第百五十話 再会
2016/06/23 タイトルミスの指摘があり、修正いたしました
ご指摘頂いた皆様、有り難うございました(m_m)
2016/06/23 10:32 記述内容のミス、誤字の指摘がありましたので修正いたしました
「まさか、このような所に設置されていたとは……」
隠し通路の入り口まで案内すると、ペララさんが驚きの声を上げる。ちなみに今はペララさんと二人だけで、他の人たちには周囲の警戒をお願いしている。秘密を知る人は少ない方が良いはずだから。
今は予備としてしか使用していない魔動鉄道の保線所だけど、予備とは言っても実際には色々と使っている。
基本的には現在主に使っている保線所の予備なので、前に置いていたレールの予備や車両の点検に使う物はほとんど置いていない。その代わりに、魔動鉄道開発の新しい拠点として整備を始めている所。
そもそも保線所とは言っても、新しく作った保線所も、まだ本格的に保線所として稼働している訳じゃない。どうしてもその辺のノウハウを蓄積しないといけないし、その辺りの事は僕だって前世で専門家だった訳じゃないから、技術系統が得意な人に手伝ってもらいながらの手探り状態。それでもレールの幅が常に一定であるか確認出来るように、魔道具を搭載したレールの幅を走るだけで確認する車両を数台作りはしたけどね。
本当なら保線に必要な物って色々あるはず何だろうけど、一度に色々と追い求めるのもどうかと思うし、まずは出来る事から優先するのは仕方がないかなって思う。
それと魔動鉄道だけど、初期に開発した物にいくつか不具合が見つかったのと、効率が悪い物なんかがあった。どうも貨車に関しては機関車方式の方が都合が良いみたい。そもそも半分実験的な意味合いもあったし、駆動車を貨車部分に積まなくて良いという意味では、単純な貨車にした方が設計も楽だし良い事なんだけどね。
「ところでミッコネンは生かしておいて良かったのですか? 一応閉じ込めてはおりますが……」
「殺すのは簡単だけど、こっちとしても切り札が少しでもあった方が良いかなって思ったんだ。まあ、彼女が切り札となるかは分からないけど」
「確かにそこは未知数ですが……逃げられる可能性もあるのでは?」
「それなら大丈夫。あの簡易牢獄は、ちゃんとした方法で解除しないと開かないから」
ミッコネンに用意したのは、以前に偶然出来たミスリル合金で作った牢獄。
牢獄とは言っても、実際の所外見は箱でしかない。食事を入れる場所はあるけど、直接は絶対に手渡せないようにしている。まあ、この辺は前世の映画で見た知識を参考にしただけどね。双方に通じる引き出しがあるんだけど、引き出しそのものが外れる事はまずあり得ない。そこにこちらから食べ物を載せて内側に押すと、牢獄の内側が少しだけ出っ張る。それで食事が提供された事が分かる仕組み。中の人間が食事を摂っていようがいまいが、一定時間過ぎると強制的に食べ物が載った引き出しは外側に出てしまうので、その間に食事を取る必要がある。外側に引き出しが取り出せる状態では、内側の引き出し口は壁とほぼ一体化しているので、壊そうと思ったらダイヤモンドかオリハルコンのような物で出来た工具が必要。それに引き出しは内側から外す事など不可能になっているし、外側でも専用の工具が複数必要。まあ、実験的に色々なパーツを作っていたら、ついでだとばかりに組み合わせただけなんだけど。
食事として用意しているのはコップ二杯分の水とパンが一つ。それを一日に二回だけ。当然衰弱させるつもりでそれだけしか出していない。飢え死にさせるつもりは無いけど、体力をつけさせるつもりは全く無いからね。何よりまだ口を割らないし。秘密にしていたとしても、それで本当にどうにかなると思っているのかな?
中には一応トイレもあるけど、それは外に繋がっていない。床に穴があるだけで、そこに溜まると自動的に原子レベルで分解する魔方陣を組み込んだ。ただし消臭機能とか衛生機能は一切ないので、当然臭いは残るけど。まあ囚人に気を使うつもりはなかったからね。
それと牢獄に使ったミスリル合金だけど、これは結構特殊な物。外からの魔法の効果――熱とかは内側に伝わるんだけど、内側では魔法そのものが発動しない。それと外の気温の影響も伝わらないので、魔法で一定温度にしないと極寒の地になる。外から魔法で壊そうとしても、その影響が中に伝わってしまうので、例えば簡単なファイアボールのような魔法でも、中は一瞬で灼熱地獄。風魔法とかの場合は種類にもよるけど、中で嵐のような状態になったりする。なので正規の手続きを使わないと、それこそ外から助ける事は出来ない。
中には別の仕掛けをしていて、常に一定の光量で明るくしている。これは時間の感覚を失わせるため。最初は真っ暗という方法も考えたんだけど、それだと食事が摂れないんだよね。それと時間の感覚が分からなくなるように、一日二回の食事の時間は少しずつ時間をずらしている。食事の時間だけで一日を計算していると、今頃三日は時間がずれているはずだ。
当然密閉すると問題なので空気穴はあるんだけど、それだって外の光が入らないようにしている。まあ、これは実験的な意味合いで付けたのをそのままにしているんだけどね。だって使う予定は本来なかったし。
それよりも秘密の出入り口だけど、保線区作業員詰め所の休憩室にあるロッカーの一つに偽装している。もちろん普通のロッカーとして使えるし、他のロッカーと違いが分からないように、どのロッカーも若干大きめに作っている。なので人が出入りするのには問題がない大きさ。当然ロッカーが大きい理由として『保線区で雇っている人は作業が大変だから着替えなどが多くいるはず』などの適当な理由を付けている。
ロッカーの中には見て分かるような扉は付けていない。そんなの付けたら、すぐにおかしいって分かるからね。その代わりに、ロッカーの壁側には魔方陣をあらかじめ描いておいて、その上から薄い金属で隠している。ちょっとだけ重さが違うけど、それは運んだ人くらいしか分からないし、他のロッカーにもいくつか同じ金属板を貼り付ける事で分からないようにしている。
まあ当然普通に調べただけではその存在は分からないはず。僕とエリーが持っている専用の魔石で認証を行う事で、その魔方陣が発動するようになっている。
そもそも今まで色々調べたり、ミランダからもらった知識によると、魔方陣を発動するのに直接見えている必要は無いらしい。もちろんそれには適切な処置が必要なんだけど、それだってそれほど難しい事じゃない。まあ、その方法は前の文明が滅んだ時に失われたんだけどね。だからこれもミランダのおかげ。
「えーと……ここだね。このロッカーだよ」
もちろんロッカーの外見からは分からないので、持っている認識用の魔石を使って位置を確認。簡単な仕組みでしかないけど、魔方陣があるロッカーに近づくと魔石の輝きが増す仕組み。ちゃんとした探知機みたいな物でも作りたかったけど、そう簡単に作れるほど時間もなかったしね。それに緊急用ならこれで十分。
「えーと、一応魔方陣を発動させる命令文は口頭で言う訳にはいかないから、それは理解してくれるよね?」
ペララさんを信頼していない訳じゃないけど、もしかしたらこの近くで様子を伺っている人がいる事だってあり得る。なので最も重要な魔方陣の発動命令を誰かに聞かれる訳にはいかない。
黙って魔方陣を発動させる命令を唱えると、すぐに魔方陣がロッカーの奥に現れた。ちなみに魔方陣は円形ではなく、ロッカーの背面全体を覆うような縦に長い長方形。
「クラウディア様といると、我々の魔法に関する常識が次々と崩れますね」
まあ、ペララさんが言うのも無理はない。今の時代、魔方陣は円形である事が常識だからね。僕からするとむしろ違和感があるんだけど。僕が生まれた頃は、魔方陣といっても色々な形が普通にあったし。
「その話は後にしよう。僕に付いてきて。この魔方陣をくぐれば、すぐに屋敷の中だから」
当然これもミランダから教わった知識。僕とエリーがミランダに捕まった時の魔方陣と、基本的な仕組みは同じだ。違うのは双方向で行き来できる事かな?
ペララさんが若干不安な顔をしているけど、今はとにかく急がないと。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まだ方法は見つからないのか?」
思わず焦りの声が出る。
目の前にはサヴェライネンの町と領主館が見えているというのに、見えない壁によって私達は未だに足止めを喰らっていた。
「申し訳ございません、アルマル様。解析を試みてはいるのですが、魔法的な結界である以外は、我々でもまだ見当が付かなく……」
連れてきている工兵の一人が言い訳がましく言うが、私はそんな答えなど求めてはいない。早くこの結界を越えて、中にいる者どもを最低限捕らえ、子爵家の連中は抹殺しなければならないのだ。これが失敗すれば、最悪私はおろか、父上にも害が及んでしまう。それは何としても避けなければならない。
「山岳にいる子爵家の部隊はどうなったか? それと、川向こうの増援及び、山岳からの増援は?」
少なくとも川向こうにいた増援は、そろそろ合流してもおかしくないはず。その為に魔動飛行船も動かなくしたのだ。なのに三日経過しても連絡すらない。明らかにおかしいが、これ以上兵を分散させる事も出来ない。
「最新の情報ですが、山岳の道が無くなっているとの情報です。原因は不明。子爵家も発見出来ておりません。川向こうに展開していた味方でありますが、現在川を渡り部隊を再集結させているとの事です」
報告してくる部下に苛つきを覚えるが、少なくとも川からの援軍はどうにかなるだろう。
「ただ……」
「ただ、何だ?」
「武装魔動飛行船が消えたと部下より報告がありました。現在調査中です」
「あれに使われている魔石は、私も取り外したのを見ていたのだぞ? なのに消えただと? 援軍からの報告は何かないのか?」
「それが、夜のうちに消えたとの事です。音も特になかったとの事で、現在も行方を追っていると聞いております」
音もなく消えた? 魔動飛行船は飛ぶ時にそれなりの音がしていた。音もせずに飛ぶ事など出来るはずがない。一体どういう事だ? 私にも隠していた技術があったのか?
「まあいいわ。一応上空には気をつけなさい。今はこの結界を破る事に集中するのよ」
どうせまともな武器もない魔動飛行船一隻など、気にしても仕方がないはず。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「す、すごいですね……。隠し扉を通り抜けると、そのまま屋敷の地下ですか」
ペララさんが驚いているけど、まあ仕方がないよね。それに長距離をわざわざ移動するのは馬鹿馬鹿しいし。
ミランダから教わった方法で、特定の二点間でなら瞬時に移動する魔方陣があるのを知った。それを使った方法だし、これだって特定の条件がないと発動しないように安全策を採っている。それよりも、エリー達を早く見つけないと。
「先を急ぎましょう。時間もありませんので」
「そうだね。メイドさんとして雇った人だって、多分裏切った人もいると思うし。エリー達が無事なら問題ないんだけど……」
地下を駆けながら周囲を確認する。近くに魔法防壁の装置があったけど、パッと見た感じでは問題なさそうだ。それに争った形跡も見当たらない。
上の階へと向かう階段をいくつか上り、やっと一階の扉の前に来た。今のところ人に会っていない。まあ、普段使うような所じゃない場所なんだよね。地下倉庫はあるけど、こことは別の扉だし。そもそもここに通じる扉は隠し扉だから。
そもそもここに通じる扉は、普通の家具に偽装している。前世の映画で見た動く家具ってやつかな? もちろん裏側から人がいるか分かるようにしてあるけど、それは魔方陣を使っている。魔法って便利だよね。
魔方陣を発動させると、近くに人の気配はない。まあ、そもそもこの隠し扉を設置したのは書庫の中だし、普通はあまり人が入らない所なんだけどね。それと隠し扉を書庫の中にしたのは、やっぱり隠し扉というと本棚ってイメージがあったから。
隠し扉を開けると余計な照明を節約するためか、ランプは消えていた。まあ、このランプも魔石を利用した物だから、実際にはそれほど節約とか入らなかったりする。点けっぱなしでも十年単位で大丈夫なはずだから。
そのまま隠し扉を閉めて、書庫から出る。するとメイドさんの一人が僕らを見つけた。
「クラウディア様ですね! ご無事で何よりです。屋敷の中は安全を確保しております。エリーナ様がお待ちですので、ご案内します」
いたのは比較的最近雇った人だけど、敵意はとりあえず感じない。
「屋敷の中は大丈夫だったか?」
すぐさまペララさんが確認すると、どうやら何人かは反乱に呼応した人がいるらしい。ただ、それらの人達は全員拘束しているそうだ。絶対とはいえないけど、とりあえずは安心かな?
「エリーナ様は中庭でお待ちです。イロ様、ベッティーナ様は寝室にてお休みしております」
「え、中庭にいるの?」
思わず聞き返しちゃう。出産間近だったはずだし、動ける状態とは思えない。
「先日、お二人のお子様を出産なさいました。男の子と女の子です。エリーナ様もですが、お子様も元気ですよ」
メイドさんがニッコリと笑いながら答えてくれる。出産が少し早まったみたいだ。
「それに私もそうでしたが、多分驚かれるかと思います。それから屋敷の周囲ですが、警備の者に交替で見張らせております。今のところ異常は見当たりません」
少なくともここが無事だと知って安堵する。出産が早まったのはどうしようもないにしても、親子共に無事なら問題はないし。それにエリーも頑張ってくれたんだなって思う。きっとエリーが魔法防壁を展開してくれたんだろう。それなら納得だ。
しばらく歩いて中庭に到着すると、そこには椅子に座るエリーと、見慣れない五歳くらいの子供二人がいた。
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