第百九十話 タイヤの製作 その三
タイヤ、どうした……
いい加減、そろそろちゃんとタイヤの試作品を作りたいけど、なんで毎回違う物が出来るんだろう?
昼食時、エリーに相談したら『慌てる事は無いと思うけど?』って言われて、何だか拍子抜け。タイヤの重要性を分かっていないんだと思う。
ついでに今日の昼食から、エリーとイロの子供達とも一緒に食事をする事になった。今までは前例がない事だったので、色々と体調に問題が無いかとか調べていたらしい。確かに普通に考えておかしな生まれ方だし、それはそれで当然なのかも。
ただ悲しいかな、食事中はお喋り厳禁というのが貴族というものらしくって、正直なんだか寂しく感じる。そりゃ確かに貴族としてのマナーとか色々とあると思うけど、家族だけしかいないなら、深く考えても仕方がないんじゃないかと思う。後でエリーと相談してみよう。
子供達の方は特に体調が悪いとか、何かおかしいといった事も無いらしいので、とりあえず安心かな? 一応僕も食事前に魔法で検査してみたけど、病気とかそういった物は無い感じだ。精密検査をした訳じゃないけどね。食事前だったし、そこは一応自重した。
まあ、エリーには『ちゃんとしたものを作ってね』って言われたけど、当然そのつもりだ。前にあったエンジンが爆発するような事は、今度こそしない。そのために色々とテストもしているんだし。
午後もヒヒイロビストに色々な物を加えながら、失敗を繰り返す。基本は何も起きないだけで、ごく希にちょっとだけ有害な物が出来る事があるけど、それらはすぐに魔法で分解する。廃棄処分に関しても魔法は便利すぎる。これが前世なら、色々と処理が大変だったんだろうなって思う。有害物質の種類によっては、安易に捨てる事すら出来ないと思うし。
実験は基本的にヒヒイロビストに対して、他の物を一パーセント程度ずつ加える作業。大抵の物はある程度の量が混ざると、そこで何かしらの反応が起る。そしてそのほとんどは、なぜかヒヒイロビストが融解するという現象だ。多分ヒヒイロビストそのものに、そういった特性がどこかにあるのかもしれない。実際ゴムだって触れたらいけない物は色々あったと記憶している。
それよりも、この領地はある意味異常だ。
前に調べた限りでは、別に火山があったとは思えないのに、天然資源が豊富にあるなんて。火山があるのなら、そこから金属が出たりするのは珍しくないと思うけど、それにしたって数種類どころか、数十種類は軽く超える量が、どう考えても異常としか思えない程に採れる。これがそれこそ前世でいう所のオーストラリアみたいな広さならまだ分かるけど、大きさ的には多分東京の半分程度のはずだ。
そもそも最初に鉱山を調べた時に、地質調査がちゃんと出来ていなかったのかな? どちらにしても、タイヤの開発が終わったら再度調べてみたい。それこそ何か変な物まで埋まっていたら、後で問題になる事だってあるだろうし。
そろそろ午後の実験も四時間くらい経過して、少し疲れが出てくる。
午後から実験で使った素材は、まだ三つだ。それでも配合を一パーセント程度ずつ試すので、むしろ早い方じゃないかと思う。
「四つ目は、少し休憩してからでも良いかな……」
手元に用意した次の材料は、ガルドバイドと呼ばれている金属だけど、実はこの世界でのバナジウムだ。もちろん陽子が魔陽子に置き換わっていたりするので、地球のバナジウムとは若干異なる性質があるとは思うけどね。でも、ミスリルやオリハルコンのように、地球に無かった素材という意味では、まだ僕としても理解しやすいかな?
そもそもミスリルって、ミスリル銀と言われるけど、実際には銀の同位体ですら無い。
前に詳しく調べたら、陽子数がミスリル銀で一五五もあり、ミスリル金は一五六だった。普通に放射性元素って気がするんだけど……。ちなみにオリハルコンは陽子数が一九八もある。
ところがミスリル銀は、普通の銀と量が同じなら重さもほぼ同じ。体積として同じなら、ほぼ同じって事が、何度か調べたけど分かった。物理学を馬鹿にしているのかと言いたくなるんだけど、この世界には前世程の物理学は存在しない。生物学だって、進化論すら無いくらいだからね。
オリハルコンは、前世の常識で考えれば間違いなく放射性物質だと思うんだけど、これもまたどうやら違う。重量としては、タングステンとほぼ同じになるという不思議金属だ。もちろん特性は全く違うというか、似ている部分なんて全く無い。ただ、こういった事が、この世界を構築している何かに繋がっている気がする。
そんな事を考えていたら、何だかもう一度だけ実験をやりたくなった。どうせまだ今日は長い。
ガルドバイドに関しては、素手で触っても問題ない事は確認済みだ。まあ、今回は他の材料と同じく粉末状にしているけど。そもそも、前世であった金属の名前違いと思えば、さほど警戒する程の事は無い。
それをヒヒイロビストと共に実験ボックスへ入れる。流石にヒヒイロビストと反応した時に、どんな反応が出るかは別問題だし。
ちなみにガルドバイドは確かに陽子数だけで言えばバナジウムと同じだけど、陽子の一部が魔陽子に置き換わっているためか、融点が低い。確かバナジウムは融点千八百度くらいのはずだけど、ガルドバイドの融点は四百五十度くらい。他の金属に関しても言えるけど、この世界の金属は必ずしも融点が一致しないみたいだ。
ヒヒイロビストに少しずつ混ぜながら、反応を伺う。既に重量比に対して3%程度加えたけど、特に反応は見られない。絶対とは言えないけど、大半はこのくらいで反応が起き始める。そのままゆっくりと攪拌しながら加えて、おおよそ五パーセントほど加えた時に、ヒヒイロビストが白く輝きだした。すぐにガルドバイドを加える手を止め、そのまま様子を伺う。当然実験ボックスからは手を引き抜いている。ある程度は安全に配慮していても、やっぱり急に高温状態になったら怖いからね。
発光が収まると、銀色に輝く鉄板のような物が出来上がっていた。一応冷却をしつつ、変化が再び無いか様子を見ていたけど、特に見た目の変化は無い。
いつもの通り有害性が無いかの検査をしてから、出来上がった物を取り出した。ずっしりと重いけど、鉄の塊よりは少し軽い? 魔法で検査をしてみると、素材として根本的にヒヒイロビストとガルドバイドの成分が消えていた。どうして!?
成分的には鉄に近いみたいだけど、何かの合金だと思う。少なくとも元素レベルでは、六種類以上が混ざっている。ハァ~、また変なの作っちゃった。
とりあえず検査を続けて、普通の鉄に近い形で使えそうだというのは分かった。これも他の人に分析してもらった方が早いね。僕が作りたいのはタイヤであって、少なくとも金属では無いのだし。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「――という訳なんだ」
見回りに来た人に話すと、不思議そうな目で金属板を見る。まあ、普通に考えてゴム状の物に少量の金属を加えただけで、金属になるなんて考えるのがおかしいよね。
「話は分かりました。私の方でこれは運びましょう」
見回りと言っても、騎士が常に行っている訳では無い。そもそも研究施設として使っているこの場所は、一応屋敷の敷地内だ。なので一般の兵士もいるし、それ以外の人ももちろんいる。隣には食糧庫もあるので、料理人やメイドさん達も結構近くに来る。
もちろん食料庫は屋敷の中にもあるけど、全部を屋敷の中に置ける訳じゃ無い。まあ、一番の理由は屋敷の中の食料庫が、子供達が生まれて不足しそうだって事なんだけどね。何せ理由はどうあれ、いきなり五人もそれなりに成長した形で生まれて、さらに赤ちゃんが三人もいる。今までのようにはいかないよね。
かといって、この前の反乱や領都の異動が決まったりして、今さら屋敷の拡張などする訳にもいかないし、今のままでは屋敷自体も手狭になりそうだって事で、前回のように魔法で屋敷そのものを移設するというのは却下になった。
でも、それで石材が余計に不足しているってエリーは分かっているのかな? かなり大きな屋敷を計画しているみたいだけど、それだけの石材をどこから持って来るつもりだろう?
金属素材だけは豊富に採れるこの領地だけど、その残土をそのまま建設素材には使えないし、その事はみんな分かっているみたいだ。なので余計に良質な石材が必要だけど、それはそれで案外少ないらしい。少し品質を落とせばもう少しあるらしいけどね。ただ、領主館も含め、重要な施設には良質な石材が欠かせないのだとか。それはそれで仕方がないかな。
「合成に必要なメモと、実験に使う素材も用意しておくね。後で誰か取りに来てもらって」
まあ、実際にはメモなんてすぐに用意できるし、素材もひとまとめにしているから、そんなに時間はかからないけど。ちょっとお茶でも飲んで、休憩でもした方が良いかな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ゆっくりと一時間程かけて、お茶を楽しんだ後、再度研究に取り組む。言えばメイドさんが持ってきてくれるけど、一応ここにもお茶を淹れるセットは置いてあるし、こんな事は自分でしたい。周囲からはちょっと反対されているんだけど。どうやら自分でお茶を淹れるのは、貴族としては普通じゃ無いみたいだ。でも、普通の貴族って僕はあまり分からないし。
今回はちょっとだけ趣向を変えてみようかと思う。まあ、色々な素材で実験したけど、今のところ成功と言えるのが無いって事もあるけど。
使うのはヒヒイロビストにネオンジライトとガルドバイドの二つ。ネオンジライトは、ヒヒイロビストにネオンジライトを加えると、白く光り輝いた後に赤茶けた金属となった物だ。名前は、僕が付けた物じゃ無いって事だけは明言しておく。なぜか触った感じでは鉛みたいな感触だった。これも確認のために別の人達のところへ送ったけど、今回はヒヒイロビストに二つを混ぜるとどうなるか調べるため。
どっちも実験した結果では金属になったから、三つを合成する事で別の金属がまた出来るか確認するため。もしかしたら二つ以上を混ぜないと、タイヤを合成できないかなと思って、先ほど成功した物を参考に、今回はタイヤを作る目的では無く、単に合成してどうなるかの確認。
本当の理由は、ちょっと息抜き代わりだったりする。何せ既に数十種類を試したけど、失敗か目的外の物ばかり出来るから。だったら最初から期待していない組み合わせで遊んでも、少しくらい許されると思うんだよね。
それにしてもここの実験室が手狭になってきた。完成品を一部置いていたりするのもあるんだけど、材料も置いていたりすると、当然その分のスペースが必要になる。元々はそこまであまり考えていなかった場所なので、増設した棚とかの影響もあって狭くなっている。
大体、実験室とかを屋敷の敷地内に作るのは、やっぱりどうかと思う。何か問題があったら、屋敷全体に影響を受ける可能性もある訳だし。
そんな事を考えながら、用意した二つを均等に混ぜていく。魔法があるので手袋をしているけど、実際には触ってもいない。見えないマニピュレータでも使っている感じかな? まあ、そのおかげで何かあったとしても、少しは時間的な余裕が出来る訳だけど。
そのまましばらく加えていくと、ネオンジライトを五パーセント加えた段階で少しだけヒヒイロビストが硬化しだした。ネオンジライトの添加を止めて、ガルドバイドだけを慎重に加えていく。ガルドバイドをさらに一パーセント加えると、ほぼ硬化した。今回は発光していない。何か別の物が出来たみたいだ。色はヒヒイロビストがさらに色を濃くして、真っ黒になった感じ。
そのまましばらく熱を冷ましたりしながら様子を見たけど、硬くなっていく以外は特に変化が無い。常温になったのを確認してから、毒性の検査などをしてみる。これも異常は無いみたいだ。
「ウーン、今度は何が出来たんだろう?」
そのまま手袋越しに触ったけど、金属的な感触では無い。かなり硬いけど、微妙な柔らかさも一応ある感じがする。
出来上がった物を取り出して、再度手袋越しに調べたけど、どこかで触った感じがする。えーと、何だっけ? 比較的最近似た物を触った気が……。
毒性が無い事をもう一度だけ調べてから、今度は素手で触った。そうしたら、それが何かすぐに分かった。ゴムだ。それもかなり硬い感じがする。まだ板状だけど、かなりの硬さがあるので、それなりの厚みにすればタイヤとして使えるかも?
配合の仕方をメモして、何度か色々と調べていると、夕食の用意が出来たと呼びに来た。今日の実験はここまでかな?
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