第二百話 無茶も通せば道理となる!?
本文中にも一部記載がありますが、単位は以下の通りです
長さ
1C≒1センチ
1M≒1メートル
1K≒1キロメートル
※「≒」は近似値の事です
新領都予定地のアマデウスで建設作業を手伝うようになってから、今までの遅れが嘘のように取り戻されている。
当然そのほとんどを担っているのは僕であるのが、正直納得いかない。何せ、これで何か特別に給金とか出る訳でもないし、その他に何かあるという訳でもない。
休日無し、給与無しって、ある意味前世でいう所のブラックだよね? 考えちゃいけないのかな……。
「お茶を用意しました。休憩になさいませんか?」
ベティ付きのメイドの一人が、ベティと一緒に来てくれたようだ。そういえばそろそろぶっ続けで作業をして三時間は過ぎている。この世界では一日が四十八時間なので、午前中の作業時間だけでも最大十時間もあるので、さすがに慣れてきてはいても疲労はそれなりにある。救いは魔法でほとんどの作業をするので、肉体的疲労よりも精神的疲労なんだけどね。
「疲れていると思って、ミルクティーを用意してもらったわ」
ベティのそんな心遣いが、何だか嬉しい。
「ねえ、クラディ。あまり無理をしないで? イロの言っていることも理解できるけど、本当に無理はしないで。エリーもそうだったけど、イロもなんだかおかしいと思うの。確かにクラディなら色々と出来るのは分かるわ。でも、あの二人は頼りすぎだと私は思うわ」
「……今はさ、多少無理はしないといけないんだと思うんだ。ここ最近で色々なことがあって、混乱しているから尚更かな?」
本当はベティの言う事が正しいと僕も思ってはいるんだけど、特にエリーは頑張っているはず。そんな中で、僕だけが遊んでいる訳にはいかない。イロだって本当なら子供達の側にいたいはずだし。そして、それをベティに言うのも間違っていると思う。
正直、ここ最近間違っている事が多すぎる。
「それに町として機能するという意味では、もうそろそろ何とかなると思うよ? 確かに内装とかまだまだな所があったりもするけど、それは僕じゃどうにもならない所だし」
現状、僕が得意なのは豊富な魔力で出来る事に限られている。細かい作業はむしろ魔力が高いのが災いして、ダメだったりするからね。適材適所ってのはあるはずだ。
「でも……」
「まあ、ベティが心配してくれているのは素直に嬉しいから」
ただ、どうしてもみんなに内緒で調べたい事がある。だから急いでやる事をやって、空き時間を作りたい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
どんなに僕が手伝っているとは言っても、細かい部分の作業は他の人達に任せている関係で、特に夕方少し前くらいには手が空くようになる。
まあ、実際にはそうなるように、僕も無理をしている部分もあるんだけどね。
それで空いた時間に僕が行くのは、遺跡の中のアマツカミボシの所。
前に行った時、アマツカミボシと最短距離で会える場所を教えてもらった。いくつかの制限はあるみたいだけど、それでもあのハッチから入ってほんの数分で到達する事が出来る。ちなみにみんなには秘密にしている。いくら前世の記憶があったとしても、知られたくない事だってあるからね。
「お待ちしておりました。今日はどの様な件をご質問なさいますか?」
「前回のこの星へ来た時の道だね。特に出発した星の、周辺図を見たいな」
すぐにアマツカミボシが、ホログラムとしか思えない画像を、僕の目の前に投影してくれる。
「それで今回はこれらの星が、この真ん中にある……アマノテラスだったっけ? それを中心にアシハラとかが回っていたと聞いたけど、その動きがどんなだったのか線で示してくれる? 多分円を描くようになると思うんだけど」
今投影されているのは四つの惑星までだけど、彼女が言うには全部で十二個が同じようにアマノテラスを回っていたと聞いた。惑星の数に誤差があるけど、見た目の距離からすると、どうしてもアマツカミボシが言うアシハラやアマノテラスは、太陽系にしか見えない。しかもアシハラには月が一つだけあるし、月は常に一定の方向をアシハラに向けているとも言っていた。あまりに地球と月の関係に酷似しすぎている気がする。
投影された物をみると、やっぱりアマノテラスを中心に、ほぼ円状にアシハラや他の星が公転軌道を描いていた。
ただ、疑問が無い訳じゃない。
アシハラにあると言っていたナカツクニは、確かに日本列島に似ている所があるけど、微妙に差がある。日本列島は列島ではなくて大陸と繋がっているし、その他の場所でも陸地になっている場所が多い。ただ、これはある意味想定もしていた事。なぜならアマツカミボシが言うには、この映像は十四万年前くらいらしいから。
実際にアシハラから脱出したとするのが十三万七千年程前だから、これはこれで可能性としては十分に過去の地球と整合性がとれる可能性がある。確かその直後というか、それから少しして急激に温暖化し、日本列島が大陸から切り離されたはず。
そして地質学だったか何かで、阿蘇山の最大の噴火が十三万年程前に起きている。付け加えると、その一万年程前にも結構規模の大きな噴火が起きていたはず。となるとアマツカミボシが言うミヤマキリシマとは、その後の阿蘇山の可能性が高いんじゃないかと推測できる。
十四万年前から急速に温暖化した理由の一つに、ミヤマキリシマ=阿蘇山の噴火が関係したとすると、個人的には色々と納得できそうな気がするんだよね。
多少脱出の時間と時差があるのは気になるけど、そもそも僕がいた頃の地球の科学力だって万能じゃないはず。
そうなるとやっぱり可能性として出てくるのが、この星にたどり着いたという人達は、昔地球で出現したネアンデルタール人の子孫が彼らであり、同時に僕らの祖先という事になる。
まあネアンデルタール人が前世のような文明を築いていたという証拠がないのがネックだけど、そもそもここは地球じゃないし……。
「ありがとう、アマツカミボシ。じゃあ、君らが出発した星と、この星の位置を、当時の資料で構わないから映像化できる?」
アマツカミボシはすぐに返事をして映像を切り替えた。目の前に投影されているのは銀河の一部だけど、前世で見た銀河系の一部に似ている。そしてアマツカミボシが指摘する太陽系の位置より、この星がある太陽系の位置は若干銀河系の内側。
「アマツカミボシ。この星に来るまで何年かかったって言っていたっけ?」
「はい。五千三百七十八年と二百二十一日、十七時間三十八分です」
「じゃあ、この星とアマツカミボシが来た星は、時間にしてどれくらいの距離があるのかな? 別に五千年以上の距離が直接ある訳じゃないんでしょ?」
「はい。私達は途中で空間歪曲航法を何度も行いました。その中で生存に少しでも適した星を見つけるのに、それだけの時間を要しました。アシハラとこの星では、直線距離とすると百四十八兆三千五十八億六千三百三十九万二千二百里です」
空間歪曲航法? それってSFとかで出てくるワープの事かな? それにしても百四十八兆!? 里で表す単位じゃない……。まあ、キロとかでも表す単位じゃ無いと思うけど。多分光の速さとか、そういう単位が適しているはず。
「えーと、ちなみにだけど、光がどれくらいの早さで進むか知っている?」
「はい。約七万六千三百三十六里となります」
ん、待てよ? もしかしておおよその距離をキロ単位で計算できるんじゃ……?
「ちょっと計算して欲しいんだけど、一年でその光の速度で進むとして、ここまで約何年かかるのかな?」
「はい。おおよそ六十一年と半年がかかります」
つまり、地球との距離は六十一光年最低でも離れている事になるはず。光の速度を約三十キロ秒とすれば……。
「また計算して欲しいんだけど、七万六千三百三十六里を三十万とした場合に、一里はいくつになるかな?」
「誤差がありますが、おおよそ四となります。三十万の正確な数字が分かれば、誤差を修正可能ですが」
「うーん、とりあえず今はいいや」
誤差は当然として、仮に一里が四キロとすると、もしかして色々と分かるんじゃ? 最大の問題は、正確なメートル法を僕が覚えていない事か……。あれ? でもこの星はこの星なんだから、この星基準のメートル法を作っても構わないのかな? ただ、比較対象をはっきりとさせないといけないか。
「えーと、前にこの星の表面の縦の長さを教えてくれたよね? その半分の長さはいくつ?」
それが分かれば……。まあ、やっぱり僕としては分かりやすいメートル法に近い値にしたいけど。
「はい。約二万七千三百六十八里です」
「じゃあ、アマツカミボシが来た星と、この星とでは縦の長さでどれくらい差があるのかな?」
「多少の誤差はありますが、五.五七倍です」
え? そんなにこの星って大きいの? そしたら重力とか地球と違う気もするけど……。あ、でもこの星の場合は魔法金属とかもあるから、一概に質量が同一とも言えないのかな?
でもこれで分かった事がある。少なくともこの星は異世界じゃなくて、地球と同じ銀河系である可能性が高い事。そして僕らはネアンデルタール人の子孫である可能性。さらには人工的に作られた生命体である事だ。
この世界の人間になっているとはいえ、やっぱり何だか思う所があるのは事実。
そんな事より、基準となる度量法を作るのが先決だ。流石に今の僕の知識だと、前世の一メートルを再現するのは合理的じゃない。ただ、全く新しい単位は逆に混乱もするはず。となると、今使われてるMの値を確定させて、その下の単位や上の単位を整備する事だと思う。
実はこの国以外だと、微妙に一Mの長さが違うみたいなんだよね。それどころか、領地によっても微妙な差がある気がしてならない。それが原因だと思うんだけど、実は魔道トラックを作る時とかにちょっと混乱した事があった。あの時は無理矢理このサイズでって押し通したけど、基準さえ明確にしてそれを周知徹底させれば、今後は無駄な事を省けるんじゃないかと思う。
「それじゃあアマツカミボシ。僕からの提案なんだけど、この国では長さの単位の一つとして、Mという単位が使われているんだ。ただ、今は場所によってその長さが違っているみたいなんだよね。だからアマツカミボシの言う『里』の単位と、この世界で使われている『M』の単位を付き合わせて、この領地で使っているMを基準にした長さを正確にして欲しい。多分アマツカミボシなら出来ると思うんだけど?」
自分でも間違った言い方をしていないか気になるけど、どうもこういう表現って苦手だ。
「それを元にして、少なくとも長さの単位を統一したいから、Mを基準にKが一Mの千倍、Cが一Mの百分の一として長さを確定して欲しい。それより大きな単位とか小さな単位はまた後にするとして、今後長さの単位や重さの単位だけは、この世界で統一したいから」
「分かりました。過去の測量結果と、現在使われている単位とを比較して、他にも重量の基準となる値を算出します」
「今日はこれくらいかな? また来るから」
「はい、クラウディア様。お休みなさいませ」
魔法文明と言うより、どの文明でも度量法がきちんとするのに時間がかかったのは前世でも同じだと思ったから、これだけはしっかりしないとね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「しかし陛下、なぜ御子息、御息女をあの地に避難させたのですか?」
バスクホルド伯爵は、エストニアムア二世と二人だけで話をしている。実際には国王にバスクホルド伯爵が秘密裏に呼ばれたからであり、当然他には誰もいない。
「私がこんな事を言っては失格だと分かっているのだが、私が即位してまだ四十年程。その間にこのような事態になってしまった。国王として私は失格だと思う。ならば、能力がある者にこの座を譲るのもまた、責任ある立場の努めだと考えたのだ。かといって私も子供達に害が及ぶのは避けたい。確かにバスクホルド子爵家は色々と問題があると分かっているが、かといって領地を持たない君に任せるのもおかしな話だ。そして現状、領地を持った貴族で私が信頼できるのは、結局彼らしかいないのだよ。新しく着たばかりの彼らだからこそ、他の貴族達の悪しき影響はまだほとんど無いはずだ」
「確かにそれはそうかもしれませんが、あの者達には荷が重すぎるかと……」
「分かってはいるはずなのだがな。私の統治能力の無さが、今回の最大の原因だ。それに伯爵、君には分かっているんだろう? 彼らだってバカではないと」
「それはそうでありますが……」
「もう一つ、国王位は君に譲ろうと思う。君なら他の者達も従うはずだ。その理由も君なら知っているだろう?」
「また無茶を。可能かもしれませんが、それでも混乱が収まるとは思えません」
「そのための下準備は私が行う。どちらにしても、私が今の地位にいる事が出来るのもあと一年程だろう。それは頭に入れておいてくれ」
「しかし――」
「これは、決定事項だよ。分かって欲しい……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ねえ、クラディ? 地下で何かしているんでしょ?」
夕食が終わると、イロが急に僕を問いただしてきた。流石に僕が地下に行っているのはバレているよね。
「まあ、確かにね。でも、もうしばらく内容は教えられないかな? ちゃんと準備が終わったら教えるから。それに、終わったら色々と片付く事もあると思うし」
「変な事だけはしないで。まさか、地下から別の物を運び出してはいないわよね?」
「それは無いよ。人手不足なのは僕だって知っているし、今また新しい物を出しても、誰も使えないだろうからね。でも、将来は使える物が沢山あると思う。そのための前準備かな? まあ、どんなに早くても年単位出かかるとは思うけど……」
「イロ、その辺であまりクラディを責めないで?」
「ベティ、あなた……」
「多分、イロが思っている事とは違うわ。それにクラディには無茶をさせすぎていると思うの。少しくらいダメなの?」
「……仕方がないわね。でも、作業の遅れは認められないわよ?」
「分かっているよ。僕だってこっちの完成は早くした方が良いと思っているから。それでも今後、町とか色々作る時に必要な事になるはずだから」
距離や重さの単位さえしっかり確定すれば、今も時々起きている現場の混乱だって解消されると思う。今は色々理解できない事があると思うけど、今回は僕なりに無理を押し通すつもりだ。
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