第百八九話 タイヤの製作 その二
やっぱりタイトル詐欺←マテ
タイヤを作っていたのに魔法の袋が出来て、とりあえずそれは他の研究者に性能試験などを依頼した。あくまで作るのはタイヤであって、魔法の袋じゃないからね。
昨日は魔法の袋のテストで、結局時間を使っちゃったけど、まだまだテストをする素材は多い。何せここの領地は、まるで鉱山の上にあると思えるくらい、色々な物が採れるからだ。
ただ不思議なのは、作物は作物で普通に有害物質を含まずに栽培できる。鉱山が近くにあったりしたら、普通は何かの影響があってもおかしくないと思うんだけど……。
昨日と同じように実験ボックスへ材料を入れては、色々な配合を試す。ほとんどは何の反応も示さないけど、別に気にする事じゃない。硫黄の代用品が見つかれば良いかなという程度なのだし、なければ硫黄を使う事を躊躇うつもりもないし。
そんな事を三時間程して、そろそろ一旦休憩を取ろうかと思っていたら、ヒヒイロビストが赤色で淡く輝きだした。作業を中断し、輝きが収まるのを待つ。ちなみにプロトニンというミスリル鉱山で出た黄色い副産物だ。ミスリルと同じような硬さなんだけど、三百度くらいが融点なので、今回の候補になっていた。ついでに言えば、鉱山では埋戻しする廃土扱いで、若干の魔力はあるんだけど、今まで使われた事の無い物らしい。
光が収まり温度も十分に下がった事を確認しながら、有害性がないか確認する。ちなみに、なぜか無色透明。なぜ透明?
一通りの有害性検査をして、異常がない事を確認すると、実験ボックスから取り出した。もちろん取り出す時はヒヒイロビスト製ゴム手袋? を忘れない。
手袋越しだけど、触った感じは柔らかいし、反対側が完全に透けて見える。ほぼ透明な感じかな? それに重さも使用したヒヒイロビストとほぼ同じだと思う。
試しに両側から引っ張ってみると、そのまま伸びた。まるでゴムみたいだけど、透明度は変わらない。というか、厚みに変化があるためか、若干レンズのようになっている部分がある。
それにしても、なぜタイヤを作ろうとしているのに、他の物が出来るんだろう? 本当に謎だ。
元に戻してから、側に置いておいたハサミで切ってみる。普通にヒヒイロビストを切った時と変わらないかな?
用心を重ねてもう一度検査をしてから、素手で触れてみた。普通にゴムの感触だけど、無色透明だし指紋とかもつかない。うーん、透明なのに汚れが付きにくい?
「でも、なんで透明? 透明になる要因なんてあった?」
いくら何でも、混ぜたら無色透明だなんて、正直信じられない。でも、現物が手の上にあるんだよね。
「もう一回やってみるか……」
全く同じ手順で、同じように作る。少なくとも再現性は確認しないと。前世でも、確かこういった事って再現性が重要だって聞いた事がある。
それからしばらくして、最初に作った物と同じ物が出来上がった。同じようにテストもしてみたけど、少なくとも確認した限りでは全く同じだと思う。
「ウーン……どうしよう。無色透明でゴムみたいなガラスか。何かの役に立つのかな?」
実験を繰り返してみると、熱で多少は伸び縮みがあるみたいだ。正直このままレンズとしては使えないと思う。ある程度の温度変化でも、同じような状態を保っていないとレンズとしては使えないはず。
しばらく悩んでいると、昨日のように実験の確認をするためか、人がやって来たみたいだ。どうやらこの領地に来てから従騎士に任命された男性エルフ。確か名前は……ミエス・パーテロさんだったかな? 正直名前を完全に覚え切れていなかったりするので、たまに間違える。いくら何でも、従騎士に任命された人の名前くらいはちゃんと覚えないと不味いよね。
僕がパーテロさんを見ていると、彼が少し首を傾げた。
「クラウディア様、どうかなさいました?」
ちょっと見過ぎたかな? まあ、どうしようか考えつかなかったし、気分転換にはなったと思う。
「また変なのが出来てね。一体どうしようか悩んでいたんだ」
出来上がった物を彼に見せながら、大まかな説明をする。流石に作り方とかは教えないけど、出来上がった物の特性とかは説明できたと思う。
「着色していないガラスのように透明で、伸び縮みするのですか。確かに変わっていますね。使い方ですか……」
流石にすぐには思いつかないと思う。僕もそこまでは期待していないし。
「それは、大量に生産が出来る物ですか?」
「そうだね。使っている物はどれも本来捨てる物だし、大量生産は出来ると思うよ?」
でも、こんなのを大量生産して何に使えるか分からない。
「平民の家では、一般的にガラスの窓はあまりありません。理由はいくつかありますが、ガラスを作るための素材が不足しているのと、多くは貴族の屋敷や教会で使われる事が多いからですね。ですが、これなら安価に製造できませんか? それなら一般的な家のガラス窓代わりに使用できると思うのですが。少なくとも多少の厚みさえあれば、ガラスのように割れる事もありませんし、同時に防犯対策にもなるかと。何せ普通のガラスのように割れる事がないのであれば、ガラスを破って窓から侵入する事は防げるかと思われます。もう少し詳しく調べる必要があるとは思いますが、透明な窓が量産できれば昼間でも明かりを点ける必要が少なくなると思われます」
ゴム状ガラスを窓に使うのか。確かにこれなら割れる事はまず無さそうだね。
「ところで、そんなに泥棒とかいるの?」
「いえ、この領地ではまずいないかと。他の領地とは違い、犯罪そのものが極めて少ないですから。ですが将来も犯罪が少ないかどうかと言われると、私も正直自信がありません」
ここの領地に元から住んでいる人達は、元々棄民みたいな扱いをされた人達だ。なのでお互いに助け合わないと、元々生活が困難だったって事はある。多分それで犯罪が少ないのかもしれない。でも、反乱騒ぎでこの領地に来ている人もいるし、いつまでも治安が良いとは限らないかも。それなら、確かに割れない窓っていうのは需要がある?
「それに私見ですが、これがそれなりの量を確保できるのであれば、王都はもちろん他の領地にも販売が出来るかと思われます。すぐに売れるかどうかは分かりかねますが、有用性が理解されれ、さらに安価であるなら購入者は多いはずです」
なる程。確かに一理あるかも。それにこの領地の特産品的な物があれば、将来はそれで税収とかも見込めるのかな? その辺はまだエリーに任せているけど。でも、それ以前に今は他の領地との交易なんてしていない。まあ、しばらくは領内で使う分が優先になるだろうし、構わないけど。
「そっか。作るのは簡単だから、後はもう少しだけ確認かな? 昨日と同じように、また誰かにその辺はやってもらわないと。僕はタイヤを早く作りたいしね」
「では、これについては私の方から担当できる者がいるか調べましょう。後で人を向かわせますので、その者にお伝え願います」
元々廃棄物だし、加工するのも正直簡単。原価なんて今の時点では人件費くらい? 何せ加工するのも魔法だしね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
クラウディア様が新しいものを作られたと言われて、それを受け取ってから調べてみる。もちろん製造方法も確認済みだ。
それにしても、これが一般に普及したら革命が起きるかもしれない。
ガラスはどうしても加工に手間がかかり、しかも貴族などが優先して購入するので、どうしても一般に普及はしていない。なので一般的な民家は、ガラスの窓など無いと言って良い。
他の国ではガラスの原料が豊富に産出する所があるらしいのだが、そこも自国に使う分でほとんど輸出されていない。輸出されたとしても、生半可な貴族では購入すら覚束ない程高価だ。
しかし、これなら窓に使えるだろう。何より冬場の寒さ対策には効果があるはずだ。
夏場はまだ良いとしても、冬場ともなれば寒い風が屋内に入ってしまうため、ほとんどの民家は窓にある板を閉めてしまう。当然室内は暗くなるので、中で灯りは必須となる。
多少でもお金に余裕があれば、魔道具製の灯りを使用する所もあるが、ほとんどは蝋燭やランタンが主流だ。そのせいで、希に火事が起きてしまうのも問題ではあるのだが、幸いにして石造りの家屋が多いためか、大きな火事になる事はほとんど無い。
しかし、この新しいガラス状の物を使用できれば、低所得者層でも灯りを確保できるだろう。彼らの場合はすきま風が入る木造の家に済んでいる者も多いが、少しでも風が中に入らないようにと、窓すら無い場合が多いのだ。
クラウディア様は多分ご存じないと思うが、どうしてもスラムのような場所はどんな場所にでもある。当然犯罪も多くなるし、王国の悩みの種だ。
ところがこれを作る方法を聞くと、別に魔法がまともに使えなくとも作る事は出来るはずだ。それならば、やる気のある低所得者層やスラム民を雇って、彼らに作らせる事も十分出来る。当然そうなればスラムなどが減るので、防犯対策にも繋がる。
クラウディア様は失敗作と言われていたが、これは国全体の犯罪を減らすきっかけになるかもしれない。
もう少し研究は必要だろうが、私はそんな事を考えながら魔法を使用しない作り方を模索する事にした。
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