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第一二五話 自重? 開発には不要です!

 新たな町や村を作るとしても、もちろん僕一人でなんかする訳がない。色々な人に手伝ってもらうし、そもそもきちんとした建物の構造なんか、僕が知るはずもない。この世界に構造計算とか、そういった概念があるのか知らないけどね。ミランダの知識が間違いないなら、そういった事はあまり発達していなかったみたいだし。


 僕らがサヴェラ高地に来てから早二ヶ月。元々住んでいた人達のための、仮の住居はとりあえず完成した。流石にいつまでもテントというのは問題があるだろうしね。というか、問題しか思い当たらない。


 とはいえほとんどの住居は平屋。こればかりは急いで作ったので仕方がない。工兵の人達も昼夜問わずに頑張ってくれて、少なくとも住居だけは何とか解決。


 イロとベティに頼んでいた周辺の調査は、つい先日終わったばかりだ。どうやらサヴェラ高地は、本当に他の所とは孤立しているらしい。


 海と川、険しい山岳に囲まれていて、サヴェラ高地自体は大きな面積を誇っているみたいだけど、事実上僕らが入ってきた道以外には外部とのやり取りが出来ないらしい。その上、唯一渡る事が出来そうな川の対岸には、あからさまに高い柵が設けられていたそうだ。前にもちょっと聞いたはずだけど、その話はどうやら本当だったみたい。


 さらに悪い事に、どうやら僕らの事を良く思っていない貴族の妨害が続いているらしい。特に王都で色々な事をしているようなんだけど、ここから王都に行くにはそれなりに時間がかかるし、開発にもまだまだ時間がかかる。直接行けないのがもどかしい。


 まあそれでも、王都には何度か戻ったけどね。色々足りない物があるし、現地調達では賄いきれない物が多すぎ。なのでエリーと一緒に王城へ向かい、全部で四十台ほどの大型馬車を借りる事にした。半分は食料で、残りは建設物資だ。


 そして僕らが貴族という身分であるのに、現地で屋敷がないのは問題だという事になった。はっきり言ってそんな余裕は無いのに。


 それで僕が何となく提案したのが、王都にある屋敷の移築。もちろん最初は冗談で言ったつもりなんだけど、何だかあっという間に許可が下りてしまう。


 最初は屋敷を解体して、その後現地で組み立てるという方法が提案されたんだけど、流石に貴族の屋敷だけあって頑丈に出来ているし、その案はすぐに却下された。そして僕が思いつきでとった方法が、そのまま移築させる事。


 もう、とりあえず全て面倒だという理由で、屋敷の中で割れやすい物とかだけを運び出してもらってから、無理矢理魔法で土台から引き抜いた。もちろん出来ると思っていなかったし、周囲は大騒ぎ。


 土魔法と風魔法の応用で、建物の一時的補強と軽減を行って、僕は馬車に揺られながら上空に屋敷を維持しながら移動。途中で色々と騒ぎになったけど、出来ちゃった事は仕方がないし、周囲には僕らの護衛をしてくれる人達がいるので気にしない。気にしちゃいけない。


 魔法の袋に入らないか一応聞いたんだけど、そもそも魔法の袋に入れるには、その口よりも小さなサイズである事が前提なので、当然無理だって言われた。まあ、そんな気はしていたんだけどね。


 そんな滅茶苦茶な方法を用いて、王都から出発して十日後には屋敷をそのまま移築。土台部分は無理矢理下の地面をエリーに固めてもらって、その場に文字通り置いた。これで屋敷の問題は解決。一応置いた後に土魔法で土台を『接着』したので、問題は無いはず。この辺には地震もないらしいし。


 そんな事をしちゃったものだから、王都で必要なくなったけど、まだまだ使える建物を僕が同じ方法で移築する事になった。試してみたら案外出来るもの。大きささえ程々の建物だったら、最大で十個ほど一度に運べたりする。程々とはいえ、大きさは前世で言えばちょっとしたアパートなんかより大きいサイズだけどね。下手すれば小さなマンションサイズだ。


 おかげで僕らがサヴェラ高地に移動してから、四ヶ月後にはかなり立派な町がいつの間にか誕生。内装だけ手入れをすれば使える建物が多かったので、今ではほとんどの住民が引っ越した。


 さらに道は、原則として大型馬車が対向出来るように広い道を作っているし、大通りは中央分離帯こそ作らなかったけど、片側三車線の広い道。もちろん大型馬車を基準にした車線作りなので、小型馬車なら片側五車線には確実に相当する広さがある。車線も作りたかったけど、それは時間がないので後回し。僕だって色々忙しい。


 どうやら僕が色々やっているのを気にくわない人達が、このサヴェラ高地にちょっかいを出しに来ようとしていたらしいけど、その辺は王都から派遣された騎士や兵士の人達で完全に封鎖している。


 せっかく好きなように出来るんだし、正直アホな貴族に邪魔されたくないからね。


 それにしても、最近僕はもの凄く働いていると思う。まあエリーも交渉とか色々で忙しいし、イロとベティも新しい町を作るための準備に忙しい。どうやら僕の魔法を見ていたら刺激になったらしく、ここ最近かなり魔法が上達したって言っていた。


 そんなイロとベティには、新しく畑と水路を作る作業をしてもらっている。どうやらイロは土魔法の適性が高いみたいで、半分荒れ地になっていた畑を日に日に再生しながら新しく作っていた。食糧の確保は必須だし、畑を作るのは基本だと思う。


 基本的には土魔法で表土と下の土を出来るだけ混ぜながら、あらかじめ用意してある枯れ葉などの肥料となる物をさらに追加していくだけ。ただ面積が大きいので時間はかかっているみたいだけど。イロだと魔力の関係で、一日に出来るのは多分一ヘクタールくらいの面積だと思う。僕がやればもっと出来ると思うけど、僕は町の整備関係で大忙しだ。


 そしてベティは水魔法が得意だった。てっきり火魔法かと思っていたので驚いた。それと土魔法にも少し適性があって、ならばと水路を作ってもらっている。


 イロが事前に掘った水路をベティが魔法で固めて、そこに適切な水量が流れるようにする。土魔法で水路と繋がるせきを作ってもらい、今後利用しやすいように深さも整える。堰の高さも魔法で調整出来るので、現状はこれで十分。


 ベティの魔力量だと、一日に作業出来るのは幅が一(メントル)程度だとして、長さ百五十(メントル)が最大。水魔法だけだともっと出来るらしいのだけど、土魔法で側面を固めるのが結構大変らしい。逆に元々ある水路を深くするのは、水魔法の応用でかなり出来るらしく、幅が十Mくらいでも、長さは千Mくらいは作業出来るそうだ。


 二人とも何か魔法に開眼したのか、このところ凄く魔力の伸びが良い。もしかしたら遺跡探索に同行したのが良かったのかな? 少なくとも遺跡に行く前よりも魔力は上がっているらしい。


 水路については、本来なら板などで堰を作っても良いかなと思っていたんだけど、肝心な木材が圧倒的に不足している。いくら王都から建物を持ってきたとはいえ、全人口はおおよそ一千二百人。その他に作業で臨時に雇っている王都の人達も含めると、おおよそ二千人近くにも膨れあがっている。なので木材はとても貴重だ。


 しかも悪い事に森が近くにない。馬車で三日ほど行った先に森はあるのだけど、木材として使える木となると、さらに奥に行く必要がある。魔物は少ないみたいだけども、ソコソコ凶暴な動物もいるらしいので護衛は必要。そんな訳もあって、一度解体した木造の建物から木を再利用しているくらいだ。


 エリーは書類作業に忙しいので、最近はちょっと機嫌が悪い。元々僕と一緒で大きな魔法を使ったりするのが好きだったみたいだしね。だから鉱山を視察に行くと決まったら、書類仕事を投げ出してついてくると言ってきた。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 僕ら四人と、警護の人が四人。それから元々鉱山で働いていたという人を三人連れて、鉱山のある場所に来ている。元々魔物もほとんど確認されていないし、凶暴な動物も少ないらしいので、最低限の護衛にした。


 場所は、新しく町を作った所から馬車を使って西へ三日ほど行き、そこからさらに徒歩で一日かかる距離。途中から道が荒れていて、馬車は使えなかった。これは後で整備が必要だと思うけど、今日はとにかく鉱山の現状確認が優先だ。


「貴族様……その、こう言っては何ですが、何故鉱山を再開させないのですか?」


 これまで鉱山で働いていたという一人が問いかけてくる。まあ、彼らからすると鉱山で働かないという事はすなわち罰。なので、どこか恐怖を感じ始めたらしい。


「誤解しないように言っておくわね。鉱山をすぐに再開する予定はないし、あなたたちに罰を与えるなんて事もないわ。そんな事をして無理矢理掘っても危ないし、あなたたちは人間だもの。命を粗末にする必要なんて無いわ」


 こういった時はエリーが率先して話をする。あとはベティが話を引き継いでいたりもするんだけど、どうやらベティにはちょっとした心のケアみたいな事を直感的に出来る能力があるみたいだ。魔法などではなく、言葉で上手く安心させている所を見た事があるけど、たぶん僕には真似が出来ない。


「それにしても凄いわね……こんな所で働かせていたなんて」


 イロが周囲を確認しながら、目の前にそびえる断崖を見て呟いた。


 その断崖には梯子こそかけてあるけど、どうやら人手で横に穴を掘り起こしながら、出てきた鉱石を含めて全てを断崖から下に落としていたようだ。そしてそれらを人手で集めて、近くに建設されている精錬場へと運んでいたらしい。


 はっきり言って道と呼べるような物はほとんど無く、唯一僕らが通って来た所が道と何とか呼べる程度の場所。精錬場も人手だけで管理していたらしく、しかも魔法さえ使われていなかったのだとか。どうやら周辺には木々があったらしいのだけど、精錬に使う燃料として全て伐採されてしまったらしい。森が無くなる訳だ。


 坑道の入り口一つに案内してもらったけど、はっきり言って人が働くような所とは思えなかった。壁には所々金属製の輪や棒が埋め込まれていて、そこに鉄の鎖で作業する人達が繋がれていたらしい。輪は元々掘り出していた所で、坑道から最奥までは鉄パイプのような物が取り付けられている。


 一番最奥で二人がツルハシなどで掘り出した後、鉱石が含まれた石を即席で作られたとしか思えない四輪のトロッコ状の物に載せて、それを入り口まで押していく。作業する二人は首輪を嵌められていて、鎖で壁と繋がれていたそうだ。ノルマとなる量が掘り出されるまでは、食事と睡眠こそその場で出来るのらしいけど、外に出る事は出来なかったのだとか。


 トロッコを押す人は一人だけで、出口まで続く道を手で押してゆく。線路になるような物はなく、全て木で造られたトロッコを出口まで押していたらしいのだけど、その人もまた首輪と鎖で坑道の出口まで鉄パイプと繋がれていたらしい。一応鉄パイプを壁に接続している所は手持ちの鍵で一時的に鎖を外して移動出来るらしいのだけど、坑道の入り口には鉄製の柵が備わっていて、そこは原則として鍵がかけられていたのだとか。トロッコを出す時にだけ柵が開けられ、武装した人達が見守る中トロッコを外に出し終わるとすぐに坑道に戻される。そして空のトロッコがすぐに用意され、柵が閉められたそうだ。なので鍵を持っていても外に出る事は出来ない。


 食事を運ぶのはそのトロッコを押す人が担当して、その人も割り当てられた量が掘り終わるまでは、中から出る事は出来なかったそうだ。


 今見ている坑道は地上にあるから柵があるけど、高い所には柵がない。その代わりに普段は梯子が撤去されており、直接トロッコの中身を下に落としていたそうだ。常に見張りがいたらしく、当然逃げる事も出来なかったという。


 見ているだけで吐き気がするし、はっきり言って強制収容所や、強制労働所と言っても良いのかと思う。少なくとも普通の鉱山でやる事じゃない事は確かだ。


 そんな感じで横穴が無数にあり、断崖絶壁には数百の穴が見える。明かりも手渡される事なく、普段から暗闇での作業だったので、毎日どこかで事故が起きていたと言われた。


「もう、そんな事はしなくて良いから。もっと僕らがちゃんと安全な方法で作業出来るようにするし、そんな無茶な事は絶対にさせない。だから安心してくれないかな?」


 あまりに一緒に来た作業員だった人達が震えていたので、思わず優しく声をかけた。僕はすぐに護衛の一人に声をかけると、作業員だった人達を馬車に戻るように伝える。少なくともこれ以上心が壊れるような事をする必要なんか無いはずだ。


 元作業員の人達が十分に離れるのを確認してから、一緒に来た騎士……と言っても、いつものペララさんだけど、彼の方を向く。


「それで、ここをどうするかですよね?」


「まあ、そうなりますね。少なくとも今までのやり方はあまりに酷い。もっと良い方法があれば良いのですが、私は鉱山技師でもありませんし」


 ペララさんも流石に顔色が悪い。鉱山でそんな事が行われていたなんて、今まで知らなかったみたいだ。


「うーん、私も鉱山はよく分からないけど、これをそのまま作業するのは大丈夫なの?」


 イロが穴ぼこだらけの鉱山を見ながら言う。


「そうね。確かにこの状態で作業というのは危険な気がするわ」


「私もそう思います……」


 エリーとベティも同じく同意する。まあ、僕は方法を既に思いついているんだけど。


「それで、クラディにはもう方法が思いついているのよね?」


「やっぱりエリーは鋭いな。もちろん考えているよ。まあ、それをエリーやペララさんが許可してくれるかなんだけどね。結構大胆な方法かな?」


「勿体ぶらないで教えなさいよ。どうせクラディの事だから、吹き飛ばすとか言いそうね」


「正解だよ、イロ。もちろんその後に色々するけど」


 そう言ったら、みんなが唖然としている。これは理由を説明しないとダメだろうな。


「理由はいくつかあるけど、まずはあの坑道かな。あそこを掘っても作業効率が悪いし、何より落盤とかの危険がある。大事な人達をそんな目に遭わせる訳にはいかない」


「それは分かるけど……」


 ベティは不安そうにしているけど、まあ仕方がないよね。


「多分だけど、この山全体に鉱脈があると思うんだ。確かに鉱脈に沿って掘っていけば確実に鉱石を採取出来るけど、危険なのは分かるよね? だから山全体を掘る事にしようと思う」


「山全体をですか? とてもではありませんが、常識的な方法とは思えません」


 まあペララさんの立場ならそう言うよね。そもそもこの世界では使われていない方法みたいだし。


「簡単に言うと、山を崩しながら上から掘るんです。露天掘りっていう方法なんですけどね。確かに無駄な物も沢山出ますが、今回はむしろその方が好都合だと思います」


「好都合? 説明してくれる?」


「それはね、イロ。露天掘りで出てきた無駄な石材を再利用するんだよ。とにかく新しい町もそうだけど、色々と足りない物が多すぎる。当然石材もね。そこで崩した石材を再利用するんだ」


 それで再利用の方法を説明する。簡単に言えば一度石を溶かしてブロックを造り、それを建物に使うという方法。それ以外にも色々と使えるはず。まあ、その前にどんな成分の石なのかを調べる必要があるんだけど。溶ける温度で鉱石も分別出来るはずだし、精錬所をちゃんと整備すれば可能なはず。


 それから崩してしまえば落盤はしない事も説明。だって上から掘っていくからね。当然作業用の道も作るし、もっと効率よく掘る事が出来る道具も僕が作るつもり。前世の記憶とミランダの知識を総動員する事になるけど。ショベルカーとか、ミランダの知識もあって、今なら時間がちょっとかかるけど作れそう。掘削機だって作れそうだ。


 問題はゴムかそれに代わる物がある事かな? タイヤを作る事が出来れば作業がずっと捗るはずだ。その辺はもう少しこの土地全体を調べないとダメだ。とにかく必要な物がどのくらい手に入るかが問題かな。


 それに鉱山をきちんと整備したり、ここですぐに鉱石をインゴットに出来るような設備も作りたい。そうなるとそれなりに時間がかかりそう。今の精錬場だと効率も悪そうだし。


 とりあえず今思いつく事をみんなに話して、準備が出来てから鉱山の再開発を行う事に決めた。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。評価、ブックマーク、感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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