第一一一話 巨大遺跡 三(残された人々)
2016/02/24 誤字及び一部内容の修正を行いました
2016/03/17 サブタイトルを一部修正しました
『お二人を探しに、ここに来る者が決まった模様です。ですが、ここは地下十七階です。時間がかかる事が予想されます』
「え!? 十七階? 私達ってそんな地下にいるの?」
『はい。ここは地下十七階にある一室です』
「ところで僕らを拘束しているこれや、頭に付けられている物は、外してもらえないんですか? それに時間がかかるなら、食べ物とかも無いと困るんですけど……」
いくら最低限の物資は持ってきたとはいえ、長時間滞在する程じゃないし、運良く小さな魔法の袋が一つ腰にあるとはいえ、手足を拘束されていれば手は届かない。金属製の拘束具なので、手を動かして何とかなるような物じゃないし。だいたい魔法の袋の中だって、二日分程度の食料と水しかない。
『水については、設置している魔道人形が提供いたします。毒等は一切ありません。浄化も行っているので綺麗な水ですので、安心して頂ければと思います。食料については、手足の拘束と共に今しばらくお待ち下さい。保安処置の一環ですのでご了承下さい。ですが、お二人が飢える事が無いように、早い段階で拘束は外す予定です。また、これよりお二人の体の検査を行います。傷みなどは一切ありませんのでご安心下さい』
すると、どこからかアームのような物が出てきた。その先端には、前世で言うところの蛍光灯のような物がある。蛍光灯のような部分が頭の上に来ると、紫色の光が淡く光る。それが頭から移動を初めて、足先までゆっくりと移動していった。確かに痛みは無いけど、何をされているのか分からないので正直怖い。
『検査終了。生体としての異常は認められませんでした。ですが魔力炉内にいた頃より魔力の減少が見受けられます。先に取得した記憶と照合。明確な原因は不明。ただしお二人の言う魔力災害との関連性を否定出来ず。外気魔力の計測値と照合。これまでの情報と照合中……照合終了。現時点での可能性として、魔力災害と呼ばれている事象との関連性が認められます。生体魔力の減少との関連性は、現段階での情報で最有力ですが、確定は不能』
「その魔力災害なんですけど、この施設が原因じゃないかという事で調べに来たんです。さっき原因はここにあると言っていましたよね?」
『はい。その通りです。ここの施設に保管されている魔力コアの維持の為、大気中の魔力を定期的に大規模収集しています』
「それを止める事は出来ないのですか? それに、ここに捕まっている人たちはどうなっているんですか?」
捕まっていたのは僕らだけじゃなかった。その人達がどうなっているのか、正直聞くのは怖いけど、知っておきたいと思う。
『大気中の魔力収集を停止させた場合、魔力コアの維持が出来なくなります。なお魔力コアとして維持しているコアは、生命体としては既に死亡しています』
「し、死亡って、全員死んでいるの? 私達がここから出る事が出来て、百年くらいよね?」
『はい。私を管理していた作業者による適切な処置ではなく、強制的な解放が行われていた為、お二人以外の保管されている生命体は、コアとしては残存していますが生命活動は停止しております。あなたが言われる死んでいる事と同義です』
「ちょっと待って。僕達が救い出されたのって、百年程前ですよね? なのに、全員が死んでいるんですか?」
『その通りです。お二人が魔力炉から解放された結果、それまでの貯蔵用としてお二人を使えなくなった為、その残量分が全て他のコアへ保管される事となりました。また、非常保安処置が実行され、生体コアへの魔力貯蔵量を増やす事となりました。お二人は元々かなりの魔力貯蔵量があった為と、残存していた生体コアのうち、生体コアとして生きていたのが既にごく少数になっていました。その為現在は、全ての生体コアが死亡し、純粋な魔石コアへと変換されました。これらは全て非常処置に伴うものとなります』
何だかとんでもない事を聞いた気がする。まかり間違えば、僕らも死んでいたって事?
「今でも捕らわれている人たちって、どうなっているの? 私達にも簡単に分かるように説明して欲しいわ」
『では生体コア管理部の、監視映像を転送します』
目の前の画面が切り替わって、工場のような物が映し出される。そこには昔見た円筒形の筒が並んでいて、その中には色々な色をした人の形によく似た魔石が並んでいる。思わず気持ちが悪くなって目を反らした。
『これは保管されている生体コアの一部です。現在は総数で千五百九十七個保管されています』
「も、元に戻して……気持ちが悪いわ」
エリーの顔は青ざめているけど、たぶん僕も同じだろう。それにしても、監視カメラみたいなのもあるみたいだし、映像って言葉も使われているんだ。正直驚いた。僕らが生まれていた時代にはなかったはず。
「みんな魔石になっているなんて……」
思わず口にしたけど、それが余計に吐き気を呼ぶ。
『今のはごく一部です。なお私には、管理している生体コアに対して外部からの魔力供給を遮断する権限はありません。権限を持つのは、管理している人間になります』
「ちょっと待ってよ。今も誰か管理している人がいるの?」
確かにエリーの言うとおり、ここに人が誰かいるか正直分からないし、むしろ誰もいない気がする。
『現在管理している人間はおりません。最後に管理していた人間は、ラクトーム歴二八二二年三月一一日に全員が死亡。以後、管理している人間はおりません』
「ラクトーム歴二八二二年三月一一日って……今から何年前になるんだろう? 間違いなく千年は経過しているはずだけど」
『現在まで、一一七四年二ヶ月と一八日が経過しています』
「だいたい一二〇〇年前にもなるんだ。誰もいなくなった原因は?」
『近隣の施設において、大規模実験が行われたと記録されています。他の天体に通信を送るテストであると私の記録にあります。その際に実験が失敗したようです。実験施設はここより約二百K離れた先で、失敗の際にこの施設と実験施設を繋いでいた魔導管が消失。その影響で当施設にいた管理者を含め、全員死亡。以来、当施設には誰も管理者はおりません。実験の詳しい内容については、私には記録されておりません』
「それっておかしくないですか? 誰も管理者がいないのに、あなたが管理しているという事ですよね?」
テストが何をしようとしていたのかは、もう誰にも分からないんだと思う。でも、管理者がいないのに動き続けるだなんて……。
『はい。当施設は私が無人状態でも、最低限の管理を行えるように設計されております。ですが私に許可された管理権は、当施設内部の魔力炉および生体魔石の保全と、それに伴う保安処置のみとなります。それ以上の権限はございません』
つまり、ここは一二〇〇年近く無人で動いていたって事なんだ。でも、一二〇〇年程前に何が起きたんだろう? 実験の失敗と言っているけど……。
「実験の失敗や、その他の事について知る事は出来ますか?」
「クラディ、どうしてそんな事を?」
「魔力災害の原因がここなら、それを止めるのもここしか無いはずなんだ。その為に色々と知っておかないと」
「そうね……みんなが迷惑しているんだもの。止められるなら止めないと」
『お二人の言う魔力災害ですが、私は非常処置の手順に則った方法を行っている作業となります。またこの非常処置は、私に組み込まれた命令に則り動作を行っているので、権限のある者が動作を止める必要がございます』
「え、ちょっと待って? さっき私達には、ここにはもう管理者がいないって言っていたわよね? じゃあ、誰がそれを止めるの?」
『現在の所、動作を止める権限を持った者はおりません。また管理者がいない事態を私は想定しておりません。私は命令に則った行動しか取れません』
思わずエリーを見たら、訳が分からないって感じの顔をしている。たぶん僕もそうだと思うけど。
「じゃあ聞くけど、このままの状態が続いたらどうなるのか分かっていたりするの? 今の人たちは、僕らが生まれた頃よりも魔法が使えなくなっているみたいなんだけど?」
『私は与えられた命令に則り作業を行うだけですので、今後どうなるかは分かりません』
なんとも無責任だと思う。ただ前世のコンピュータとかを考えたら、多分人工頭脳ってこうなったりするんだろうなとは、なんとなく想像がついた。まあ、SF映画とかで出てくるような世界だけどね。
「別の質問をするけど、管理者がもういないのは分かっているんだよね? それなのに動作を止める事は出来ないのかな? だって、さっき一二〇〇年くらい誰も管理していないって言っていたよね? なら、動作を止めるという方法もあるんじゃ?」
『それは出来ません。私は第一に管理している生体魔石の保全を最優先として製造されています。命令がない限り保全処置を止める事は、全ての命令に違反します』
何だか融通がまるで利かないコンピュータと同じ感じ。ただ、それを言ってもこのミランダとかいう魔道脳? には、それが間違っているという認識なんてないんだろうとは思う。
それにしても、僕らって同じ質問ばかりしているような? 気が動転しているのは確かにあるんだけど、正直今の状況をまだ把握し切れていない。でも、これって仕方がないと思うんだ。だって、いきなり魔方陣が輝いたら捕まっていたんだから。
とにかく今は僕らが解放される為に何かしないといけないのと、さっき分かった『魔力災害』の原因がここである事が分かったので、それをどうにかして止めないといけない。それにこのミランダって魔道脳が言っていた、捕まっている人たちはもう全員死んでいると言っていたけど、それだってちゃんと確認したい。色々怖いのも事実だけど……。
「え、えーと。そのさっき言っていた管理者? って、全員いなくなってだいぶ時間が経っているんですよね? じゃあ、新しい管理者を決めたりはしないんですか?」
エリーがこちらを見ている。何を? って感じの顔をして言えるけど、とにかく確認しなきゃ。今はそれが重要な事だから。
『管理者は人間が人間に定めます。私にはそれに従っているだけです』
なら、チャンスはあるかも? まあ、賭だけど。
「今ここに来ている人たちで、この施設の事を、特に捕まっている人たちの事を知っているのは多分僕らだけなんだけど、僕らが管理者になる事は出来ないのかな? それと、管理者の人間って言うけど、それって種族は決まっているの?」
ほんの数秒だけど、ミランダがすぐに答えずに黙っている。
『私には判断出来ません。私にはその判断を任されておりません』
「でもさ、ミランダは今の状態でいいの? 少なくともミランダは僕らが過去にここで捕まっていた事は知っているんだよね? 君が適切な助言をしてくれたら、僕らは君を壊したりするつもりはないし、同時に僕らは魔力災害を止めたい。もうずっと管理している人がいないなら、ミランダの役割は大半が終わっていると思うんだ。だからミランダに僕らはお願いをしたいんだけど……」
なんだかこんな事を言っていると、前世で見たとある映画を思い出した。SF映画で暴走して乗員を全員殺してしまったコンピュータを騙しながら修復させて、最後には無害というか、爆発に巻き込まれて消滅した宇宙船のコンピュータだけど。SF映画の金字塔と言われた作品の続編だったっけ?
『しばらくお待ち下さい。あなたの言っている内容が、私の役割に矛盾しないか検討中です』
この魔道脳は、どこかに感情みたいな物があると思う。そういう意味では、何だかもの凄い物を開発してたんだな。アニメでも感情があるコンピュータとかって良く描写されていた気がする。
「クラディ、どういう事? 私には分からないんだけど……」
「ごめんね、エリー。後で詳しく説明するから、今は任せてくれないかな?」
「そ、そうね。クラディに任せるわ」
エリーは相変わらず不安な顔をしているけど、こればかりは仕方がないと思うし、僕だって不安なのは同じだ。捕まっている状況は変わらないし、近くにあるあのロボットみたいな物は、何かあれば僕らを殺す事だってきっと簡単なんだろうから。
そういえば前世のアニメとかで、人の脳を再現したコンピュータがあったっけ。僕が知っているので有名のだと、三つの独立したコンピュータが賛成多数を取るような物だったかな? 確かロボット風アニメだったかと思うけど。
そもそも魔法が発達したこの世界で、僕が生まれた頃に電子機器の話は全く聞かなかった。それにミランダと名乗ったこのコンピュータ風の物は、魔道脳って言っていた。つまりどこまでかは分からないけど、ある程度は魔法を媒介として動作しているはず。
前世なら真空管から始まって、ICやLSIと集積回路ってのが発達していったとネットで見たけど、この世界ではどんな風になっているんだろう? 詳しく分からないにしても、なんとなく調べてみたい。
『結論が出ました。どなたかに管理権を私が与える事は可能です。ですが、私ではどなたに与えれば良いのか判断出来ません。状況から判断するに、お二人に与えるのが最も有効であると出ましたが、その最終判断を私が下して良いのか判断不能です。判断不能により、管理権についての結論はお二人にお任せするのが良いとの判断に至りました。以上により、お二人またはどちらかが申請頂ければ、この場で管理権をお与え出来ます』
良かった。これでヒト族しかダメとなったら、僕らには何も出来なかったかもしれない。
「それじゃあ、僕とエリーにその管理権を下さい。あなたを壊す事はないと約束します」
エリーがビックリしながらこっちを見ているけど、ここは早く決断しないと。
『管理権をお二人に与えます。以後、この施設の管理はお二人が最高権限者です。尚、私の停止または自己破壊についての命令は、管理者でも受け付けられません』
「ありがとう、ミランダ。じゃあ、早速お願いしていいかな。ここに向かっている人たちを、最優先で来る事が出来るように誘導して。あと、僕らを解放して」
『命令を確認。通路に案内表示を出します。お二人の拘束を解除』
音もせずに僕らを拘束していた物が外れる。頭の上にあったヘルメットみたいな物も外された。僕は思いっきり腕を上に上げながら背伸びする。
「ありがとう。この椅子みたいなのって、普通の椅子みたいにならないのかな?」
中途半端に寝ている感じの椅子なので、正直居心地が悪い。
『ただいま動作させます』
するとリクライニング機能があったのか、前世の飛行機や新幹線の座席みたいに背もたれが上がって、普通の椅子に近い状態になる。自動でしてくれるのはやっぱりミランダが管理してくれているからだと思うけど。
「クラディ、ありがとう。でも、これからどうするの?」
「まずはみんなと合流してからだね。それから相談しよう。あ、そうだ。ミランダ、そこにいる人形か何か分からないけど、僕らを見張っているのは大丈夫なの? 出来れば停止して欲しいんだけど。それと扉を開けておいて欲しいな」
『了解しました。魔道人形を停止します。また扉の施錠を解放しました』
これでとりあえずは安全かな? でも、みんなが来るまで待っていた方が良いのか、それとも僕らも戻った方が良いのか分からない。とりあえずエリーと相談しないと。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「一体何事だ?」
今まで暗かった通路が急に明るくなった。天井が明るいが、照明は無い。さらに奥の方で何度か金属音が響いた。
「ペララ騎士、とにかく進みましょう。今のところ魔物もいませんし、二人を探すのが先決かと」
一緒に行動しているラハナスト上級一等騎士が声をかけてくる。同じ階級なら、普段の会話で上級一等騎士などとは言わない。
「確かにそうだが……罠の可能性は?」
「もちろんその可能性はありますが、かといってお二人の事の方が先決かと思われます。先任はペララ騎士なので、私はそれに従います。それにラウッカ騎士にも伝言を頼んでいるので、仲間がいずれ駆けつけるかと」
「うむ、確かにそうだが……」
二人をなんとしても早く救出したいが、どう考えても前の魔方陣は罠だった。ここは慎重に行動すべき筈だが、あまり遅くなる訳にもいかない。
「私が部下と共に先行しましょう。ペララ騎士は後ろの警戒をお願いします。他の子爵家の方々は、我々の間に入って下さい。少なくとも今はそれが安全なはずです」
「分かった。迷惑をかけるが、頼む」
本当なら私がすべき事だろうが、今いる隊の中では私が最高指揮官だ。なのでラハナストの言う事は正しい。しかし彼が危険に晒されるのは、私が望む事ではない。
「抜剣し、周囲の壁と床を確認しながら進め。前進!」
ラハナストがそう宣言してから、彼とその部下が先陣を切る。何事も無ければ良いが……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「私は待っている方が良いと思うわ。少なくとも彼女――ミランダが護衛の人たちをちゃんと案内してくれたら、彼女が嘘を言っていない事は分かるもの。私達まであまり危険を冒すべきではないわ」
「確かにその通りなんだけど、やっぱり心配なんだよね」
「それは私もよ」
確か前世の映画とかなら、こんな時は動かずに待つ方が良いって言っていた気がする。そういう意味ではエリーの言っている事は多分正しいはず。
『お二人のお迎えが、現在地下八階層に到達しました』
これって早いのか遅いのか分からない。それにまだ九階も地下に潜らないといけないんだし、かなり時間がかかりそう。
「それよりも教えて欲しいんだけど、ミランダはこの施設をどのくらい知っているの? 私達が生まれた頃には、あなたみたいな物はなかったと思うんだけど、そもそもあなたって何?」
『私はラクトーム歴二七五四年に製造された、生体魔道脳です。型式番号KN―二七五四、通称ミランダと名付けられ……』
こうして僕らにミランダの説明が始まった。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
ブックマーク等感謝です!
各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。
今後ともよろしくお願いします。




