閑話 二十二 王城にて
「一体どういう事だ?」
エストニアムア王国、国王であるマヌ・ヘンリッキ・ラッシ・エストニアムア二世は、先ほど届いたバスクホルド子爵領からの手紙に困惑していた。
手紙に書かれている事が本当であれば、子爵家は五日後に王国から独立すると書かれている。しかも指示した事など無い子爵家を『大公家』にするという事への反発だとまで記載されている。
「一体、誰がこんな事を……」
確かに現在の王国は、かなり混乱のさなかにあるのは事実だ。だからといって、こんな馬鹿げた事を命じたつもりなど無い。
「誰か、我々にまだ妨害工作を行っている者がいるとしか……」
同席しているバスクホルド伯爵が、溜息交じりに答える。
「文官であろうな。少数ではあるだろうが、反王国の者がまだいるのであろう」
追従するように、財務卿であるキンモ・ヨルマ・マリネン伯爵が言う。それに何人かの同席している者達が頷いた。
「して、見当は付いているのか?」
今度は軍務卿であるヨウシア・ニコ・リーッカネン伯爵が周囲を見渡しながら言う。流石に彼の場合は軍務畑であり、事務担当の内政官まで全てを把握はしていない。
「見当は大体付いております」
言い辛そうに、貴族院管理官のガヴリイル・イリイチ・カルタショフ子爵が切り出した。この中では数少ない子爵という立場で、しかも彼はハピキュリア族。どうしてもエルフ主体の王国では立場が弱い。
「ただ、申し辛いのですが、軍務卿閣下の元にいる文官にも怪しい者が……」
「何だと!」
それを聞いてリーッカネン伯爵が激怒しながら席から立ち上がった。
「伯爵。気持ちは分からないでは無いが、それだけ事態は深刻だと考えるべきでは?」
バスクホルド伯爵が諫めるように言うと、リーッカネン伯爵は苦虫を噛みつぶしたような顔をしながらも、おとなしく座る。
「子爵、どの程度分かっているのだ?」
国王は冷静に周囲を見渡しながら、カルタショフ子爵に問う。
「小物も含めれば、ざっと百名は下らないかと。要職に就いている者も数名おります。とはいえ、閣僚ではありません。排除する事は難しくはないかと。当然それなりの理由は必要となりますが……」
若干声を震わせながら、カルタショフ子爵は答えた。流石に爵位としてもこの中では低く、しかも自身は閣僚では無い。あくまで閣僚を補佐する一部局の一人でしかないのだから、自身の責任問題が問われてしまえば否定は出来ない。どんな世の中でも、スケープゴートになるのは大抵が立場の弱い者からだ。
「今回は君の責任ではないだろう。むしろ、すぐにでもバスクホルド子爵家への対応を考えなくてはならない。状況から考えるに、直接誰かを送る必要がある。しかも早急にだ。かといって、現状では人員も限られている」
実際に貴族卿のトップであるヤルノ・マイニオ・フッリ伯爵が、彼へのプレッシャーを抑えに回る。何より、フッリ伯爵が彼の上司であり、当然管理責任が問われるのであれば、伯爵自身になるからでもある。
「まあ、伯爵の言う通り、責任問題を今話しても何も進まないのは確かだ」
国王がそれに追従し、少なくともこの場で責任論が問われる事は無い。いずれかの段階で、誰かがその責を問われる可能性はあるが、問題が山積みである以上は、下手な事を言ってやぶ蛇を突きたくないという思いがその場のほぼ全員にある。
「リーッカネン伯爵、そなたに頼めるか?」
国王がそう切り出し、その場の全員が国王を見た。
「王都の警備体制は、君の部下でも既に十分なはずだ。そして軍務卿の君ならば、警護の騎士を連れて子爵領に行ったとしても、状況からすると一番と判断する。むしろ内政担当官については、フッリ伯爵が指揮を執って調査と捕縛を行って欲しい。バスクホルド伯爵も、内務卿として協力をして欲しい」
「陛下、私がでありますか?」
話を振られたフッリ伯爵は、驚きを隠せないでいる。そもそも貴族卿という役職ではあるが、さほど仕事がある訳でもない。各貴族家の名簿管理などが主な仕事であり、貴族卿がする仕事は僅かだ。
「うむ。貴族院の担当は君なのだから、君が指揮するのが一番のはずだ。無論、他の閣僚も調査に協力するように。異論が無ければ、それで決定したいと思うが?」
状況からして国王の言っている事は間違っていないのだから、当然誰も反対はしない。
「手紙は通常の方法で私の責任を持って書こう。それよりも先に、リーッカネン伯爵には子爵領に飛んでもらいたい。手紙のルートは……そうだな、ヴィーガント伯爵が追って欲しい」
国王の言葉に、法務局長であるユリアーヌス・トニ・ヴィーガント伯爵が頷く。彼はウルフ族の伯爵ではあるが、そのトップはバスクホルド伯爵である。しかしバスクホルド伯爵は、国王から直にフッリ伯爵の補佐を命じられているので、法的な事に関しての専門家である彼が適任だと国王は判断する。
伯爵の部下に伯爵が付くのはおかしな話だが、ヴィーガント伯爵はその能力が故に、独自に伯爵位まで得た。それはこの場にいる誰もが認める事であり、本来なら法務局を格上げしたい所であるが、そう簡単に閣僚を増やす事も出来ない。しかしヴィーガント伯爵もそれは理解しており、無闇に騒ぎ立てるほどバカでない事も確かだ。
「謹んでお受けいたします。ですが、現場担当官が私の元には不足しておりますが?」
「リーッカネン伯爵、君の部下を彼に貸す事は?」
「問題ありません、陛下。一応カルタショフ子爵のリストを確認し、問題が無い者を重点的に補佐に付けましょう」
「では、決まりだな。皆、王国の危機にこのような対応しか出来ない私を許して欲しい」
「いえ、陛下の責任と決まった訳ではありませんし、バカな貴族を野放しした責任は、我々にもありますので」
すぐさま国王の言葉をバスクホルド伯爵が否定する。
今回の一連の騒動は王国の貴族に留まらず、王国を構成する国民全員にいえる事でもある。それ故、誰もバスクホルド伯爵の言葉を否定しない。
そんな状況でも尚、エストニアムア二世国王は、この件が片付いたなら、引退をすべきかと悩むのであった。
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