第百四七話 最初の戦い?
「いくら何でも、この数は色々とおかしいよね?」
遠くから敵の部隊を確認しながら、その数を予想しようとしたけど、あまりに多すぎる。ざっと確認しただけでも、少なく見積もっても六千はいるはず。しかもそれは補給部隊を除いた数だ。なぜなら補給部隊を確認出来ないのだから。
「ですが、道は限られております。一度に進軍出来る数はどんなに詰めた所で、横に二十が限度でしょう」
ペララさんの言う通りなんだけど、それが事実上永遠に続く形だ。守って守れるような状況じゃ無い事くらい、僕だって理解出来る。
「最初の偵察では一万に届かない数でしたが、最後の偵察では補給部隊を含めて一万五千との事です。正直兵力差を考えるのも馬鹿馬鹿しくなります」
そう言いながらペララさんは歯ぎしりをした。別に彼に責任がある訳じゃないのに、どこか思う事があるんだと思う。
「難しいとは思うけど、ペララさんはとりあえず落ち着いて。今の状況で、攻めて足止め出来る方法を考えよう。正面から戦って勝てない事くらい僕だって分かるから」
「失礼しました。ですが先ほど連絡がありまして、我々の中にも反逆者がいる模様なのです」
「それは、騎士団に所属していた人って事?」
「はい、残念ながら。一人は既に確認済みですが、身柄を抑えるのに問題が……」
「と言うと?」
「川岸に展開させたヴェーラ・アルマルです。身辺調査は行ったはずなのですが、どうやら何らかの方法でかいくぐってきた模様です。それと……キルスティ・ミッコネンも極めて怪しいと言わざるを得ません。しかしながら、現状では十分な証拠がなく、現状で逮捕する事は難しいとしか。何より他に部隊の指揮を執れる者も少なく、無闇に外す事も……」
少なくとも二人の裏切り者がいて、もしかしたら他にもいる可能性があるって事になる。もしかしたら町の人にも紛れ込んでいる可能性があるし、疑い出すと全てを信頼出来なくなってしまう。事態はどんどん最悪の方向に進んでいる。
「とにかくミッコネンを前に出す事は避けなければなりません。本人の意思に関係なく、後方に下がらせます。少なくともそれで敵との接触はある程度制限出来るかと。クラウディア様にはもっと後方で迎撃を行う事を進言します」
「他に方法は……無いよね。ただ、僕としてもこのまま黙ってやられるつもりは無いよ。せめてここからの進軍を遅らせる事はしないと。ここ以外には、道としてまともに進軍出来る場所はないんだよね?」
「ええ。ですが何をするおつもりですか?」
ペララさんに、僕はこれから行う事を説明すると、彼は引きつった顔をしたけど、それ以外に方法が無い事も納得はしてくれたみたいだ。
僕はこれから行う事のために、ペララさんに展開している部隊の指示をお願いした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「輸送船を改造した魔動飛行船は、魔力供給を行っている魔石を外しました。これで動く事はありません」
町にいた工作員から、私は進捗状況を聞いている。これで三隻のうち二隻は行動出来なくなった。
「ですが、新型の武装魔動飛行船ですが、魔石を外したのですがそれでもどこからか魔力の供給が行われております。分かっている限りの経路は全て遮断しているのですが、我々が知らない魔力の供給ルートが存在するようです」
全く忌々しい。どうせあのクラウディアが何かを仕掛けたのだろう。しかし、それでも二隻は行動不能となった。残った武装魔動飛行船に積まれた爆弾なども、全て撤去済みだ。完全に安心は出来ないが、これで攻撃手段はほぼ失っているはず。
「アルマル様。鹵獲している武器はどうなさいますか?」
「屋敷を襲撃する。馬車は用意しているな? 魔動車の魔石も全て外したのか?」
「はい。それは問題ありません。これでここにある魔動車は鉄屑同様です」
なら、あまり心配しても仕方がないだろう。私はそう自らに言い聞かせる。
確かに武装魔動飛行船に、まだどこかに動力となる魔石があるのかもしれないが、それだけでは役に立たないはずだ。何より積み込んだ爆弾などは全て回収したのだから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「相変わらずクラディも甘いんだから……」
侍女長アウニ・リハヴァイネンさんから報告を聞いて、すぐに屋敷周辺の警備を厳重にするように伝えた。
「お体は大丈夫なのですか? まだ時間も経過しておりませんし……」
「それなら大丈夫よ。回復魔法だってその為に使ったのだから。それに、あなたたちの中にはいないのよね?」
「少なくとも、元からお仕えしております私達にはおりません。ここに移ってから雇った者で、怪しい者は既に隔離しております」
クラディに立ち会ってもらえなかったのは残念だけど、今はそれどころじゃ無い。私に出来る事をしないと。
「イロにこの場は任せるように言っているわ。私はクラディが設置したあの魔道具を起動させる事にします。それと武装魔動飛行船の事は知られていないわよね?」
首肯する事で私は安心した。とにかく出来る事をしないと。クラディばかりこれ以上負担をさせる訳にはいかないもの。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「クラウディア様。撤退準備完了しました。本当によろしいのですか? 復旧にかなり時間がかかるかと……」
「むしろ僕はチャンスと考えているんだけどね」
「なぜです?」
「ここしかなかったから、他の所を開発する構想が出てこなかったんだから、逆に無くなれば他に作らないといけない。それにここで相手を止めないと、次に作戦を考える時間が無くなるからね。今は時間を稼ぐ必要があるし。僕はこういった作戦とか立てる事が出来ないから。だからペララさんには期待しているんだし」
「分かりました。ご要望には最大限お答えするのが、我々の努めです。それと、彼女に関してはどうなされるおつもりですか?」
「僕としては、正直これ以上は近くにいて欲しくないんだけど、それも難しいよね……。彼女から内通者とかの情報は得られそう?」
ペララさんは少し考えてから、厳しい顔をして否定した。
「とりあえず拘束はしましたので、後は同じ内通者が他にいないか観察するしか無いかと」
「うん、それで良いよ。今は撤退を最優先で。じゃあ、始めようか」
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