第百九二話 サスペンション
2016/12/09 17:49
以下の誤字修正を行いました
前世では無し→前世で話
本文中にも一部記載がありますが、単位は以下の通りです
長さ
1C≒1センチ
1M≒1メートル
1K≒1キロメートル
重さ
1R≒100グラム
1Re=1000R≒100キログラム
1L=1000Re≒100トン
面積
1C×1C=1S
1M×1M=1N
1K×1K=1G
※「≒」は近似値の事です
「それで、再度新領都に行くのは構わないんだけど、ベティはどうするの? 正直、今のままだと……」
今のところベティとその子供達には、は基本的に朝と夜にしか会っていない。まあ、二回程ベティの部屋で一緒に寝たけど、単に寝ただけだ。それ以上の事はしていない。
ただ、それで色々と分かった事がある。
ベティは初めての出産という事もあったんだろうけど、かなり精神的に不安定になっている。しかも僕が見た限りでは、かなりの重症だと思う。少なくとも今の状態で長く彼女から離れるのは得策とはどうしても思えない。
だからといって、アマデウスに連れていくのも難しいと思う。何せ生まれたばかりの三人の赤ちゃんがいる。一応メイドさんの他にも、赤ちゃんの担当をする人はいるんだけど、どうやらベティはどこかで信頼が十分に出来ていないみたいだ。まあ、初めての子供達だし、それを咎めるのは筋違いだと思う。
「確かにそうね。今のベティは、正直私も心配だわ。でも、私でも受け入れてくれないみたいなの。はっきり言えば、クラディが付き添うしか無いと私は思うのよ」
「そうは言うけど、ベティを連れていくのは……」
「無理よね」
流石にエリーにだってそれくらいは分かっている。ただ、そうなるとイロの所に行けない。それはそれで問題。イロの所に魔道トラックを運ぶのはもちろんだけど、今回は技術者も同行する事になっているし、既存の魔道トラックを改修するのに、たぶん僕が手伝う必要が出てくると思う。
「ねえ、クラディ。確か前に、トラックを改良してバスを作るとか言っていたわよね? トラックよりも乗り心地がさらに良くなるとか?」
まだサスペンションとかまともなものは作っていないから後回しだけど、確かにその予定はある。でも、魔道トラックが先なんじゃ?
「試作品で魔道トラックに搭載できないかしら? まだ車体だけ作っている物も合ったわよね? それに付けて、性能を確かめるついでにベティ達も一緒に連れていってもらえたらと思うの。今あるタイヤ付きの魔道トラックは、半分だけ先に送るとかしても構わないわよね? 向こうに物だけ送っておけば、車輪の取り付けは後でも出来るんでしょう?」
「まあ、確かにそうだね。試作品が一台だけで構わないなら、一応中型タイプで考えている物もあるし」
「じゃあ、それでいいわ。どうせならその一台だけ、人の輸送用に改造しても構わないわよ? どちらにしても必要にはなると思うし、後で改良点とかが見つかる事もあるのよね?」
「そうだね。確かに後で見つかる事もあるから、早速やってみるよ」
朝食が終わってエリーとの打ち合わせが終わると、そのままトラックの製造をお願いしている所へまず向かう事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なるほど、中型魔道トラックの荷台を、人が乗る形にするのですね。形としては、旅客馬車と同じような形で構わないのでしょうか?」
魔道トラックの荷台部分を作っている場所に行き、作業責任者の所に顔を出した。今も設計図を見ながら、どこか改良点がないか探していたらしい。全て金属製なので、今までの荷馬車とは違い改良点が常に出てくるのだとか。
「うん、そんな感じかな? それからベティとその子供達も乗る予定だから、一部ベッドのようになる場所も付けてくれると助かるんだけど。もちろん取り外し可能で構わないよ」
「ベッティーナ様もですか? まだお子様も生まれたばかりで、正直賛成したくはないのですが……」
「色々事情があってね。ちょっと大変だと思うけど、何とかならない?」
少し考えてから、目の前の人が頷いた。
「分かりました。どちらにしても、そういった物を作る事が今後役に立つかと思います。私の方で責任を持って設計しましょう」
いくつか僕なりの案も出しておいて、その場を後にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実験室に入ると、さっそく試作品を探す。前にスプリングは一応作っていたし、それを参考に魔道トラックへ取り付ける物を作るつもりだ。流石にそのまま付けられるとは思っていないから。
基本はコイル状スプリングを使うつもりだけど、ベティ達の事を考えると前世で話に聞いた事がある空気サスペンションという物を作ってみたい。多分だけど、単純にスプリングだけよりもその方が安定するんじゃないかな?
問題はその構造がまるで分からない事。空気圧を調整する気がするんだけど、そもそもどこに付けるかも問題。
車の場合はそれぞれのタイヤの所に付けていたのかな? 鉄道は確か台車に付けていた時いた事がある。もちろん構造なんか知らないけど。
ただ、今作っている魔道トラックはどれも台車があるし、その上に人が乗る所を載せるって言われた。だとしたら、鉄道みたいな台車に付ける方が簡単かも。根拠はないけどね。
構造的にはきっと前世でもあったベッドの空気クッションと似ているんだと思う。あれって空気圧とかどうなっていたんだろう? まあ、試作した方が早いかな。
せっかくゴムの代用品が出来たのだし、色々実験してみる事にした。少なくとも板バネを使うよりはスプリングの方が良いのは確実だし、空気バネを一緒に組み込めば、クッション性は絶対に増すよね?
台車となる部分へ普通にスプリングを付け、その上に箱を載せる。当然単に載せただけだし、結構な揺れが出た。しかも横揺れ対策とかもしていないので、上下どころか左右にもかなり揺れている。
「まあ、何も考えなきゃこうなるよね……」
今度は単なる空気袋をスプリングと一緒に置いた。揺れは多少マシになったけど、やっぱり横揺れはあるし、このままだと使い物にはならないと思う。
「上下だけの振動にするには、やっぱり軸となる物が必要だよね……」
かといって、スプリングの中心に軸を入れたら、スプリングの意味が全く無い。
「ウーン、どうしよう……」
試しにスプリングを置いている場所の台に穴を開け、その上に置く箱の底にスプリングの中心を貫く心棒を組み込んでみた。多少心棒がスプリングに接触するけど、横揺れはかなり減少。
「車とかどうやって横揺れを抑えていたんだろう……」
全く無いという事はないはずだけど、それなりに抑えていたはず。問題はそれを僕が全く知らない事なんだよね。
今度は前よりも硬めに作ったスプリングを取り付けて、同じように実験する。横揺れはかなり無くなった感じだけど、これを実際サイズで作ると大変かも。
「横に揺れにくいようにした空気袋を付ければ良いのかな?」
スプリングだけだとどうもダメな気がして、試しにホイールのないタイヤを横に置いた形で、前に作った十C(≓センチ)の物を置き、スプリングも同じ高さにした。ホイール部分がないのが不安だけど、まあ実験だしね。すると、思ったよりも振動がほとんど無い物が出来る。
「これを応用すれば出来るかな? タイヤをそのまま使えるし」
あとはベティ達のために、魔法で空気を入れる事が出来る空気ベッドでもあれば良いかな? 最初から完璧なんて無理だしね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
試作したスプリングと同じ硬さで、タイヤと同じ高さの物を二十個程用意して、僕の案を試して欲しいとすぐに伝える。後日、この方法だけでとりあえずは何とかなりそうだという事になり、人が乗る目処も付きそうだ。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
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当然ですが、本文中の方法で現代の車や鉄道が作られている訳ではありません。
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