第百四九話 秘密の魔道具
筆(キーボード?)進まず絶不調orz
今のところ屋敷に向かう中で妨害はない。それどころか、住民の影も見当たらない。本来なら農民とかいてもおかしくないはずなのに。
一応非常時には、サヴェライネンの町などに逃げるよう伝えてはいるけど、それだって領地の人を全員収容出来るほどじゃないはず。そもそも食糧が足りないのだから、籠城戦になったら長くはない。いくら作物の収穫が順調になり始めたからといって、それを全て備蓄出来るほど簡単じゃないのだから。
それでもエリー達は安全だと僕は信じている。少なくとも屋敷周辺などには、厳重な魔法防壁を張り巡らせる装置がある。かなりの大魔法でも耐えられるはず。絶対はないけど。あとはエリーが作動させてくれれば良いのだけど、それが一番の不安材料。
「おかしいですね。いくら何でも、誰も見当たらないというのはあり得ません」
流石にペララさんも不審に思っているみたいだ。当然だよね。
「サヴェライネンの町からまだかなり離れておりますし、内通者が他にいた事は十分に考えられます。良からぬ事を吹き込んでいなければ良いのですが……」
確かにその可能性は否定出来ない。まだ二千人ほどの領地とはいえ、サヴェライネンにいる人は全体の四割くらいだ。他の人は農地の近くに村を作ったり、鉱山の近くに住んでいる人も多い。色々な仕事があるのだから、人が分散しているのは分かるんだけど、それにしたって誰も見かけないのは奇妙だ。
「とにかく先を急ぎましょう。エリーナ様とも連絡を付けなければなりませんし、川を渡って敵が進軍してきている可能性もありますので」
エリー達が心配だけど、今は急ぐしかない。電話みたいな魔道具を作る事が出来ればと、こんな時に思ってしまう。とにかく急ぐ事しか出来ないのがもどかしい。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やはり町の外に来ているのね……」
溜息をつきながら副侍女長のヒッレ・ハーパサロが纏めた報告を聞きながら、今後の対策をどうするか考える。
魔法による防壁は準備出来ても、それ以上の事――相手を迎撃するとなると、私には正直扱いきれない。
単に魔法を放つだけなら私にも出来るけど、クラディは魔力で動く様々な迎撃方法を作っていた。でもそれを扱える人は、今はクラディの所にいるか、敵に寝返ったか、もしくは捕虜になっているはず。最悪は殺されていてもおかしくない。
「このままだと、私が直接魔法を使って攻撃するしかないわね……」
それを聞いてかハーパサロの顔が強ばる。まあ、彼女からしたら私が直接相手と対峙しては欲しくないわよね。
「クラディ達は見つかったの? せめて何とかして、連絡くらいは取りたいのだけど?」
「残念ながら。さらに悪い事に、現在町の周囲を反乱軍が一定距離で監視している模様です。数こそ少ないですが、向こうとしてもクラウディア様との合流は止めたいのでしょう。確かに妥当な判断ではありますが、同時に兵力を分散する愚を犯しています。偵察の可能性もまだ捨てきれませんが、警戒は怠るべきではないでしょう」
色々と正直言いたい事はあるのだけど、私が一番気になっているのは、彼女が今までどんな仕事をしてきたか。どう考えても一介のメイドが身につけるスキルではない気がするわ。
「この事は内密にお願いしたいのですが、バスクホルド伯爵家からエリーナ様とクラウディア様をお守りする事も、バスクホルド伯爵家からこちらに移ってきた私達には王家から直接命じられております。そして私達女性メイドは諜報を主としたカンパニュラ女性騎士団出身です。ですが当時とは名前を変えてありますし、カンパニュラ女性騎士団は王家直属の騎士団の一つですから、他の騎士団よりも知られておりません。ですので軍事知識については相応の訓練を行っているとお考えになられて結構です」
「そうだったの……。まあ、それが今役に立っているのなら、これ以上深くは聞かないわ。あと、クラディには話さない方が良いかもね。理由を聞かれても困るけど、クラディってその辺が何だか苦手意識があるように思えるから」
「承りました。それと、同じくバスクホルド伯爵家の頃から仕えている男性使用人ですが、彼らも似たような出身です。名前しか存じ上げていないのですが、ラズボニック騎士団の出身だったかと。恐らくは私達と似たような部隊だったのだと思われます」
全く呆れる話だわ。でも、それだけ警戒しなければならなかったという事よね。多分王都でも見えない所で護衛がいたんだと思うけど、今さら調べても仕方がないわ。
「どちらにしても、私達だって守り手の数は少ないわ。むしろ相手からすると少なすぎるわね。ヴェーラ・アルマルが指揮している部隊だけでも、魔法防壁がなければすぐにこんな所は襲われているはずよ。今のところは様子を伺っているだけなのかもしれないけど、川を越えて敵が進軍してくるのは間違いないと思うし。せめてクラディが戻るまではここを守らないと」
「承知しております。その為の防壁でもありますから。それに通常の魔法では、まず破られるような防壁ではありません」
多分クラディから色々と聞いているんだろう。私にも説明してくれたはずだけど、正直あまり分からなかったのよね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「魔法で結界のような物が張られている?」
私は舌打ちしながら、見えない壁をどうするか考える。
まさかこんな物を作っていたとは。これでは計画に齟齬が出る。偵察隊を出したのは良いが、そのおかげでこちらの部隊も散開している状態だ。
「アルマル様。このまま対岸で待機していた本軍を待ちますか? 山岳からの援軍は、どんなに早くても三日程度はかかるかと思われますが」
「山岳からの援軍は待っていられない。どちらにしても、この結界がどの様な物か至急調査せよ。どこかに穴があるはず」
結界魔法も万能ではないはず。どんな仕組みかは私には分からないけど、突破さえすれば問題ない。父上も私の活躍を望んでいらっしゃるのだ。その為に、今まで我慢してきたのだから。
「結界の解除をするために、人を集めなさい。どこかに必ずつけいる隙があるはず。まずはそこを探し、何としても中に入るか解除を試みなさい」
どうせ急ごしらえの結界のはず。どこかに必ず穴があるに違いない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どうやら内部を伺っているようですね」
ペララさんが慎重に相手から離れた位置で、尚且つ見晴らしの良い場所を探した後に状況を教えてくれた。
「魔法防壁が作動しているの?」
「ええ、そのようです。ですがあの周囲を調べた所で、中には入れませんが」
緊急時を考えて作った魔法防壁が役に立ってくれたみたいだけど、誰が作動させたんだろう?
使い方はエリーにしか教えていないけど、エリーは出産間近で動ける状況じゃないはず。安全のために魔力的な認証を行うようにしていたから、エリー以外が動作させる事なんて無理だ。
本当はイロとベティにも教えておきたかったんだけど、時間とか色々な理由が重なって出来なかった。メイドさん達にも教えておいた方が良かったかなと思ったんだけど、それも時間がなかったし、それはそれでエリーに反対されたんだよね。なぜかは教えてくれなかったけど。
それでもペララさんだけには魔法防壁の装置がある事を教えていた。流石にイロ達の事もあるし、動作方法までは教えていないんだけど。
「とりあえず、どうして動作しているのかは分からないけど、中は安全だと思う。エリーが無理をしたのかな? 設置している場所に移動するのは、あのお腹だと無理だと思うんだけど……」
「それを考えるのは後にしましょう。確か秘密の出入り口があると仰っていましたが?」
「ああ、うん。ちょっとここから離れる事になるけど、偽装した入り口があるからそこに行こう」
魔法防壁は魔道具によって張られているけど、当然出入り口をどこかに用意しないと、長期戦では不利になる。ただ、簡単に位置が分かってしまっては使い道がないので、偽装して設置している。それに防壁から近いと敵の中に出てしまう事になりかねないので、当然ある程度離れた場所だ。
それよりも気になるのは、まるで見当たらない住民。一体どういう事だろう? まあ、今は気にしている余裕が無いんだけどね。
「最初に作った保線所の所に向かうよ。あそこに出入り口があるから」
早くエリー達に会って無事を確かめたい。
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