閑話 二十 それぞれが見たモノ
それは各地で見られ、そのいくつかは領主や王城に伝えられた。
それは多少の差異はあったとしても、基本的な所ではほぼ同一であった。
それを見た者達は、後に口を揃えてこういったという。
『クラウディアの光』と。
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そこそこ年配とも言われる歳となった彼は、バスクホルド子爵領からさほど離れていない隣接領地の小高い山に、数人で山菜採りに訪れていた。
そんな彼が何かを感じたのは、無理もない事だと思う。何せ、いきなり子爵領の方角が暗闇に包まれたのだから。しかもそれは徐々に広がりを見せていた。
彼は思わず手を止め、ただその様子を見る。何か良くない事が起きているとは思ったが、かといって恐怖を感じた訳でも無い。それに、それは自らには影響を及ぼさないと直感的に分かったという事もあるのだろう。
彼が住む領地では、理由こそ分からないが、領内の常備兵が動いたと聞いていた。もちろんその理由を知る由は無いし、そもそも単なる農民の端くれであった彼には、あまり興味など無かった事だ。
流石に一農民ともいえど、この土地を治める貴族が隣の貴族とよからぬ間柄にある事は耳にしていた。そして、集められた常備兵が子爵領に向かったとの噂も聞いている。それはきっと事実なのだろうが、彼にとってはどうでも良い事。日々の暮らしに影響がなければ、一農民には関係の無い話なのだ。
いや、むしろ日々の生活さえまともに送れるのであれば、領主の事はさほどどうでも良いといっても良いだろう。一農民が領主に会う事などまず無いのだし、そもそも領主の正確な名前でさえ知らないのだから。広い領地を持つ領主の元であれば、その様な事はごく自然なのだ。
異変に気が付いたほかの者も、彼と同じようにその方角を見る。そして誰もが息を飲んだ。いや、息を飲まざるを得なかった。そこから見えるだけなのに、その黒い何かは一切の生気を含んでいないと感じたからだ。なのに、彼らは自分たちが安全だと直感的に分かった。理由など分からない。直感だからだ。
それでも彼らは身の危険をどこかに感じ、急ぎ山を下りるのだった。
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旧バーレ王国のキブリール峠は、バスクホルド子爵領からおおよそ五百K直線距離で離れている。実際に行くにはいくつもの山や峠を迂回するので、その四倍近い距離となる山岳地帯にあるが、それ故自然の恵みに溢れている。
峠の両側は当然山になっているが、その山々には貴重な野草、キノコなどが採れる事でも有名だ。いくつかの種類は、魔法薬の原料となる物もあるので、凶悪な魔物も出る事で有名ではあるが、それを差し引いても利益を得るため採取に訪れる者は多い。
そんな中、一頭の魔物と戦っていた冒険者の集団が奇妙な光景を目にする事になる。それまで戦っていた魔物が急に動きを止めたかと思うと、我先に一方向へ向けて駆けだしたのだ。しかも途中にいた人……それが全く武装していない人であったとしても、襲う素振りも無い。採取にいそしんでいた人々も、これは何事かと首を傾げるばかりだ。
そんな中の一人が、遠くの空に垂直に伸びる黒い物を見た。何事かとそれを見るが、まるで見当が付かない。そして同じように周囲の人々も同じ物を目撃する事になるが、それが何なのか分かる者は誰一人としていなかった。
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エストニアムア王国の王都であるエストニアムアでは、多くの人が黒く空にそびえる何かを目撃した。それはすぐに国王であるマヌ・ヘンリッキ・ラッシ・エストニアムア二世にも知らせが行き、国王もそれを目にする事になる。
それが何なのか知るのは、後にバスクホルド子爵家からの使者が来るまでは、結局誰も分からぬ事だった。
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「結局、どう説明すれば良いの?」
エリーが頭を抱えるようにしながら、僕に説明を求めてくる。
既に午後もだいぶ回っているので、王都に向かった魔動飛行船は到着し報告が終わっているはず。
「僕だって分からないのに、どう説明を? あった事をそのまま言うしかないと思うよ」
「それが説明出来そうも無いから困っているのよ」
エリーは深く溜息をつくと、手元のメモを再度見る。報告書を書くための下書きだ。
「とりあえず僕も立ち会うし、正直に言うしかないって。それに、魔法を使ったのは僕なんだからね」
確かに問題は色々あると思うのだけど、ここまでなったら対処療法しかないと思うんだよね。
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