第一二三話 陛下への謁見と秘密の会議
王都への帰還から三日が過ぎて、僕らは王城に来ている。目的は陛下とバスクホルド伯爵との謁見。場所は謁見の間などではなく、どうやら防諜設備が整った部屋らしい。案内してくれたのはオッリ・ペララ騎士だ。
因みに王城に向かう前までは他の騎士の人達も一緒だったけど、陛下等々と会う部屋に向かう前に、他の護衛の人達とは別れている。どうやら関係者のみに出来るだけ絞るためらしい。
僕らが案内されたのは、謁見の間から少し離れた部屋。途中の通路も簡素な物で、普通に考えたら王族や貴族が使うとは思えないような所。重厚な石造りの壁が余計にそんな感じにさせるのかも。
「この先からは魔法を使えないようになっております。ただ、エリーナ様とクラウディア様に限って言えば、無駄な事かもしれませんが」
「無駄な事?」
エリーが不思議そうに言いながら、周囲の壁を見る。僕も見ているけど、特にこれといって変化はない。
「壁の中に対魔力結界が刻まれています。ただ、お二人の実力ならこれを壊す事は容易かと。結界とはいえ万能ではありませんから」
なるほどと思う。ゲームとかでいう所のバリアみたいな物が内蔵されているんだろうけど、あれだってそれ以上の力が加われば壊れる。そういう事なんだろう。
「僕らが壊す事はないと思うよ。壊した所で僕らに利点なんてないしね」
ペララさんが安心するかはともかく、危害を加えられるのでなければ無駄な事などしたくない。
「あ! 言われてみれば私の魔法が使えないです」
「ベティ、何か使ったの?」
「通路を照らそうと思って、火の魔法を。でも発動しませんでした。それに何だかここの通路は違和感があります」
エリーの指摘にベティが答えた後、他にも何か魔法を試そうとしていたようだけど、いずれも発動しなかったみたい。
「エリーは何か感じる? 僕は何も感じないけど。イロはどう?」
エリーは何も感じていないみたいだけど、イロはベティと同じく何かを感じ取っているらしい。さすがに魔法を使おうとまではしなかったけど。
一応ここの通路にはランプが取り付けてあるけど、正直言って暗い。洞窟とまでは言わなくても、足下が少し不安になる程度には。
「大丈夫ですよ。ここは特に厳重な守りがされていますから」
ペララさんはそう言ってから先へと進み出す。やっぱり今までの通路と変化は見られないけど、普通の人なら何か感じるんだろう。そんな事を考えながら少し進むと、真っ黒な金属の扉の前へ来た。
「ここです。一応お分かりかと思いますが、この部屋のことは元より、これから先の会話や見た事は全て他言無用です。くれぐれも肝に銘じてください」
そう言うペララさんの表情は真剣そのもの。思わず僕らは頷いてしまう。それだけ重要な事なんだろう。
「バスクホルド子爵家の方々をお連れしました」
ペララさんはドアをノックすると、そう言ってからドアを開ける。既に部屋の中には何人もの人が待っていた。てっきり陛下と伯爵だけだと思っていたのに、正直ビックリだ。これも秘密保持の為なのかな?
「挨拶は省略しよう。席に着きたまえ」
バスクホルド伯爵がそう言いながら、開いている四つの席を指す。僕らは素直に従い、ペララさんは僕らの後ろに立って控える形だ。他にも同じように立って控えている騎士の人が何人かいる。
「さて、揃った所で始めようか」
陛下――マヌ・ヘンリッキ・ラッシ・エストニアムア二世国王が開会を宣言するかのように席を立ってから言う。こんな時は普通陛下が言う事ではないと思うんだけど……。もちろんそのまま陛下は席に座った。ちなみにテーブルは前世で見た事がある、ごく普通の会議室にあるような、簡素なテーブル。実質本位だ。
「まずは例の者たちの動向です」
最初に挙手したのは、少し年配に見えるハピキュリアの男性。席の前のテーブルには、それぞれ役職と名前のプレートが置かれている。ガヴリイル・イリイチ・カルタショフ子爵で貴族院管理官らしい。王国の大臣クラスでも、能力さえあればエルフ以外の人も容認しているんだと思う。
カルタショフ子爵は流石貴族院の管理官らしく、特に何かしらある貴族については把握しているらしい。名前程度であれば、ほぼ全て把握しているみたい。この国の貴族だけでも相当いるはずなのに、それを記憶しているというのは凄いと思う。
それと貴族院には専属の諜報部があるそうで、特に怪しい動きをしている貴族に監視を付けているらしい。とは言っても貴族の屋敷にまで入る事は難しいらしく、主にその貴族が治める領地で活動をするらしいのだけど。
当然それだと核心的な情報まで抑えるのは難しいらしいけど、それでもおおよその事は把握出来ているみたいだ。話を聞いているだけで、何だか前世のCIAとかNSA、KGB……ソ連からロシアになって、名前が変わったっけ? みたいな組織を思い出す。まあ実際の所、そういった組織が本当は何をしているのかまでは知らないけどね。
「出来ればもっと情報を得たい所ではありますが、外部の者に対してかなり警戒をしているようです。現在町や村に在籍している者で、こちらに引き込める者を選抜している最中ではありますが、監視の目も厳しくあまり成果は上がっていないのが現状です」
報告を聞く限りだと、やっぱり王家に対してはあまり良い印象を持っていない事はすぐに分かる。ただ十分な証拠がないので、今の状況では王家やその下部組織になる所が手出しを出来る状況じゃないみたい。さらにそういった貴族家は、潜在的な所まで含めるとかなりの数になるみたいだ。陛下や他の要職に就いている人達の顔が強ばっている。
カルタショフ子爵の報告が終わると、次に軍務卿であるヨウシア・ニコ・リーッカネン伯爵が引き継いだ。流石に軍の事となると、エルフの人が選ばれるのかも。国防に関する事だしね。
「該当の貴族に関してですが、ここ数年国軍への派遣がほぼありませんな。あったとしても定員をはるかに割る数に留まっている。財務卿のマリネン伯爵もご存じだとは思うが、代わりの拠出金もほぼない。明らかに違反行為ではあるが、ゼロではない。そこがあやつららしい所でもある。これがゼロならこちらから調査目的で堂々と取り調べが出来るのだが、我が国の法では、少しでも拠出があれば調査が出来ない」
『左様ですな』と、財務卿であるエルフのキンモ・ヨルマ・マリネン伯爵が首肯する。どうやらこの国の法律にも色々と抜け穴があるみたい。しかもそれを上手く悪用している感じだ。財務卿がエルフなのも、やっぱり国家の根底に関わる事だからだと思う。それ以外では、それなりに他の種族の人もいるみたいだし。
「そもそもこれらの法律が制定されたのも、今から五百年以上前の事。その間に改正があれば良かったのですが……」
内務卿であるハルコアホ侯爵の隣にいる、ヴィーガント伯爵が答える。ハルコアホ侯爵はエルフだけども、ヴィーガント伯爵はウルフ族で内務省法務局長との肩書き。トップさえエルフであれば、その下の役職は他種族でも構わないという現れだと思う。
「どちらにしても、今回バスクホルド子爵家にはサヴェラ高地一帯に移封してもらう事になる。王として情けない話ではあるが、その分子爵家に対して出来るだけ便宜を図るつもりだ。反対の者はいるか?」
流石に陛下が直接言えば、反対者はいないみたい。皆素直に首肯していた。無論僕らも頷くしかない。これは決定事項なんだから。
「それでなのだが、まずは五年間の税及び軍務免除を基本とする。財務卿の方からも、予算を組んで援助の準備を始めて欲しい。他に何かこちらで打てる事はあるかな?」
すかさず陛下の隣にいるアールニ・アールト・エストニアムア王太子が付け加えた。すかさずすぐ側にいるバスクホルド伯爵が挙手する。
「あの者たちの行動を抑えるべきでしょう。警備をこちらの者で交代させるのが早いかと。流石に王命であれば彼らにも手出しは出来ません。それから彼の地の調査が至急必要でありましょう。警備さえ排除すれば、あの地の調査はさほど難しくないはず。そして彼の地を中心に子爵家の絶対性を確保すべきです。鉱石が運ばれている事からも、住民は一応生活出来ているはず。ならば彼らに確実な援助を行えば、こちら側に取り込む事も容易かと。むしろ例の者たちから排除された者たちが集められているとの噂が本当であれば、基盤さえ用意すれば説得は容易になるはずです」
「バスクホルド伯爵の意見を採用する。それぞれ必要な手筈を整えて欲しい。本来なら子爵家には、遺跡で発見できたことを報告願いたかったのだが、とてもその準備をしている時間はないであろう。報告については時間が出来た時に従者へ渡してもらえれば構わない事とする。四人には迷惑をかけてしまうが、こちらも出来るだけの事はすると約束する。今はこれしか言えないが、理解してもらえると助かる」
「いえ、とんでもありません。陛下のお心遣い感謝申し上げます」
すぐさまエリーが席を立ち頭を下げた。僕らも立とうとしたけど、すぐにエリーが手振りでそれを抑える。
「それで陛下、一つ要望なのですがよろしいでしょうか?」
「何だね?」
「私とクラウディアは、遺跡で精密な魔法を使える術を得ました。まだ練習は必要かと思いますが、その練習も兼ねてサヴェラ高地での開発許可を頂きたいのです」
実はこれ、僕が言い出した事。何が出来るかはまだ分からないけど、許可を取るだけならタダだし。それに上手くすれば色々と実験出来る気がするから。
「人的被害とそれに関する被害がなければ許可しよう。鉱山の開発でもするのかね?」
「それも一つは考えておりますが、まだ現地を見ておりませんので、今のところは何とも言えません」
そもそも住民に被害を出すつもりなんかない。そんな事などしても意味がないしね。
「うむ。分かった。必要な物などがあれば、後ほど担当者に掛け合って欲しい。出来るだけ希望に添うように伝えておく」
これで陛下の言質は取ったので、これで心置きなく色々出来る。もちろんやる事は成功させるつもりでいるけどね。問題はどんな事が待っているかかな?
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