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第十五話 呼び出し

2016/01/30 誤字及び一部内容を修正しました

 いつも通りの日々が過ぎてゆく。忙しいので退屈はしないし、新しい魔道具を見る事も出来る。新たに生まれた赤ちゃんのお世話もある。退屈している暇なんかない。


 ここで働き出して二年と半年が過ぎた。一年が十四ヶ月もあるけど慣れてしまえばどうという事は無い。


 僕もつい最近十八歳になって、仕事仲間のパセットさんからは『エルフの血が濃いからかしら? エルフの基準でも美形よ』なんて言ってくれる。


 あと理由は分からないけれど、以前よりも胸が少し小さくなった。それでも大きい方だけど、前世で言う所のFカップ相当からDカップ相当に小さくなった。


 エルフ族であるパセットさんが言っていたけど『短期間に母乳を与え続けたのが原因かしら?』なんて言っている。確かに新たに生まれた四人へ母乳を与え続けていたしね。


 まあ個人的に言えばこれでも大きいけど、以前のFカップに比べればまだまともな部類だと思いたい。


 それにランダーソン一家の女性陣はなんだか安心したような目で最近は見てくれる。確実に胸の事で思う事があったのだろう。


 本来男としては胸はまだまだ大きいと思うけど、エルフ族やハーフエルフとしては一般的なサイズらしいので、それはそれで安心出来る。胸なんかで目立ちたくないしね。何せ男なんだから!


 実家には大体一ヶ月に一回程度顔を出してはいる。特に何か変わった様子もなく、みんな元気にしている。ほとんど日帰りだけど。


 妹のリアーナはやっぱりエルフの血が濃かったのか、今では妹の胸の方が僕より大きい。とはいえサイズ的には一つ上でしかないのだけど。


 ただ妹なんだから当然女性だ。女性だから胸が大きくても何か言われる事はない。それはそれで何だか羨ましいのが、今の僕の変な悩み。


 目下リアーナの悩みはやっぱり胸のサイズらしい。


 僕が経験したように、普通の下着店だと物が見つからない事も出てきたみたいだ。なので以前僕が抱えていた悩みを、今になってヒシヒシと感じているらしい。


 それでも家族みんなが元気にしてくれているのはやっぱり嬉しい。僕は養子だけど、血の繋がりなど関係なく『家族』として接してくれているし。みんな僕が養子だというのは既に知っているけど、本来義父(ちち)義母ははは我が子のように扱ってくれているし。


 働いててだいぶ分かってきたのは、この街の特殊性だ。


 この街は王都イルシェスを除くと唯一の王直轄地で、そのために鉄道もある事が分かった。


 その為この街だけは特別扱いであり、普通の『町』は大きくてもここの四分の一にも満たないそうだ。


 一応他の町や村との交易路はあるけれど、どれも徒歩か馬車のみの移動手段。一番近い隣町までは、前にも聞いた気がするけど馬車で四日かかる。村ともなると馬車でも一ヶ月かかったりするだそうだ。


 直轄地であるこのピリエストの街は、昔は穀倉地帯だったらしい。何百年もかけて土地が変わってしまい、今で一部を除いてはほぼ不毛の大地だけど。


 ただ町の横を流れる川は王都にも続いていて、いくつか他の町や村も上流にある。なのでそういった所から食料を供給されていて、物価としては他の所よりも若干高いそうだ。


 小さな村とかだと青銅貨一枚でも食事が出来るとの事なので、銅貨一枚でやっとパンが一個買えるこの街はインフレ状態とも言っていい。


 それでも直轄地であり、王様の別荘もあったりするので、この街が放棄される予定は今のところ無いようだ。


 それにこの周辺では比較的鉱山が多いらしく、特にアダマンタイトがよく採掘されるそうだ。素材としては武器に向かないが、他の金属と混ぜると混ぜた金属の特性を引き出すらしい。それと少量だがミスリル銀も採掘可能だとか。


 思ったのはこの街で作物が採れなくなった理由だ。


 この国では米を栽培していない。麦がメインらしい。そして麦の連作障害を知ったのは、ほんの三十年程前だという。


 つまり連作障害を考慮せず麦を育てた。その上麦を増産するために、土地を無理矢理魔法で耕したらしいのだ。少しならそれでも地力を取り戻せるかもしれないけど、根本的解決にはならないし、むしろ悪くなる一方だろう。


 さらに近場に点在する鉱山。アダマンタイトとミスリル銀は、どちらもそれを含んだ石に少量の毒性があるという。


 連作障害に加えて鉱毒による成長阻害。それが積み重なって地力を失ったと考えれば納得がいく。


 さらに鉱毒を含んだ残土は、街の近くにそのまま破棄された。当然鉱毒は残ったままだ。雨で鉱毒が溶け出し、水と共に川に流れ込んだと考えるのが自然だろう。それで魚をほとんど食べないのかも。


 この街では各家庭などに魔道具の浄水器がある。そのきっかけが鉱毒によるものだとすれば、全てが繋がる気がする。


 最近でこそ鉱山の残土は、鉱山の近くに捨てているらしいけど、昔は残土から少しでも金属を取り出そうと、街まで鉱石を含む土砂を運んでいたらしい。なので街の近くに残土が残る結果となった。


 どうも鉱山自体は何百年と掘られているようで、当然残土の量は計り知れない。荒廃した地面はほぼ残土なのだろう。時間の経過で固まっているけど、元が残土である事には変わりない。しかもその土がどの程度あるのか分からない。


 結果的にこの土地の大半は、ほぼ永遠に作物が育たない環境になった。しかも戻す術はない。もしかしたら僕が魔法で有害物質を取り除くことが出来たら、将来は作物ももっと生産出来るかもしれないけど、僕は僕で仕事が忙しいし、そんな面倒なことを頼まれてもいないのにやる気もない。


 もっと早くに鉱毒について誰かが考えれば良かったのだろうけど、もう手遅れだと思う。本来なら鉱山の町としてだけ機能させ、もっと他の場所に移動すべきはず。


 しかし国王に問題があるのか国王の取り巻きに問題があるのか、それとも他に要因があるのか、誰もその事に言及しない。


 今はまだ大丈夫だろうけど、遅くとも数百年後にはこの街は無くなると思う。食料自給率がゼロに等しいのだから、今までならなかった事が奇蹟だ。


 お店番も終わり、この街の簡単な歴史書を見ただけでそんな事を思う。最近は子供達に色々教えるためにも、そういった本を購入したりもしている。


「直轄地故の存続。意味があるとは思えないよな……」


 呟きながらベッドの明かりを消す。以前はかなり安価な蝋燭だったのが、今ではランプになった。売れ行きが好調なので、住居部分の設備にも投資出来るようになったみたいだ。


 ナィニーの仕事部屋兼僕の部屋は、元々二人用なので一人だとかなり広く感じる。


 ただし子供達が夜泣きをしたりと、何かの際には僕がそれを担当する。当然睡眠は不安定になりがちだけど、給金的には断るような事じゃない。それに子供はやっぱり好きだ。夜泣き程度で嫌いになるのであれば、僕個人としては子供好きとは言わせない。まあ、それでお店番の仕事がかなり減っているけどね。


 なんだかんだで状況に流されているけど、仕事をしなきゃ生きていけないし、仕事に不満がないのであればそれで十分じゃないか。


 ハーフエルフだから年齢を重ねてもあまり老ける事はないらしいし、一般的にはハーフでも百五十歳近くまで生きる事が出来る。


 純粋なエルフ族に比べれば短いけど、まだ僕は十八歳であり人生始まったばかりと考えるべきだろう。


 そんな事を思いながら眠りについた。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「クラディ君、あなたにお客様よ」


「え、僕に?」


 ナィニーの仕事が一段落して休憩していると、ユリアさんから呼び出しがあった。


「それが変なのよねぇ……お役所の人が来ているの。何か知ってる?」


 お役所の人? つまりここを統治している代官の代理人とか?


「いえ、覚えはありませんが……」


「まあいいわ。お店の前で待ってもらっているから、早く行ってらっしゃい」


 そう言われて、多少はだけた上着を直すと、すぐにお店に向かう。


 お店の前では兵士二人と一人の黒い上下の服で、燕尾服に若干似ている。マントも羽織っており、内側は赤で外側は黒だ。どちらも人族のようだ。兵士は鎧を着ているけど、街中なのか軽装備だしヘルメットもない。


「お待たせしました。私がクラウディア・ベルナルです。どのようなご用件でしょうか?」


 一応普通の接客と同じ態度で対応する。少なくとも失礼な事にはならないはず。


「すまないね、呼び出したりして。君に聞きたい事があるので、少し時間をもらいたいのだが。言い遅れた。私はこの街の警備責任者をしているラウリエル・ファンガーソンだ。店主殿、彼を少しばかり借りても良いかな?」


「構いませんが、日が暮れる前には帰宅させて下さい。それでよろしいのなら」


 ファンガーソンさんは頷くと、両脇にいた兵士が近づいてくる。


「少し話を聞きたいだけだ。私の後に、彼らと共に付いて来て欲しい」


 どうも拒否権はみたいだ。まあ夕方までには帰る事が出来そうだし、兵士の方は長剣を帯刀している。逆らうのは馬鹿げているだろう。


「分かりました。ランダーソンさん、行ってまいります」


「ああ、気をつけてな」


 お店を後にしながらファンガーソンさんの後ろに付いて行く。二人の兵士の方は、僕の後ろを歩く形だ。なんだか連行されている気分になる。


 しばらく行くと、街の警備をする人たちの待機所に案内された。街の中にいくつかある、いわば交番みたいな物だ。


 中に案内されると、窓が一つだけあって中にテーブル一つと椅子が四つある部屋に案内された。特に飾り気も無いのでなんだか寂しい部屋だ。大きさは四畳もないような狭い空間。


「さて、そこに座ってくれ。飲み物はお茶で良いかな?」


「はい、構いません」


 すぐに一緒に来ていた兵士の一人が部屋を出て行く。もう一人はドアの側で直立不動だ。


「先ほど君の家族にも会って、話をしてきた。少しばかり質問に答えて欲しい。何、別に君を拘束や逮捕する事は無い」


 なんだか物騒な事になっているのは気のせい?


「ああ、警戒させてしまったかな? 安心して欲しいのだが、君を問い詰めるつもりもないし、事実確認をしたいだけなんだ。何より罪に問われるような事ではないが、確認はしておかなくてはならないのでな。今後の安全確認という意味もあるが」


「は、はぁ……」


 今後の安全確認? 何かしたっけ?


「まあ話を進めよう。君はここ数年……そうだね、二、三年ほどだが、この街の外で魔法を使った事があるかな? 魔法ではなく魔術や召喚術でもいいが」


 ここ二、三年……街の外には出ていないと思う。仕事をすることになって、街の外に移動する程暇じゃなかったし。そもそも街の外に用事はない。


「少なくとも最近は出ていません。十五歳になってからは多分出ていないと思います。両親に聞いて頂いていれば、すぐに分かることだと思うのですが、先に聞かれたんですよね?」


 養子とはいえ、僕の家族に変わりはない。今では大切な両親だ。


「成る程……まあ、君の両親にも一応聞いたが、働き始めてからの事はさすがにすぐには調べられない。あくまで形式的な質問と受け取って欲しい」


 言っている事と裏腹に、脅しているような気が……。それに僕の家族までってどういう事?


「何の事でしょうか? 街の警備隊の方にお世話になるような事はしていないと思うのですが」


 お店にしたってクレームはきちんと対処しているし、そもそも大事になるようなクレームがあったためしがないはず。勝手に通報されるならまだしも。


「街の外に広がる荒野を知っているな? 君の家から最も近い西側の荒野だ」


 確か魔法を昔練習していた所だ。でも別にこれといって問題になった事は無かったと思うけど?


「はい、知っています。もう三年以上前になると思いますけど、魔法の練習を定期的にしていました。正確にいつかはちょっと覚えていません。多分もっと前の事だと思いますけど」


 多分知っているのだろうから、嘘をついた所で何の意味もないだろう。


「最近になってあの荒野に開発の話が持ち上がっているのだが、その荒野にどうしても崩せない岩がある。ここまで言えば何の事か分かるかな?」


 昔魔法で作った物だと思う。どうやっても崩せない、頑丈さだけが売りの岩。


「はい。仰っているあれは、僕が作った物のはずです。魔法の失敗でですが。当時は人もいませんでしたし、問題ないかと思い放置していましたが」


「単刀直入に聞く。あれを破壊出来るか?」


「少なくとも僕の力では無理だと思います。邪魔になるかと思い、色々試したのですが、ほとんど傷を付けることも出来ませんでした」


 魔法が失敗したのは嘘だけど、壊せないのは本当だ。失敗して作ったのをこの人達が知っているかは別だけど。


「そうか……。今あの周辺の整備を行う調査をしているのだが、新しい街道を作るのにあれが正直邪魔になっているんだ。しかし、壊せないか……。分かった。まあ当時は特に何かをする予定もなかったし、君を問い詰めるのもおかしいな。何か別の方法を考えよう。それともう一点」


 そのタイミングでお茶が運ばれてきた。すぐに運ばれたけど、見張っている兵士は二人に増えた。


「おい、あれを出してくれ」


 ファンガーソンさんに言われて、お茶を用意しなかったもう一人の兵士が、布に包まれた何かを渡す。


「これを見たことは?」


 包みを解いた中には、この前不良品という事で返却したはずの謎の魔石があった。今でも虹色に輝いている。


「はい。知っています。お店の仲間がこれを検品した所で倒れて、僕が調査を行いました。そうしたらどうも僕の魔力がこの魔石に吸われたようで、そのまま倒れてしまいました。気がつくとベッドに運んでもらっていて、その日はお休みを頂きましたが、その魔石は送り主に返品されたと聞いています」


 なぜそんな物がここにあるのだろう? なんだか嫌な予感が……。


「これを返品された所から依頼があってね。一体何があったのかと我々の方へ調査依頼が来た。もちろん依頼主の事は答えられないが、普通魔石に魔力補充をするだけなら、単色の色がつくだけの筈だ。なぜこのようなことになったのか知りたいらしい」


「そう言われても、僕も困ります。最初にこれの調査をお願いした時は、淡い赤色になっていました。それを僕が引き継いでテストをしたら、そのまま倒れてしまったんです。こんな事になった理由までは分かりません」


 全部本当の事だ。調べればすぐに分かる事。


「これを最後に触ったのは君かな?」


「それは断言出来ません。僕が気がついた時には、これは箱に入れられていたので。触らないようにしていたとは聞いていますが……。お店の人に聞いて頂ければ分かると思います」


 なんだかどんどん怪しい雰囲気なんだけど……。


「そうか……分かった。時間を取らせてしまって悪かった。相手にはその通りに伝えておこう。もう一度念を押すが、君はこの魔石に魔力を供給しようとしただけなんだな?」


「はい、そうです。気絶中の事は分かりませんが、それ以外であれば僕以外は触れていないと思います。お店の人たちもそう言っていましたから」


「ありがとう。君への質問はこれで終了だ。先方からも何があったのか知りたいとだけだったのでな。ただ妙に疑っていたようだが、どうも彼らの勘違いだと思う。それでこれに魔力を供給した者を、単独で調べて欲しいとの依頼だったんだ。時間を取らせて済まなかった」


「いえ、その様な事であれば構いませんが……」


 どうも何か引っかかる……。でもここで答えは出そうにない。


「君をお店に送っていこう。協力感謝する。また何かあったら協力をお願いするかもしれないが、その時はよろしく頼む」


「分かりました」


 こうして僕は解放されたけど、なんだかモヤモヤが取れない。あとで変な事に巻き込まれなきゃいいけど……。

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