第百七十話 これ、無理ゲー?
「何だか、硬くなった?」
翌日、昨日切り出しが終わらなかった場所に再び向かい、昨日と同じように鉄を切り出した。ただ、昨日よりも少しだけ切断に時間がかかっている気がする。本当に気が付くかどうかの差だけど、時間が経過するごとにそれが顕著なのが分かる。何故なら、昨日なら切り終えている時間になっても、まだ切断が終わらないのだから。
一枚をやっと切り終えて、それを前日のように資材置き場へと運ぶ。それから僕はこの金属が何かに変化していないかと、検査魔法を使った。
「えっ? 陽子数というか、陽子と魔陽子の合計が二二? 鉄は確か二六だから……チタン? そこに炭素が含まれたままだから、炭化チタンになるのかな? でも何で陽子数が減ったの?」
てっきり魔法の影響で、陽子数が増える傾向にあると思っていたけど、今日は減っていた。でも、切断するのには時間がかかった。チタンは確かに硬い金属だけど、チタンその物は高温に弱いって聞いた事がある。それで航空機のエンジンにはあまり使われていないって、前世にどこかで聞いたけど……。
そもそもチタンは、天然にはまず存在しないって聞いた事がある。まあ、この世界の常識の中では分からないけど。
再度検査魔法を、さらに集中して発動した。すると中性子の数が異なる物も、かなりの割合で存在している。前世なら放射性を持つ可能性が高いけど、この世界では魔力を帯びている事になるはず。つまり魔力が熱反応を抑えた? それなら一応は切れ辛かった理由も説明は出来るけど……。
ただ、それで即納得できることじゃない。何故なら僕が切断に使用している火魔法の温度は、軽く前世でいう所の三千度は越えているはずだからだ。それくらいの温度がないと、バターとはいかなくてもそれなりに切断するには時間がかかりすぎるから。
「ベルショーさんはいますか?」
コボルト族の技師で、アンドレ・ベルショーさん。材質などを専門にしているそうだ。彼なら何か分かるかな?
「クラウディア様、私でしたらここに」
案外すぐ近くにいた。いつもはちょっと離れている所にいるはずだけど。
「簡易ですが、私もこの金属が昨日までの物と異なっている事は分かりましたので。それで、これの検査という事でよろしいでしょうか?」
「うん、お願いするよ。僕は切り出しをしないといけないしね。一応僕がさっき調べた知識だと、これはチタンというか、チタニウムの合金みたいだ。炭素が混ざっているから、正確には炭化チタニウムって事になるかな。炭化チタンと略して呼んでも良いよ」
この世界では、あまりチタンは使われていない。そもそも、チタンを一定量見つける事が出来ていないみたいだ。その意味では、今回のこれは良い試験材料ともいえる。
「ただ、僕が知っているチタン合金とはちょっと違う気がする。鉄のように加熱すればチタンはそれなりに切断出来るはずなんだけど、今回は切断に時間がかかった。それに、チタンに含まれる要素がいくつか混ざっているみたいなんだ。前に魔力子の話はしたと思うけど、このチタン合金には複数の魔力子が異なる形で混在している。普通なら基本的に一つの金属なら魔力子の数は同じ数で構成されるはずなんだけど、これは複数が混在しているんじゃないかな? だからその辺の影響が色々あると思うんだけど、流石に今は細かい検査を僕が行う訳にはいかないから、その辺の検査をお願いしたいんだけど」
「承りました。確かに以前に聞いた話と事情が異なるようですね。この金属板も切り分ける事になりますが、最後にある程度細かくしていただければ、こちらでも検査がしやすいのですが」
「そうだね。この金属板を切る時の最後にはなるけど、細かく切断してみるよ」
それにしても、なぜ一晩で材質が変わったんだろう? もしかして血液の方も何か変化が出ていないか不安がある。後で聞きにいってみるかな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
壁の金属が変則的な炭化チタンに変わった事で、切断作業が大幅に遅れだした。一応エリーにはその簡単な説明をお願いするように作業をしていた一人に頼んだけど、エリーがそれでちゃんと納得してくれるかと言われると、正直微妙だと思う。何せ色々仕事が溜まっているみたいな事を昨日言われたばかりだし。
後でエリーが見に来るかもしれないけど、どちらにしても作業は進めないといけない。少しでも道幅を広げないと、今後の事に差し障るのは僕だって理解している。
「クラウディア様。簡易ではありますが、切断に適した温度が分かりました」
振り返るとベルショーさんがいる。手には何枚もの紙が握られている。
「早かったね? もっと時間がかかると思っていたんだけど」
「まずは切り出しを優先しなければなりませんから。なので切断の温度だけを集中的に調べたのです」
なるほど。ならば納得。
「それで、このチタン合金ですか? 昨日と同じように切断を行うには、五千度が必要です」
「五千度!?」
この領地に限って、温度に関しては摂氏の概念を伝え、後は魔法で温度を上げた場合に、その温度変化と魔力の消費量から、どの程度の魔力でどの温度か分かるようにした。結構大変だったんだけど、それでも加熱魔法なら比較的単純なので、普通の人達でもかなりの高温が出せる事も分かっている。
「私達の魔力ですと長くても一日に三分が限度ですが、この温度なら昨日と同じように切断出来ます。当然かなりも魔力を消費するので、クラウディア様でもそれなりに制限がかかる事が予想されます」
「それでも五千度はかなりの高温だよ……」
僕の知る限りで、五千度の高温にならないと溶けないような金属は分からない。融点が五千度なんてあり得るのかな? 沸点が五千度なら十分にあり得ると思うけど、普通は融点より高い温度があれば切断可能なはず。でも、溶ける温度……融点の事はベルショーさんにも伝えている。彼が間違えるとは流石に思わない。
「分かりました。温度を上げてやる事にします」
あまり気乗りはしないけど、何もしないのも変な話だし、この壁を削って拡張する事は決定事項だ。
「クラウディア様、お取り込み中失礼します。エリーナ様がお見えです」
兵士の一人がエリーを案内してきていた。ベルショーさんと話をしていて、全く気づかないなんて、ちょっと不味かったかな?
「クラディ、聞いたわ。昨日までと壁の金属が変わったって話だけど、一体どういう事?」
とにかく状況説明が先だ。ちょうどベルショーさんもいるので、一緒に分かった事を説明する。中盤からエリーは苦虫でも噛みつぶしたような顔をしだした。
「今の時点で分かっているのはこんな所かな。もちろん、もっと詳細に調べれば他の事も分かるとは思うけど」
「そう……」
「とにかく、今は道幅を広げる事を優先するから、エリーはこのま――」
「中止よ。領都を移動するわ」
「えっ?」
「無理よ。手持ちにある時間で、他の事をやらなくてはならないわ。その為には、そんな事に時間をつぶせるほど余裕は無いの。だったら、他の場所に移すしかないでしょう? すぐに作業を中断して、以前に調べた第二候補地へと領都を移動します。資材等は必要な分だけ運ぶように。すぐにかかって」
エリーのかけ声で、それまで作業していた人達は新しい領都へと映る準備を始める事に
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