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第百六一話 クラディの思いと、現実は小説より……

「エリーはとにかく撃てって言っていたけど、そんなので本当に良いのかな?」


 ひたすら魔法を放ちながら、同行している護衛のユリアナ・ノケライネンさんに聞いてみる。敵の方に見えるのは稲光や閃光、曳光弾みたいにこちらから飛んでいく魔法の残滓。普通に見ていれば魔法と言うより嵐だと思う。


「双眼鏡で確認しておりますが、敵は大混乱しておりますし、かなりの被害が出ているのは間違いないですね。今は魔法に集中して下さい」


 集中と言われても、僕からすると片手間って感じなんだよね。でなきゃ話しかけるなんて事しないし。


 それに僕は魔法を放っているので、なかなか魔法を放った先がどうなっているのか確認出来ない。一応雷とかで一瞬明るくなったりもするけど、断続的だったりするし同じ場所に繰り返しとはならないので、当然何となくしか見えないから。


 ノケライネンさん達も敵からの攻撃が全く来なくて、最初の一時間ほどは一応盾で僕の前を固めていたんだけど、今はとりあえず前に盾を置いているだけって感じ。ちゃんと盾は構えているから大丈夫とは思うけど、ちょっと拍子抜けって感じが拭えない。


「ところで、いつまで続けたら良いのかな? かなりの範囲を巻き込んでいるはずだから、相当な被害が出ているはずだけど……」


 エリーの魔法と違い、僕の魔法はいわば天候を操っている感じ。なのでそれなりの威力で放っただけで影響する範囲はかなり大きくなる。竜巻が子供に思えるような嵐が、最低でも百(メントル)の周囲を襲う訳だから、多分三~四百Mは確実にかなりの被害が出るはずだ。


「エリーナ様と合流出来るまでですね。クラウディア様は十分とお思いでしょうが、敵の数は万を超えます。やり過ぎなどという事はないと思われます。むしろ、クラウディア様には全力で事に当たって頂きたいと伺っておりますが?」


 は?


「そんな事、エリーは言っていたっけ?」


 聞いていない気がするんだけど……。


「先の会議で、エリーナ様がご命令になられたではありませんか……聞いていなかったのですか?」


 うっ……ちょっと考え事はしていたけど……。


「可能であれば、出来るだけ殲滅との言葉でしたよ。これだけの魔法は我々が束になっても実現不可能どころか、そもそもどの様に行っているのか分かりかねますが、もしやまだ余力があるのですか?」


 言えない……間違っても言えない。片手間で魔法を放っているだなんて……。


 そういえば遺跡探索が終わって帰ってから、何だか魔力も伸びた気がするんだよね。もしかして前よりも威力が増している?


「それじゃあ、遠慮なしで魔法を放っても構わないのかな……」


「ええ、一向に構いません。むしろお願いします」


 正直、呟いただけのつもりだったんだけど、しっかりと聞かれたらしい。


「そう……か。ところで、敵対している彼らとは話し合いの余地は無いのかな? ここまでされている事を分かっていて一応聞くんだけど」


「ありません。そもそもこれは国王陛下から内々にと言われていた事ではありますが、子爵家と敵対するのであれば、その勢力がどの様な被害を被っても、王家および国は感知しないとの事です」


 え? つまり、どういう事?


「簡単に言えば、彼らがいくら死のうと、王国としては構わないとのお達しです。そもそも以前から反王家の疑いすらあった勢力ですから」


 そんな勢力だったのか……。でも、それならこっちも覚悟が出来たかな。色々と鬱憤が溜まっていたのも事実なんだよね。


 流石に僕だって色々思う事はある。


 実の両親に捨てられたのは確かにショックだったけど、アレはアレで何か訳ありだったのだと思う。それよりも引き取られた先での生活は良かったのに、訳も分からず拉致され、気が付いたら千四百年経過して知り合いは当然いない。その直後の事など考えたくも無いし、そこから救い出されたと思ったら、また面倒事に巻き込まれた。逃げるように後にして、次の国に着いたら百年ほど何故か経過しているという訳の分からない状況だし、結局無理矢理戦争に巻き込まれた。その後にやっと平穏とも思える生活が待っているかと思えば、結局はこんな事になる。周囲の人は分かっていないのかもしれないけど、僕だってもう限界だ。エリーは僕よりも早くキレたみたいだけどね。誰にだって我慢の限界はある。


「じゃあ、目の前にある罠を無駄にしてもいいかな? もちろんそれでもお釣りが来るはずの成果は出すつもりだけど」


「構わないかと。エリーナ様も、相手の被害が上回るのであれば、罠はどうなっても構わないと言っておられました」


 そもそも罠の効果も見込めないんだよね。相手が罠の存在を知っているのだから。だったらいい加減、覚悟を決めるか。


「とは言え、この攻撃を止めるつもりも無いし、僕の魔力を注ぎ込むって言っても限界があると思うんだよね。そもそも限界まで魔力を込めた事なんてないんだから。だから大規模魔法を連発する。どうなっても知らないから」


 話を一旦止めて相手の方を見る。相変わらず夜中に嵐という形で、一応稲光は無数に見えるけど、視界はかなり悪い。それでも頭に前に見た地図を思い浮かべながら、魔法の範囲をおおよそ想定する。


 流石に事実上降伏してきた最初の人達を巻き込むつもりは無い。後でそれなりの罰はあるだろうけど、それは王国がエリーを通して何かするだろう。僕も立ち会う事になるかもしれないけど、今はどうでも良い事だ。


 どうせここに攻め込んでくる状態で、途中にあった畑とかはダメになっているはず。だったら更地に戻してやり直した方が早い。なら、僕は遠慮する必要も無い。好きなように魔法を行使する。でも、せっかくだからちゃんと威力向上を期待して呪文を唱えよう。


「オゥラ マギスカ ミョウ カピド パネナ ミョウ オゥラ エスポ ドーム ド ドーム ムゥ セコゥドゥ ルゥーム アバヌス……」


「そ、それは……」


 護衛の人が何か言いたげだけど、僕の知った事じゃない。


「……ヴェラムド イヌミートゥ ムゥ ド アバヌス マギスカ ミョウ ミョウ オゥラ パネナ アバヌス ヴェラムド ナグハムール テーナ ヌーガ エスポ ド ドーム」


 詠唱が終わった瞬間、目の前に広がる風景が一変する。突然真っ暗になり、何も見えない。まるで深淵がこの世に現れ、呑み込んだかのような状態。そこに命は全く感じない。そして数秒経過すると、周囲からまるで悲鳴のような音が鳴り響いた。でもそれは人の声とは思えない。人以外の何かの叫び。命を『喰う』叫びのように聞こえる。


 僕は、その間も発動した魔法に魔力を注ぎ続ける。闇が明らかに広がるのが感覚で分かる。全てを呑み込む闇が、世界を侵食していく。魔法は僕の想いに応えてくれる。


 体から少しずつ魔力が減っていく感覚がする。それは全体から見れば僅かだと思うけど、確実に減っていく感覚は確か。そして魔力を糧にし、あらゆる物を呑み込む。


 最初に悲鳴のようなものが聞こえていた場所から、今度は轟音が鳴り響く。地響き、洪水、津波、暴風、その他あらゆる音とは違う、でも破壊を示す音。全てを喰い尽くし、呑み込むような音。それはもはや音とは呼べないような音。


 音にかき消されているけど、護衛の人が何か叫んでいる。でも、僕には関係ない。後は僕の魔力が続くまで見守るだけだ。やるべき事をした。僕はそれだけ。


 突然暗闇の空が虹色に輝き出す。それは僕が生み出した恐怖。この恐怖からは逃れられない。逃すつもりも無い。逃すはずも無い。全てを呑み込ませる。


 地上の轟音が大きくなりながら、魔法を発動した場所に向かって何かが集まる。それは僕の意思。全てを呑み込む意思。そして音が突然消えた。


 音が消えた世界。護衛の人達は何事かと魔法を放った先を見ようとする。でもそこには光が溢れているだけ。光以外は何も見えない。ただ、白く染まっているだけ。それ以外の色はない。その白が黒を呑み込む。まるで深淵から這い出た何かが、喰らい付くように呑み込む。光が周囲に溢れるのに時間はかからない。


 そして、全ては止まった。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


今回はあえてわざと『多重表現・表記』を多く入れているつもりです。

また、表現を過剰にするために、可笑しいと思われるような表記も使っています。

その点ご理解の程、よろしくお願いします。


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。評価、ブックマーク、感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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