第一一八話 巨大遺跡 十(魔力の放出)
2016/04/09 サブタイトルの話数番号が間違っていたので修正しました。
薬を飲んで一日が経過したけど、少なくとも体調に変化は無かった。ただ、魔法に関して言えば全く違う。
今まで着火の魔法なら何とかコントロール出来たけど、それ以外は出力過剰と言っていいような、でたらめな威力ばかりの魔法しか使えなかった。それがかなり威力を加減出来るようになったし、精密さも以前とは段違いだ。
ちょっと試してみたんだけど、よくみんなが言っている『ウィンドカッター』の魔法を放っても、木を一本だけ切り倒すことも出来るようになった。前ならどんなに加減しても、周辺の木々を纏めて吹き飛ばしていたから、それを思うとちょっと感動。ちゃんと魔法が使えるって、こんなに素晴らしい事なんだって今さらながら実感。
「何だか嬉しそうね。でも、本当に身体は大丈夫なの?」
「うん、特に問題は感じないね。まあ、もう少し様子を見た方が良いとは思うけど」
エリーはまだちょっと心配そうに見ているけど、事実身体におかしな所は感じられない。
「とにかく無理だけはしないでね? どんな事が起きるかまだ分からないし」
「それはもちろん。僕だって無理なんかするつもりは無いよ。ミランダの所には明日からまた行くけど、ベティも一緒だしね。何かあったらエリーにもすぐに知らせるつもりだから」
「それなら良いけど……」
「それより、地下で魔石になった人達の事は、今どうなっているの?」
「ああ、それなら今日からテストがあるわ。私は見に行く予定だけど、クラディはおとなしくしててね? さすがに遺跡の中にはまだ入って欲しくないから」
実験か……見てみたい気もするけど、止めておいた方が確かに良いかも。いくら魔物とはいえ、正直死ぬ事が決まっているのを見るのは何だか悲しい。今まで沢山魔物を殺してきたはずなのに、あの大量の魔石化した人達を見た後では、なんだか『殺す』というのがちょっと怖い。
「うん、それはいいよ。今はそんな気分じゃないし。そういえばイロも一緒に行くの?」
「ええ。クラディとベティがミランダとの交渉が役割なら、私達二人は魔石化した人達から、魔力を戻すのが役割だもの。それであの人たちが助かる訳でもないけど、あの人たちの役割があるとしたら、多分それが最後の役割だと思うわ。だから私はそれを見届けたいわ」
「そっか……まあ、危険はないと思うけど、一応気をつけて」
「ええ、もちろんよ。その為にミランダからも補助があるみたいだし」
「ミランダから?」
「ミランダがある種の結界みたいな物を用意してくれるらしいの。もちろん部屋その物は頑丈だし、魔物は檻の中だけど、その結界で魔物を動けなくするらしいわ。そう簡単には出る事は無理よ」
「そっか。じゃあ、僕はおとなしく待つね。早く良い結果が出れば良いけど」
そしてエリーとイロは遅めの朝食が終わってから、遺跡の中に入っていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夕日が森の中に入っていき、辺りが大夫暗くなった頃にエリーとイロが戻って来る。
エリーはどこか浮かない顔をしていたけど、イロは何だか喜び顔。一体この差は何なんだろう?
「二人ともお帰り。食事はもう用意してあるよ。今日は僕がちょっと手を加えてみたんだ」
そのままでも食べられる食料だけど、いつの間にか僕らは交代でそれを調理するようにしている。別に順番とかは関係なく、気が向いたらその人がやる形になっている。ただベティが一番料理をすることが多い。以前から料理には興味があったみたいで、色々な調理法も知っていた。
「そうね。先に食べてから話しましょうか。イロもそれで良いわね?」
イロもそれで同意すると、僕らはテントの中へと移動する。料理はメイドさん二人が一応担当なんだけど、僕らとしては毎日色々なことをしてもらっているので、僕らで出来る事だけでも率先してやりたいというのがある。そんな中でメイドさん達が譲歩してくれた一つが、食事を作ることだ。調査の他にやる事が少ないから、楽しみの一つでもあるんだけどね。
そんな夕食が終わって、エリーとイロが今日の実験結果を教えてくれた。
「それで、実験はどうなったの?」
僕より先にベティが聞く。彼女の方が興味があるのかも。もちろん僕も興味はあるし、内容次第では今後の予定が変わるかもしれない。
「まあいくつか追加で試験をしないといけないみたいだけど、予想よりも上々みたいよ。年間に放出出来る量の五パーセントの魔力を放出しても、目に見えての危険は今のところ確認出来ないみたいね。十パーセントになると魔物が少し凶暴化していたみたいだけど、その辺の検証は騎士団の人達とかが検討しているわ。多分だけど、十パーセントから五パーセントの間で決まるんじゃないかしら?」
「ええ。ついでに補足すると、魔物の体内にある魔石も大きくなるみたい。私もエリーも見たけど、小さい魔物ほど大きくなるみたいね。それで色々と期待している人が多いみたいだけど、どうなのかしら? 試している魔物も限られているし、もっと慎重になった方が良いと、エリーも言っているけど、私もそれに賛成かな」
「そうだね。僕も確かにそう思う。でも僕らが口を出せそうな事じゃないし、何か言われたらちょっと意見を言ってみる程度にしておいた方が良いかも。みんなが乗り気みたいだし、水を差すのもどうかと思うんだ」
「うーん、私はもっと慎重になった方が良いと思うんですけど……」
「あら、ベティはそう思うの?」
ちょっと意外そうにイロが聞く。
「確かに色々と急ぎたい理由があるのは分かるんですけど、安全が確認できたわけじゃないですからね。それにここに来るのは次からもっと楽になると思うんです。何せ道は分かっているし、地下への行き方も分かったので。だったらそんなに急がなくても良いかなって」
「そうね……確かにベティの言うことも一理あるかも。私の方からそれとなく一応は言ってみることにするわ。聞いてもらえるかは正直疑問だけど、私くらいしかあの人たちは聞く耳を持ちそうにないし」
確かにエリーと僕以外では、周囲の人が何かを聞いてもらえるとは思えないし、今の状況ではそれも難しいかも。何せ大発見とか色々が重なっているんだし。
そんなやり取りがあったけど、二日後には結局七パーセントの量で放出されることが決まった。一応エリーの意見を取り入れて、当初は八パーセントを予定していたらしいんだけど、一パーセント減らした形。ただそれでも僕としては五パーセントで良かったんじゃないかと思う。
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