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第百七八話 ゴム?

2016/11/05 18:50

内容の修正を行いました


2016/11/14 9:57

強力ありがとうございます→協力ありがとうございます

 領内の各地にゴムの木を探しに行ってもらい、四日が経過していた。それまで誰にも知られていないゴムは、そもそも樹液の採取を行わなくてはならないという事もあって、当初から難航するのは当然の事。そもそもゴムそのものを見た事も無い以上、どの樹液がゴムとして利用出来るのかすら分かっていない。一応樹液が白っぽいという事は伝えてあるが、それ以外の情報が事実上皆無。そしてその事を、クラウディアは失念しているという始末。とは言え、ゴムの木を前世では図鑑でしか見た事がないクラウディアにそこまで求めるのもまた難儀とも言える。


 そんな事もあって、樹液は元より何となくそうなんじゃないかと思われるような物まで採取する事になったのは、ある意味仕方がないと言えるだろう。


 そんな四日目のある時、森の中を探索していた一つの四人チームが、一頭の魔物と対峙していた。四人ともエルフである。


「比較的弱いとはいえ、油断するなよ」


 まとめ役の騎士が剣を装備し、二名が弓、一名が槍を手にしている。相手はラテス・グリンブと呼ばれるイノシシ型の魔物の亜種で、あまり群れていない事が特徴だ。


 弓手がすぐさま矢を射、二本とも頭に命中するとその場に崩れる。槍を持った兵士が少しずつ近づき、穂先で何度か突いたりして絶命しているのを確認した。


 このラテス・グリンブという魔物は、胴体以外はほぼ全てが弱点という魔物であり、イノシシの亜種にしては突進力も無い。しかも牙さえ無く、少し訓練すれば比較的狩りやすい魔物として有名なのだが、他のイノシシ型の魔物などと違い、その肉は食用に適さない。そのため冒険者などからも敬遠される魔物であり、唯一金銭的な価値のある表皮も、イノシシ型の魔物としては最も安い金額――一頭分をほぼ無傷の状態であっても、銅貨一枚という、下手をすれば使った矢の方が高くなってしまうといった魔物だ。これが他のイノシシ型の魔物であれば、多少傷があった所で一頭丸々ともなると最低でも銀板一枚であり、その価値は十倍に跳ね上がる。質の良い物ともなれば、銀貨で取引される事もあり、そうなれば価値は数百倍ともなるので、余計に人気がない魔物としてラテス・グリンブは有名である。とにかく使える所が無いのではないかと言われるくらい、冒険者からしても嫌われている魔物なのだ。


 弓を使った二人が近づいて、使用した矢を回収する。これでも金属製の矢であり、一本当たり安価な矢とはいえ銅板五枚。二本使用しているので、ラテス・グリンブの表皮と同じ価値を持つ。もっと安価な木で出来た矢ももちろんで回っているが、この領内で支給されている矢は、鉱山から豊富に金属が産出される事もあって、全て金属製だ。


「相変わらず弱いですね」


 矢を回収するのを見ながら、槍を持っていた兵士が騎士に言う。彼も矢だけで絶命しているのはほぼ間違いないと思ってはいたのだが、確認はどちらにしてもする必要があった。


「私も何度か訓練で相手をした事があるが、正直訓練にもならない魔物だな」


 騎士がそう言うが、これは別に騎士の腕前が良いという訳でもなく、冒険者として魔物を狩った事があり、一度でも対峙した事があればほぼ全員が抱く感想でもある。


「しかし、なぜこんな弱いのが魔物なのです?」


 矢を回収した一人が、不思議そうに聞くのも当然だろう。訓練で相手をした事すら無い者もかなりいるのが現実だからだ。


「私が聞いた限りでは、一応魔物として本に登録されているとは聞いているのだが……」


 そう言いながらも苦笑するしか無い騎士。当然彼も、これが魔物だとはどうしても思えない。しかし一般に魔物として分類されているので、魔物として退治するのは当たり前でもある。冒険者だろうが兵士だろうが、魔物を目にしたら倒すのが当たり前とされるからだ。当然騎士もこの中に含まれる。


「そう言えば、この魔物の脂肪は、普通の脂肪よりも切りづらいのが特徴でしたね。色も脂肪だからでしょうけど白ですし、クラウディア様に一応届けてみますか?」


 もう一本の矢を回収した兵士が聞いてきた。騎士はそれを聞いて少し悩んだが、どちらにしても今のところこれといった収穫が無い以上、せっかくだからとこの魔物を回収する事にする。


 このラテス・グリンブと呼ばれる魔物が、後に資源として保護され、さらに飼育されるなど、誰がこの時考えたであろうか。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 騎士と兵士達がラテス・グリンブを退治したとほぼ同じ時間、鉱山にある精錬場で山と積まれたゴミに悩んでいる者がいた。


「だいぶ溜まってきたな……」


 コボルト族の彼の目の前には、鉱石から分離された石などの廃棄物が山となっている。ただ、彼が問題としているのはそういった普通の石では無い。物が何なのか分からず、とりあえず山積みにした黒っぽい塊だ。


 その黒い塊はヒヒイロラムナと呼ばれる鉱物を製錬した結果、廃棄物として出る物で、ヒヒイロラムナは製錬する事でヒヒイロカネとなる。


 ヒヒイロカネはミスリルよりは貴重で、オリハルコンよりは採掘出来る金属であり、ガラス状の物質で強度は低く、割れやすい。しかし魔力の保有量が極めて高いのが特徴で、魔法使い用の杖に組み込む事があるが、希少なためほとんど使用されていない物だ。それがこの領内でかなりの埋蔵量がある事が分かった。


 ただこのヒヒイロラムナからヒヒイロカネを製錬する際に、鉱石から不純物として全体の七割が分離される。その分離される大半が、謎の黒い塊であり、今まではさほど採掘されていなかった事もあって、名前すら付いていない。それ以前に、こんな物が出てくるという話しすら無いのだから仕方がない。


「変に弾力があって、一体何なんだ?」


 彼が不思議がるのも仕方がないのだが、だからといってこのままにする訳にもいかない。あくまでここは一時的な廃棄物保管庫で、普通に処理された残土や鉱石から分離された物は、用済みになった鉱山へ埋め戻されるからだ。しかし変に柔らかい訳の分からない物を埋め戻すのは、流石に躊躇われる。


「どうかされました?」


 偶然近くを通りかかったエルフの男が問いかける。彼は精製された金属の量を報告するために視察に来ていた。


「これなんだが、ヒヒイロラムナって知っているか?」


 元々職人資質の強かったコボルト族の彼は、どうしても口が悪い。しかしそれを悪く思う者はこの場にいない。むしろ仕事が出来る分、評価が高い。


「いえ。何かの鉱物ですか?」


「ああ。ヒヒイロカネってのがあってな、それを製錬していたらこんな物が大量に出てきたんだ。今まで大量に見つかった事が無かったからな。多分誰も知らないんじゃないか?」


「私はその辺詳しくないのですが、それが?」


「処理に困っているんだよ。何せこれだけの量だからな……」


 そう言って背後にある山を見る。


「ちょっと触っても?」


「ああ。構わないが手袋くらいした方が良いと思うぞ? 何せどんな物かも分かっていない」


 言われて差し出された手袋、とは言っても、軍手のような物を渡され、それを装着してから謎の物体に触る。


「変に柔らかい。それに弾力もある。少しもらっても?」


「構わないが、何に使うんだ?」


「クラウディア様が色々珍しい物を集めているみたいなんですよ。一応見せてみようと思ったのですが、この山はどうするつもりなんです? 場合によっては必要になるかもしれないですけど」


「そうかい。それならとりあえずこのままにしておくよ」


「悪いですけど、お願いしますね。必要なら、こっちで倉庫にでも入れておきますよ」


「助かる。後で何か届けようか?」


「助かります。とりあえずクラウディア様に報告してくるので、しばらく待って下さい」


 彼はそう言うと、謎の黒い物を袋にいくつか入れ、その場を後にした。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「これって、何だと思う?」


 クラウディアから探索依頼が出て五日目。別のエルフの騎士と、他の種族を含む兵士六人の一行が、森を抜けて岩が剥き出しの場所に来ていた。


 そんな彼らが見た物は、岩の隙間から湧き出る茶色い液体状の物。


「何だと思われます?」


「聞かれても正直困るな。少し採取してみよう」


 騎士がそう言うと、ガラスの瓶を持ったウルフ族の一人が慎重に近づく。少し異臭がするが、すぐにどうにかなるような類いの物でも無いようだ。


 兵士はガラス瓶の半分程に採取すると、慎重に蓋をする。瓶の中に入れた謎の液体は、少し粘度のある物のようだ。


「一応、クラウディア様に報告はするか。位置を確認してくれ」


 言われて別の部下が地図上に場所を記載した。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 トラックの最初の試運転を終えた次の日の夜、二つの不思議な液体状の物がクラウディアの実験室に届き、それを観察する。


「何だろう、これ?」


 一つはラテス・グリンブから採取した脂肪部分。それとヒヒイロラムナから抽出された物。


 ラテス・グリンブの肉や皮は特に目立った事も無いので、とりあえず他の所に保管している。問題はラテス・グリンブの脂肪。死んだ後に変化すると聞いていたんだけど、どう考えても脂肪とは思えない。正直な感想を言えば、真っ白なゴム状の物。


「クラウディア様、いらっしゃいますか?」


 ドアをノックした後、一人のエルフが部屋に入ってくる。


「何か用ですか?」


「これを届けたく参りました。鉱山で見つけた物なのですが、今まで誰も知らない者らしく、一応クラウディア様にお見せした方が良いと思いまして。ヒヒイロラムナという鉱物を製錬した後に出てきたらしいのですが、鉱山技師の方も分からないらしく。ちなみにヒヒイロラムナを製錬するとヒヒイロカネという物になるそうです」


 ヒヒイロカネと聞いて、どこかで聞いた事があると思ったけど、どこで聞いたのか思い出せない。まあ、それよりも目の前の物だ。


「とりあえず調べるだけ調べてみます。協力ありがとうございます」


 僕がそう言うと、彼は部屋を出て行った。


 それにしても、触った感じは何となくゴムに似ているかな? まあ、調べないと何とも言えないよね。ゴムに似ているからっていって、ゴムと決まった訳じゃないし、そもそも植物じゃなくて魔物と製錬した鉱物の副産物、それに湧き出ていた物。


 とにかくこれから調べないと、何とも言えないね。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。評価、ブックマーク、感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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