第百八五話 新領地アマデウスへの視察と引き渡し。ついでに……
2017/09/12 誤字の修正を行いました
2016/11/27 13:42
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この領地をヨウシア・ニコ・リーッカネン伯爵が離れて三日。早ければそろそろ戻って来ると思う。まあ、戻ってきてもエリーの対応が変わると思えないけどね。
そもそも今の状況で、王国というか王家を信頼するというのに無理がある。何より王都などで何が起きているかの情報すら無い。手紙が来てもそれは偽造だったりと、信頼するというのが無理な話。再度リーッカネン伯爵がここに来たとしても、状況が変わるとはとても思えない。
まあそれよりも新型魔動エンジンの量産は順調だし、取り付けについても僕が関与する必要が無くなりつつある。それだけでも開発や生産に時間を割り振れるのだから、今はそっちを優先すべきだろう。
「それでクラディ、相談事というのは?」
普段は研究所で昼食を摂ることが多かったけど、時間を見つけて屋敷で昼食を摂ることにした。ついでにエリーに相談があったのも理由の一つ。
「一度、新しい領都を見たいと思ってね。イロを信頼していないとかじゃなく、エリーもそうだけど、将来住む事になるんだったら、やっぱり一度くらいはきちんと確認した方が、今後のためにもなると思ったんだ。それにトラックのエンジンは目処が付いたし」
少なくとも依頼された数については終わっているし、改修用のエンジンもほぼ用意が終わった。改修型のエンジンを現場で取り付ける事はさすがに出来ないのだけど、帰りにそれらのトラックを持ち帰ってもいい。もちろん新しいトラックと引き替えにだ。
「そうね。確かにその通りかもしれないわ。ただ私はまだここを離れる訳にはいかないし、ベティ達の事はどうするの?」
「そ、それは……」
「そんな事だと思っていたわよ。でも、許可するわ。別にクラディが常に必要では無い事くらい分かっているのでしょ?」
「確かに、ベティ付きの人も出産以来多くなったし。その意味では、ちょっとくらい大丈夫かな?」
「そうは言っても、あまり長い間は無理よ? ベティも寂しがるわ」
そりゃそうだろうね。特にここ数日だけど、ベティはどこか僕に依存している感じすらある。これは勝手な想像だけど、もしかしたらエリーとイロとは違い、純粋に僕がエルフじゃ無かったかもしれないからかな? もちろん本当の理由なんて分からないけど。
「今日は流石に時間が無いし、明日にお願いできるかしら? ついでに完成しているトラックもお願いしたいのだけど、大丈夫よね?」
「それはもちろん。それで、何日くらい大丈夫なのかな?」
「そうね……出来れば向こうには三日程度で用事を済ませてもらいたいのだけど、大丈夫かしら?」
三日……まあ、向こうで何か作るとは思えないし、トラックの引き渡しだけならすぐに終わる。問題は無いかな?
「それで良いよ。僕もあまりここを離れる程、今は暇でもなさそうだし。往復でそれぞれ一日使うから、合計五日って所かな? トラックが問題なければ、もう少し早くなるとは思うんだけど」
「その辺は任せるわ。どうせ最初に作った物は、こっちに持ってこないと魔動エンジンを取り替えることは出来ないんでしょう?」
「無理って事は無いけど、難しいかな? それに余計な手間暇がかかると思うし、全く動かないとか、そういった事であれば修理はするけど、それだってこっちに持ち帰る程度しかしないつもりだし」
「じゃあ、それでお願いするわね。そろそろベティの所に行ってあげて。最近ベティがちょっと落ち込んでいるように思えるの。原因が分からないから、困っているのよ」
それってマタニティーブルーってやつじゃ? 僕も流石に詳しくは無いけど、出産後に気分が落ち込んでとか、何かで聞いたことがある。
「分かった。エリーも出来ればちょくちょく相手をしてあげて。いくら近くにメイドさんとかがいつもいると言っても、やっぱり家族とは少し違うと思うから」
「……そうね。気をつけるわ」
僕も流石にマタニティーブルーを説明なんか出来ないし、ここは出来る人が出来る事をらやらないとね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なかなか凄い光景ですね」
付き添いで来ることになった近衛従騎士であるタウノ・ペンッタラさんが護衛を兼ねて同行している。まあ、十五台の中型魔道トラックが列をなしているのだから、それなりに迫力みたいな物はある。
魔道トラックは助手席こそ用意したけど、基本的には二人乗り。なので僕らは荷台だ。最初は運転手とかに色々言われたけど、今回は運転に集中してもらいたい。それに板バネとかではあるけど、一応そういった仕組みもあるし、クッション持参。なので、まあ許容範囲程度にしか揺れてはいない。
他の魔道トラックにも現地に派遣する追加の人が乗り込んでいるので、総数では百人を超える人が乗っている事になる。
ペンッタラさんは、この領地に来てから従騎士になった人で、元々は近衛騎士副隊長をこっちに来てからする事になったユリアナ・ノケライネンの部下だった人だそうだ。流石に従騎士、それも近衛ともなると、それなりに信用できる人が求められるので、信頼第一で選ばれた一人。
それと死んだヴェーラ・アルマル、キルスティ・ミッコネンの知り合いだった者は、反乱に関与していた者は鉱山送りで、関与していなかったとしても平民にされた。これはエリーの決定で、僕も覆せないし、そのつもりも無いけどね。流石に許容できる範囲を超えているから。
ただ、二人の陰謀に荷担していなかったことが確認できた元騎士の人達には、一応それなりの退職金をエリーが支払ったみたいだ。どちらにしても状況的に王都へ戻ってやり直すことも出来ないらしく、何もせずにそのままというのも、後味が悪かったらしい。その中の一人は、新しく町の中で商売を始めたりもしている。
ペンッタラさんが選ばれたのは、男性だという事もある。どうしても女性が多い僕ら一家は、従騎士などは女性が多い。従騎士と言っても、多分前世の世界では従士って存在に近い気もするけど、その辺は考えないことにする。もう一つ貴族家に直接仕える場合は、従騎士の身分となるけど、その中でも特に信頼されている従騎士には近衛騎士などといった役職が認められるけど、対外的にはどれも騎士だ。
そもそもこの世界では、騎士爵には原則として世襲制は無い。例外として認められるのは、貴族家に仕える騎士爵で、この場合は世襲制が可能となる。
もちろん他に従士という身分はあるんだけど、その場合は騎士の下に付く人のことで、世襲制な家の場合は子供が従士となる。世襲不可能の場合は認められないらしいんだけどね。
ただ、男性ではペンッタラさんのみ。他に三人の従騎士が付き添ってくれているけど、全て女性。それぞれエルフのエッレン・ペッコラ上等従騎士にトゥーリア・カッレラ従騎士、クラニス族のテレージア・ヴォーヴェライト従騎士だ。ちなみにヴォーヴェライトさんは、ベティの警護が優先ではあるけど、今回は視察に同行する事になった。
その他兵士が十人弱同行しているけど、彼らは新領地でイロの警護及び手伝いをしてもらう予定。流石に追加人員を送らないと、これから問題になると思うしね。彼らは全員が男性だ。流石に一般の兵士は圧倒的に男性が多いけど、どうやらこんな事になっているのは、エリーが当主ってのがやっぱり大きいんだと思う。そうでなきゃ、騎士幹部に女性が多いのは理由として弱そうだし。
さらに付け加えると、女性で騎士扱いになっている人達は、次期当主の優先権が女性にあるみたいだ。細かいことは流石に確認していないけど。
「流石にこれだけの台数だからね」
流石に乗り心地が悪いので、どうしても会話は少ない。それこそ喋っているだけでも、乗り物酔いをしてしまう気がする程だ。急いで向かっているからと言うのもあるけど。早くゴムタイヤを何とかしたい。
バネについてはスプリングも検討したんだけど、これはこれで僕以外に作れなかった。時間もなかったし、エンジンの開発が優先していたのもあったから、折を見てスプリング式に交換できないか検討もしてみるつもりだ。
一緒に乗っている他の兵士は、既に数人が何だか気分を悪くしている感じもする。実際に運用するときはもっと速度を落とす事になるはずだけど、このままだとバスみたいな使い方は無理だ。
「どのくらいで到着するかな? それなりに速度は出ているから、多分昼過ぎには着くと思うんだけど?」
「そうですね。比較対象が馬車なのではっきりとは言えませんが、そのくらいで到着すると思われます」
ペンッタラさんもそうだけど、すでに新しい領都になるアマデウスには、多くの人が一度は行っている。ただ馬車や馬ならまだマシで、普通の人だと徒歩になる。それだと数日かかるらしいので、実際に領都を移す際にはバスみたいな乗り物があった方が良いはず。早く作った方が良いよね。
そんな会話や考えをしつつ、お昼少し前にアマデウスへ到着した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「イロ、ご苦労様。大丈夫?」
トラックから降りてイロを探すと、どうやら新しい領主館の建設予定地に小屋を作って、そこで指揮を執っていたらしい。粗末では無いけど、応急で作られた感じは拭えない。
「こんな事言うのは何だけど、ほとんど小屋だよね? 生活は大丈夫?」
「最低限の物は揃っているわ。でも、不便なのは確かよ。それでもクラディが新しいトラックを持ってきてくれたんでしょ。そうなればここも変わるわ」
「石材を多めに運ぶように伝えておこうか? さすがにこれじゃあ……」
イロは少しだけ悩んだ後、出来ればそうして欲しいと言った。やっぱり掘っ立て小屋とは言わなくても、ちゃんとした生活が出来るとは思えない小屋では、色々不便だろうと思う。
「本当はもう少し大型トラックを用意できれば一番だけど、そうすると作るのに時間がかかるんだ。だから中型魔道トラックをもう何台か増やすから、それでこっちに石材を運ぶように伝えておくよ」
「ありがとう、クラディ。そうしてくれると助かるわ。木材ではやっぱり限界があるのよね……」
良くも悪くも、少なくともこの国での建築は石材が基本らしい。なので木材での建築技術に少し問題があるのかもしれない。まあ、昔は当然木造建築が主流だったとは思うけど。
「ちなみにこの近くによい石材が採れそうな所とかはありそう?」
「良いとは言えないけど、それなりの石材が採れそうな所は見つけたわ。ただ、正直場所がね……」
「場所?」
「石材をのあった位置が、森の奥なのよ。現状では採石に行くのは難しいわ」
「それって、そこまでの森を道を作るように切り開いてからじゃダメなのかな?」
僕がそう言うと、イロはハッとした顔をした。気が付かなかったんだ……。
「切り株をどうするかの問題があるけど、確かにその方法があったわね!」
「切り株か……」
森になっているくらいだから、それなりに大きな木のはず。切り株を手っ取り早く排除するとなると、ブルドーザーみたいな物があれば大丈夫? それ以前に、木を切る道具が斧だから、チェーンソー的な物を作る事も考えないと。ウーン、必要な物が多すぎる。
「切り株については、こっちで何か方法がないか考えてみるよ。一応魔道トラックは一段落したし。必要なら魔道トラックの数を増やす事も考えるけどね」
魔動炉の開発は最優先じゃないしね。むしろアマデウスの建物を早く作る事が優先されるだろうし。
「他に何かあったりするかな?」
「そうね。いくつかあるから、後でまとめて資料にしておくわ。エリーにも見てもらった方が良いと思うし」
確かにエリーの判断は必要だと思う。あまり僕が出しゃばっても、仕方ないと思うし。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
イロとその他いくつかの話をした後、護衛のペンッタラさんを連れて周囲の視察に向かう。一応イロが色々と資料を渡してくれると思うけど、実際に見た雰囲気とかって、この場合は大切だと思うんだよね。百聞は一見にしかずって所かな?
実際建設途中の家が建ち並ぶけど、そのほとんどが木造だ。しかも僕から見ても掘っ立て小屋同然の建物まである。流石にこれは……。
「急造で作っているとは言っても、流石にこれは……」
「そうですね。大半の物は一時的な使用目的かと思われますが、石材を早急に搬入する必要があるかと思われます」
ペンッタラさんも流石に少し呆れている感じ。仕方がないよね。
「手っ取り早く、ここに石材を用意できたらな……」
この周辺に、良い石材を採れる場所がないのは、やっぱり辛い。開発が余計に遅れると思う。
「あまり気乗りがしないけど……、ちょっと試してみようか」
整地もちゃんと終わっていないので、所々にまだ小山のような物もある。これを人力で切り崩すのは、流石にかなりの時間がかかるはずだ。だったら……。
「ちょっと離れていてね」
そう言ってから、魔法の詠唱を始める。イメージは、山の土を圧縮する事。
そもそも土は岩が砕けて砂になり、それがさらに細かくなった物だ。それを成分ごとに分離していき、一番多い成分で石に変えてしまう。いわば時間の巻き戻しかな? もちろん実際には巻き戻している訳じゃないけど。
時間が経過するごとに山の形が変わっていく。そのうち一部が砂状に崩れ、表面の草などが無くなっていく。久々に大きな魔法を人のために使っている感じ。やっぱり魔法は人のために使ってこそ、役に立つと思うんだ。
山が完全に変形して、一部が砂となって崩れていく中で、そこから白い物が次第に出てくる。当然元よりも断然小さいけど、それでも切り出せばそれなりの量の石材になってくれるはず。
そのまま魔法を行使すると、真っ白な石材と砂に分離した。砂だけを別の場所に風魔法を用いて移動し、そこにもさらに魔法をかける。成分的には他の石にまだなるはず。魔法なんてイメージなんだから、とにかく固い石を思い浮かべれば良い。別にどんな岩なのかとか、そんなのは今回は無視。
砂の大部分も固まって、そっちはちょっと白と黒い粒が見える岩に変化した。
「い、一体何をなされたのですか?」
やっと終わって太陽の位置を見ると、多分三時間くらい過ぎていたと思う。太陽の角度で時間を確認するのは、前世でも結構覚えたんだよね。位置が移動していなければ、おおよその時間の把握は出来るから。ちなみにアナログ式の時計があれば、東西南北が分かる。もちろん誤差は季節とか北半球、南半球で出たりするけど、今はそこまで考えていないし、そもそも方位を求めていないし。ただ、太陽を直視すると目を痛めるという問題もあるけどね。そんな事を知っていたから、前世でもデジタル時計は基本使っていなかったりする。
「ちょっと時間と魔力を使ったけど、即席で石を作ってみた。うん、中々の出来?」
「即席で石なんて作る事は出来ないのですが……」
それは多分ペンッタラさんもそうだけど、この世界の人が土がどうやって生まれるのか知らないからだと思う。知らなければこれは仕方がないけど、今は説明をする気も無い。
「どうせ切り崩す山なんだし、だったら有効利用した方が良いでしょ?」
「そ、それはそうなのですが……」
「この方法で、石材を調達する事にしよう。そうすればもっと開発が進むから。まあ、時間的には二日程度で出来る範囲かな?」
その後、イロに新しい石材を作ったと言ったら滅茶苦茶驚かれた。まあ、仕方がないかな?
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