第一〇九話 巨大遺跡 一(魔方陣)
2016/03/17 サブタイトルを一部修正しました
館の調査を終えた翌日から、僕らも巨大遺跡を調べる事にした。まあでも、まだ周囲の安全確認が終わっていないらしいので、調査というより簡単に見て回る事が出来る場所へ行くだけなんだけど。
上層部には明らかに神殿があるし、前に見た事がある気がするけど、入った事は無いはず。多少破損しているとは聞いたけど、実際見上げただけではほとんど分からなかった。
実際に調査が行われている場所に入ってみると、入り口付近こそ若干の風化や汚れはあるんだけど、特に扉らしき物がないのに奥は風化した痕などまるで無い。それどころか、汚れもほとんど見当たらなく、白い壁が続いている。言われなければここが千五百年程前の場所だとは気が付かないと思う。
僕らは今まで調査されてきた場所の中でも、特に奥へと通じる場所に案内された。護衛はペララさん達専属の護衛と、他にも二つの護衛部隊。ちなみに六人で一つの小隊と呼ぶらしい。なので僕らの護衛は三小隊となる訳だ。
そして今僕らがいるのは、何かのパイプが大量にある空間。どれも金属製のようで、前世で石油プラントとかの写真で見た事があるような感じになっている。僕も勿論だけど、エリー達はかなり驚いているみたいだ。そもそもこんな施設は、この世界になかったと思う。
「これは一体……」
護衛のペララさんは、呆気にとられているのか言葉も少ないし、それどころか混乱しているようにすら見える。それ以外の護衛の人たちも、似たような感じだ。
ここに案内してくれたヨエル・ユリハルシラさんという研究所職員で、上級職員の彼は、専門が遺構物と言っていた。そんな彼でもまるで見当がつかないそうだ。時々頭の赤い髪を掻きむしっていたりする。
「私も何か説明出来ればよろしいのですが、何が何だか全く分からず仕舞でして。そもそもこれが何なのかすら、我々には把握出来ないのです」
僕だって前世で配管の写真とかを見た事はあっても、実際に入り組んだ配管を見た事なんて無い。その僕がお手上げなんだから、誰も分からなかったとしても仕方がないと思う。
「ここから先に行く為の道が分からないのですよ。何よりこの不気味な施設が、一体何の為に使われていたのかも分かりませんし、無闇に手を触れて良いのかすら戸惑っている程ですから」
ユリハルシラさんはそんな地下施設にある巨大なパイプが張り巡らされている場所で、唯一の大きな通路を案内してくれる。
それにしても不思議な場所。一体何の為の施設なんだろう?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
神殿施設の地下十七階層にある部屋。そこには魔法文明とは似つかわしくない物が並んでいる。
その中でも特に異色を放つのは、魔法文明と思えないコンピュータと思わしき物。画面だけでも六つあり、その他にもクラディなら前世の記憶から『スーパーコンピュータ』とでも表現したかもしれない。
全ての画面は消えているが、その背後にある機器類は小さな音を発し続けている。そして一つの画面が点灯した。
最初は数字の羅列が映し出された画面だったが、そのうち文字が表示される。しかしそれも画面を流れるように下から上へスクロールされ、最後には『起動完了』の文字が表示された。
『侵入者を感知。数多数。武装を感知。武装は剣などの原始的な物。驚異判定を解除。地下三層に二十四名を確認。内二人に高い魔力反応。脅威と認定。地下五層から二十五層までの対魔力結界を展開。地下六層以下の隔壁を閉鎖。地上及び地下四層までに多数の熱感知。いずれも生命体。脅威となる反応認められず。地下三層の二名確保を最優先』
女性を思わせるその音声を最後に、部屋は再び静けさを取り戻す。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「どこかに何かを送っているのは間違いないと思いますけど、あまりに複雑で分からないですね」
護衛の人たちに周囲を警戒してもらいながら、パイプがどこに繋がっているのかを調べていた。エリーは隣で魔力を感じないか調べているんだけど、今の所は皆無。可能性だけど、このパイプは魔力を通さないのかもしれない。
「隊長、扉がありました」
一人の兵士が駆け寄ってくる。男性エルフのレイマ・ラウッカ上級一等騎士の部下で、ワーキャット族の女性だ。
「分かった。何か他には?」
「その手前に、正体不明の魔方陣らしき物がありましたが、反応はしませんでした。その……足下に気づかず踏んでしまいまして」
ラウッカさんがちょっと呆れていたみたいだけど、今回の探索が初めての人も多いらしい。しかもここは明かりがほとんど無い為、ちょっとした事で見逃してしまうのは仕方がないのかも。
「他にも何かあるかもしれん。足下には十分に注意するよう、全員に再度徹底しろ。後ほど私も確認しに行く。後で案内を頼む」
流石は軍隊なのか、今ここで慌てさせるような事はしないみたいだ。ただ、地上に戻ったらあの兵士はきっと大目玉なんだろうけど。
ちなみにもう一人の小隊長は、パウリ・クスタヴィ・ラハナストさんという男性エルフの人で、この人も上級一等騎士。ラハナスト家という男爵家の四男だそうで、軍系貴族なのだとか。なので長男の方も含めて、息子や娘さん全員が軍に所属しているらしい。流石に長男の人は跡取りでもあるため、軍の中でも管理職らしいんだけど。
「エリーナ様、クラウディア様。扉の方に向かいますか?」
「そうですね……あと少しだけ見てから行きます。前回の探索では、ここは見つからなかったんですよね?」
そう問いかけると、ペララさんとラウッカさんは肯定の為に首を縦に振った。
「聞きたいんだけど、前回はどこまで下に行く事が出来たのかしら?」
「別の通路からではありますが、地下八層までです。その先は当時補給物資の量が足りなくなった為、探索を断念しました。罠などの確認をしなければもっと奥に行く事は容易いのでしょうが、これだけの施設です。安全を最優先にしなければなりませんので」
ラウッカさんは前回も探索に参加したそうで、その辺の事情にはそれなりに詳しい。ペララさんも参加しているそうだけど、彼の場合は主に外での見張りだったそうだ。なので内部についてはあまり知らないのだとか。
「それにしてもおかしな場所です。前回と同じ道を辿ったはずなのですが、ここに来たのは初めてですから。ですが通路は一本道でしたし、間違いは無いはずなのですが……」
ユリハルシラさんもここに到着する前の部屋までは来た事があったらしい。まあ、その前の部屋もパイプばかりだったけど。でも前回はその部屋を抜けると通路になっていたのだとか。
それは僕らも気になっていた事。本当に全く同じ道を着ていたのなら、こことは違う場所へと続いているって話なのに。でも、目の前にあるのは現実だ。
それに不思議なのは、一体ここは何をしていたのか?
本当に僕とエリーがこの地下に捕らえられていたとして、僕らを最初に発見した人たちは、どうやってたどり着いたんだろう?
それから一時間程かけて色々見たけど、結局何も分からなかった。なので僕らは魔方陣があったという場所に行く。この部屋で唯一あった魔方陣らしい。
「確かに魔方陣だけど、初めて見るわ」
エリーがそう言うように、僕も初めて見る形。二重の縁が外側にあり、見た事もない文字のような物が、その二重となっている輪の内側に多数描かれている。そして円の内側には、やっぱり見た事のない文字が四方にあり、その間には何かの幾何学模様が描かれているけど、今まで見た事がない。そもそもこれが文字なのかも不明。そして中心には、六芒星が描かれていて、それぞれの先端には何かの文字がそれぞれある。
「不気味ね……」
イロが真っ先に口にしたけど、僕も同意だ。
「魔方陣という事は、やっぱり何かをする為にあると思いますけど、何の為でしょうね?」
ベティが円の周囲を歩いたけど、何の反応も無い。それだけに不気味。そして魔方陣を照らすランプが、余計に不気味さを増している気さえする。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『対象が移動制御機に接近。魔力パターンを最適化。移動制御機の転移位置を固定。移動完了と同時に睡眠性ガス散布。睡眠確認後に魔道人形一番から四番を動作開始。一番に男、二番に女をシートへ固定。固定後に腕及び足へ筋肉動作不活性剤を投与。投与後に頭部へ固定装具。魔道人形の起動開始』
クラディ達の知らぬ所で、音声だけが部屋に響く……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「やっぱり乗らないと反応しないのかな? でも、何かあったら不味いし」
「そうよね。発見した人が偶然無事だっただけで、二回目以降も無事とは限らないわよね」
護衛の人たちも含めて、僕らは魔方陣の前でどうするかを考えている。護衛の一人に頼んで、出来るだけ正確に魔方陣を書き写してもらうようにも頼んだ。直接サイズを測っての書き写しじゃ無いから、大きさは正確じゃ無い。でも魔方陣の上に乗るのはやっぱり危ないと思う。何が起きるか分からないし。
「そういえば、扉の方はどうでしたか?」
「原因はまだ分かりませんが、開きません。今それを調べている最中です」
一緒に来ている護衛の一人が答えてくれた。四人で調べに行っているらしい。扉には魔方陣も無く、単に取っ手が一つあるだけとの話だ。鍵のような物も無く、押しても引いてもビクともしないのだとか。
「じゃあ、私達はこっちを調べた方が良いわね」
イロが魔方陣の周囲を歩き、ふと顔を上げて言う。ベティは僕らの横で腰を屈めて魔方陣を観察していた。
「確か、昔と今でもそんなに文字は変わっていないって聞いたような。でも、これって全然読めないですよね? 文字じゃないのかも」
確かにベティの言っている事は、僕も思っていた。多少は文字の形が変わっているんだけど、読めない程に今と昔で文字が変化している訳じゃない。そうなると、ここに描かれている文字のような物は、文字ではなく絵とかそういった物なのかな?
「そうなると、我々ではお手上げですね。魔方陣の専門家も今回の調査に同行していますが、人数が少ないのですぐにお呼びする事は難しいでしょう」
ユリハルシラさんが教えてくれたけど、どちらにしても今の僕らでは何も出来そうに無い。
僕らが腕を組んだり色々な体勢で考え込んでいると、突然魔方陣が青く光り出した。僕らは慌て手数を下がる。
「一体何が!?」
さっきまで魔方陣を書き写していた人が尻餅をつきながら叫んでいる。
「全員、抜剣! 何が起きるか分からない。不意の事態に備えろ!」
同行しているクスタヴィさんが叫ぶ。周囲にはクスタヴィさんが指揮する人以外にもいるけど、全員が剣を抜いた。
「バスクホルド子爵家の方々は急ぎ下がって下さい!」
誰が言ったか分からなかったけど、僕らはそれに従うように魔方陣から距離を置こうとした。そしたら僕の足が動かない事が初めて分かる。
「あ、足が動かないわ!」
どうやらエリーも同じらしい。僕はすぐにエリーを見ると、エリーも僕が動けない事を察したようだ。
「え、な、何!?」
誰かがそんな事を言ったのを最後に、僕の視界は暗転した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『固定完了。魔道人形は離れなさい。覚醒ガスを散布』
真っ暗な部屋に機械的な女性の声が響く。
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