表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/331

第十三話 魔力切れで倒れる

2016/01/30 誤字及び内容の修正を行いました

2015/04/27 内容を修正しました。

 お店で扱っている物は色々あるけど、扱いがやっぱり難しい物は魔道具。


 展示品に魔力を供給して実演販売も行うので、常に魔道具が動くようにしておく必要がある。中には不良品もある訳で、それを事前に調べなきゃならない。クレームが来てからじゃ遅いから。


 分からないのは世の中そんな簡単じゃなく、魔道具にだって不良品があったりする事。魔方陣さえちゃんとしていれば、早々おかしな事にはならないはずなんだけど、なぜか作動しなかったり、おかしな動きをする物がたまにある。


 入荷した際に商品チェックは行うのだけど、たまに不良品があるのはこの世界でも同じ。作った際にチェックを行わないのか不思議に思う。


 問題はその不良内容がどういった物かで、返品する時の対応が違ってくる。普通に考えれば『不良品』というだけで送り返しても良い気がするけど、場所によっては細かな内容まで求められるから。


 でも一番厄介なのは、販売した後に不良が見つかる事。出来るだけ検査はしていても、使用したときにしか分からない不良もある。この世界に『製品の保証期限』の概念は無いらしく、どんなに昔に購入した物でも、初めて使っておかしかったら間違いなくクレームの対象だ。五年くらい前に購入した物でも、普通に不良品といわれて返品に来る場合すらある。


 そんなときに一番困るのが、代替品を用意する場合。常に同じ物を在庫として置いているわけではないし、不良が分かっても発注先が『不良なし』なんて言ってきた場合は最悪だ。そもそも魔道具だって新しい物はそれなりに出る。そして古い製品はそれ以降作られる事もないので、当然同じ物を用意する事は出来ない。


 そういった場合は、結局お店の負担になる。特に高価な魔道具だったりする時は、結構金銭的にも痛い事も多いらしい。さすがにお店の経営の事までは知らないけど、帳簿を見ながらランダーソンさんが渋い顔をしているのはたまに見るし。


 あとは魔道具なのに魔道具として機能しない時。チェックをしてもその時は正常に動いていたりするので質が悪い。


 当然そういった事は魔方陣の間違いが原因なんだけど、時々症状がよく分からない事がある。


 大半は魔力をちょっと供給しただけで必要以上に魔道具が動作してしまう場合だけど、希に魔道具が大量の魔力を吸収してしまう場合は最悪だ。


 お店のみんなには僕の魔力が高いのは知っているので、そういった場合に僕の出番になる。


 ただしその場合は結構厄介な『事故』が起きた場合。


 魔力を必要以上に要求してしまう不良品の場合、供給しようとした相手の魔力を限界まで吸い出そうとする特性がある事が多い。当然僕の所にその手の検査手伝いが来た場合は、誰かが魔力切れしているという事になる。結局魔力を限界まで吸い出された人は、魔力切れで衰弱しきってしまうのだ。気絶する事こそないけど、実は結構危なかったりする。


 特に危ないのが魔道コンロ。熱を持つので、希にやけどなどをする場合がある。安全を出来るだけ確保してテストをしても、事故はやっぱり時々起きてしまう。


 幸いにもユリアさんが初歩の治癒魔法を使えるので、今のところ大事に至った事こそないけど、危険である事には変わりない。


 それに魔力切れで衰弱しているのだから、場合によっては丸一日店頭に立てなかったりするわけで、お客さんが集中した日は大変だ。


 そんな僕の目の前に問題の出た魔道具がある。


 魔道具としては危険性がない、魔力を外部に保存するための人工魔石だ。大きさはこぶし大でちょっと大きめだけど、一般に流通している物。ただし物によって貯められる魔力の総量がかなり変わる。理由は分からない。


 人工魔石は最近開発された物で、特に冒険者――特にハンターが好んで買う。魔物などを倒すときに魔力で力を強めたりするのに便利らしい。魔力不足になった事が無い僕は、正直良く分からないんだけど。


 最近出てきたばかりの製品で、値段はまだちょっと高いのだけど、大抵の人が簡単な魔法を扱えるこの世界では、ハンターとして魔法使いを名乗る人はいない。一般的には魔法ハンターと呼ぶそうだ。他にも魔術ハンターや召喚ハンターといった呼び方もある。もちろん魔法がメイン、魔術、召喚魔法と区別しているらしい。


 例外的に魔法と魔術の両方を扱えたりする場合は、魔道ハンターなんて呼んだりもするという。ただ、普通は一々名乗らないみたいで、普通にハンターとしかいわないらしいけど。


 目の前にある人工魔石は、先にテストをしたパセットさんの魔力を吸った物だ。淡く赤色に光っている。赤色に光る場合は、火系統の魔力を特に吸った場合。色によって系統が大抵は分かれる。


 唯一の例外は魔石が黒くなった時。その場合は複数の属性を吸った場合で、そういった時の魔力貯蔵量は結構高いと聞いた。


「さてと、今回の人工魔石はっと……」


 人工魔石を右手にとって眺める。特に目立っておかしな所はない。まあ、見た目で問題があったら、そもそも僕の所には来ないけど。


 目の前の人工魔石は一辺が五角形の正十二面体。これはどの大きさでも同じ。多分この形が最も安定したんだろう。たまに違う形もあるけど、そういった物はあまり魔力を貯められないし、


 基本的に大きさはこぶし大だけど、必ずしも全部が同じ大きさじゃない。こぶし大でもそこそこ大きさは違いがある。入荷する度に大きさが不揃いなのは、安定した大きさで作る事が出来ていないのだと思う。


「でも、今回のはやけに大きいかも。普通はせいぜい小指の長さよりも小さいのに」


 こぶし大とはいえ、大きさなんてそんな物だ。板状になれば持ち運びが便利になるかもしれないけど、今のところそんな物は見た事がない。


 人工魔石はまだ分かっていない事も多い。なので思わぬ事故も多いらしい。一応販売する時に注意はするけど、手の平サイズの天然魔石は高いし使い捨てだ。それに人工魔石についてだけは事故が起きたときの保証はない。販売元が保証しなくて良いと言っているらしいから。


 天然魔石は魔物から採取した物か、誰かが亡くなった時に回収される二通りしかない。元々生物の中にある物なので、使い捨てとはいえ魔力量は非常に高く、長期間使用出来る利点がある。


 最近開発された人工魔石は繰り返し使えるけど、一度に貯め込める魔力量は天然のに比べたらかなり少ない。魔法を主体として毎日使う人は、人工魔石が十個以上あっても一日で使い切るらしい。


「パセットさんが魔力供給したのに、見た目はまだまだ余裕がありそう。どうしてだろう?」


 手元の人工魔石は淡い赤。火系統の魔力で人工魔石の容量限界まで貯めれば普通は真っ赤になる。ところが手に取った人工魔石は淡い赤というかピンク。この色だと魔力はまだほとんど貯まっていないはず。


「まあ考えても仕方ないし……」


 右手で人工魔石を握るようにして、魔力を人工魔石へと集中する。すぐに僕の魔力が人工魔石へと移っていく。思ってたよりも魔力の吸われる力強い。


「これ、ちょっと不味いんじゃ……」


 人工魔石を右手から落とそうと傾けたけど、人工魔石が手に張り付いたように落ちない。慌てて魔石を真下にしたけど、文字通り手に張り付いている感じで落ちる気配がまるでない。


「ちょ、ちょっとどうなって……」


 続きを言おうとして急に目眩がする。


「こ、これって……」


 慌てて左手を使い人工魔石を引きはがそうとしたけど、左手に力が入らなかった。その間にも僕の魔力がどんどん人工魔石に吸われていく。


「だ……め…………」


 目の前がぐるぐる回転する気がして、そのまま僕は――。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「クラディ君、クラディ君!」


 誰か僕を呼んでいる。ゆっくりと目を開けたけど、目の前が霞んでいる。


「とりあえず大丈夫ね。倒れていたから心配したのよ?」


 目の前の霞がなくなって、チェウスさんの顔が見えた。


「ぼ、僕は……?」


 どうもベッドの上らしい。そういえば、あの人工魔石は!


「魔力切れで倒れていたみたいよ。でもあなたが気を失うなんて初めて見たわ」


 チェウスさんの左横にユリアさんもいた。


「ま、魔石はどうなりましたか?」


 ちょっと間を置いてから、いつの間にかニーニャさんが現れて、帽子が入りそうな程の青い箱をユリアさんに渡した。


「後で返品するのだけど、一応クラディ君には見せた方がと思ってね。私もこんなのを見るのは初めてよ」


 箱の上蓋が取り去られると、中にあったのは揺らめくように虹色に輝く魔石だった。あの人工魔石だろうか?


「これって一体……」


「クラディ君がいた、すぐ側にあったわ。パセットさんが検査した物だと思うのだけど、クラディ君は一体何をしたの?」


 ユリアさんが不思議そうに人工魔石を見る。


「見た感じなんだか怖かったから、素手では触らずにこの箱に入れたの。パセットさんが触れた時は、淡い赤色って聞いているんだけど、クラディ君も魔力を供給してみようとしたのかしら?」


「はい。僕が最初に見た時は、淡い赤色をしていました。多分パセットさんの魔力を火の系統としてこの人工魔石が吸い取ったんじゃないかと思ったんです。確かに今思えば淡い赤色なんて、その時点で返品しても良かったのだと思いますが、パセットさんが魔力をほとんど吸われたと聞いて、それなのになぜそんな色なんだろうと思っていました」


「それで魔力供給を試したの?」


「はい。僕の場合は気を失ってしまったようですね。初めでです。魔力消耗で気絶するなんて……」


 魔力の激しい消耗で衰弱することはよく知られているけど、気絶とか意識喪失とかその類いは聞いたことがない。パセットさんもさすがに魔力切れで倒れてはいない。


「そう……分かったわ。これは送り返して注意書きも同封しておくわね。それとクラディ君は今日はしっかり休んで。パセットさんもかなり消耗しているし、お店の事は正直今日は大変になりそうだけど、あなたたちが無理してまた倒れたらもっと悪いから。パセットさんも部屋で寝ているので、クラディ君も今日はゆっくり休みなさい。ちょっと仕入れ先に文句を書かないとね?」


 そう言うユリアさんは表情こそ笑っていたけど、どこかに怒りのような物を感じた。


 やっぱり変な魔道具を送られてお冠なんだと思う。

各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。


また感想などもお待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


更新速度からおわかり頂けるとは思いますが、本小説では事前の下書き等は最小限ですので、更新速度については温かい目で見て頂ければ幸いです。


今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ