第百五八話 第一次砦防衛戦
2016/07/26 11:13 装甲の記述を一部変更しました
そもそも武器って言うけど、その種類は様々だ。
江戸時代くらいまでなら原則として単発式の火縄銃――確かヨーロッパではマスケット銃の延長線になるのかな? それと刀や槍、弓などが主力武器。一応大砲もあったみたいだけど、性能的にはまだまだだったはず。
ヨーロッパは確か大砲がそれなりに発達していたと思うし、連発式の銃も開発されていったけど、それにしたって大きく兵器が変わったのは第一次世界大戦だと思う。それから第二次世界大戦を経て、強力な武器が次々と開発されていった。
この世界はと言うと、魔法という物があるので一概に比較出来ないにしても、それ以外は江戸時代末期とさほど変わらない感じだと思う。まあ、バリスタとか弓系統の武器はヨーロッパで発達した物が色々あるけど、中、遠距離攻撃となると魔法が一番脅威だ。
ただ僕とエリーが産まれた時代と大きく違うのは、魔法の威力が全体的にかなり低い事。実際に飛距離が弓よりも劣る魔法攻撃の方が多い始末だし。でも、こればかりは魔力災害とかの影響があったのだし、仕方がないと思う。
なので魔力災害の影響をほとんど受けていないどころか、むしろ魔力が昔より上がっている僕とエリーは、それだけで戦略兵器と言っても過言で無いし、イロやベティも以前よりそれなりに魔力が上がっているそうだ。多分遺跡発掘に同行した人は、他の人よりも魔力が高くなっている可能性がある。
そんな僕らだけど、エリーはやっぱり貴族当主としての教育が優先だったみたいで、僕ほど自由には動けなかったらしい。まあ、それで今は軍の指揮も一応執れるようになっているみたいだけど、その辺はペララさんのサポートがまだまだ必要みたいだし。
それに比べて僕はかなり自由に行動していた。多分どこかに不安と思う事があったんだと思う。それはきっと前世の知識が影響しているし、他にもこの世界であった事が間違いなく影響しているはず。
でも、後には引けない。
既に用意している武器は、次々と最前線となるはずの最初の防護壁に運ばれている。
最初に運び出してもらったのは、試作三十口径一五C連装砲。徹甲弾のつもりで作った砲弾と、着弾炸裂弾の二種類が使用出来る砲で、旋回砲塔にもなっているから取り回しが良いはず。砲弾は火薬ではなくて火属性の魔石を使用して発射する。仰角はマイナス十度から九十度まで。射程は五百Mから十Kまでをカバー出来て、それは使用する火属性の魔石と仰角を調整する事が前提。多分今回は炸裂弾が多く使用される事になると思う。でも、徹甲弾は使う事があるのかな? 強固な装甲を撃ち抜くのが徹甲弾だったはずだけど、そんな強固な装甲なんて無い気がする。ただ相手が障壁系統の魔法を使っている場合には有効になるかもしれないけど。
砲塔は後ろ以外は一応ミスリル装甲で覆われているので、少なくとも矢などでは貫通出来ないはず。砲身は専用に試作した十五―二二―三〇五ミスリルオリハルコン複合金属。
ミスリルとオリハルコンが主体の金属だけど、それ以外にも数十種類の金属などを使用している。色々と試作した結果、大型砲にはこの金属をメインに使うと使い勝手が良い事が分かった。数字はあくまで組み合わせ回数なので、数字から配合比を導く事は出来ない。それに配合比はまだ誰にも伝えていないから、今のところは僕以外には作る事ができない。
本当なら絶対に貫通出来ないくらいの厚さにしたかったんだけど、用意出来たミスリルオリハルコン複合金属があまり無かったので、重要な部分のみの厚さがおおよそ五ミリ程度、他は一ミリ程度の厚さしかない。試しに普通の矢でテストはして貫通しない事はテスト済みだけど、魔法で強化されると薄い部分で貫通される事が分かった。なのでさらに鉄板を一C追加して、その裏にはさらに木の板を張り付けている。あまり鉄板が厚すぎると、現地で組み立てる事が出来ない重量になるから。
参考に思いついたのは、前世で使用された日本の巡洋艦クラスの砲塔。本当は三連装にしたかったんだけど、この砲塔も組み立て式だし輸送を考えると連装砲が限度だった。単装砲も考えたんだけど、その場合だと砲塔部分を無駄に多く作らないといけないから却下。
それと同じように搬出されているのが、一Cの弾丸を使用するライフル銃と機関銃。これは弾丸の後ろに直接風属性の魔石を貼り付けていて、雷管に相当する部分に魔方陣を組み込み、そこを叩く事で発砲。風属性なので火属性よりも比較的安全に運用出来る。射程距離は最大二Kで、有効射程はおおよそ一Kくらい。ライフル銃は個人携行型で、機関銃は据え置きになる。ライフル銃には一つの弾倉で二十発装填でき、機関銃はベルトタイプを考えたんだけど開発が間に合わず、ライフル銃の弾倉を改良した物で最大二百発装填可能。どちらも単発、オートどちらでも使用できる。
こっちも本当は前世の自衛隊などで使われている、確か五ミリだか六ミリ弱くらいの弾丸を参考にしたんだけど、この世界の最小単位がCで、その下の単位を表すのに小数点が一般的でなかったから、仕方なしに一Cの弾丸にした。まあ、薬莢部分が小さな魔石で済んだので弾の長さを一Cにする事で小型化したんだけどね。バネも既に発明されていたし、それらを組み込む事で十分使用に耐える事は確認済み。
その他にも破片をまき散らす手榴弾だってかなり作った。こっちは前世で見た映画の形をヒントにして、持ち手部分がしっかりあるタイプ。それと俗に言う所のバリスタで最大二十Mまでなら射程がある。何とか堀の外までなら届くくらいだけど、手で投げるよりは役に立つはず。もう少し飛距離がほしいけど、即席で作った物だから仕方がない。これも住民の協力で運び出してもらっている。
もちろん協力してもらっている住民は、エリーが招集をかけた人達。結局僕なんかよりも、この状況を良く分かっているんだと思う。それもあってか、女性や子供達まで手伝ってくれているくらいだ。
「エリーナ様からの伝言です。山岳方面からの軍が侵攻を始めたそうです。こちらへの到着まで二日の距離だそうです。予想通り北側から進軍しているとの事でした」
手榴弾を受け取りに来た女性が教えてくれた。お礼を言って、残っている手榴弾を運び出していく。
「僕に出来る事……か。変に前世の知識があるから、きっと躊躇しちゃうんだよね」
独り言を呟きながら、開いている木箱に弾倉を詰めていく。すでに弓に使う矢などは、全て運び出した。弾丸などが最後なのは、弾の底にある魔石を確認していたから。撃鉄にある魔方陣が魔石を刺激して、魔法が発動し、弾が発射される。最初は弾の方に魔方陣を描いていたけど、こっちの方でも威力が変わらずに同じ効果が出る事が分かったからだ。
躊躇しちゃうなんて独り言を呟きながら、実際には人殺しの道具を準備している。矛盾しているのは分かっていても、それが悪い事とも思わない。この辺がこの世界に慣れたって事なんだと思う。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あまり統制は取れていないわね……」
エリーの指摘通り、朝には見え始めた敵の部隊だけど、それがきちんと隊列のような物を構成したのは昼も過ぎてから。こっちはいつ襲ってくるか分からないので警戒しながらだったんだけど、こんな事なら昼からにすればと思ってしまう。
「それで、偵察の魔動飛行船は出発したの?」
「先ほど、出港したとの連絡がありました」
フリーデコードさんが、すぐさま返答する。僕は点検を行ったけど、少なくとも魔動エンジンには問題がなかったし、それを動かす色々な仕組みも問題は無かった。
「ありがとう。それでクラディ、あの武器は大砲なのよね?」
昨日の夜から急いで設置された、小型の砲をエリーが指さして聞いてきたので、素直にその通りと答える。使い方とかはペララさんなどに既に伝わっているはず。
「一つの砲台に四名を付けております。一人が目標の監視で、一人が射手。一人が砲弾を砲に装填する係で、最後の一人が砲弾を近くに運ぶのと、砲塔の旋回を行います。砲弾は五発までなら装弾機に置けるので、その間に装填手が補充を行えば、砲弾を常に運び入れる必要はありませんので」
流石に装填は手動だけど、装弾機に置いておけば装填そのものは難しくない。それに射手は引き金を引くだけだし、実質的に三人は町の人がその役を担っている。目標の監視は砲の斜角なども指示するので、そこだけは騎士や兵士が行う事になった。
「残りの銃と機銃手には騎士や兵士を配備しました。機銃には必ず一人の予備弾薬を持たせる者を付けております。こちらも住民からの立候補となります。また銃五丁に付き一人の町の人間が、弾の補充のために近くで待機しております」
ペララさんが現状の説明を滞りなく行っている。銃などが行き渡らなかった騎士や兵士は今のところ弓を使う予定。弓の練度はさほど高くないみたいだけど、こっちは集団の中にとにかく放てばよいので、さほど急所を狙うなどの事はする必要が無い。むしろそんな事をするよりも、数を撃った方が効果的だと思う。
「それにしても、最初の偵察の時もそうでしたが、こちらへの降伏勧告なども無いようですね。普通は使者を立て、降伏などを最初に要求した後に戦闘へと移行するのですが……」
周囲を見渡すペララさんは、この国というか、この世界での一般的な戦争の方法を教えてくれた。前世でいう所の宣戦布告みたいな物なのかな? とにかくすぐに戦闘とはならないらしいのだけど、今回はその使者が現れる様子が無い。
「それにしても、あんな方法で罠を突破するなんてね……」
エリーが歯ぎしりしながら言うけど、確かに僕としても予想外な方法で罠を突破してきた。多分どこかで捕らえた人だと思うし、それはつまりここの住民の一人のはずなんだけど、その人を馬に文字通り縄で括り付けて、そのまま罠の中に馬ごと突入される。当然罠は発動してしまって、残った場所は安全な所だ。それを夜のうちに繰り返したらしく、防壁手前の堀手前近くにまで接近していた。それでも直進出来る範囲はかなり限られていたみたいで、隊列は長くなっているし、堀に近い罠のいくつかはまだ健在。
「どちらにしても、彼らは私達を生かすつもりなど無いという事よ。彼らが連れてきた捕虜の扱いを見れば、尚更ね」
エリーの指摘に沈黙が訪れる。
「それで、エリーナ様。何か解決策は?」
エリーが顎に手を当てて何かを思いついたのか、僕の方を見る。
「クラディ。悪いけどあなたの作った武器を使うわよ」
そう言いつつ、エリーに悪びれた素振りはまるで無い。
「そんな予感はしたけど、何を使わせるつもり?」
何となく予想はしているんだけど、それでもエリーから直接聞きたい。
「あの大砲ほどは威力が無いのでしょうけど、それでもあの小型の砲なら十分よね?」
確かにアレを使えば、敵の射程外から一方的に攻撃が出来る。事前の偵察では戦闘要員はせいぜい四千程。しかも相手はほぼ直線に展開しているので、こちらの一方的な攻撃に晒されるだろう。
「クラディが何を思っているかは、この際聞かないわ。これは決定よ。クラディはアレを使って敵を殲滅。異論は聞かないわ」
思わず唾を飲み込んだ。そしてエリーは撤回するつもりは無いのが分かる。
「それなら、まずは敵の司令部を狙ってみては如何でしょうか?」
突然ペララさんが会話に割り込んできた。
「敵は確かに数こそいますが、それを指揮するのは限られた者たちです。それをまずは排除する事で、敵の混乱を見込めます。もちろん成功するとは限りませんが、多少なりとも相手に動揺を与える事は可能でしょう。それに軍は指揮官がいなければまともな行動を取る事は難しいのも事実です。そして、あの大砲ならこちらから一方的な攻撃が可能です。本来なら敵の中枢部のみを狙うのは定石とは言えませんが、今回は短期決戦が必要不可欠と思われます。ですのでエリーナ様の考えを元に、敵の中枢部を攻撃する事が最も最善かと」
「良いわね。それを採用するわ。クラディ、すぐに準備をしなさい」
結局、僕にはそれを止める事など出来なかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「三番、四番、五番、六番砲、初弾準備出来ました。初弾は徹甲弾を用いて敵の魔法防壁を破ります。次弾以降は、魔法防壁の消失が確認出来た後、炸裂弾を使用します。なお、二番及び七番砲にはすでに炸裂弾を装填準備中です」
次々と僕の元へ報告が行われる。もちろん僕の側にはエリー達もいる。
「各砲塔の調整は?」
「今のところ異常は認められません」
大丈夫だと思うけど、それでも確認は必要だ。
「各砲塔には測距儀を付けています。それに従って距離の調整を行って下さい」
砲塔の左右には、レンズを付けている。それを使用して一応距離の確認は出来るはずだけど、この世界では初めて行う事だし、そもそもこの方法を思いついたのは軍艦大和の事を思い出してだったりする。
ちなみに一般的には戦艦大和の方が知られた名前だけど、あの船が作られた当時は軍艦というのが正式な呼び方だったらしい。そもそも『軍艦』という呼び名が許されるのは、ある程度の大きさがある艦船だったらしいけどね。事実、駆逐艦とかは軍艦扱いじゃ無かったらしいし。
「各砲塔準備完了しました。砲撃可能です!」
「全砲塔、撃ち方始め!」
ペララさんへの伝令が来た瞬間、エリーが砲撃を指示した。その瞬間、周囲に砲撃の爆音が轟く。ほぼ同時に、敵が展開していた魔法防壁に着弾する音が響き、何かが割れる音が轟音として大地を駆け抜けた。
「次弾、炸裂弾! 各砲、任意に射撃開始!」
すぐさまペララさんが指示を飛ばす。一番近くにある砲塔から音がすると、すぐさま射撃が開始された。
その光景は、まるで地獄。
流石に着弾する炸裂弾は僕が考えていたよりも散布界が広いみたいだけど、逆に相手にはそれだけ被害が拡大する事を意味する。着弾と同時に炸裂した砲弾が土煙を上げる中、遠目にも人が文字通り空を飛ぶのが見えた。それは避けるといった形では無く、砲撃の余波で吹き飛ばされているといったのが正しいと思う。そしてその中には、人としての原形を留めていないのもある。多分即死だ。
そんな様子を見ながら、敵陣が土煙に呑まれていくのを僕は見ている事しか出来なかった。
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