第百六六話 貴族の教育と、復興が進まない現実と
2016/09/21 20:32
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前世でもまとも何ダンスの→前世でもまとなダンスの
ドレスのイロでも当然性別は→ドレスの色でも当然性別は
2016/09/22 02:38
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体調不良で更新滞りがちですorz
「筋が良いですね。以前にも踊った事が?」
「ほんの少しだし、こんな本格的な物じゃないけど……ね」
何をやっているかというと、いわゆる社交ダンスってやつなのかな? 貴族としてダンスが出来るのは当たり前と言われると、流石にその授業を断る事が出来ない。
一応、成人する前にはほんの少しだけどダンスもやった事がある。というか、やらされたという感じかな。ちなみに種族によってかなり異なり、エルフは種族としてダンスが好きとされているらしかった。
そんな事もあって体は覚えていたりしたけど、年数としては千五百年以上前。実際感覚的には数年ほどやっていなかったってだけなんだけどね。正直貴族が行うようなダンスとは違うと思うし。そもそもこの世界の貴族と、前世のイメージする貴族が同一なのかも怪しいし。
他にも、貴族としての知識として教育もあるんだけど、同時に戦後処理も行わなきゃいけなかったりする。当然これは僕の責任も大きいから、断ることは事実上無理。
ちなみに貴族としての教育として、ダンスや知識的な事は、全て専門の家庭教師的な人が王都から派遣されてきた。その手のエキスパートらしく、それだけでもハッキリ言ってとても面倒。とにかく午前中はみっちりと扱かれて、それが終わってから戦後処理という名の復旧作業。なので、一日のうちで休んでいる暇がほとんど無い。この世界にブラック残業とか、そんな言葉がないのが残念。それがあれば文句の一つも言えたかもしれないのに……。ブラック残業じゃなくて、ブラック企業だっけ? どちらにしても、この世界にはそんな言葉はないけどね。
確かに簡単には攻められないように、壁や堀を作ったのは僕だし、それを元に戻すにしても範囲が広大なので人海戦術にしても限度があって、僕が作業を手伝うだけで人海戦術の四倍は作業効率が違うんだけどね。しかもそれだけが作業じゃないので、本当に色々と忙しい。
当時はお互いに手を取り合ったりして軽く左右に動いたり、時々その場で回ったりをしたくらいだったけど、今習っているのはもっと本格的? なダンス。ついでに言えば、習っているのはヴェルスという物らしい。いくつかダンスの種類があるらしいんだけど、貴族の間で踊るダンスとしては、最も基本的な物だそうだ。前世でもまとなダンスのやり方なんか知らないし、成人前の事を少しでも思い出しながら、何とか形になるように頑張っている。
右手を相手の腰に当てて、左手は少し曲げた形で体から離す形だけど、確か前世でもこんなのをテレビで見た記憶がある。実際にどんな名前かなんて知らないけどね。そもそも前世ではダンスなんて興味なかったし。
基本的には激しい動きは少ないんだけど、それでも時々それなりの動きがあったりして、当然ステップとかもある。曲付きで踊ったりもあるのだけど、流石にそんな踊りはした事がないし、テンポが正直難しいなって思うのもしばしば。それでもソコソコは出来るらしいので、家庭教師の人も張り切って教えてくれる。それはそれで困っちゃうんだけどね。
今日は音楽をバックにダンスの練習なんだけど、前世で見たバイオリンに似た楽器とかもある。ちょっと違うのは、弦の数が五本や六本ある事かな? 確かバイオリンの弦は四本だったと思ったから。まあ全部の楽器を知っていた訳じゃないし、もしかしたらそういった楽器もあったかもしれないけどね。弦楽器だけでも、見た感じ八種類くらいありそうだ。
文字通り手取り足取りダンスを教えてもらっている訳だけど、前世ではまともにダンスなんてした事が無い。うーん、そもそもあったかな? 僕が前世で死ぬ少し前に、小学校でダンスの授業が始まるとかってニュースは聞いた事があるけど……。
「はい、よろしいです、クラウディア様。そのままタップして……」
ちなみに服装はドレスだ。いつからそうなっているのか知らないけど、エルフの正装がドレスというのは、千五百年前から変わっていないみたい。伝統衣装ってなかなか変わらないみたいだ。
基本男性のドレスは黒で、僕が成人する前の知っている頃よりも、レースがふんだんに使われている気はする。まあ、この辺は貴族とかその辺が関係している気もするけど。肩はないタイプで、スカートは踝近くまであり、男女共に靴はヒール。一応女性の方がヒールが高いみたいだけどね。まあ、ヒールの高さはちょっと見た目には分からない場合も多い。ちなみに女性のドレスは、手首までしっかりとあるタイプ。ドレスの色でも当然性別はすぐに分かるけど、こういった所でも違いがあるらしい。
女性の場合は、ドレスと同じ色のコサージュを付けている場合がほとんど。僕から見たら、何かの花のように見える。コサージュのタイプは色々あるみたいで、胸に付けるタイプはもちろん、ネックレスタイプやあまり一般的ではないみたいだけど、スカーフのような物を首に巻いて、そこに付ける物もあったりする。
コサージュの中心には、特に貴族ならその身分を示すアクセントも付いていたりする。エリーナの場合であれば、コサージュの中心に剣が象っていて、そのさらに中心に赤いサファイアが付いている。ちなみに僕らの場合は子爵家の一位なので剣だけど、それ以外の子爵家だと弓だそうだ。こんな所が身分差というのを感じる。
男性の場合は、コサージュと対になる葉っぱをイメージしたコサージュが同じように付けてある。もちろん色はドレスと似たような色に統一されているんだけど、葉の数は男性の方が多くするのが普通だとか。それから花と葉っぱは家族や恋人、婚約者などであれば、対になるようなデザインを使用するそうだ。なのでコサージュの組み合わせを覚えるのは、貴族とか関係なく普通の事らしい。当然貴族ならそれにあわせて身分を示すアクセサリーがコサージュに付いているんだけど、その位置はコサージュの一番下側に位置していて、やっぱり赤いサファイアと剣を象った物。
前世の読み物とかではエルフって言うと『森の民』なんて比喩みたいに言われる事もあったけど、こんな所は植物のデザインという事で、ちょっとだけ似ている?
まあ僕がこの世界で生まれた頃から、エルフが森の中で住むなんて事は無かったみたいだけどね。あったとしても、どうやらおとぎ話のような話で出てくるくらいだ。なのでこの世界に来てから、僕にはエルフが『森の民』といったイメージは全く無い。
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午後の休憩……前世でいう所の、三時のおやつみたいな時間が終わると、今度は本格的な復興作業。ちなみに休憩時間は、様々な貴族の勉強がやっと終わって、疲れているのでメイドさんに淹れてもらった紅茶と、ちょっとしたお菓子などを食べたら、ひたすら椅子の上でボーッとしている。エリー達にも会いにいきたいけど、あまりに疲れた表情を見せるのも恥ずかしい。それにここでしっかり休まないと、次の仕事に差し障る。
復興作業とは言っても、ほとんどは僕が作った壁を崩して堀を埋めるだけ。とは言っても、中には緩衝材とか装甲も入れたので、崖になっている堀との境を崩すのがとても面倒。何故ならそれを解体してからでないと、土を崩して堀を埋めることが出来ないから。
しかも土で作ったはずなのに、いつの間にか壁の表面が金属になっていた。自分でも何を言っているのか良く分からないけど、確かに金属の光沢を放っている。一体なんで?
一応検査魔法で調べてみたんだけど、大部分が陽子数二十六の鉄で、その他に陽子数六の炭素や陽子の数が十二や十三、二十二、二十四、二十五などが含まれている。少なくとも鉄と炭素が含まれているから、多分鋼鉄の合金に該当すると思うんだけど、なんで?
しかもそんな鋼鉄? が継ぎ目無く壁になっているので、まずはそれを取り除かないと壁を崩す事が出来ない。最初に壁を作った時は土のはずなのに、時間が経過して鋼鉄に変化するだなんて、一体何が起きたらこんな事になるんだろう……。
とにかく撤去は早くしないといけないので、土壁を壊すのは他の人に任せる事にして、僕は鋼鉄となってしまった鉄板を、切断しながら撤去する事にした。壁の縁に立って、すぐ下に向けて火魔法を放つと切断は簡単に出来るんだけど、それと同時に鋼鉄の板が堀の方に倒れる場合があって、轟音と共に土煙を上げたりしている。それを見て周囲の人が唖然としていたりするんだけど、僕だって訳が分からない。
とにかくせっかくの鋼鉄の板なのだから、これはこれで再利用だ。重量があるので魔力をそれなりに使う感じだけど、風魔法とかを応用して空中に運んだ後、一旦同じ場所に積み上げたりしながら、ほぼ同じサイズになるように、壁となっている鉄板を切り出していく。既に一週間が経過しているけど終わっていない。むしろ、いつ終わるのか聞きたいんだけど、当然誰にも分からないみたいだし。
鉄板の厚さはほぼ同一で、大体二十C。五M×二十Mくらいになるように切り分けていって、町の一番近くにある物を撤去している。
どうやら本来の壁の部分と、堀にした部分の表面がまとめて金属化したようで、十Mの壁と十Mの堀の深さを合わせた長さになったようだ。
全体が終わるのに、どのくらいの時間が必要なのかも不明だ。そもそも、本来土でしか無かった物が金属になっているって事が色々とおかしい。しかも鋼鉄とかとなると、もう意味不明。仮に核融合反応が起きたとしても、確か前世の知識だと鉄で止まるって話を聞いたことがあるんだけど、そこから炭素が混ざって鋼鉄になるだなんて、色々とすっ飛ばしているとしか思えない。
最初に東西南北へ道を作っていたから良かったけど、そうでなければ今頃町の中に入るのには、魔動飛行船以外の方法が無かったかも。そうなったら、町に物資を運ぶのはかなり困難になっていた可能性がある。すぐに大量の物資が必要という訳じゃないんだけどね。
それから全滅した山岳方面から来ていた軍の通った場所が、一応簡易の道として使えるらしく、今はそこを経由して食糧などを運び込んでもらう予定だ。少し距離があるので、まだ最初の馬車も到着していないし、どちらにしても現状では魔動飛行船頼みなのは変わらなかったりするんだけどね。
ただ、それだって整備されている訳でもないので、山岳部に近い方角の解体作業が一段落したら、今度は道の再整備をすることになっている。当然これも、魔力が高い僕が作業を率先的にというか、ほぼ僕が行う事になる予定。他の人達だと土を崩す事は十分に出来たとしても、巨大な鉄板を切り出す事さえ難しいみたいだし。
ちなみにエリーの場合は、同じ戦後処理でも書類の山という強敵と戦っているらしい。色々な許可証など、こっちも毎日のように発生しているのだとか。一度エリーの執務室に行ったら、書類が至る所に山積み。手伝いで派遣された人もいたけど、いつ終わるんだろう?
イロは当面生まれたばかりの子供達を見ることになっているけど、当然専門のメイドさんが何人も王都……正確には王城から派遣されてきた。おかげで僕が子供達と会うこともほとんど無いんだけど、僕って父親だよね? 僕の立ち位置が分からなくなることが、正直ある。
ベティはまだベッドの上で休んでいるから、今のところ出来る事が無い。今は安静が第一みたいだし、そもそもいくらエリーとイロの前例があるとはいえ、ハーフエルフの僕とクラニス族の彼女では、その子供がどうなるかなんて前代未聞だし。
砦? の切り崩しは、僕が鉄板を除去した後に他の人が行う事になる。最初は僕もやっていたんだけど、僕には他にもやる事が山積み。
次に向かったのは魔動鉄道を管理している操車場兼資材置き場。そこに先ほど切り出した鉄板を持ち込み、火魔法を使ってレール状に変形させた後、水魔法で冷却。強度が問題なければ、そのままそれを破損している場所に他の人たちが運ぶ。
どうやら僕が放った魔法がそれなりに熱を帯びていたためか、かなり大規模に損傷してしまっている。早い話が、全てのレールの約四分の三を交換する羽目になったらしい。流石にこれは僕が悪いと思うので、おとなしくレールの作成に取り掛かるしかない。
こんな時は、本当に魔法は便利だ。普通ならそれなりの設備でレールを製造しなければならないはずだけど、今の僕にはイメージするだけでレールを作ることが出来るからね。これってある意味チートだと思う。
交換された破損したレールは、一旦資材置き場に戻される。当然これも僕の魔法で再生処理。せっかく基準となる物が二十Mの鉄板から製造しているので、今は以前に作ったレールも全てこの長さに統一している。以前のレールは長さが必ずしも統一していなかったので、とりあえず二十M以上の長さにしてから、それを二十Mに切断し直す。それをレール敷設用の貨車に他の人たちが積み込んで、次々と新しい物と交換。
それから車輪も総交換する事にいつの間にかなって、それらの修繕や製作も僕が行っている。他の人たちにだって一応は出来るようにしたけど、作業効率からすると僕が行った方が格段に早い。というか、確実にフランジの付いた車輪を作るとなると、一度で作るのは僕しか出来ない。他の人の場合、一度車輪のサイズに作ってから、フランジになる部分を魔法などで調整しているみたいだ。
最初にレール敷設用の貨車の車輪を交換した後は、優先順位別に次々と車輪も製造。取り付けるのは僕じゃないので、これも一日の製造台数が決められている。作るのは僕だけど、実際の交換はやっぱり他の人頼みだからね。でも急い作るのは当然なので、先に僕が大量にレールや車輪を製造。
それらが終わってから、やっと夕方になって屋敷に戻ると、また貴族としての授業再開。流石に暗くなってからの復旧作業は無理だし。
午前中がダンスやマナーの授業だとすれば、夕方遅くの授業は歴史とかそういったこの国に関することなどがメイン。それらの合間にエリー達と夕食を摂るけど、その後もすぐに授業だからゆっくりは出来ない。数少ない子供達と会える時間なのに……。
多少はこの国とか周辺国の歴史も分かってきたけど、地理とかもあるし、貴族の名前だって覚えなきゃならない事も多い。なので授業の半分は復習をする感じになる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「直線の線路はしばらく大丈夫だから、カーブ用の線路を量産?」
「ええ。新しく他領との接続に線路を用意してくれとの指示もあり、今のうちから出来るなら用意して欲しいと」
いつも通り鉄板からレールを切り出した後に、保線担当の人から言われた。鉱山などでもカーブしたレールは必要なんだけど、そこまではまだ修復が終わっていないそうだ。まあ、まだ線路の修復を本格的に始めて一週間も経過していないし、鉱山まではかなり距離がある。
鉱山は鉱山で、先に魔動自動車で人員を送り込んでいるので、問題があれば何か連絡が来るはず。どちらにしても、線路は全面的に修復した方が良いらしい。今回は長さが二十Mと決まったサイズになっているので、以前はその場所に合わせてレールの長さを調整していたんだけど、長さに関しては完全に統一するそうだ。まあ、その方が保守も楽だけどね。
「それで、カーブはどれくらいの長さが必要なのかな? 半径だって今まであまり決めていなかった気がするけど……」
今さらなんだけど、カーブの半径を決めていないことに気が付いたりする。そりゃ、設置している場所に応じて決めてはいたけど、統一はしていないんだよね。多分今回はそれも統一したいんだと思う。その方が効率も良いしね。
「鉱石運搬の貨車などを考えると、少し大きめでも良いかと思われます。ただ、鉱山地帯はカーブも連続するので、その辺りをどうすれば良いのかと思いまして」
「そうなると、三種類くらいの半径が違うレールを用意した方が良いかな。それ以上作ると流石に管理が面倒かもしれないし。問題は、三種類作るとして半径をいくつにするかだよね」
小半径なら小回りが利くかもしれないけど、速度を出すと危険だ。かといってあまりに半径が大きいと、今度は速度が出せても小回りが利かない。そういえば、そもそも車両の長さは全部同じだ。そうなると、鉱山でカーブが多い場合に小回りが利かなくなる。今までどうしてたんだろう?
「製鉄所や精錬所に運ぶまでは、今まで馬車でしたね。それほど距離があった訳では無かったので。一部はレールの上にトロッコなどを置いて、馬で引かせていました。ですが、開発が進めば馬車などでの輸送にも限界がありますね。そもそも鉱山地帯ですと、馬の餌などの確保も別にしなければならないので」
うーん、早いうちに鉱石専用の小型車両を作るべきかも。トロッコは使われていたのだから、それを牽引出来る小型の機関車があれば大丈夫かな? トロッコがどうなっているか、再度確認した方が良いかも。
「採掘場の設備とかも確認してから、小半径のカーブについてはきちんと決めた方が良いね。あ、でも急いで決めないといけないのか。領地の外部との連絡をしやすくするためなんだから……数日間考える時間はあるかな?」
「そうですね……。出来れば急いだ方が良いかとは思いますが、急ぎすぎて失敗するのは問題です。数日なら問題も無いでしょう」
宿題が出来ちゃったな。忙しいけど、今は我慢するしかないよね。何せ僕にも原因がある訳だし。
「クラウディア様、大変です!」
遠くから叫び声が聞こえる。声をする方を向くと、馬で壁の解体をしていた一人が急いで向かってくる。
「何かあったのでしょうか?」
鉄道整備だって終わっていないのに、別の問題? 正直これ以上勘弁して欲しい……。
その人は馬から降りるなり、すぐに一番外側の壁まで来て欲しいと言う。一体何があったんだろう?
「落ち着いて。何があったか説明して欲しいんだけど」
「見た方が早いです。とにかく来て下さい! 既にペララ従士長も現地に到着しております」
ペララさんが? それほどまでに重要な事? 流石にそう言われると、僕だって急いで現地に向かうしかない。僕はすぐにペララさんの元に向かう事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、何があったんです?」
操車場に一番近い外側の外壁の上で、ペララさんが深刻な顔をしながら、壁の内側を見ていた。僕らが近づくと、そのまま右手で壁の内側を指さす。
「これは一体何が起きたのか、説明を願いたいのですが?」
ペララさんが指した先を見ると、少し前まで厚さは二十C程度だったはずの表面の鉄板の厚みが、いつの間にか少なくとも一M程度まで増している。
「えっ……」
流石にこれは僕も驚くしかない。そもそも壁の外側が金属化した事に驚いているのに、その厚みが明らかに増している。どう考えても普通じゃない事は確か。
「今のところ、この一番外側の外壁だけ変化が起きているようです。原因は不明。ですが、このままでは外に通じる道を作る事が困難になるのは間違いないでしょう。早急に何らかの対策を講じる必要があります。既にエリーナ様には報告しておりますが、エリーナ様は別件で忙しく、クラウディア様しか対応が困難な状況です」
金属化した表面をしゃがんで触ってみたけど、普通に金属の感触。
「今のところ四ヶ所に開けた道は大丈夫ですが、そもそも馬車一台分程度の間隔しか開けておりません。このままでは通行に問題が発生するのは明白です」
立ち上がって壁を見渡してから頷く。確かにこれは大問題だ。こんなので周囲を覆われたら、町の中への物資搬入が混乱するのは目に見えている。
「クラウディア様、今ならまだ間隔を開ける事が出来るかと思いますが、すぐに作業を行って頂きたく。他の件も確かに問題が山積みでありますが、内側の壁は特に変化をしていないところを見ると、魔法に晒された一番外側の外壁を、まずは何とかすべきでしょう」
「そうだね……とにかく、四ヶ所の幅を広げよう。どのくらい広げれば良いかな? 流石に全ての壁を除去するのは、時間が足りなくなる可能性があるから……というより、無いかも」
原因が分からないのは仕方がないにしても、出入り口となる幅だけはすぐに広げないといけない。
「そうですね……馬車四台が同時に通り抜けられる幅が欲しいところですが、最悪二台が同時に通れる幅は必要かと」
馬車は一般的に横幅がおおよそ二M程度。それが交互通行する事を考えれば、最低でも五Mから六M程度の幅がないと、互いの馬車が接触してしまうはず。それに同時に人も入れるようにするなら最低でもさらに一Mは左右に間隔を増やさないといけない。今の幅がおおよそ三M程度だから、少なくとも四Mから六Mはさらに幅を広げる必要があると思う。しかもこれだけ分厚くなった金属板だから、これを切断するのにそれなりに時間がかかると思う。何せ最初より厚さが段違いなのだから。
「すぐに拡張します。それと、町側の壁に変化が出ていないか再度確認して下さい。とにかく最低でも馬車二台が通る事が出来るようにと、人も同時にある程度は入れるようにやってみるので」
すると、ペララさんが急に僕の両肩を掴んできた。
「言いたい事は私も色々とあるのですが、ここの作業は今すぐに行って下さい。エリーナ様や王都から派遣された方には、私の方から説明しておきますので。事情さえ説明すれば、後回しに出来る事ですから」
ペララさんの目には、何だか僕に『急いで作業しろ』というか、『原因を作ったのだから、すぐに解決しろ』って訴えかけるものがある気がするのは、気のせいかな?
「と、に、か、く! クラウディア様はすぐに作業を。他の者達も、クラウディア様を手伝うように!」
どうやら今日は、夜の授業どころではなくなったらしい。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
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