第一三二話 やっぱりお米も食べたいな
最初の麦の収穫が終わり、その畑には輪作を行うためにカブが植えられている。ちなみに春蒔きの小麦はもうすぐ植えられるし、その麦の種類は五種類ほどあるらしい。少し離れた所では灌漑設備が十分に整ったので、小麦や大麦など麦系統の作物が、色々と試験栽培もされている。
輪作を行うのに、カブ以外にもトウモロコシやタバコなど数種類が植えられているそうだし、この世界でもタバコは嗜好品として好まれているのは同じ。土壌の性質を把握する目的もあるので、いくつかの作物などを試験的に栽培するのも悪い事じゃないし、食料として使用したり、嗜好品として使用する以外の茎などの部分は、畑に栄養として戻される。
てっきりパンに適しているのは小麦だと思っていたので、僕自身以前は知らなかったのだけど、ここの世界の人達は大麦もパンとして使う事がそれなりにあるらしい。ただ味は好みが分かれるので、大量生産されるほどではないし、食料品というよりはお酒の原料として使われる事が多いみたいだし。食料品としてはパンの他にも粥状にして食べる事も多いみたい。僕らが食べ方に口出しする事はほとんど無い。そんな事をする必要なんて、相当無駄な事をしているなら別だけど、そうでない限りはここの人達に任せたいし。
一度大麦から作られたパンを食べてみたけど、個人的に味は気にならなかった。むしろ毎日は分からないにしても、味としては好きかも?
お酒として加工する際の酵母やポップ……いわゆるビール系統のお酒ももちろんだけど、蒸留酒もそれなりに生産されていた。やっぱりお酒のような嗜好品は、どんな世界でも欠かせないんだと実感。
それと麦を脱穀して残った物は、そのまま馬などの飼料にするのはもちろんだけど、多少発酵させて畑に肥料としても使っている。畑の質を落とさないためにも、こういった事は重要なはず。
そんな中、それなりに南に行かなければならない場所ではあったのだけど、米が少量だけ栽培されていた。どうやら灌漑設備とか色々な要因が重なって、量産するほどには至らなかったみたい。それに元々自生していた品種らしいし。
たた僕としても米は食べてみたいし、せっかくだからと人を送って米の栽培も本格的に始める事にした。主食となる穀物は、種類を多くして困る事はないと思うし、比較的領地が広いのも幸いして、様々な作物を栽培可能なのも利点だ。
少なくとも品質はさておき、米が栽培可能となれば、当然米だって積極的に栽培したい。他に反対意見もなかったし、元々米が半自生している場所の周囲を大幅に開墾して、米の試験栽培も大規模に行う事に決定。食生活に幅が広がると言ってみたら、反対する人などいなかった。まあ、すぐに収穫出来る物でも無いし、育成状況などを見てもらいながら、半年程度経過したらお米も食べられるかなと思うと、ちょっとワクワクする。
当然エリーとイロがしばらくお休みなので、この辺の陣頭指揮は僕が担当。
色々と移動する事が多くなったので、僕としても新しい車の開発をしたいなと思っている。前世でいう所のピックアップトラックみたいな物を作りたい。あれなら収穫した作物も、多少なら持ち帰る事が出来るしね。
それにしても、これまで実質上の棄民地だった為か、よくよく調べるとかなり有望な穀倉地帯になるのかもしれない。ここに集められた人達の事を考えれば、それが出来なかったのは仕方がないにしても。その為にも早く農業改革を行いたいし、それはここに来た僕らの役目だしね。ここの人達の運命は、僕らにかかっているんだから。
基本的な事は、イロやベティに任せていた所もあったけど、二人では手に余る事があったのも事実。もちろんそれを僕が責める事なんて無いし、むしろそのノウハウを二人にも少しずつ覚えていって欲しい。やっぱりミランダと会ったのは、僕にとって色々と役立っている。それを使わないなんて無駄でしかない。
「それで、こんな大規模な開発したの?」
今日は水田開発という事もあって、どうしても灌漑設備は必要。それでベティにも同行してもらったし、他に数人のメイドさんや作物に詳しい人も同行してもらっている。かなり大規模に僕が開発したので、ベティは驚きを隠せないみたいだし、これは仕方がないと僕だって思うし。
ベティには、主に水路とかを用意してもらっているんだけど、水田は面倒だから僕が一気に形を整えた。試験栽培の域を出ないけど、それでも見渡す限りの水田が広がる。後は僕とベティで協力しながら、灌漑設備を準備している最中だ。僕が手伝っている時点で、水田の設備は恐ろしい速度で広がっているんだけどね。
「まあ、僕が食べてみたいってのもあるけど、作物を一つにしてしまうのは危険だと思うからね。何かの拍子で作物が病気に冒されたら、それこそ大変な事になるし。複数の作物があれば、それは最小限の被害で済むと思うから。あと、ここの領地だけでも食料改革とでも言えば良いのかな? 作れる作物は色々作って、最適な作物が何か調べたいし」
「それなら納得ね。確かに作物の病気対策は理解出来るし、食べ物が増えればみんなが喜びそうだし。もちろん私もよ?」
そう言ってベティはちょっと微笑んだ。
「課題は多いけどね。僕らはここの土地の事を把握していないから、試行錯誤しなきゃならないと思うから。もちろん無駄な所も出てくるのは避けられない」
「それは仕方がないわよ。最初から何でも出来たら、苦労しないわ」
「そういえば、ベティもだいぶ僕らと緊張せずに話せるようになったみたいだね?」
それはその……と言って、ベティはちょっと言葉を濁した。まあ、本人が率先的に話したくないなら、僕としても無理に聞こうとは思わないし。少しずつ慣れてくれればそれで構わない事だから。
「どうしても、エリーとイロみたいに私は出来ないわ。今はクラディだけだからこんな会話も出来るんだけど……。もちろん私の立場を考えると、多少は慣れないといけない筈なんだけどね」
「無理はしないでよ?」
「うん……」
実際は僕らの周囲にメイドさんとか色々いるんだけど、そこまで気が回っていないのかな?
まあ、早く慣れてくれると僕も嬉しい。
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