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第一一七話 巨大遺跡 九(身体と魔力、魔法と世界)

 ミランダと会って? 一週間が既に経過している。彼女が蓄えていた情報は、特に重要そうな部分を選びながら、彼女が用意してくれたマナ・クリスタという記録用の魔道具と、記録結晶に情報を転送している。どちらも並行して作業しているけど、用意していた記録結晶はすぐに記録が出来なくなるほどの情報量。


 マナ・クリスタの記録容量についてはまだ調べている段階で、まだ一つ目だけど情報が記録出来なくなった物は出ていない。正直かなりの情報を記録できるみたいで驚いた。仮に用意していた記録結晶をCDと例えるなら、マナ・クリスタはDVDどころかブルーレイのディスクみたいな物かも? マナ・クリスタは水晶のような輝きをしているけど、形状は箱形。前世で言えば、初期の家庭用コンピュータゲームに使われた箱形に似ている。大きさはもう少し大きいけど。


 僕でないと分からない重要な事も実際多くて、それが作業の遅れになっているのは事実。だけどそれに文句を言う人は、今のところいない。そもそも昔の歴史も含めて、色々な情報が得られるというので、研究者の人達は大喜びの状態だし。それに情報を選別できるのは、今のところ僕とエリーだけだ。


 エリーも地下二十五階の方から簡単に転送出来る情報を、僕らと同じように作業しているらしい。そっちは主に魔力炉に繋がれた人達についてが大半らしいけど。どんな事が今後重要になるか分からないからと、研究者の人達は重要そうだと思ったら出来るだけコピーするみたいだ。エリー達の方が作業は進んでいると聞いている。まあ必要な情報となると、地下二十五階の方が限られているというのもあるのだけど。


 僕はというと、時々必要な情報がどれか質問されながら、ミランダには必要ない魔石化した人達から魔力を放出する手続きを行っている。数が多いので一度に全部なんて到底無理だけど、それでも実験をしなくちゃならないのもあるし、これは絶対に間違えられない。


 ミランダに蓄えられた情報を見ていたら、何だか気になる記述が出てきた。それは『魔力と人体についての考察』という名前が付けられていて、ざっと見ただけでもかなりの記述があるのが分かる。ミランダからもらった記憶を呼び起こしてみるけど、実際膨大な記憶から、それを思い出そうとするだけでも頭が痛くなってきた。なのでミランダに聞いた方が早そうだ。


「ミランダ。今見ている項目だけど、これって一体何?」


『それは、過去に各種族などを実験体として、体力や魔力の総量などから、魔法や魔術の関連を調べた資料となっております。元々私が製造される以前の情報のため、記録にある以上の詳細は私にも分かりかねます』


 ヒト族以外であれば、どんな人でも実験体として扱っていた当時のヒト族に虫酸が走るけど、今はとにかくかなり重要な情報かもしれない。これを近くにいた研究者に一応伝えて、内容を持って帰るように指示しておく。


 それにしても体力とか魔力とか、一体何の為に調べていたんだろう? 僕の記憶として入れられた物では、種族毎の特性を調べるような事は何となく分かっているけど、今のところそれ以上はまだ思考の整理が出来ていない。そもそも千年以上の記憶を与えられて、いまだにちょっと混乱しているくらいだし。


「ミランダ、もう少し詳しく説明できるかな?」


『はい、クラウデア様。実験当時、種族によって魔力の特性に微妙な差がある事は分かっていました。ですが、それがどの様な物なのか、詳細には分かっていなかったと記録されております。それを元に、各種族をそれぞれ定期的かつ無作為に集め、実験体としてそれぞれ使用したと記録しております。その際に分かった事は、使用出来る魔法には差が無かったものの、種族によって魔力の特性が著しく異なるという事でした。結論として出されたのは、体内に魔力を蓄積する際、種族によって最適な形で魔力が体内魔石に変換されるという事であると記録されております。その為一見すると同じ魔法を使っているように見えても、種族によって魔法の質に差があるという結論になったとあります』


「種族によっても、同じ魔法で差があるという事?」


 もちろんそんな話は初耳。どうやって調べたのか気になる。


『その通りです。魔法を使った結果だけ見ると、差はほとんど感じられませんが、種族によって体内魔石から魔法などへと変換される魔力に差があったと記録にあります。これについては魔力の変換効率が関わっているのではないかと、私には記録されております。同じ火系統の魔法であったとしても、例えばエルフ族と犬族では変換の方法が異なり、同じ魔法を使っているにも関わらず、消費魔力に差が出ていると結論されております。これは魔力の低い者ほど顕著であり、多くの魔力を保持している種族には、見た目の差はほとんど無いと結論が出ていると記録されております』


 つまり、魔力が低い場合には問題になるかもしれないけど、高い場合にはあまり問題ないという事になるのかな? もちろん正確に測定すれば別なのかもしれないけど、見た目の威力では差がほとんど無いという事なんだろう。後は変換効率と言っているから、種族によって放てる魔法の最大回数が異なったりとか?


『当時は生きたままの解剖も行われていたと記録があり、特に安全面から、魔力が総合的に低い方がその実験体となったと記録されております。ただ、魔力炉に入れるには魔力不足と判断された者達となっています。魔力が高い者でも、様々な魔力計測器などを接続され、その体力及び魔力が枯渇するまで、実験が繰り返し行われたと記録されております』


 え? 体力と魔力が枯渇? そもそも、生きたまま解剖って……いくら何でも酷すぎる。


「そ、その生きたまま解剖された人達には、麻酔とかしていたの? そもそも、どういった扱いだったか分かる?」


『私の記録では、麻酔をした場合としなかった場合があるとの記録が残っております。結論から申し上げますと、実験体として用意された方々は、誰一人生きて帰った者はいないと記録されております。尚、実験対象になった者は、全てヒト族以外である事は間違いございません』


 吐き気がする。前にもあったけど、ヒト族以外を人と認めていなかったんだろう。そんな連中が、昔はこの施設にいたって事だ。否、そんな人達しか、ここの施設にはいなかったんだろう。


 確かに僕が捕まった時も似たような状況だったけど、まさかそんな事までしていたなんて。流石にこれはエリーに言えない。エリーの悲しむ顔は、出来るだけ見たくない。


「と、とりあえず分かったよ。正直気分が悪くなる話だけど。それで、分かったのは他にもあるんだよね? それだけの為にミランダが話したとは、正直思えないから」


 ミランダは、単にここを管理していただけだ。彼女? を責めても、何も解決なんかしない。むしろ彼女の機嫌を損ねて、調査が進まなくなる事だって考えられる。他の人達がどう思うかは別だけど、そもそも遙か昔の事だ。今さら僕が何か出来る訳でも無い。それこそ、前の時代にでも戻る事が出来れば、話は別だろうけど。


『はい。クラウデア様とエリーナ様は特に該当するのですが、魔力炉から正規の手続きで出る事が出来なかった為と、一度だけですが、皆様の言われる魔力災害の影響を受けております。魔力災害の影響は、幸いにして比較的軽微ではありますが、魔力炉から出た際の手続きの不備により、お二人の肉体及び魔力について、悪影響が発生しております』


 魔力災害の影響を受けた? 一体いつだろう。そういえば、エルミティアの町を出た後にバーレ王国へ到着したら、何故か百年ほど経過していたっけ。あの時に何かがあった? それ以外では思い当たらない。


「具体的にはどんな影響?」


 悪影響って、一体どんな事なんだろう? ミランダが言うくらいだから、正直あまり良い気分がしない。


『記憶を読み取った際に判明したのですが、魔力の扱いに問題が発生しております。特にクラウデア様に関して申し上げると、元々魔力の調整に問題があったためか、魔力災害でその影響が顕著となっております』


 ちょ、ちょっと……元々魔力の調整に問題だとか、しかもそれでもっとおかしくなっているって事? 冗談じゃないよ……。


「詳しく説明して。それと、何か解決策はあるの? そんな話を僕にするくらいだし、何かあるんだよね?」


 これで解決策がなかったら、目も当てられない。


『完全とは申し上げられませんが、魔力の調整を行う生体組織組成図と言われている物があります』


 何だか難しい呼び方をしているけど、これは多分DNA――デオキシリボ核酸の事だと、僕に新しく加わった記憶から分かる。まあこの世界のDNAは、地球のそれとはだいぶ違うみたいなんだけど。


 事前に分かった知識だと、地球のそれと違って、この世界のDNAは六種類の物から構成されている。もちろん地球の物とは名前も異なるし、それがそもそも地球と同じかも分からないけど。名前が異なるのは、そもそも仕方がないだろうし。


 なのでこの世界の『人間』と、前世の『人間』とでは、明らかに生命としては異なる存在だとは分かる。ただし二重螺旋構造である事は同じみたいだ。これだけはもしかすると、全ての生命の根幹なのかとも思ったりするけど、僕は生物学者じゃないし、前世だってそうだ。


 この程度の知識は、高校の生物程度でしかないから、今はこの世界のDNAこと生体組織組成図は、六種類の物からなる二重螺旋の物とだけ把握しておく事だけに留めている。


『それを元にした治療が、過去に行われていたとの記録と、その治療薬が保管されております。ほとんどの場合、一度治療薬を飲用するか注射するかをした場合に、生体組織組成図が元となった病気などについては、完治可能です。ただし製造されてから年数が経過しているため、保管されている治療薬として役に立つかは分かりかねます。またその治療薬の製造方法の記録もございます』


 薬で遺伝子の治療が簡単に行えた? 前世でもそんな事は簡単にで出来なかったはずだけど……。


『治療薬は、地下二十五階の第三十三番倉庫から五十二番倉庫に、他の物資と保管されているはずです。保管の記録はありますが、倉庫には私の監視が出来ないようにされているため、扉を開く事以外は出来かねます』


「ありがとう、ミランダ。そこの地図は出せるかな?」


 地下二十五階は、エリーからも聞いたけどかなり広い空間だ。しかも魔力炉に繋がれている人達が数千人もいるため、部屋全体を見渡す事なんて出来ない。当然地図が必要になる。


 ミランダが置かれている場所には、前世で言うところのプリンターが用意されている。もちろん仕組みは全然違うし、前世の紙のサイズとも違う。そもそも千年以上前の紙が白い状態どころか、今も普通に扱える状態で残っているし、印刷には魔力を使っているみたいだ。カラー印刷も出来て、しかもインクの補充すら要らないのだから、ある意味凄い技術だと思う。これについては、既にその仕組みを持ち帰ってもらうよう、研究者の人達に伝えた。


 印刷機の概念は当然あるし、インクも勿論あるんだけど、ここにある印刷機についての有用性は、すぐに理解してもらえなかった。まあ確かに、既存の物で一応は事足りているみたいだし、それならわざわざ仕組みの難しい物を覚える必要も無いと思ったんだろうとは思うけど。


 何せ設計図を見た時には、僕でさえ目眩がしたくらいだ。


 内部には数百の魔方陣が事細かに描かれ、しかも僕から見てでさえ無駄が無いように見える。今の人達には、その魔方陣一つすら理解してもらえなかったくらいだし、当然同じ物を作る事は当面無理なはず。それでも現物を一つ持ち帰る事も出来る事になったし、必要な紙は羊皮紙でも構わない。一体どれだけ昔の人達はこれを作るのに苦労したんだろう? 僕からすると、正確には子孫になるのかもしれないけど。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ミランダに教わった治療薬は、地図の通りの場所にあった。しかもそこは、冷蔵倉庫みたいな場所になっていたらしく、エリーはそれを興奮しながら教えてくれる。


 冷蔵庫に近い物なら、この時代でもすでに存在するけど、それが倉庫規模となると話は別。しかもその倉庫は、一つ一つがかなりの大きさだったらしい。医薬品の他にも色々と保管されていたみたいだ。


 残念だったのは、流石に食料はカビなどで覆われていて、原形すら留めていなかった事。研究者の人がいくつかサンプルで持ち帰るみたいだけど、透明な密閉容器に入れられたそれらは、元が食べ物とはとても思えなかった。


 それで肝心な薬の方なんだけど、液体の物は全滅だったらしい。まあ経過している年数からしても、それは仕方がないと思うし、むしろ少量だけど見つかった粉末状の物や錠剤が、見た目には無事だという事かな?


 どちらも密閉容器に入れられていたんだけど、どうやらその粉末や錠剤を水に溶かしてから、注射用にしたり飲んだりするらしい。


 その違いのためか、液状の物などは分厚い紙製の箱に入っていただけのようで、その箱はほとんど崩れた状態。なので中身もダメだったのかも。


 一方粉末状の物や錠剤タイプは、念入りに密閉されたオリハルコン・ミスリル合金の箱に、しかも純オリハルコン製の金庫に保管されていたそうだ。まるで装甲にも思えるような金庫だけど、これを破壊するって出来るのかな? 金庫の開け方はミランダが知っていたし、薬が入った箱の方も簡単な鍵があっただけで、その鍵も同じ場所に置いてあったらしい。金庫に入れていたとはいえ、当時はあまり貴重品という訳では無かったみたいだ。


 一応僕が魔法で調べた限り毒性は無くて、ミランダに聞いてみると、そのまま使用可能と言われた。もちろんどれが何に使うかなど、種類とかも含めて既にミランダから聞いている。


 ただ、それを使う勇気があるかと言われたら、全く無い。


 いくら毒性は確認出来なかったとはいえ、本当に体に害が無いのかまでは未知数。そもそも千年以上前の薬だ。どんな事が起こるのか分からない。そんなリスクは正直ゴメンだし、そもそもそれは勇気とかそういう事ではなくて、単なる無謀とすら思えるし。


「やっぱり怖いな……」


 夕方になってみんなの所に戻り、いくつかある薬を手にしながら思わず呟いた。ちなみに今持っているのは、透明なミスリル製のビニールのような袋。純ミスリル製の袋らしく、正直透明になっているミスリル製の袋が理解出来ない。一応ミランダからもらった知識では、ミスリルにいくつかの鉱物を加えると、透明になる事は分かる。その後にミスリルだけの成分を抽出して、袋に出来るらしい。でも僕が生まれた時代ではそんな物はなかったし、知識と現実とでは、やっぱり乖離が激しい。


 そもそもミスリルは常温で銀か金色であり、透明の状態ではなかったはず。しかもそもそもが金属なのに、袋を触った感じは金属感が全く無い。


 一応袋から取り出して、常温でも一ヶ月は問題なく使用出来るってミランダからは聞いている。袋に入っていれば、少なくとも一年は大丈夫だそうだ。このまま袋から取り出して、注射はすぐに無理だとしても飲む事くらいは出来る。ただ、それをするかどうかは別問題だ。エリーはどう思っているんだろう?


「そうよね……いくらミランダが安全と言ってはいても、私達にはそれが本当か確認できないし」


 一緒に薬の入った袋を見ながら、エリーもどことなく悩んでいるのはすぐ分かる。やっぱり僕と考えは同じみたいだ。


「確かに怖いですよね。そもそも千年以上も前の薬だなんて、本当に安全なのか疑問です」


「私もそう思うわ。確かに私もエリーと一緒にこれを見た時は驚いたけど、実際に使うとなると別よね……」


 ベティとイロも、使う事は反対みたい。まあ当然だとは思うけどね。


「一応明日にも、もう一度ミランダに色々聞いてはみるけど、とりあえず僕は保留……というか、使わないつもり。エリーは?」


 エリーは少し悩んでから、やっぱり使わないと言った。まあ当然だよね。


 効果は確かに魅力があるから、それはちょっと悩ましいところでは正直あるんだけど、かといって使うかどうかは別になる。


 ミランダが余程安全性をきちんと説明してくれればまた違うかもしれないけど、彼女も流石に過去の情報以上の事は分からない。そしてそれは単に、ミランダが記録しているだけの安全性。実際に副作用とかの事までミランダに記録させたかはまた別の筈だ。そしてミランダには、注射や服用している映像こそ残っているんだけど、それ以上の事は記録されていない。


「ところで、エリーの方は何か発見とかあった? 確か壁の一部が崩れている場所があるって言っていたよね?」


「ええ、そうね。ミランダからもらった記憶によると、どうやら地下二十五階を管理する部屋に近い場所なんだけど、そこには巨大な配管がいくつもあるわ。それで、その配管がいくつも壁の中に消えているのだけど、その壁がかなり崩れているの。多分だけど、何か大きな爆発があったと思うわ。周囲はかなり焦げていたりもするから、かなりの爆発だったと思うわよ。爆発の原因は、前にミランダが言っていた実験の所為だと思うの。色々探していたら、実験を行う資料みたいな物が見つかったらしいわ。私も見せてもらったけど、かなりの量よ。まだ中身を調べ終わっていないし、詳細はまだ分からないわね」


「そうね。私も見たけど、床に散乱しているのも多かったわ。それが爆発の影響で散乱したのかは分からないわね。魔石化した人達からは少し離れた位置だったから、そっちには影響はあまり無かったかもしれないわ。他にも何か理由があるのかもしれないけど、流石にそこまではまだ分からないわね。それ、配管が溶けている所も多かったのが気になるわ」


「溶けていた?」


「ええ、そうよ。エリーも同じ意見だと思うけど、あれは溶けた痕だと思うわ。もちろん爆発した痕もかなりあるけど、溶けている場所も多いわ。ただ、あのミランダが言っている事が正しいとして、爆発は分かるわ。でも溶けた痕は何なのかしら? 見た目だけだけど、かなりの高温だとは思うのよね」


 確かに言われてみると不思議だ。爆発しただけなら、溶けた痕は少ないはず。そもそもここの施設には、燃えるような物が少ないのだし。


 ミランダが言うには、原則として燃える物はあまり外に出さずに、金庫や倉庫にしまっていたらしい。倉庫や金庫はどれも耐火性が高いらしく、そのほとんどが人工ミスリルであり、重要な箇所となれば人工オリハルコンが使われていたとか。


 僕らが捕まっていた時代には、人工ミスリルや人工オリハルコンを量産出来ていたそうだ。


 だけどそれらを作るのに、ここで魔石化してしまった人達の魔力が使われていた事を僕とエリーは知っている。なのでちょっと複雑な気持ちもする。当然僕の魔力も使われていたんだとは思うんだけど。


 当然倉庫や金庫はそれらで守られているので、爆発の影響は受けていないと別の報告にもある。爆発寸前に何かの扉を閉めたのか、最も重要な魔石化した人達が置かれた区画や、魔力炉も異常は無い。


 どうやら隔壁のような物があったらしく、最も大きな爆発はその隔壁の外側で起きたらしい。それでも地下二十五階にいた人達は、爆発時の熱で、文字通り消失したと聞いている。周囲の施設が無事なのは、そもそも数千度にも耐えられる構造にしていたため。地下二十五階も含め、この施設全体が巨大な耐火金庫みたいな物みたいだ。


 それと僕らが所属しているエストニアムア王国などでは、温度の単位はЧ(ティラ)と呼ばれている。水が沸騰する温度が五十Чなので、倍にすれば単純に摂氏となるのかもしれないけど、そもそも前世の世界とこの世界では、物質の構成が異なる。だから単純に倍にして良いのかはまだ分からない。それに水の沸点が八十Чだったりするので余計にそう思う。全時代の温度表も発見出来たらしいけど、解読に時間がかかっているらしい。今の温度表と一致しないのが理由らしいけど。


 そういえば、魔力って一体何なんだろう?


 この世界に転生してから、当たり前のよう魔法とか使っているけど、正直魔法どころか魔力についても知らない事が多い。いつの間にかそれが当たり前と思っていて、それに疑問すら抱いていない。当然と言えば当然なんだろうけど、ちゃんと魔力の事を知れば色々と何かが変わる気がする。明日にでもミランダに聞いてみよう。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


『魔力とは何かですか。私に蓄えられた情報の中であれば、確かに答えに近づくかもしれませんが。ですが私にも明確な定義という物は記録されておりません』


 実際の所、ある程度はミランダからもらった記憶も整理がおおよそ出来てきた。ただ整理が出来るのと、それをちゃんと活用出来るとではまた違う。そこがまだ僕には出来ていないし、エリーもまだそこまで出来ていないって言っていた。そもそも千年を超える記憶を整理するなんて、そんな簡単に出来るはずもない。


『人が使う魔力もそうですが、魔法、即ち魔力を扱える様々な動植物には、例外なく魔石を保持しています。その魔石とは――』


 ミランダの説明によると、そもそもこの星で生まれた多くの生物は、生まれる前――人なら胎児の状態からこの星にある様々な魔力の影響を受けているらしい。植物も目に見えないほどの小さな物らしいけど、一応魔石があるそうだ。巨木とかになれば見つける事も出来るみたいだけど。


 影響を受ける魔力とは、それは母親が食べる物だったり呼吸だったり、魔力が元々高い土地などで生活しているだけでも影響が出るそうだ。


 そんな中でも、当然種族によって魔力を蓄える事が出来る総量には差が出るらしい。最も魔力の影響を外部から受けにくいのがヒト族で、エルフ族なんかは比較的影響が出やすい種族だそうだ。


 他にも生まれる前から影響を受ける魔力は、その肉体にも作用するみたい。もちろん種族によって影響を受ける所はかなり異なるらしく、これについてはミランダもよく分かっていないみたいだ。元々研究途上の事だったんだと思う。


 ただ過去に、エルフ族の胸が男性でも大きかったりしたのは、これが影響している可能性が高いのだとか。今はその魔力がこの星全体として低下しているので、僕らが生まれた頃よりもエルフ族全体の胸は小さいみたい。言われてみれば、僕やエリーよりもイロの胸は小さい。


 これがオーガ族だったりすると、全体的な肉体の強さになっていたみたいだし、他にも今ではクラニス族と呼ばれている、僕らが知っている犬族系統だと、同じ肉体の強さでも、その作用が異なっているみたいだ。それらの違いが何故発生するのかが謎のまま、前の文明は滅びた。


 他にも僕らが体内に持っている魔石は、種族によって純度? がどうやら異なるみたいだ。エルフ族などでは純度が高く、ヒト族ではその純度が低いとの事。勿論例外はあるみたいだけど。純度が高い種族はエルフ族の他に、竜人族やサキュリア族、コボルト族などで、クラニス族やハピキュリア族、オーク族などは低い部類に該当する。とは言っても、ヒト族に比べると遙かに高いみたいだけど。


 体内にある魔石の大きさに、若干違いがあるらしい事は知っていたんだけど、純度まで違うと知った時には、ちょっと驚いたんだけどね。


『それから魔力と身体に関してですが、これは密接に関連している事が判明しています。正確には身体を構成している生体組織組成図が大きな役割を担っておりますが、全く同じ種族や性別であっても、その生体組織組成図によって魔力の扱いには差が出る事が分かっております。生体組織組成図により効率的な魔力を扱える場合ですと、条件にもよりますが、同じ種族であっても数倍から数十倍は魔力を使用する際の高率が異なります。特にクラウデア様とエリーナ様に関してですが、一般的な方よりも今の状態で十倍以上の差があります。生体組織組成図の治療を行えば、さらに効率よく魔力を扱えるでしょう。またクラウデア様は一般的な普通の魔法を使う事が困難であると仰られましたが、これも薬を使用する事により改善される事が見込まれます』


 う、それはかなり魅力的かも。やっぱり普通の魔法を普通に使う事が出来るって、僕としてはとても有り難いし。その為に色々苦労している自覚はあるからね。


 それにしたって同じ種族であっても、魔力の使用について差が出るなんてやっぱり不思議だ。かといって、そんな簡単にはその仕組みは解明されないんだろうけど。昔の人達だって、結局その詳細までは分からなかったのだから。


「薬の使用については、もう少し考えさせてくれるかな? 確かにミランダも安全だって言ってくれたけど、知らない薬を使う事が怖いのは理解してもらえるよね?」


『その点に関しては、私には分かりかねます。過去においては、一般的に使用されていた薬です。ですがクラウデア様がそう仰られるのであれば、私としましては強制も出来ませんし、クラウデア様のご判断にお任せする次第です』


 ただ正直ミランダからの話を聞くと、薬を使っても良いのかなって思い始めている。やっぱりちゃんと魔法を使う事が出来たら、今まで以上に色々と役に立てそうだし。今のままじゃ、確かに大きな魔物と対峙した時には役に立つかもしれないけど、それ以外ではなんの役にも立たないと思うから。


「クラディ……悩んでいるの?」


 少し離れた所で、僕とミランダのやり取りを聞いていたベティが声をかけてきた。勿論他にも人はいるんだけど、流石にこの話題については、他に誰も声をかける人はいないみたいだ。エリーやイロは勿論だけど、ベティも僕の家族だからこそ、何か心配しているんだと思う。もちろんそれは嬉しい。


「迷っているんだ。ミランダが言っている事は、多分正しいと思うんだけど、やっぱり怖いから」


「ですよね。私だって同じ立場だったら怖いです。でも、焦る事はないと思います」


「焦っていると思う?」


「えーと……多分? 前に魔法を上手く制御出来ないとか言っていたので、薬を使用すれば大丈夫になるんじゃないかと思っているような気がして。違います?」


「当たりだよ、ベティ。ところで、また口調が戻っちゃったね」


「ごめんなさい。やっぱり何だか慣れなくて……」


「謝らないで。別に責めている訳じゃないし。それが当たり前だったんだろうからね」


「は、はい」


 ベティはちょっと恥ずかしそうにしてから俯いてしまった。悪い事したかな?


 確かに簡単には難しい事だよね。今までの常識を捨てるような物かもしれないし。まあ、それは今の僕にだって同じ事が言えるのかも。


 ただ、せっかくベティも近くにいてくれるから、ミランダからもっと色々聞いてベティにも相談して良いのかな?


 知識としては確かにミランダからもらったけど、今のままじゃ何の活用も出来ない気がする。それはそれで知識の無駄でしかないと思うし、この下で亡くなった沢山の人達の事を思うと、やっぱり僕やエリーはきちんと考えて行動しないといけないのかも。


「ミランダ。もう一度聞くけど、あの薬には副作用とかは無いの? 後は注意しなきゃいけない事とか」


『私が把握している限りでは、副作用等は確認出来ておりません。ただし薬に関しては、私にも全ての情報が記録されているわけではおりません。薬についてはこれ以上情報がございません』


 流石にミランダも知らないのか。出来れば薬についての資料が他に残っていれば一番なんだけど、今のところ見つかっていないんだよね。薬と一緒に保管されていたのかな? 金庫に入れられていなかったので、その資料も失われてしまったとしたら、せっかくあるのに勿体ないと思う。


「僕も一度地下二十五階に行ってみようかな。ただ、地図を見る限りかなり広いんだよね。ベティは見てみたいと思う?」


「私はちょっと嫌かも。魔石になった人達が、人の形のままでいっぱいあるんですよね? 正直あまり気持ちが良い物じゃない気が……」


「確かにそうなんだけど、エリーとイロは今そこにいるんだよ?」


「はい。でも、実際に見るとなると勇気が無くて……」


「普通はそうだよね……」


 実際、僕だって出来れば見たくはない。でも、僕には見る責任がある気もする。もちろんそれにベティを付き合わせるのは、何か違うと思うけど。分からない事ばっかりだ。


『クラウデア様。エリーナ様から連絡が入っております』


 え、エリーから? あ、そういえばミランダを通してだけど、通信出来るんだった。前にも救助に来てくれた人達と連絡を取るために使ったけど、すっかり忘れていた。


「繋げて」


『クラディ、今大丈夫?』


 前回は音声だけだったけど、今回はテレビ電話みたいな形での通信。一体どういう仕組みなんだろう? 背景に色々なんだか映っているけど、とりあえずは気にしない事にする。何かの機械みたいに思えるけど。


「こっちは問題ないよ。どうかしたの?」


『クラディは、薬をどうするか考えた? 私の方でも色々とここで調べてみたけど、クラディほどではないにしても、やっぱりちゃんと魔法や魔力の制御が出来ると、今後便利だと思うのよ。ミランダは安全って言っていたわよね? だったら、私は使ってみようかなって……』


「え、なんで突然?」


 急にエリーがそんな事を言い出すなんて、正直意外。


『ここの施設なんだけど、魔力を使用した装置がいくつかあるの。ただ、他のみんなでは魔力不足で動かなかったみたい。そうなると私だけになるんだけど、細かい制御となると心配なの。まさか暴走なんか起こして、もっと大変な事になったらって……』


 地下二十五階の施設は、魔力を用いた装置があるんだ。しかもエリー以外の人たちでは操作出来なかったとなると、確かにエリーを頼るしか無い。そういう意味では確かに分かるけど、薬を使って大丈夫という保証もない。


「言いたい事は分かったけど、ちょっと待って欲しいな。薬を使ってもすぐに大丈夫とは思えないんだ。その辺をミランダに聞いてみるから、もうしばらく待ってもらえる?」


『ええ、分かったわ。確かにそうよね。クラディに任せるわ。また後で連絡を頂戴ね』


 エリーはそう言って連絡を切った。さて、これで薬を使う理由が出てきたという事になる。あまり気は進まないけど。


 エリーと一緒に行っている人たちは、僕の所にいる人達よりも魔力的には高い人が多いらしい。そんな人たちでダメだったのなら、当然僕かエリーがやらなきゃダメって話になる。


 もちろん僕はエリーにそんな危険な目を真っ先に受けてもらおうなんて思っていない。だから結論は出ているけど……。


「ミランダ。聞いていたと思うけど、君としてはどこまで薬の事を保証出来るのかな? もちろん僕はミランダが全部を知らない事を知っているけど、それでもミランダは実際に使用したのを見たんだよね? その時にどんな事があったのかは、当然知っているはず。何か重大な事とかが起こらなかった? 重大な事じゃなくてもいい。何か気になる事でも良いから」


 結局、ミランダの答えは以前と変わらなかった。そもそもミランダの開始出来ない所で治療? が行われていたみたいだ。


 もちろん危険が伴う事は分かっているけど、僕だってきちんと魔法を制御したい。それは多分エリーよりも強く思っている事。僕は一緒にいるベティに様子を見てもらうように頼んだ後、ミランダが指定していた僕に有用なはずの薬を飲み薬として使った。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「全く、心配させないでよね」


 エリーが僕の顔を覗き込んでいる。側にはイロやベティの他に、メイドさんや護衛の人もいる。


 僕はいつの間にかベッドに寝かされていた。とはいえ、持ち込み用の簡易ベッド。


 薬を服用してから数分して、僕は意識を失った。多分ベティがみんなを呼んでくれたんだと思う。


「クラウディア様、ご加減はどうですか?」


 僕の左手から脈を取りながら、ペイッポさんが声をかけてくれる。


「脈などは大丈夫ですね。顔色も特に問題はありません」


「あれから一体……」


 ちょっと頭はふらつくけど、それ以外は問題ないみたい。


「クラディは二時間ほど倒れていたわ。ベティが支えてくれたから良かったみたいだけど、そうでなきゃ頭を打っていてもおかしくなかったのよ?」


 若干イロが僕を責めるような言い方をする。まあ、今回に関しては僕が悪いとしか言えない。


「ベティ、ありがとう。みんなもゴメン、心配かけさせちゃって。ちょっと頭がふらつく以外は、とりあえず大丈夫かな」


「全く、心配したんだから!」


 そう言って突然イロが僕に抱きついてくる。突然の事に驚いて、反応が出来ない。


「ご、ごめん」


「次やったら、承知しないんだから!」


 イロを見ると泣いている。そっか。僕はもう一人じゃないんだ……。


 エリーは僕の様子を見て、もうしばらく薬を使うは後にした。もしかしたら、今後僕に何が起きるか分からないし、安全第一だから。


 ただ気分が良くなってきてから、魔力はもちろん魔法の威力をかなり加減できることは実感出来ている。これでみんなの役に立てるかもしれないと思うと、やっぱり嬉しい。


 一応ミランダに色々と調べてもらったけど、特に身体の異常は見当たらないみたいだ。もちろん安心出来るかどうかは、まだ別問題だけどね。


 ミランダによると、もうしばらくすれば身体と魔力がちゃんと馴染むようになるらしい。まだ少し時間はかかるみたいだけど、それでも吉報と受け取って良いのかな?


 それにしても身体や魔力など、僕にもまだまだ勉強不足だと実感させられた。


 やっぱりこの世界は魔力や魔法がとても重要だと思う。それ抜きでは事実上やれる事は限られてしまう。今後はもう少し魔法の訓練をするなり、僕なりに努力しないといけないな。


毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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