第一三八話 領地の地図を作ろう(五)
最近会話文が少ないと思うこの頃……
「それでは調査飛行船『サヴェラ号』の進空式です!」
その合図と共に、一体どこから来たのか、楽団が演奏を始めた。ちなみに曲は国歌らしいのだけど、歌った事どころか聞いた事もないので、これが初めてだったりする。
進空式なんて名前が付いているけども、単に進水式の空バージョン。飛行船が初めて作られて、それが初めての飛行となるので、何だか式典が開かれる事となった。
そして本来無人で行う調査だったのだけども、色々と回避出来ない理由が重なって、今は有人仕様に変更。まあ事前に安全性は十分以上に確認したんだけどね。おかげで建造が二ヶ月ほど遅れたけど、それは何だか織り込み済みだったらしいので、文句は出なかったのが救い。
それで初代船長に任命されたのはマルティン・アルマハーノというオーク族の男性。
オークというと太っているっていうイメージが付きがちなんだけど、彼はガリガリに痩せていて、周囲からも『大丈夫?』なんて言われているくらいの人。でも健康は全く問題ないらしい。むしろ太らない事に悩んでいるのだとか。
彼が選ばれたのは元々船乗りだった事と、その経験年数が二十年を超えるベテランという事。さらに技術者としてもそれなりに知識があって、今回の建造にも多少携わっていた事などが考慮された結果。
じゃあ僕は調査に同行するのかと言われると、結局どうこうはしない事になった。まあ、ほとんど調査については自動化しているので、実際のところ飛行船を事前に渡した地図の通りに移動させてもらえればそれで解決。
多少議論があったんだけど、記録結晶は一度だけ記録した物を次々と交換する事になった。実はその方がコストも安いってのもある。その代わりに使用するのは僕が作った人工魔石。一辺が十C四方の物を大量に生産して、記録が終わった物がベルトコンベア方式で次々と外されていく。一つに記録されるのは一K四方なので、多分前世なら一キロ四方くらいかな? 一応上下左右が百Mずつ重なるように撮影されるはずで、事前の実験では成功している。
演奏が終わり、最後に巨大なクラッカーが飛行船に向けて鳴らされた。この世界では進水式の時にシャンパンとかを船体にぶつけるのではなく、クラッカーを船体に向けて放つらしい。付け加えると、クラッカーがちゃんと鳴らないと不吉な事が起きるというのは、どこか前世と似ている。
クラッカーがちゃんと大きく鳴って、中から大量のテープが出てくる。とりあえずこれで安心かな?
後は地図がきちんと出来上がるだけだし、一応今回はこれで終わりだと思う。むしろここからが大変な事もあるんだけどね。
王国からこの飛行船についての問い合わせがあって、いくつかサイズが異なる物とかを含めて二十隻の建造依頼が出た。
建造に必要な物で、この土地ですぐに用意出来ない物は王都から送られてくる事になったので、建造する事自体にはさほど面倒は少ない。むしろ今回の建造に携わった人が、さらに技術を積み重ねる事が出来るみたいで大喜びだけどね。
「クラウディア様、一言お願いします」
アルマハーノさんが出航前に僕の演説を求めてきた。もちろんちゃんと原稿は用意してあるし、それを読むだけだけど。やっぱり最初ってこんな時は大事らしい。
演台に上がって僕は決まり通りにそれを読み始めるけど、それを聴いている人達の視線が眩しく感じる。うーん、確かにこの世界では初めての物かもしれないけど、こういうのはどうも緊張して慣れないんだよね。
それでも何とか原稿を読み終えて、みんなに手を振ると大歓声。まあ、これはこれで良い物かも?
アルマハーノさんが僕に一礼して飛行船に乗り込んでいく。今回は全部で十二人が乗り込んで、地図作成の他に飛行船のテストとか色々と試す予定。良い報告が来てくれると嬉しいな。
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