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第百八四話 魔力炉と魔動炉

 元研究所職員でエルフのリスト・レーヴィ・マルカマキさんと、新型の星形魔動エンジンを完成させ、さらに無事動作などの確認が終わった翌日、マルカマキさんから質問があった。


「そもそも、クラウディア様やエリーナ様が入れられていたという魔力炉なのですが、どういった仕組みなのでしょうか?」


「え?」


 何でそんな質問が出るんだろう?


「いえ、単なる好奇心ではあるのですが、昨日完成した魔動エンジンがありますよね? あれだと元々魔力少ない魔石を用いて、そこから魔法を発生させるではありませんか。それを別の魔石に封入すると、その魔力量は元の魔石の数倍から数十倍になっています。しかも一回の魔法の行使でです。当然元の魔石はまだまだ使える状態ですよね? いえ、はっきり申し上げれば、元の魔石の魔力量はほとんど減っていません」


「うん、そうなるね。それがどうかしたの?」


「ちょっと考えてみたのですが、同じ事を繰り返すと、膨大な魔力を、元々魔力の少ない魔石からも豊富に得ることが出来るのではないかと思いまして」


 そう言われて、正直驚いた。確かに彼の言う通りだ。そもそもこれって誰も今まで気が付いていなかった?


 魔石から得る魔力は、発動する魔法の威力からすると、数分の一どころか、下手をすれば数百、数千分の一。もちろんそれは発動する魔法に準じる。それを別の魔石に効率よく貯蔵できれば、高い魔力量を誇る魔石を量産できる事になる。


「あれ……でも、僕らが入れられていた魔力炉は、僕らの魔力を直接吸収していたような。その間、僕らは魔石の代わりみたいな事になっていたはずだけど、あれだけ沢山の人が魔力炉に入れられていたのに、それがどのくらい使われていたんだろう?」


 自分の事ながら、何だか今になると他人事になる。まあ、魔力炉に入れられていた間は意識が無かったって事もあるし、正直実感は無いからね。


「別に魔力が高い人など用意しなくても、あの魔動エンジンの方法を効率化や大型化すれば、普通の魔石で十分に魔力を豊富に用意できますよね? 私はそれが疑問なのです。昔の人々は、それに気が付かなかったのでしょうか?」


「う、うーん、もしかしたらそうかも?」


 流石にこればかりは自信が無い。と言うより、もしかしたらこれって永久機関みたいな物を作れたりする?


「これは大発見になるかもしれませんよ! 我々も魔力炉については確かに研究はしておりました。ですが魔石から抽出できる魔力を上回ることは無かったはずです。それが今回の方法を応用すれば、魔力革命が起きる可能性があります!」


 マルカマキさんが滅茶苦茶興奮しているけど、確かに研究者や技術者ならそう思って当然かも。まあ、仕組みをもっと考える必要はあるけど……。


「そう、これは魔力炉と呼ぶのは相応しくありません! 言うなれば……魔動炉でしょうか! 魔力を元に動作させた物を炉心にするのですから、それが一番です!」


 ちょっとついて行けないような興奮の仕方。マルカマキさんって、実は熱血漢?


「ま、まあ、まだエンジンをもっと量産する必要があるし、それが終わってから改めて考えた方が良いんじゃないかな? 他にもやる事があるんだし」


「確かにその通りですね。少し興奮しすぎたようです。ですが、一度エリーナ様などにご相談してもよろしいですか? 領都を移す際に魔動炉を取り付けることが出来れば、魔力を用いた設備を町の中に充実させることが出来ると思われます」


「あ、うん。まあ、それくらいなら? でも、今やる事は忘れないでね?」


 一応釘を刺しておかないとね。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「クラディ。ちょっと良いかしら?」


 その日の夜。食事が終わってベティの所――正確にはベティとその子供達の所だけど、行こうとしたらエリーに呼び止められた。ちなみにイロは新領都へ朝向かい、ベティは生まれたばかりの子供達と一緒にいる。なので食堂にいるのは僕とエリー、それ以外にメイドさん数人だ。


「ん、どうかしたの?」


「ちょっとマルカマキ氏から聞いたんだけど、魔動トラックに採用した魔動エンジンを、魔動炉って物に流用できるって聞いたわ。詳しく教えてくれないかしら? あの人、何だか興奮していて何を言っているか正直分からなかったのよね」


 思わず苦笑する。確かに有用な技術かもしれないけど、ちゃんと伝わらなかったら意味がない。


「考え方は難しくないんだ。まあ、実際に作るとなると色々問題もあると思うけど。あの魔動エンジンは、魔石から抽出した魔力で魔法を発動させる。その発動させた魔法のエネルギーを再び魔力に変換するんだけど、そうすると元の魔石から抽出した魔力よりも多い魔力を得られるんだ。それを繰り返していけば、魔力を循環させて大量の魔力だけを取り出せる仕組みが作れるかもって技術だね。ただ、さっきも言ったように実験をしてみないと分からないことも多いよ?」


 エリーは少し腕組みをして僕を見つめる。何だか恥ずかしい。


「確かに成功したら使えそうね。でも、それって安全なの?」


「それはまだ分からないよ。そういったのを確認するために実験をしないと。だから急に作れって言われても、それは無理だよ?」


「そうよね……。分かったわ。あの人も、もう少し落ち着いて話してくれれば良かったのに……」


 再度苦笑してしまう。相当興奮して話していたみたいだ。


「とにかく僕はベティの所に行くけど、明日もトラックのエンジンを作るんでしょ? 今は急いでも仕方ないと思うな。それにイロに任せたままなのかもしれないけど、町の区画とかどうなっているの? 新しく町を一から作るなら、ちゃんと考えて作った方が効率が良いと思うんだけど」


「それは問題ないわ。報告も受けているし」


 イロは一週間のうちそのほとんどを、新しい領都となる場所にいる。なので僕が会うことはほとんど無い。


「それなら任せるけど……新しい魔道具とかを作ったり、研究するなら、場合によっては向こうちゃんとした研究所とか工場を作った方が楽になるとは思うな。ここだとあそこまで距離があるから、ある程度したら向こうで作った方が効率も良くなるしね」


「そうね。でもそれって、どれくらいの広さが必要になるの?」


「少なくとも、僕個人としては今使っている場所の、倍は最低でも欲しいかな。それに魔動炉とかの開発まで考えると、もっと広い方が良いと思う。あまり広い場所は無理だろうけど、狭いとやっぱりね? まあ、安全を考えて実験する場所は、他の場所に作った方が良いかもしれないけど」


「そうね……分かったわ。その辺は私で何とかしておくわ。じゃあ、ベティによろしく」


「うん、分かった」


 それにしても、マルカマキさんが変に暴走しないと良いけど……。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

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