第一四十話 武器開発って面白い
2016/05/26 車やエンジンなどの指摘がありましたので、内容の修正を行いました
2016/05/27 再度指摘を受けましたので、内容の一部修正を行いました
2016/05/28 再編集と画像を付け加えました
アホな貴族の相手をするのに、今の領地にはまともな武器がない。
一応、一緒にこの領地へ来てくれたエルフで元上級一等騎士の、オッリ・ペララさんが指揮する、いわゆる貴族の私兵はあるけど、ペララさんが集めてくれた王都にいた人達などを含めても、その数は全部で二十人弱。当然これだけで戦力になるほど、世の中は甘くない。むしろこの人数だと、僕らの護衛で通常は精一杯だ。
それと、ペララさんが募集して任意で集まってくれた領地の人達で、一応は防衛隊? みたいな物を編成してはいるけど、元々千八百人ほどしかいない所という事もあるし、集まったのは三十人ほど。それにこの人達はまだまだ訓練途中だし、正直戦力として数えるにはまだ早いみたいだ。
そうなると当然、今いる人達以外で戦力を増強するか、今いる人達の装備を調えるかの二択になるかなと思う。そして安全性を考えたら、やっぱり後者しか事実上の選択肢はない。
「ふーん……それで作ったのが、この魔動装甲車なの?」
試作で作ってみた装甲車の事で、ベティが首を傾げている。
「人がいないから、物を充実させようというのは分かるけど、正直これを何に使うのか分からない……というより、クラディって作る時に規則性がないと思うの。車なら車を集中的に作れば良いのに、車に鉄道や飛行船だとか、規則性が全く無いわ」
それを言われると正直困る。思いつきで作っているのは、エリー達にもバレているし。
ベティが言ったのは、見た目は前世でいう所のSUVみたいな形をしている、最大八人乗りの車。車輪はゴムが見つかっていないので、色々試行錯誤した結果片側五輪の十輪式と、クローラー式の両方を作成。クローラーとは戦車なんかに付いているアレだ。クローラーの事はあまり理解してもらえてないと思う。今後の課題かな?
それぞれ表面と接地面はミスリル装甲で作っていて、乗り心地の悪さを改善するのに空気圧式魔動サスペンションを使用。十輪式は滑り止めのために取り外し可能な形で、車輪には細かく作ったチェーンを巻いている。
まあ、当然その為に十輪式は走行音がかなり五月蠅い。実質装甲車みたいな仕様。実際にミスリル合金装甲だしね。クローラー式の方が普通は五月蠅くなると思うんだけど、そっちの方が静かに感じるくらいだから。
窓は前のフロントガラスと運転席、助手席にそれぞれ取り付けていて、ミスリルを編み目にしたネットを作り、それをガラスで挟んだものを四重にしている。一番外側にはオリハルコンを同様に加工したものを使用。少なくとも剣や槍、弓では破壊不可能な事を既に試した。残りはとりあえず窓にせず、用途に合わせて仕様変更が可能にしている。
一番苦労したのは動力。何せ飛行船に使った空気誘導式の魔動エンジンは使えない。鉄道は大きさがあったのと、レールの上を走るので抵抗が少なく、今さらだけど考えてみたら案外動力としては小さいと思う。
それで考えたのが、前世で一般的だったと思う直列式の魔動エンジン。ただし魔法の力を使うので、魔石からエネルギーを取り出し、魔方陣で高圧空気を出す形にした。外からの吸気も一応行っているけど、魔方陣である程度は空気を発生させられる。吸気をした方が効率が高いし、魔方陣も吸気を受けた方が出力が高くなるから。
でも、なぜ空気がなくても一応空気を生み出せるのかは謎。質量保存則に反していると思うんだけど、魔石からエネルギーを取り出した時に、そのエネルギーが空気に変換されているのかな? 計測した事もないし、そもそもどうやって計測したら良いのか、具体的な方法が見つかっていないので、今後の研究課題。
新型の魔動エンジンは、十輪式の場合で前のボンネットの中に配置。僕以外でも作れるようにした結果、エンジンがかなり大きくなったのは難点だけど、それでも『車のボンネット』には収まった。僕が作れば少なくとも三分の一のサイズにはなるけど、一応技術者なら誰でも作れる事が目標だったし。実際横幅二M五十Cもある車幅の中に、横幅二M三十五Cの魔動エンジンを組み込む事になった。
シリンダーは円筒形が一番良いとは思うんだけど、技術的に作成が困難。僕自身は魔法で加工が出来るのだけど、他の人たちは円筒を正確に作る事が出来なかったので、仕方なく真四角とした。一辺が四Cの正方形に、高さが十Cの物を八気筒。これは十輪式の場合で、クローラー式の場合は前後に同じ魔動エンジンを積む事になった。クローラーで摩擦係数が高くなり、正直言って馬力が必要だったのと、左右のクローラーを別々に動かす事が現状一つの魔動エンジンで出来なかったから。なのでクローラー式は後ろにもボンネットがあるような形だ。床下に魔動エンジンを積む事を現在検討中。
摩擦を減らすためのオイルもないし、パッキングの素材となるようなゴムもない。なので空気がどうしてもかなり漏れてしまい、実用的な馬力を出すのに、十輪式でも八気筒がギリギリだった。
一応出来るだけ試した結果、一つのシリンダーで二十馬力は出たはず。その検証にも時間がかかったけどね。
シリンダーの最上部に魔方陣を組み込み、そこから超高圧空気を発生させる。その力でシリンダーを押して回転させ、排気管から空気を出す形。燃焼がないので環境には優しいかな? その代わりに空気の漏れる音などがかなり五月蠅くなって、結局その対策はあまり出来ていない。今後の課題だと思う。
重量が装甲も付いてかなり重くなった車体を、一応八人乗って馬の倍くらいの速度で走る事が出来る。本当なら時速にして二百キロくらい出ればと思ったけど、この世界の速度で換算したとしても、今のエンジンのサイズだとこれが限界。
本当は五人乗りでも良かったかなと思ったのだけど、その辺は兵士をある程度纏めて輸送したいという希望もあって、かといって普通のトラックだと襲撃された時の不安があるので、実質的な装甲車となった。これなら最初から箱形の方が良かったと今さらながら思っていたりする。
もちろん余計な装甲を取り外せばバスに使えるエンジンとなったので、今後はこのエンジンをバス用に転用するつもり。正直前回作った車用の魔動エンジンだと、出力が弱かったみたいだったし。
現状では前世の自動車サイズの車は、まだ作成困難だと思う。だけど大型のトラックやダンプなどは要望もあったりしているので、気筒数を増やした形で対応出来ないか検討中。特に鉱山では幅が四Mでも構わないので、十二気筒の魔動エンジンなんかは出来ると思う。
それでもいわゆる普通車に使える魔動エンジンを諦めるつもりはない。馬車にはどうしても馬を飼育するというコストがかかり、それは現状成功している各種魔動エンジンよりも、ずっとコストはかかる。何せ魔石を使った魔動エンジンのコストは、馬一頭どころか、それを操る御者よりもコストが低いのだから。
もちろん小型自動車を開発すれば、さらに馬車の需要が減る事は分かっているんだけど、その為に今まで馬車の御者をしていた人を、魔動自動車を操作する訓練もしているし。
それでもシリンダーから空気が過剰に漏れるのは効率が悪すぎるし、今も対策を検討中。せめてそれなりの粘度がある油状の物でもあれば、かなり改善するんじゃないかとは思っているけど、今のところはまだ試行錯誤中だ。それなりのエンジンを作るとなると、今後はオイルかそれに代わる物を早く見つけないといけないな。
「新しい魔動エンジンで動く車で、装甲付き。さらに最大で八人まで乗れる。馬のように疲れる事もないし、燃料は僅かな魔石を用いるだけだし、交換すれば壊れるまで走行可能。まずは陸上を移動するために必要不可欠だと思うんだけど?」
「必要かもしれないですけど……過剰装備の気が……。それにクラディって、何か作る時には周囲が見えなくなるわ。私はそれも可愛いと思うけどね?」
「それは言わないで……」
実際、途中でこんな物本当に必要なのか分からなくなったし。
そこへベティが僕の口の中へ舌を入れてくる。いわゆるナニをしている最中なんだけど、どうやらベティは僕がこうされていたりすると一番無防備だって分かってやっているらしい。それにあがなえない僕も、正直どうかと思うけどね。
ベティが楽しむように僕の口内を舐めるけど、僕はなされるがまま。こういう事に弱いんだなって思う。しばらくして彼女がようやく口を離してくれた。
「クラディって、本当にこういう事に弱いわよね」
「うん……」
多分僕は今頃、目が蕩けちゃっているんだろうな。
「強化装甲を付けたミスリル合金の鎧も出来たし、魔動装甲車には遠距離からの攻撃手段も付けたんだよ?」
「あの鎧は凄いわよね。今までの鎧より四分の一ほど軽くて、さらに動きやすいのに今までの鎧よりも硬いんだから。今までの甲冑が意味を失うんじゃないの? 見た目は普通の甲冑とさほど変わらないでしょ。一応試作した物は目立つように赤にしたみたいだけど、あの色は意味があったの?」
「理由? そんなの……無いよ?」
と言ったけど、実は前世の某ロボットアニメから思いついたりしている。説明するつもりはないけど。
「あの合金装甲は、まだ僕以外ほとんど作れないから、それはまだ無理だって。でも、加工は他の人が出来るから……」
実際に合金の配合率も教えたんだけど、どうしても合金にする際に、細かな物を均一にするのが難しいみたいだ。他の人が作ると、今のところ高くても成功率は一割もなかったりする。そんな状態だとまだまだ僕が作る必要があったりする。一応僕や一部の人の魔法で再度原料に戻す事が出来るし、研究は今後もしてもらう事になっている。
今度は耳を甘噛みされるけど、僕はされるがまま。しばらく水音がして、やっと解放してくれる。
ちなみに僕の弱点は耳だったりするけど、エルフやその眷族は耳が弱いという事じゃない。エリーは胸だし、イロはアソコの部分。ベティは脇だったりする。
ついでだけど僕は攻めに弱いし、エリーはどっちつかず? イロも攻めに弱くて、ベティーは攻める側。何故かいつの間にかそうなっていた。
「それと、あの銃は凄い発想だと思うわ。弾丸の底部に魔方陣を刻んで、そこを専用の魔法雷管で刺激するだけで撃てるんでしょ。見たけど、普通の鎧なら一発で貫通じゃない」
「僕らに敵意を向ける人達に、容赦しても仕方がないでしょ? 今までそれで苦労したしね。付け加えると、ちゃんとこっちで作った銃でない限り、あの弾は発射出来ないんだ。その為に専用の魔法雷管を作成したんだし」
色々あったけど、やっぱり話し合いで全て解決するほど世の中は甘くない。なので力には力で対抗するしかないけど、僕らはそもそも人数不足。なので銃を開発した。
基本は直径一Cと二Cの二タイプがあり、それぞれ単発、連発可能型、機関銃型を用意している。一Cはおおよそ一センチくらいの大きさだと思う。一Cはともかくとして、二C型は反動がかなり大きくなったので、固定式での運用。魔動装甲車に取り付けるか、地面に据え付けて運用する事などを目的としている。
機関銃というか、二C型は前世で言えば二十ミリ相当の弾丸なので、機関砲みたいな物に近いと思うんだけど、機関銃のように撃つ時には専用のベルト式弾倉も試作した。現在も運用検証中だけど、多分大丈夫だと思う。ベルト以外にも弾倉を装着出来るけど、その場合は段数の制限が多い。
「でも、音はそんなにしないのね。あと、あの勝手に動く鎧は何?」
「あれは魔石を動力とした人形というか、ゴーレムで通じる?」
「ゴーレムって、確か失われた技術でしょ?」
「うん。それを再現した訳じゃないけど、僕なりに人の命令で動く、こっちに人的被害が無い方法を探しているんだ。まあ、人と同じように動くにはまだまだ難しいね。というより、まだ自立した動作は無理だし」
前世でも二足歩行ロボットを作るのに苦労していたみたいだけど、どうも重心を上手くコントロール出来ない。四足とかなら問題ないと思うけど、出来れば二足歩行の魔動ロボットを作ってみたいから。
魔動ロボットは別に兵器として作りたい訳じゃない。人が作業するのに危ない場所や、農作業の代理とか、人手不足を解消するために完成させたい。極力普通の人と同じ物を扱える事を前提に考えているから、やっぱり関節とかが問題になったりしているし、ある程度自立型で動くのにどうすれば良いのか模索中。ちなみにこれは僕だけで開発している。他の人の手を借りれば解決できるところもあるかもしれないけど、どうしても大本となるコントロール制御は僕が開発したいから。
それに農作業などは新型魔動エンジンが完成したので、超大型魔動コンバインとか、超大型トラクターを試作してもらっている。完成すれば一気に生産力が上がるはずだ。
「じゃあ、まだまだ完成はしないって事なの?」
「いくら魔法を使っても、限界はあるよ。これが……って、話している時に、耳は……」
どうやらベティは耳を甘噛みしたり、舐めるのが好きらしい。
「ふふ、続きをどうぞ」
「全く、もうっ。僕の前世だと、火薬っていうのを使っていたんだ。それだとかなりの反動が出るんだけど、魔法だと想像していたよりも小さいんだよね。ただ弾がやっぱり大きいと重いから、二Cのは携帯式には出来ないかな。ところで、ちゃんと前にこれは説明したよね?」
「クラディって、こういう時は無防備だから、教えてくれていない事も話してくれるでしょ?」
「それはちょっと酷くない?」
そう言ったら、いきなり口を塞がれた。彼女の舌が中に入ってくるけど、なされるがままにする。しばらくしてやっと堪能したのか、ゆっくりと唇が離れた。
「私だって使いたい権力は使いたいの。前に、私の家族は他の所から移り住んできたって言ったでしょ?」
「そうだね」
「実はその場所って、隣にある領地の中にあるの。前に聞いたんだけど、税が重くて逃げ出したって言っていたわ。最初はそんな事教えてくれなかったんだけどね?」
なるほど、彼女なりの復讐なのかもしれない。
「その他にも、色々武器を作っていたわね? あれはもう使えるの?」
「まだテストが終わっていないのもあるから、もうちょっと先かな?」
実際にバズーカ砲やロケットランチャーも作っている。弾は熱誘導弾も使用可能だ。もちろん全部魔法を使っているけどね。
他にも試験的に飛行船用の爆撃システムやミサイルも開発中。最初は武器への転用を躊躇ったけど、現実問題として敵対するならこちらも対策するしかないし、魔物を狩るのに空中から一気に面制圧するのは手っ取り早いというのもある。もちろん飛行船を飛行型の魔物などから守るために、ミサイルやレーザーモドキなども開発中。
「期待しているわ。あと三ヶ月もすれば、私も避妊しなくて済むし、正直エリーやイロが羨ましくなってきているの」
種族によって妊娠期間が違うので、どうしてもベティは調整しなくちゃならない。それでどうやらストレスが溜まっていたらしい。
「分かっているつもりだけど、そんなに?」
「クラディは、乙女心がやっぱり分かっていないわ」
そう言ってから、また口を塞いできた。
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