第一三一話 待望の! そして相変わらずの面倒な事
2017/09/12 誤字の修正を行いました
やる事はやっているし、結果が出ないと周囲……というか、主に王家とかその周辺なんだけど、そっちから『まだか?』なんて言われる。もちろんそれは、僕らの後継者になる人。即ち僕らの子供。ついでに跡継ぎは出来るだけ『男子』と念を押されている始末。
領地開発に忙しい事は分かっているはずだし、出来るだけやるべき事はやっていても、やっぱり子孫を残す事は貴族として当然と言われたら反論出来ない。
そもそも貴族は子孫を残すのが責務と何度も言われれば、流石に僕だって何も言えなくなる。それがこの国の最高権力者だったりしたら、余計に。
「クラウディア様。エリーナ様方がお呼びでございます。至急お越し下さいとの事です」
メイドさんの一人に言われて、エリーの執務室に向かおうとすると、メイドさんから違う部屋を指示された。しかも既にイロやベティもその部屋にいるらしい。一体何があったのか気になる所だけど、とにかく指示された部屋へと向かう事にする。そしてそこは普段使われる事があまり無い、僕らのプライベートルームの一室。メイドさんは扉を開けると、中に入る事もなくそのまま扉を閉めてしまった。文字通り僕ら四人だけだ。
エリーとイロは丸テーブルの奥にある椅子に腰掛けて、何だか笑っているように見える。ベティは僕が来たのを確認して安心したのか、ちょっとニッコリとしてから横の椅子に座った。
「クラディ、ありがとう」
突然エリーがそんな事を言ったので、何の事かと思って首を捻る。しかもエリーの顔は凄く嬉しげ。
「妊娠したのが分かったわ。ついでに言えば、イロもね」
「あ……お、おめでとう」
他になんと言葉をかけて良いのか分からなかった。何だか実感が無い。そもそも前世では結婚どころか恋人だって出来なかったんだし。女性との付き合いというと、病院の看護婦さんとかの女性職員が、入院中に来てくれるくらいの程度。あれはあれで仕事だし。
「クラディって、やっぱりちょっと抜けているわよね」
イロがそう言ったけど、僕には反論出来ない。言わんとする事は分かっているつもりだけど、それを否定出来る知識すら無い気がする。
「クラディ、座って?」
ベティが優しく声をかけてくれる。僕はそのまま前へ進み、空いている席へと座る。三人が僕を見ているけど、その目がとても優しげなのが逆に変に感じる。
「後は私だけですよ?」
一瞬ベティの言っている意味が分からなかったけど、いつまでも分からない訳じゃ無い。
「それでクラディに言っておかないといけないのだけど、私とイロはしばらくお休みを取るわ。安定するまでは無理しちゃダメなの」
言っている意味は分かるけど、同時にその意味を理解したくない僕がいる。それって僕の仕事が今以上に増えるって事だし。
「それでクラディ。ベティも寂しいと思うからね?」
イロがそんな事を言うので、思わず俯いちゃった。正直恥ずかしい。
「でも、仕事に関しては冗談抜きよ? 私とエリーはしばらく安静にするよう言われているし、ストレスが溜まるような事も、出来るだけ控えるようにって言われたから。だからクラディがその分頑張ってくれないと。もちろん全部私達二人の仕事をクラディがやらないといけない訳じゃないけど、ある程度はやってもらわないと」
「そ、そうだね。分かった。出来るだけ僕も頑張るよ。そ、そ、それと、ベティは……」
「私は気にしませんよ? それに私の立場だと、下手に先に産んでしまうと問題が……」
「問題?」
「エリー様とイロ様より先に出産すると、場合によってお家騒動になるらしいんです。ほら、この国ってエルフが治める国ですから。いくら私も貴族家に名を連ねたとはいえ、やっぱり長子が家を継ぐのが一般的ですし、そうなるとエリー様とイロ様より先に産んでしまった場合に、問題になる場合があるみたいなんですよね。なので今まで秘密にしていたんですけど、あの薬は使っていなかったんです。誤魔化すために体力保持の薬は服用していたんですけど。それと妊娠防止薬も使っていたので」
そう言ってベティが赤らめる。僕らは一応気にしなくても、周囲がそういうのを気にするのは仕方がないのか。どこまでも面倒だよな。
「それにエルフ族の場合の妊娠期間は、一般的に二十ヶ月前後とされているんです。私達クラニス族の場合はおおよそ八ヶ月程度なので、ちょっと寂しいですけど、それまではお二人が安定期に入って出産に問題が無いと確認出来るまでは、今しばらくは現状のままですね。まあ、クラディが私を求めてくれるのは嬉しいんですけど」
そう言ってからベティはさらに顔を赤らめて、俯いてしまった。
「クラディ。そういう事だから、こればかりはどうしようもないの。私とイロなら、先にどちらが出産したとしても問題は最小限で済むかもしれないから。それでも私が先に出産しろって言われているのよ?」
エリーに釘を刺されると、これ以上何も言えない。
扉がノックされ、入室をエリーが許可すると、メイドさん達二人がお茶と茶菓子を運んできてくれた。
「ご懐妊おめでとうございます。クラウディア様に今後負担が増えると思いますが、私達の方でも出来る限りお手伝いいたしますので」
バスクホルド子爵侍女となっているアウニ・リハヴァイネンさんが、隣でお茶を用意しているもう一人のメイドさんにお茶を用意させながら、再度僕に釘を刺した気がするのは気のせい?
どうもこの屋敷の中では、女性の比率が高いのもあって、僕って少し立場が弱い気もする。僕がハーフってのもあるのかもしれないけど。僕が気にしすぎているのかな?
「後ほどエリーナ様に代わって、クラウディア様にお願いしますお仕事の説明をいたします。本日については予定を全てキャンセルさせて頂きましたので、ここ最近皆さんお忙しかった事もあります。本日はゆっくりとなさって下さい」
これもメイドさん達とかの気遣いなんだろうな。四人でゆっくりと出来る機会がここ最近少なかったし。出来るだけ朝食と夕食は一緒にするようにしていたけどね。せっかくだから甘えちゃおう。
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