第百五九話 そんな事言われたって、今さらだよ
2016/07/30 0:30 誤字修正を行いました
広範囲かつ攻めて敵の動きを⇒広範囲かつせめて敵の動きを
最初の防衛戦が一段落して、早速戦果の確認やら何やらで、僕を含めて主要な人達で会議というか戦果報告というか、こういうのってなんて言うんだろうね? 軍議とはちょっと違うと思うし、ましてや軍法会議じゃ無いはず。
「まずは初戦の快勝にありがとうを言わせて頂きます」
そう言うと、エリーは深々とお辞儀をする。この世界でもお辞儀はそれなりに使われていて、前世の日本ほどじゃないにしても、欧米などよりは目にする気がする。数回だけ前世でもアメリカに行った事はあるからね。
「では、私が引き継いでこの場を仕切らさせて頂きます。まずは敵の情勢から」
実質的な軍事行動の責任者はペララさんだし、そこは完全に分離しているみたいだ。
「報告します。こちらで遠方から確認した限り、敵兵力の八割は無効化したと考えられます。その内の七割は死亡したものと推定されます。また生存していても重傷者が多いようで、現状確認する限りにおいて作戦行動が取れるとは考えられません。また敵後方にあった指揮官がいたと思われる場所は、完全に壊滅している模様です。生存は絶望的と思われます。今のところ撤退はしておりませんが、そもそも撤退を指揮出来る者がいるかどうかも怪しい所です。また、こちらにある程度近づいてから、数度矢文を届けようとした様子がありますが、距離が離れているため今のところ内容は確認出来ません。戦闘の意思は無いものと推定出来ます」
僕らがいるテントには、指揮官クラスの人が集まっている訳だけども、その数もかなりの人数だ。ざっと見渡すだけで二十人は超える。他に差し入れのお茶を届ける人や、連絡員を待っている兵士なども数名いたりして、全部だと四十人は超えるんじゃないかと思う。
「向こうからは罠を越えて、さらに堀と壁を越えるのだから、届かないだろうな。何かこちらに伝えたい事があるのであれば……そうだな、こちらからの矢文なら届くはずだ。そこに狼煙を上げるように伝えろ。狼煙の色と回数で最低限の事は分かるはずだ。後でその手紙は用意させる」
すぐにペララさんが後ろにいた兵士を呼ぶと、いくつか伝えて兵士が持ち場を離れる。同時に他の兵士が同じ場所に入れ替わりで待機する。
「基本的にはこちらの大勝利と言えます。ですが、今後の課題がない訳でもありません。むしろ、今後の事を考えた際には……」
報告してくる兵士がそう言うと、一斉に全員が僕の方を向く。まあ、アレだよね。大砲の事。
「色々言いたい事はあると思うけど、そもそもちゃんとしたテストもしていなかったんだし、残った罠を出来るだけ壊さないという方法でって言われたから、アレを使ったんだからね? そんなふうに見られても困るんだけど」
とは言え、みんなが色々言いたい事があるというのは仕方がないと思っている。
そもそも試作一号機はまだマシだったみたいだけど、それだって砲塔の左右に付けた測距儀は事実上役に立たなかった。何度か砲撃をするうちに、中のレンズがズレてまともに見る事が出来なかったからね。他の砲塔に関していえば、そもそもまともにレンズとして機能していなかったらしい。
メガネはこの世界にもちゃんとあるので、その技術の応用って事でレンズを作ってもらったんだけど、やっぱりメガネのサイズと砲塔に使うレンズのサイズでは違いがありすぎたんだと思う。そもそも今回用意したレンズの大きさは大きな物で直径が十Cで、それ以外にも数枚組み合わせている。試作した砲塔で距離を測った時に、レンズの位置からおおよその位置を割り出して、着弾点までの距離表を作ったんだけど、そもそもレンズがレンズとして機能しなかったので、無駄だったみたいだ。
まあ、大型レンズが作れないためか、この世界では天体望遠鏡もまだまだ発達段階みたいだし。何よりレンズを二枚だけ用いた単眼鏡の方が一般的だから、複数のレンズとか、二点の距離交差からの位置割り出しなんて、そもそも無理がありすぎたんだと思う。
それに飛行船で地上を観測する時に、記録装置にはレンズを組み込んでいない。保護用のガラスはあるけど、二枚以上のレンズを使った望遠鏡ですら満足にないのだから、あの時は撮影する事を何よりも優先したんだよね。
でも今回は半分趣味だったし、なにより『格好良さそう』だから、砲塔に測距儀を付けたんだけど、結局意味がなかった訳だ。
「威力は申し分ないどころか、むしろあれだけの威力があれば、防衛戦には好都合です。しかしながら、組み立てに時間がかかりすぎます」
実際に組み立てを行っていたドワーフ族の一人がいうけど、正直仕方がない。
「そもそも、何故あれほど重いのですか? 確かに直接狙われても防御出来る壁があるのはよい事ですが、その為のあの金属板が重すぎます!」
「そう言われても。連装砲の方が……」
「格好良さそうだった?」
突然エリーが会話に割り込んできた。そしてそれが当たっているのが悔しい。
「クラディは前世の知識があるから、どうしてもかっこよさとかも追求しちゃうのよね? 気持ちは分からない訳じゃ無いけど、そのせいで全体の重量が重くなっているんじゃないの?」
「そ、それは……」
山岳にしても川からにしても、重量のある攻撃兵器を運んでくるのは無理だと分かっている。それでも敵に組み立て式の投石機なんかがあったら、それ相応の防御をしないといけないと思うし、ミスリルオリハルコン複合金属も大量に生産出来る設備はない。だからその後ろ側に鉄板を使っていたりするんだしね。
「そもそも前提がおかしいのよ。ここに来るまでに投石機を持って来るというのは、話としては分かるわ。でも、この辺に投石機で打ち出せるほどの石なんて、最初の開発の時に取り除いているじゃない。遠くから持ち運ぶなんて、それこそ論外よ」
確かに山越えや川を渡ってくるのに、超重量のある石を運んでくるのはおかしな話だ。ただ、そうは言われても、使う人の安全が第一だし、ミスリルオリハルコン複合金属の厚さだと、普通の矢ならともかく、魔法で強化された矢なら貫通する事もある。
「テストの時に矢が貫通したって言っていたわね? 私も確認したけど、二十Mの距離から魔法で加速強化して放って、やっとなんでしょ? ここにある堀と壁もそうだけど、その手前にある罠を抜けないと、そんな事は無理なのよ? それに聞いた話だと、その手の強化魔法が得意な人に手伝ってもらったって話よね。そんな人が大量にいる訳じゃないのよ?」
「そ、それは……」
「話の途中で失礼しますが、そもそも正面の装甲はある程度理解出来ます。ですが側面まであれほど強固にする理由が分かりかねます。現状、あの大砲の側面を攻撃する方法は、敵には難しいと思われます。それに側面だけではなく、上も完全に覆っているので、熱が籠もりやすく熱くて仕方ありません。実際に熱で倒れた者も数名います。命に別状はありませんでしたが、敵の攻撃では一名も被害が出ていないのにもかかわらず、大砲の扱いで負傷者が出るのは容認しかねます」
途中で割り込むように、大砲を扱っていた人の一人が言ってくる。どうやら熱中症で倒れた人がいたらしい。
「そもそもですが、狭い中で二つの砲身に砲弾を装填するのは、誰もなれていないので危険です。砲弾を詰めて砲尾にある魔方陣が起動しない限り、使用している魔石が暴発しないなどは、確かに安全性が確保されています。しかし砲弾と魔石が一体化しているとはいえ、砲弾一つの重さが十リアモを越える重量は、装填手にとって負担が大きく、もう少し軽くしてほしいとの要望が上がっております」
「そんな事を言われても、あれ以上軽くすると逆に危ないよ? それに徹甲弾はある程度重さが無いと貫通出来ないし、炸裂弾だって中身の問題なんだから、あれ以上軽くするのは無理だって」
「それなら、せめて砲弾を持ち上げる事無く装填出来るようにしてほしいのですが」
「アレは試作で作ったんだし、ある意味急増で数を増やしたんだから、そんな事を言われても……」
流石に自動装填装置なんて物はないし、砲弾は砲尾にあるレールから装填する。そのレールに毎回砲弾を置いて装填する訳だけど、普段重い装備で身を固めた騎士までもが重いと言っても、僕だってそこまで責任は持てない。
「最初は装填用のレールだって付けていなかったんだから、そこはまだ我慢してほしいな。それにさっきも言ったけど、砲弾はあれ以上軽く出来ないから」
そもそも砲弾を発射するのに魔石を使用しているけど、その魔石ごと砲身から打ち出しているので、薬莢形式じゃ無い。魔石の重さはほんの僅かで、ほとんどは砲弾の重さだけど、試作した大砲は攻城戦でも使用出来るようにしているのだから、今さら色々言われても困る。大体この大砲は趣味で作ったんだし……って、これはちゃんと伝えたはず。
前世の大砲の場合、砲尾はしっかりとした構造が要求されるはずなんだけど、魔石を装薬代わりに使用して、その発動に魔方陣を使用したら、反動が恐ろしく軽くなった。砲尾も蓋を閉めて砲尾と蓋を繋ぐ鉄の棒を差し込むだけで、十分に機能する。これが前世のように装薬を使っていたら、間違いなく死者が出たはず。
他にも想像より反動が少なくて、最初は五Mのレールに砲身を載せ、砲身を複数の大型のバネでさらに支える事で反動を吸収する仕組みを作った。確か前世だと油圧やガス圧を使っているって聞いた事があったけど、ガスをしっかりと溜めるシリンダーが作れなかったし、油圧に使う油がそもそも十分に確保出来ないので、どちらも諦めた形だ。確かこういった反動を抑えるのって、後退機とか駐退機って言うと思ったけど、何が正しかったっけ?
実際にレールの上を動いている長さを測ったら、最も威力が高い状態でも精々五十C、想定している一般的な使用する魔石では、二十Cくらいだと分かった。ただそれでも、何か事故があっては困るからと、設置する時には頑丈な土台を設置して、回転式砲塔だから周囲に円形の溝を掘ってもらう事になったんだけど、どうやらそれが不満の一つになっているらしい。
「あの土台もかなりの重さですし、事前に周囲を掘っておくのが体力を消耗させます。あれなら中心だけ回転出来るように垂直の穴を一つ掘れば十分なはずです」
そこまで考えが及ばなかったな。言われると問題点が結構多い。
「そもそも、全体として重量がありすぎるのです。それに大砲は一つの砲塔ですか? アレに一つあれば十分です。砲身も重いので設置に時間がかかりますし、正直正面にさえ防御のための装甲があれば十分だと思われます。あれだけの威力がある大砲ですから、早々は近くに接近出来るとは思えません」
なんだか散々な言われようだけど、実際に使った人の意見は無碍に出来ない。
「だ、そうよ。クラディ。私としては多少罠が無駄になっても、高威力の魔法を使った方が楽だったと思うのだけど、その辺はどう考えているの? 毎回大砲を設置するのは無駄が多いと思うわ」
「そんな、趣味で作った物に量産を指示しておいて、やっぱり魔法が良いってのはちょっとどうかと思うんだけど……」
エリーが睨んでいるので、言葉尻が小さくなる。結構怒っているみたいだ。
「ただ、それでもあの威力と魔石、魔方陣があれば魔力が無くても攻撃出来るのは魅力ね。クラディは砲身が一つで、正面の装甲だけで済む物を新しく造って欲しいわ。どちらにしても今回は間に合わないけど。それと簡単に移動出来るように考えて。魔動装甲車を作れたんだし、それに付けるなり引っ張らせるなりで、作れるわよね?」
「引っ張らせるだけなら、そんなに難しくは無いと思う。それに正面だけ守るようにするなら、材料も節約出来るからね。でも、今回は間に合わないと思うよ? まあ、側面装甲は取り付けなければ良いだけだから、それは任せるけど」
敵が数日の距離に近づいているのに、今から改造なんて間に合うはずがない。精々必要ないものを取り付けないようにするだけが精一杯。
「それから、あの銃ですが、今回は全く使用しませんでしたが、本当に使えるのでしょうか?」
別の騎士が質問してきた。この領地に移ってから騎士として雇っている一人だ。
「一応テストはしたから大丈夫なはず。まだ時間があるなら、空いている場所で数発なら練習するのが良いかも。ただ、そんなに弾を量産できたわけじゃないから、無駄遣いは止めて欲しいかな」
ライフル銃タイプで百発程度、機関銃タイプで千発程度の弾丸は用意しているけど、実際の戦闘が始まったらあっという間になくなると思う。そうしたら魔法で迎え撃つしかない。弓に使用する矢は、それよりもはるかに数が少ないから。
「ああ、それなんだけど、使えない事が分かったらすぐに魔法による攻撃に切り替えるわ。みんなもそのつもりでね」
エリーはそれが当然とでも言うように宣言。まあ、そんなに信用されていないのかもね。それにこの世界だと魔法による攻撃が普通なんだし。
ただ魔法による攻撃だって限界がある。僕やエリーは別にしても、普通の人達の魔力は長時間戦闘出来るほど高くはない。魔力回復の薬とかもあるらしいんだけど、僕らはそれを使うどころか見た事もないし。そもそも魔力切れするような事がまず僕ら二人はあり得ないからね。
「山岳から向かってくるのは大規模な部隊よ。クラディはどの属性でも構わないから、広範囲かつせめて敵の動きを止める事を優先に行動して。これは命令よ。最後の砦は私になるのだから。ちなみに私は遠慮なんかするつもりはないわ。広範囲の魔法で一気に焼き尽くすつもりだから。その点は理解して、クラディも行動してね」
つまりエリーは高威力の魔法で、一気に敵を殲滅しろと言っている訳だ。まあ、こんな状況になったら仕方がないんだけどね。
「その辺は……僕が躊躇してたらエリーが発破をかけてよ。正直どこまでやれるのか、僕自身分からないから」
前世でテレビの前で見ていた戦争とは違う。これは現実で、負けたら僕らは殺される。でもその実感がまだいまいち。
確か王国には正規の王国軍があったと思うけど、そっちは何をしているんだろう?
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「それで援軍を出す予定が立たないと?」
軍務卿のヨウシア・ニコ・リーッカネン伯爵が部下を睨んでいる。
「首都の防衛に、反乱貴族の取り締まりと、王都の治安維持を行うとなると、現状ではそれでも足りないのです。流石にこのような事は冒険者ギルドなどに任せる訳にはまいりませんので」
「それは理解しているが……もう少し何とかならないのか? バスクホルド子爵領へ、何としても援軍を出すように陛下からも言われているのだ」
報告に来ていた部下が首を左右に振る。
「予定よりも反乱貴族分子の抵抗があるようなのです。卿さえよろしければ、近衛を援軍として出して頂きたく……」
「そこまでか……」
「武装は大した事はないのです。問題はその数です。しかも分散しておりますので、少しでも数がほしい所であります」
「分かった。私の方から陛下に近衛兵の使用許可が得られるか聞いておく。とにかくだ。その間に一刻も早く反乱分子を取り締まってくれ」
王とバスクホルド伯爵に、この後どう説明すべきかと思うと、リーッカネン伯爵は胃が痛くなる思いだ。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
ブックマーク等感謝です!
本当は大砲や銃の解説図を載せたかったんですけど……、これ以上時間が空くのはorz
最低限は大砲についてなど解説文を載せたつもりなので、
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