの三リットル程。それが四十五基になるため、一つのエンジンにつき百三十五リットルという超大排気量となった。九気筒魔動エンジンを五列にしたのは、九気筒魔動エンジンの生産が安定したため。無理に最新技術を用いる必要は無いと判断したためだ。
全長五十M、全幅は主翼の部分で八十Mにも及ぶ。魔力を効率的に用いた事で、プロペラ機でありながら上空一万二千Mまで上昇可能。当然乗員は与圧キャビンで保護されているし、窓には魔法ガラスとして量産が安定したプロトニンを使用している。
照準器はアマツカミボシの情報提供により、上空一万Mでも誤差十M程度の物を用意出来たし、搭載する爆弾は魔石を内蔵した炸裂弾や通常爆弾、前世で言えばサーモバリック爆弾に相当する魔石を用いた広範囲衝撃爆弾も搭載可能。飛行距離五千Kでの爆弾積載量は僕でさえ驚いたのだけど、容積を考慮しなければ一Lまで可能であり、恐らくトンに換算すると百トン程度のはず。半分の五百Reの積載では、航続距離が一万三千Kまで可能という文字通りの化け物だ。
乗員は機長、副長、機関士、爆撃手の四名で運用可能だが、途中の休憩を考慮して十二名まで搭乗可能。
「さらに護衛機として、武装は二丁の機銃のみとなりますが、航続距離一万五千Kの戦闘機も二十五機完成しております。他に航続距離こそ一Kではありますが、戦車部隊の護衛として十五機の戦闘機も完成済みです。こちらは航続距離の難点こそありますが、地上部隊の緊急時の護衛としてはそれなりに活躍出来ると見込んでおります。目下、航続距離の問題を検討中ではありますが、他の開発、製造もありますので今しばらくお待ち頂く事はご了承願います」
それにしても、独立宣言からまだ日も経過していないのに、ここまでの戦力をやっと確保出来た。運用の人員不足は深刻だけども、生まれたばかりの国を侮って侵攻してくる可能性は否定出来ない。なのでこれらは最優先で開発させていたが、出来れば使用せずにいたいと思う。
また、当然この国に軟禁状態のエストニアムア王国関係者には、可能な限りこの事は隠している。勘の良い者であれば、何らかの開発をしている事は分かっているかもしれないが、数や性能については完全に箝口令を出している。その点は今のところ大丈夫だと思いたい。
「これまでは剣や弓、魔法主体だったけども、ここを守るには人数が足りなすぎる。それを補うためのこれらの武器だから、もうしばらく頑張って欲しい。色々と大変だとは思うけども、何かあったらすぐにこっちに連絡して構わない。これは新しく国防大臣に任命したオッリ・ペララにも伝えているから」
それを聞いて、案内してくれた彼は小さく安堵したようだ。まあ、これまで極力人目に付かずに作業させてきたのだから、彼らの努力が無駄にならない事を願ってならない。もちろん、これらの武器を使用せずに対処出来れば一番だけども、多分それは無理な気がしている。何せこの世界は、大なり小なり弱肉強食の世界だ。力ある者が力の無い者を支配する事が普通の世界。
本来であれば、ここで使用している様々な機材を使用すれば、今の輸送能力などがもっと改善する事などは十分に分かっているつもりだ。だけども、それとこれとは分けないといけない。
平穏に過ごしたいと思っても、やっぱり簡単じゃ無いと思う。
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こちらもよろしくお願いします。
本文中にも一部記載がありますが、単位は以下の通りです
長さ
1C≒1センチ
1M≒1メートル
1K≒1キロメートル
重さ
1Re≒100キログラム
1L≒100トン
※「≒」は近似値の事です




