第百五三話 尋問
装備を調えて一度魔法防壁の外にある秘密の出入り口を経由し、待機していた人達を集合させてから町の外に集まっているであろう、まず抵抗など出来ない状態になっているはずのアルマルが率いていた部隊を集めた所へと向かう。
面倒だったけどそのままにするのも問題があるので、事実上箱の中に入れているミッコネンも馬車に引かせる事にしたけど、後でアルマルと一緒に尋問しないとなって思う。車輪を付けていて良かった。
それにしても、いくらエリーが一緒に来ているとはいえ、生後一週間ほどの子供を連れてくるのはどうかと思うのは気のせい?
確かに本人達が行きたいと言っているし、エリーの話が本当なら魔法の攻撃力だってかなり高いらしいけど、僕としては子供が戦場に行くべきではないと思っている。
もちろん止むに止まれずといった場合――住んでいる所が突然襲われただとか、そういった事情なら戦場経験があるのは仕方がないとしても、今回はどう考えてもエリーの暴走のような気もするんだけど。それとも他に理由があるのかな?
そんな事を考えながら、翌早朝に麻痺して動けなくなった集団へとたどり着いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
大勢いる人々を再度ロープで捕縛し直して、最低限の水と食糧を与えながら、アルマルとミッコネンだけを、急遽近くに作った尋問施設へ入れる。これまた土魔法で作った施設で、二つ別々になっている牢屋と尋問室が一つ。そして僕らの待機室兼会議室を作っただけの簡易施設だ。牢屋には土魔法で分離した鉄を使っていて、太さ一C程もある太い格子が上下左右十Cずつ間隔を開けて組み込んである。壁の中にも同じ物を埋め込んでいるし、壁の強度も花崗岩並みに硬くしているので脱出は難しいだろう。もちろん壁は一Mという分厚さだし。
そもそも土魔法って、家づくりとかには最適すぎて、前世の建築家とかが泣くんじゃないかと思う。魔法で周囲の土を固めただけでもそれなりの強度を確保出来るし、その中から金属を抽出して柱なども作れる。当然それ以外にも鉄筋のように組み込む事も出来る訳で、確かに大量の魔力は必要なのかもしれないけど、今の僕にとっては何ら問題ない事だし。
尋問を行う部屋の隣では、魔法を用いた尋問室の映像を投射出来る。もちろん音声もそのまま聞こえるし、記録用に記録結晶もいくつか持ってきている。
仕組みは実際そんなに難しい事じゃない。まあ魔法があるから可能な技ともいえるんだけどね。映像は石の中に含まれる微量の水分が撮影していて、それがいくつも像を捕らえる事で立体的な映像になる。音は壁に反射した音を魔法で拾っているだけなので、前世にあるようなカメラやマジックミラーもない。当然普通の壁にしか見えないので、尋問室の中の人間には、誰かが聞いているとは思わないと思う。
二人には魔法の発動を阻害する手錠を付けている。これは王国から前に貰った物で、簡単な魔法なら発動を防ぐ事が出来て、威力の高い魔法を放とうとすると、通常の何倍もの魔力と時間がかかってしまう物らしい。ただ個人的には前の事もあるので、こう言ったのはあまり好きじゃない。それでも使わないといけない事もあるという事くらいは分かっている。
それとミッコネンは思ったよりも疲弊していなかった。流石に昼夜の区別は付かなくなっていたみたいだけど、少なくとも動くのに問題ない程度の体力はあるらしい。
相変わらず証言には応じない姿勢なので、先に尋問を行うのはアルマルとなった。こっちは半日以上地面の上に転がされていたためか、かなりの疲労が見える。尋問するには、あまり元気じゃない方が都合が良いかもしれないけどね。何よりこの世界には、人道とかそんな言葉はどうやら存在しない。
とりあえず一緒に来てもらっている兵士の人達に、ミッコネンを牢屋へ、アルマルを尋問室へと入れるように指示しておいた。あとは僕とペララさんが尋問する予定だったんだけど……。
「私も加わるわ。流石にこの子達はここにいてもらうけど、こんな事になった責任は追及しないとならないのよ? それにこの領地の最高責任者は私よね。なら、私が不参加なんておかしいじゃない」
確かにエリーの言う通りなんだけど、なぜエリーがここまでやる気なのかが分からない。
「エリーナ様の仰る事も分かりますが、危険は常に伴います。それにこう言ってしまっては何ですが、尋問のような事は本来私だけで行うような事であり、クラウディア様が立ち会いたいというのも本当ならばご遠慮したい所なのですが」
まあ、そうだろうなとは思う。それでも、こんな事になっているからには看過出来ないと思うから、立ち会うつもりでいるんだし。でもエリーにはここで待っていて欲しいと思う。それは彼女が女性だからってのを否定はしないけど、どう考えても荒事には多少なるはず。エリーがそれを直接して欲しくないし、出来れば見て欲しくないくらいだ。多分エリーから言わせれば、甘いって言われそうだけどね。
僕だってそんなに肝が据わっているとは思わないけど、やっぱり男性と女性とではやれる範囲というのが限られると思うし、やっても良い範囲も限って良いと思う。それにエリーは子供を生んだばかりだから、余計にそう思う。そんな子供達が別室とはいえ立ち会うのも僕は大反対なのに、エリーはそれを分かっていて、尚且つ直接尋問したいみたい。
「クラディ、分かっていないみたいね? 私は私なりに怒っているのよ? 少なくとも私が直接ここに住む人達に悪い事をしたとは思っていないわ。むしろ今までよりもずっと贅沢な生活環境になっているのよ。それにクラディが色々と便利なものを作ってくれたから、間違いなく他の町なんかよりも便利なはずなの。ちゃんと仕事に応じて賃金だって決めているし、それが支払われるようにしているのよ。なんで私達が地元の人から恨まれなきゃならないのよ。という事は、あの二人のどちらか、もしくは両方が何か唆したんじゃないの? それも勝手に自分の都合で。あの二人にだって、変な事をさせた覚えはないわ。だったら私はその裏切りを許せないし、許すつもりもないの」
机に両手をつきながら、立って力説したエリーに思わず後ずさろうかと思った。何とか踏みとどまったけど。
確かにそれなら理由としては分かるんだけど、エリーは僕の気持ちを分かっているのかな?
「どうせクラディは私が女だし、子供達もいるから下手な事をして欲しくないって思っているんだろうけど、私にも我慢の限界があるわ。何よりやっと平穏な生活を送れそうだってのに、こんな事をしでかした人達を許すほど私は出来た人間じゃないの」
結局最後の言葉で、僕はエリーが同席する事に首を縦に振らざるを得なかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
机が壊れるんじゃないかという、まさに轟音と表現すべき音を立ててエリーが怒ったのは、アルマルの尋問が始まってまだ時間もさほど経過していない時。思わず僕とペララさんがエリーの方を向いてしまう。
「あなた、私達がここに来るまで、一体どういう思いをしてきたか分かっていないみたいね! だからそんな事をいえるのよ!」
「エリーナ様、落ち着いて下さい!」
一緒に尋問室にいた兵士の一人が、エリーを止めようとしていたけど無理みたい。
「私とクラディがどんな思いをしてきたか、その一辺でも分かればそんな事言えるはずないわ! それに比べたらあなたの苦労なんて、ないのと一緒よ!」
もの凄い剣幕で怒鳴るエリーも初めて見たけど、それ以上にアルマルが呆気にとられている。
まあ、確かに僕やエリーがここにたどり着くまで、正直嫌な事が沢山あった。それをある程度理解しているからこそ、王国が僕らを保護した訳なんだしね。貴族に叙勲されたのはビックリだけど、色々と国王陛下とかバスクホルド伯爵家のお詫びみたいなのが込められているんだとは思う。
そもそもエリーがキレたきっかけは、アルマルの発言がきっかけ。『私達が大変な思いをしているのに、どこの馬とも知れぬあなたたちが貴族になったりとか許せない』の言葉だ。
確かに僕も怒りたくなる言葉なのだけど、まさかエリーがここまで怒るとは思っていなかったので、正直エリーを止めるのが遅れたのも事実。それでもエリーを必要以上に止めようとは思わなかった。何とか自制したけど、僕だってキレそうになったのは事実だし。
「何より私達は、ここに住んでいる人達を飢えさせるような事はしていないわ! むしろあなたの仲間がそうさせていたんじゃないの? 私達がここに来た時は、ほとんどの人が飢えていたじゃない!」
もう、これはエリーのストレス発散も兼ねて、そのままにしても良いかなって思う。最初の時こそ食料を輸入していたけど、今は主食に関しては十分な量を確保出来ている状態。他の作物も試験的に作っていたり、元々栽培されていた作物も量産を開始している。少なくとも飢えるという事は無いはず。
「ふん、知らない振りを。あなたたちが上前をはねているんでしょ? 一部の人達は安い賃金しか貰っていないわ」
アルマルの言葉に思わず驚いてしまった。当然そんな事などしていないし、する必要も無い。何か他の理由もありそうだ。
「アルマル、どういう事だ? そんな事はエリーナ様、クラウディア様どちらもされていないぞ。当然今屋敷にいるイロ様とベッティーナ様もだ」
すぐにペララさんが反論をするけど、アルマルはまるで両親の仇でも見るかの表情。
「あなたもグルなんでしょ。私に隠しても無駄よ」
どうやら何かとんでもない事が、僕らの知らない所で行われているらしい。
「ペララさん、エリー。ちょっと良いかな?」
二人に声をかけて、部屋に監視の兵士を残してから尋問室を出ると、外から鍵をかける。
「何か僕らの知らない所で、とんでもない事が行われているんじゃないかな? これはちゃんと調べた方が良いと思う。それにここに来る途中、住民をまるで見なかった。それだっておかしい。山岳部からは当面敵は来れないし、川の方からの敵は僕の方で対策をするから、エリーは他の人を集めて、情報を集めて欲しいんだ。それからペララさん。申し訳ないけど、彼女たちの尋問をしばらく頼めるかな? あの状態だとまともに話す気はないのかもしれないけどね」
「分かりました。尋問はお任せ下さい」
「……そうね。確かにおかしいわ。ところで山岳部からは来れないって、一体何をしたの?」
「唯一の道だったけど、その道を崩壊させた。他にも無理をすれば入る事が出来るルートはあると思うけど、それがすぐに見つかるとは思えない。そんな道があったら、一カ所に大軍がまとまっているなんて思えないからね。もちろん警戒はするけど、どっちにしても大軍がすぐに来る事は無理なはずだよ」
エリーが何か言いたそうな顔をしたけど、今はそれよりも状況の確認が最優先だと分かったみたい。すぐにエリーは僕が提案した情報収集を了承してくれた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで分かったのがこれよ……」
翌日の昼頃、エリーはいくつかの紙の束を僕の前に持ってきてくれた。当然その前に、川の方にいる敵の対策は終わっている。途中に土魔法で深さが分からないほどの谷を無理矢理作ったから。しかも幅は一Kあるし、長さはざっと四十Kはある。ここを迂回するだけでも一苦労だし、余った土を使って谷の両側には切り立った断崖をそれぞれ十K程作った。高さも多分五百Mあるし、ツルツルに仕上げたのでそのまま上るのも無理なはず。そしてその谷や断崖絶壁を越えた所には、数Kにわたって深さ十M程度の沼地を水魔法と土魔法で作った。正直これを僕単独でほんの三時間で作り終わった時には、僕自身が驚いたんだけどね。これで少なくとも空を飛ばない限り、早々は侵攻出来ないはず。
それと、途中で武装魔動飛行船も発見。船長のアルマハーノさんと副長のベルジェさん他、主要な人達は無事だったみたいだ。まあ、案の定積み込んでいた爆弾とかはなくなっていたけど、それは正直どうにでもなるし、相手が扱える代物じゃない。ちゃんと認証承知を組み込んであって、それを考えずに下ろしたら爆発はしないから。まあ、薪の代わりにはなるかな? 何となく便利かなって思って、適切な起爆方法以外ではゆっくりと燃えるようになっている。参考にしたのは前世のネットで知ったプラスチック爆弾。アレって単に火にくべるだけだと、薪のようにゆっくり燃えるらしいんだよね。
武装魔動飛行船の人達は、僕らが集まっている所まで来てもらってから休んで貰っている。なにせメインの動力用魔石が無くても動くとはいえ、敵に分かり辛いようにこっちに来てもらっていたみたいだし、そのせいで結構疲れが溜まっていたみたいだ。
武装魔動飛行船は後で使えるし、まずはこっちも色々と確認しなきゃならない事が山積み。こんな時に遠隔操作ができればと思ったけど、そんな簡単に事は運ばない。
エリーから渡されたのは、どうやら後からこの領地に来た人のうち、何人かが敵対貴族の息がかかった人達だって事。そして彼らは物資の横領や金銭の横領をしていたみたいで、そのまま今はこの領地から逃げ出した後らしい。
そして住民の件だけど、その敵対貴族の息がかかった人達に武器を供給していたらしく、それを使っていつの間にか鉱山の方へと住人を移動させて魔動鉄道の車両やレールを破壊していたらしい事。まあ、立派なテロ行為だよね。
「クラディ。通常の魔動飛行船はまだあるわよね? 魔動飛行船を使って急いで救出出来ないかしら?」
「それは構わないよ。僕が直接行った方が早そうだしね。捕らえているのも、とりあえずは無害化したし」
アルマルとミッコネン以外は、急遽作った囲いの中に押し込めた。もちろん囲いの材料は土だけど、高さが十Mもある柵だし、常時見張りもお願いしている。それと服以外は全て押収した。それこそ徹底的に。相手が嫌がろうと、そんな事はこの際無視だ。
ついでに魔法で柵が壊されないように、土で作った柵には魔法吸収の魔方陣をあちこちに付けている。そんじょそこらの威力では壊れない。まあ、雨風は全く防げないけど、反乱軍なんだからね。僕だってそこまで面倒を見るつもりはない。
それにしても土魔法が、ここ何日か大活躍。確か僕って土魔法についてはさほど得意じゃなかったはずなんだけど、あまり考えても今は仕方がないかな? 確か前に冒険者登録をした時に、その辺の情報が書かれているカードがあった気がするけど、すっかり忘れていた。
「鉱山のどこら辺に連れ去られたかが問題かな。基本的には露天掘りだし、空からなら比較的見つけやすいとは思うんだけど、それでも鉱山の数も多いし……」
「クラディは使える魔動飛行船の数を後で教えて。船員はこちらで調べておくから。単に上空から位置を確認するだけなら、小型の物でも良いわ。後は、バラバラに隔離されていたらお手上げかしら。食糧もどの程度手持ちがあるのか分からないし、早く救出しないと」
「じゃあ、荷物を空中投下出来る魔動飛行船も調べておくよ。それなら食糧だけでも届けられるから」
本来は緊急時に荷物だけでもと設計した空中投下の設備なんだけど、実際は資材とかを空中で投下するのは危ないって事で、数隻作ってお蔵入りしたんだよね。ただ、装置は撤去していないはずなので、もしかしたら役に立つかも。
「それとエリー、他の捕虜も尋問しておこうか? もちろんそっちはペララさんの部下に任せるけど、他にも何か分かるかも知れないし」
「そうね。お願いしておいて。ただ、無理はしないように伝えてね」
むしろ僕から見ると、エリーの方が無理をしているようにしか思えない。こんな事になったんだから、こんな事を最初に考えた奴を見つけたら、それなりの方法で仕返しすると思わず誓う。
「エリーも無理はしないで。あの子達の事もあるんだから」
「分かっているわ。とにかく今を乗り切れば、後は何とかなるはずよ。絶対にこんな事をした連中を許さないんだから」
エリーの後ろに、思わず般若でもいるのかと一瞬感じたのは、僕の気のせいかな?
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