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第一二四話 サヴェラ高地

2016/05/03 誤字などの指摘がありましたので修正しました

 サヴェラ高地――噂には、不毛で住んでいる人も明日をも知れぬ命とか何とか言っていたんだけど……人の噂って当てにならないね。色々な意味で。


 現地に向かったのは、秘密の会合から一ヶ月後。当然その間に、境界を警備していた人達は全員が交代させられている。色々あったみたいだけど、それについては僕らは知らない。たぶんエリーは何か知っていそうだけど、話してくれないから僕らも聞かない。


 それで今はサヴェラ高地にある村まで来たんだけど……村というか、集落?


 建物というのも何だか正直間違っている感じの、前世の記憶で言えば竪穴式住居劣化版みたいな物がいくつかあって、その他にはあからさまな掘っ立て小屋。竪穴式住居みたいといっても、中に入ると外の光が天井から普通に漏れてくるし、明らかに雨漏りをしている跡がある。掘っ立て小屋も同様だ。


 とてもじゃないけど、村の体裁はない。集落としてもどうかと思うような状態で、一度住んでいる人達に集まってもらったら、はっきり言って目が死んでいた。実際病人もかなりいて、僕とエリーで治療をしたくらいだ。医薬品もそれなりに持ち込んだけど、すぐに使い切ったくらいだし。


 その集落の人口は大体百人くらいで、ここ以外にも八カ所くらいの集落や村があるそうだ。多くても人口は二百人くらいらしく、全体で何人かは把握していないらしい。


 それで僕らは急ぎ現状を確認しに行ったんだけど、どこも酷い有様。


 事前に村があるという情報などは聞いていたんだけど、どうやら入り口を守る兵士の排除に時間がかかっていたらしい。それで正確な情報を僕らに伝える事が出来ず、日程だけが来てしまったというのが事の真相。


 そんな訳でこのサヴェラ高地にいる人達を、とりあえず一つの場所に集めて住んでもらう事にした。だって村という名前が付くとこだって、まともな家なんかなかったんだから。そんな所に何時までも住んでもらうなんて出来ない。衛生環境もあるけど、このままだと食料の配布だって大問題だ。ならば出来るだけ一カ所に集まってもらった方が都合が良いし。


 僕とエリーが今後の方針を話すと、何だかアッサリとみんなから了承された。てっきり何か抵抗があるかと思っていたら、どうやら鉱山に近い所に住んでいる人は、そこでの強制労働まがいだったり、平地に住んでいる人は作物を育てる強制労働だったらしい。


 当然そんな状況では効率なんか良いはずもなく、しかも本人たちでさえ家とは思っていないような住処だったようで、僕らの提案はむしろ感謝されるくらい。僕らと一緒に来た兵士とか騎士の人達、その他鉱山技師や農業指導で雇った人達も拍子抜けしているし、今までが何だったんだ? といった顔をしている。


 どうやらこの地に連れてこられた人達は、元々住んでいた貴族領で悪い意味で目を付けられた人達らしかった。本人たちが何もしていなくても、それこそ知らない罪をでっち上げられた人もいるくらい。まあ、本当に王国に対して手紙を送った人もいるみたいだけどね。ただ、それが犯罪行為となるかと言えば、当然そんな事にはならない。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 そんな事があって二週間ほど。新たな領地を得た僕らは、新たな領民とテント暮らし。何せテントの方が快適な生活と言うくらいだから、元々の家がどうかなんて考えちゃいけないと思う。


 ついでに早馬で追加のテントと資材を送ってもらうように手筈もお願いした。そっちはエリーの仕事だけどね。それに総人口が約一千二百人程度とはいえ、やっぱり物資は極端に不足している事に代わりはない。


 僕は新たに区画整理という魔法でごり押しした土地開発。魔力が膨大な事を良い事に、とりあえず農地になりそうな所を専門の人に調べてもらってから、その近くに町を作る事にした。農地にはそれぞれ後で人を割り振る予定だし、そこにも家を建てるつもりだけど、今は全員がまともに生活出来る家を作る準備だ。


 イロとベティは、その間にサヴェラ高地全体の事を、他の技術者とか色々と引き連れてもらって、地図作りと土地の状態や川なんかを調べてもらっている。他にもそういった事が詳しい人達に依頼している。


 僕が開発している所にも川があるんだけど、そこは飲料水として汚染されていない事が分かっている川。鉱山に近い所は水や土壌が何に汚染されているか分からないし、その辺はイロやベティに注意した。


 こんな土地で生活出来ていたと思っちゃう。人が生活する土地じゃないって、これは……。


 設置している前に使ったテントは、状態を見てから普通は大抵は処分されるらしい。状態と言っても大抵はどこかしら傷んでいるので、実質的には全て廃棄処分扱いらしいんだけど。


 それでもまだ使えそうな場所は、綺麗な所だけを切断したりして布として買い取ってもらっているのだとか。中古の服飾品として使うには頑丈なので、冒険者の衣服としての需要が高いって聞いた。他にも頑丈な布のバッグとして再加工されているそうだ。


 そんなテントの方がマシに思えるんだから、まあ感謝されて当たり前になるのかな? はっきり言って感謝されるような事じゃないと思うんだけど……。


 本来なら一つのテントや天幕は小さい物で四人程度、大きくても十人程度の使用という事で配布されているんだけど、それは中で色々と仕切りがあったりするからであって、単に寝床だけで使うのであれば、四人用でも十人は軽く収納出来る。


 それでテントや天幕に関しては完全に寝る所として割り切ってもらい、その代わりにいくつか小屋なんかを即席で作ってもらった。即席と言っても作ったのは王城から派遣された熟練の工兵の人達。なので元々このサヴェラ高地にあった住居などよりも立派だし頑丈。それをとりあえずいくつか作ってもらって、これから必要となる物を整理したり、会議室や食堂などとしている。早急に必要なのは、食生活の改善。今の食糧事情だと、また病気になりかねない状態だったしね。


 実際僕らがここに来るまで、少なくとも毎月平均十人程度は色々な形で亡くなっていたらしい。流石にそれはもう容認出来ない。これは貴族の責務とか以前に、人間としての話。


 とにかく生活基盤を何とかしない事には何も始まらない。食料とかは王都などから運んでもらって、ここで栽培していた物は健康に害が無いか検査中。全部僕一人でも出来るけど、さすがに一人では時間が足りないし、この辺はやっぱり王城から派遣されてきた人に手伝ってもらっている。


 エリーはそういった人達のとりまとめ役。なんだかんだでバスクホルド子爵家の主人という立場だからね。いずれここはバスクホルド子爵家領となるみたいだけど、今はそれどころじゃ無いってのが本音。そもそも文字通り何も無いような所だし。


 とにかく元々いる住民を安心させないと、何も出来ないと思う。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

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