第百六八話 衰弱の原因?
騎士を含めて、兵士の約三分の一が体調不良を訴えている。症状は倦怠感に吐き気、目眩だけども、仕事が出来る状況にはない。
最初は領地に派遣された治療師に任せていたけども、半日でお手上げになった。彼らでも原因が分からなく、せいぜい吐き気止めなどを飲ませているくらい。
僕にはハッキリ言って医療の知識なんかほとんど無いに等しいけど、それでも恐らくは僕が原因。なのでどうしても責任を感じてしまう。
救いなのは目に見えて肉体が金属化していない事くらい。まあ、そんな事になったら大問題ではあるんだけど。
「若干血圧は高い傾向が見られますね。一般的には上が百三十を上限として、下が七十とされているのですが、症状が出ている方々は、上が百六十、下が百となっています。ですが年齢や持病などの健康状態によっても血圧は変わりますし」
診察で指揮を執っている医者で、ターヴェッティ・アルホネンといい、王都より派遣されたダークブラウンの髪と黒目のエルフだ。年齢は百三十七歳だそうで、実績も高いらしい。
それと、血圧や脈拍は魔道具で計測している。かなり以前にそういった医療用の道具が発明されたらしく、少なくとも前世でいう所の町の診療所くらいの設備を持ってきたらしい。前世と違って魔道具が大半だけど、この世界は魔法があるのだから当たり前とも言える。
アルホネンさんは僕にも丁寧に患者の容体を教えてくれるし、仕事ぶりも慣れた様子だ。他にも助手の人とかを連れてきてくれたみたいで、医者だけでも他に三人、看護専門の人が二十人ほどいる。ちなみに看護職については、この世界では女性の専門職となっているそうで、男子禁制なのだとか。なので普通に看護婦という言葉が使われている。
「他には何か分かりましたか?」
「先ほど血液の採取を行った所で、結果はもうしばらくかかると思いますね。透過板で検査を行いましたが、骨や内臓にこれといった変化は見られません」
透過板とはレントゲンのような物で、当然魔道具だ。板を通して体を見ると、その場所の骨はもちろん内臓などもリアルタイムで見る事が出来て、レントゲンのような被曝もない。こういう点では魔道具は便利だと思う。ちょっと難しいらしいけど、慣れるとCTのような断面画像を記録結晶に転写も出来て、かなり万能に使えるんだとか。ただ、この方法はかなり熟練のワザが必要らしくて、専門に『透過診療師』と呼ばれる人でないと、まず難しいらしいのだけど。
「とにかく今は血液検査の結果待ちですね。透過では特に異常がないとすると、今ある物では他に診断が難しいですし」
「分かりました。ありがとうございます。僕にも何か手伝える事があれば、いつでも声をかけて下さい」
専門家でも無い僕がいつまでいても邪魔になるだけだろうし、結果が出るまでは壁の撤去を優先するしかないと思う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
鋼鉄化した壁の撤去も大切だけど、一時保管場所に置かれている切り出した鉄板が移動出来ないとのことで、幅一M、長さ二M、奥行き十Cで切断していく。炎系統の魔法と風邪系統の魔法でガスバーナーのようなものを作り、切断が終わると同時に水魔法と風魔法、そして温度を下げる方向に使った火魔法で冷却。
僕としてはかなり簡単な作業なんだけど、バーナーはともかく、冷却でこの方法を使える人がいないらしい。大抵は水魔法で作った水をかけて冷却するだかなんだとか。
火魔法と一概に言うけど、実際には温度魔法ではないかと思っている。そうでなければ、対象物の温度を変化させることは出来ないはずだ。ただ、一般的には火とは熱い物という認識なので、冷却という概念を火魔法に持つことが出来ないらしい。
左手で鉄板を切断しながら、同時に右手で切断が終わった所を冷却しているので、一枚の鉄板を切り出すのにかかる時間は一分ほど。長さが二Mなのでその間隔を歩く必要があり、それに時間が多めに取られる。かといってこれ以上小さくするのはもっと別の意味で手間がかかるし、運べる大きさにすれば良いので、僕としてはこれ以上小さくする必要は無いと思っている。今のところ文句も来ていないしね。
ただ、手間なのが数の多さ。元々切り出した物が百枚以上既にあり、それを新しく切り分けるので数がとにかく多くなる。切断が終わった物から別の所に移動してもらっているけど、いくら小さくしたとはいえ、鉄板であることは変わりがない。一応魔法で移動可能な人が中心に作業をしているけど、それでも魔力が豊富な僕と違って、他の人たちは定期的に休みを入れたり、魔力回復のための魔石を使用したりしながらなので、どうしても数頼みだ。なので僕があまりに早く作業しても、今度は移動が間に合わなくなる。
さらにこれが終わったら、鋼鉄化した壁をまた切り出さないといけない。今のところ一番外側の壁で鋼鉄化は進行していないみたいだけど、時間が経ってどうなるかは流石に分からないし、少しでも早く全部を処理しないといけないはず。
時間は有限なのに、出来る人は極めて限られているので、少なくとも壁から切り出しが出来る僕には、まともな休みがない状況だったりする。
「ご苦労様でした。とりあえず今はこれで大丈夫です。移動には時間がかかるので」
考えながら作業をしていたら、鉄板の移動をしていた人から声をかけられた。コボルト族の人だけど、名前を覚えていない。
「分かりました。一旦、病院の方に行きます」
病院とは言っているけど、内乱で使われなくなった建物の一つを割り当てているだけ。当然本来必要な設備は揃っていない。綺麗なシーツとか、専用の洗濯設備とかになるんだけどね。それでも野戦病院みたいにテントをいくつも用意してじゃないだけ、まだマシ。
お昼にはまだ早いから、病院を見終わったらまた作業再開かな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
病院に行ったけど、まだ検査結果は出ていなかった。この世界ではどの様に血液の検査をしているか分からないし、専門外のことを聞いても分からないので、一度屋敷に戻る。いくら魔力が豊富でも、疲労は別問題だし、多少は休憩しないと僕まで倒れそう。
屋敷に戻るとイロが庭にいた。子供達と一緒にお茶を飲んでいるみたい。いきなりそれなりに成長した状況で生まれて、最初から離乳食すら必要なく、普通に食事が出来るって、何だか生まれたばかりとはとても思えない。
「午前中の作業は終わり? いつもは朝と夜しか会えないものね」
実際、お昼は屋敷に戻らず外で食べることの方が最近は多い。外で食べるとは言っても、別にお店があるという訳ではなく、お弁当の場合がほとんどなんだけど。それにエリーやイロ、ベティが作ったお弁当という訳でもなく、普通に屋敷に勤めている料理人が作った物。確かに味は美味しいんだけど、何となくエリー達が作ったお弁当を食べてみたくなるんだよね。前世では結婚もしたことがなかったし。
「少しだけ時間が出来たからね。いつもお弁当だと流石に飽きるし」
お弁当とは言え、実際にはメイドさんの誰かがお昼近くに届けてくれる。なので料理は比較的作りたてだ。それもあって味は良いと思う。だからなのか、僕が屋敷に戻った時にメイドさんの一人が厨房の方に報告へ行ったらしい。
「それで、タルヤやエミリア達は調子はどうかな?」
子供達五人もテーブルでお茶をしているので、こういった時でないと会話もなかなか出来ない。正直寂しいけど、今は戦後処理を優先しないといけないから仕方がないのも分かっている。
「お母様達がいるので問題ないです。父上はお仕事を頑張って頂ければ」
タルヤがそう言って、他の子供達も頷く。ウーン、なんだか子育てを最初から除外されている気分になるのは気のせい? 仕方がない部分はあるとは分かっていても、納得出来るかと言われると、正直違う。
「お父様のお仕事は私達も分かっています。お仕事に区切りが付いてから、私達のことについてきちんとお話しした方が、混乱も少ないと思います」
追従するようにエミリアがそう言うと、僕としては顔を引きつらせるしか正直ない。
確かに言おうとしていることは分かるんだけど、とても生まれて間もない子供のいう事とは思えないし。一体誰に似たんだろう?
そんな事があったけど、とにかく昼食を摂ってから再度病院に向かう事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「血液検査の結果が出ました」
病院についてすぐ、アルホネンさんが検査結果が記録された記録結晶を持ちながら、僕を迎えてくれた。お昼、食べたのかな?
他の医者が既に待っているとのことで、僕はその部屋に案内される。何だか重苦しい雰囲気に感じるんだけど……。
「今回の血液検査で、気になることが分かりました。我々は赤状血液体と呼んでいるのですが、その数値が普通の五倍から、多いと十倍の値を出しています。恐らくはそれが今回の原因かと思われます。それと、赤状血液体が増加しているためか、血液体に含まれる呼吸要素が、これも通常の三倍から五倍になっています。我々も新しい発見で、この呼吸要素の存在は分かっていたのですが、名前が付いておりません」
赤状血球体って、多分赤血球の事かな? 呼吸要素というのは多分酸素だと思う。つまり、赤血球が異常に増加して、それに伴い酸素も多くなっているって事?
「その、赤状血球体を減らす薬とかはありますか?」
「はい、あります。今、数人にですが試験的に投与を開始しているので、遅くとも明日までには何らかの結果が出ると思われます」
別の医者がすぐに肯定してくれた。じゃあ、とにかく結果をまた待つしかないよね。
それにしても、赤血球が異常に増えた? ハッキリとは覚えていないけど、赤血球には鉄分が多く含まれていたはず。という事は、魔法の影響があった人には血液中の鉄分が増えたという事なのかな? でもそれって、やっぱり僕のせいだよね……。
「クラウディア様が何をお考えになっているかは分かりかねますが、こちらに死者が出なかっただけでも今回は十分と考えるべきだと、医者の私からは申し上げます。そもそも自軍の数十倍を相手に戦ったのですから、本来であれば全滅するのが当然の成り行きです。患者に関しては我々が責任を持って治療に当たるので、クラウディア様は他のことに集中して頂きたく思います」
アルホネンさんにそう宣言されると、僕としてはただ頷くしかない。何より医療の知識なんて、僕にはたいして無いからね。
この場をアルホネンさん達に任せることにして、僕は壁の撤去を急ぐ事にした。もちろん何か異常が出たら、すぐに僕に知らせてくれるようには言ったけどね。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
ブックマーク等感謝です!
各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。評価、ブックマーク、感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。
今後ともよろしくお願いします。




