第百五四話 覚悟
心理描写が難しい……。
あっちが解決したと思ったら、別の所で問題発生的な事が立て続けに起き、今は鉱山で手錠を嵌められて放置状態になっていた人達を救出しながら、山岳部と川の方から来る敵に備えている。
かなりの人数が鉱山に事実上軟禁されていて、しかも食糧もまともに無かったため、救出作業は本当にギリギリ間に合ったという感じだった。色々と文句を言いたそうな人もいたのだけど、とりあえず言いたい事は全員が町に戻って、安全が確保されてから聞くという事にした。そうでもしないと時間ばかりかかって収拾がつかなくなりそうだったし。
そんな事をしているうちに、流石に山岳部から偵察隊が現れてきたみたいで、どうやら新しい道を作っているらしい。まあ、人数が多いから無理に作業させているんだろうけど。
魔動飛行船を使って、山岳部と川の方をそれぞれ偵察させているけど、川の方の軍は移動に手間取っているみたいだ。まあ、あの崖とか沼とかやり過ぎたかなって今さらながら思ったりもするんだけどね。
それでもこれは戦争。一般に防衛の方が有利と言われたりするけど、個人的にはそんな事はないと思う。特にこの世界には魔法がある。少ないとはいえ、飛べる種族もいる。飛行船には一応の防弾処理というか、魔法防御処理は行ったけど、集中攻撃されたら確実に落ちるはずだ。だから出来るだけ高度を取って、試しに作っていた望遠鏡を使ってもらっているくらいなのだから。望遠鏡を使えば十K離れた人も十分に見つける事は可能な事を確認済み。
それと王国及びバスクホルド伯爵家の支援はどうやら間に合いそうも無い。距離があって人を十分に運べない事と、こちらで準備出来る食糧にも限りがある。物資が無い軍なんて、下手したらただの的になりかねない。
正確に言えば食糧は何とかなるんだけど、武器などが用意出来ない。ある程度は手持ちのを持ってきて貰ったとしても、たとえ剣とはいえ消耗品。折れる事だってあるので、当然予備は十分に確保する必要があるし、何よりも弓に使う矢が実質的に無い。
魔法だけで援護出来れば十分に問題ないけど、これは戦争なんだから確実なんて事は無い。それに僕とエリーはともかくとして、他の人の魔力には限度がある。一日中使い続けられるような人なんていないどころか、数時間で魔力がなくなる人の方が大半だ。なので無責任な事は言えないし、それはペララさんにも言われている。
そんな僕らはテントの一つで会議中だ。
「とりあえず行方不明になっていた人達の無事は確認したわ。後の処理は私に任せて。それでクラディは、ペララさんと一緒に敵の排除を行ってもらうわ」
「排除って言うけど、どこまでやるの?」
「そうね……場合にもよるけど、最悪は全滅させて。相手が行動不能という意味じゃ無くて、文字通りの意味で」
椅子に座りながら、エリーはテーブル越しにハッキリと言い放った。
「え……」
思わず絶句する。相手の数だってエリーは分かっているはず。いくら僕の魔法が強力とはいえ、出来る範囲には限界があるし、何より万単位で人を殺す事になる。
「いい、クラディ。これは戦争なの。そして相手は私達を文字通り全滅させるつもりよ。なら、こっちも同じ方針で考えなきゃならないのよ」
エリーのすぐ後ろには二人の子供達もいて、もちろんエリーが言っていた事を理解している。そして二人とも同時に僕に向かって頷いる。
確かにエリーの言っている事は分かるけど、僕にその覚悟はあるのかな?
前の戦闘で確かに僕は多くの人を殺しているはずだ。でも、その人達を直接見た訳じゃない。遠くから何となく見えただけで、正直人を殺したという実感はほとんど無い。でも、これからの事を考えると、確実に相手を見て殺す事になるはず。僕にそれだけの覚悟があるのか、どうしても疑問は残る。
エリーの言っている事が正しいとも分かっているし、そうしないと僕らの命が危ない。それだけじゃ無く、ここに住んでいる人達の命すら危ないだろう。つまり僕の肩には数千人の命が乗っかっているのと同じ事になる。
「クラディ。あなたとはそれなりに長い付き合いだと思うし、クラディの性格もそれなりに分かっているつもりよ。まだ他人を傷つける事に躊躇いがあるのも知っているつもり。それが悪い事だとは言わないわ。でも、現実を見て欲しいの。今は私達が戦わないと、この子達も守れないのよ? もしクラディが戦わないと言うなら、私が直接戦うしか無いの。出来ればそれはやりたくないのよ? 何より私にはこの子達を守らないといけないの。私が直接戦うとなると、どうしても二人をここに置いてでも、私が戦わないといけないの」
「それは……」
言葉に詰まる。エリーをここまで追い込んでいるのは、僕だって分からない事じゃないにしても、多分二人の子供達を産んだからこその決意。多分それは僕が説得してどうにかなる事じゃない。
「流石に私も強制出来ないし、クラディがどう決断しても恨まないつもりよ。でも、良く考えて欲しいの」
強制しないと入っているけど、気持ちは違うんだろうなって感じる。
確かにやっと手に入れた安息の地みたいな所だ。そこを守りたいという気持ちは僕にだってある。ただ、やっぱり人を殺すという事に躊躇っている所がある事も自覚している。
「ああ、それから今回反乱に加わった人達の事についてだけど」
「うん、それがどうかしたの?」
「理由はどうあれ、私達を裏切ったのは事実。なので今後生き残ったとしても奴隷とするわ。これはこの国の法律でも問題ない事だし、むしろ処刑されないだけ穏便な処置になるわね。決定事項だから、クラディが何を言っても無駄よ」
「そ、そうなの……」
エリーは奴隷という言葉に抵抗があったはずだけど、今の立場は領主だ。僕以上に色々と学んでいたのかも。何より対外的には明らかに僕よりも立場が上なのだし。
「父上。お母様から少しだけです父上の事情は聞いております。その上で母上はお願いしているのです。僕はまだ魔法の訓練も十分でありませんし、父上にも出来る事をして欲しいと思います。父上は母上よりも魔力が高いと伺っております。父上が協力して下されば、僕らも安心してこれから暮らせます。なので、父上には是非協力をして頂きたいのです」
子供……それも生まれて間もない赤ん坊と変わらない子とは、まるで思えない言い方だ。それにここを守らないと、僕らに未来があるとは到底思えないのも確かな事。
「……分かった。エリー、協力するよ。でも、ちゃんと作戦を考えたりする時間が必要だと思う。その為にはペララさん達の協力は絶対に必要だし、必要な事とはいっても、無闇に人を殺すのも好きじゃない。だからエリーも協力して欲しい。その代わり、僕もできる限りの事はするよ」
どうせ後には引けないんだ。だったらここで頑張らないと。何より今は家族がいる。以前みたいに甘い考えではいられない。
「当然よ。ペララさんもそれで構わないわね?」
「無論です。我々はその為にいますので」
今まで黙っていたペララさんが、快く返事をしてくれた。
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