第一〇七話 遺跡到着
2016/02/27 誤字修正を行いました
2016/02/15 誤字及び一部内容の修正を行いました
最新話と同時に、話数番号の修正及び、下記の修正を行いました。
第四十五話『魔の森を開発する事になりました』
第六十六話『その名はボフスラフ』
また、以降は原則として最新話のみの投稿となります。
特に指摘のない場合以外、内容等の修正は行いませんのでご了解下さい。
湖を出発してから一週間程。道中は特筆すべき襲撃もなく、移動はとても順調。何でも遺跡の周辺は、なぜか魔物などの発生率が低いらしい。絶対じゃ無いみたいだけど。
それで遺跡に到着したんだけど……やっぱり周囲は森に呑まれていた。まあ、おおよそ千四百年から一千五百年程経過しているのだし、当たり前と言えば当たり前だと思う。
ただ、いわゆる巨大構造物は、比較的そのままの状態を保っていた。少し遠くには、昔の領主館らしき物も見えるけど、見た目半壊している。
僕らは調査のメインである巨大構造物の前に移動し、そこで長期滞在のための用意を調える事となった。まあ、基本的には天幕を張ったりする事で、後は動物や魔物よけの壁の準備。
壁は以前の調査から作られていたらしく、所々補修は必要みたいだけど、基本的にはそのまま使えるらしい。高さも五M程度はあるので、早々超えられる事はないと思う。
馬車と馬は特に大切なので、野営地の中心部分に置かれる事となっているみたいだ。勿論、周囲の偵察や調査のために馬を使った移動もするらしいけど、基本は目の前にある大きな構造物を調査するので、あまり出番はないらしい。
「私も初めてですが、凄いですね」
同行しているメイドのミーサ・ペイッポさんが、巨大遺跡を目の前にして圧倒されている。まあ、それは僕らも同じなんだけどね。
実物のピラミッドは見た事がないけど、そびえ立つようにあるその遺跡は、文字通りの大神殿。しかも壁とかには風化の跡がほとんど見られない。真っ白とは言わないけど、多分元の白さを多少ながら残してる。
上が神殿になっていて、下は基礎になっているのか、四角い形をしているみたい。土の汚れがかなり付いているし、元々は地面に埋まっていたんだと思う。
「凄いわね。私の記憶にも、こんな所はないわ。クラディは?」
「僕も無いけど、多分土台部分は埋まっていたんだろうね。かなり土で汚れているし。元々は単に神殿だったのかな? でも、地下は一体何なんだろう?」
でも、上をそのままにしながら下に物を作るって、そんな事簡単にできるのか疑問。もしかしたら、最初から地下施設があったのかも。
「遺跡の調査は明日からですが、その為の準備は今から行って下さい。長期間の調査になるため、最低でも中に入っての調査中は一週間分の食料は持参し、自衛用の武器もお持ち下さい。子爵様方は基本防具を装備なさる必要はございませんが、念のため最低限の守りはして頂いた方がよろしいかと。勿論調査に必要な道具等があれば、優先してお持ち下さい。基本はエリーナ様とクラウディア様が調査の主体です。またイロ様とベッティーナ様もその補佐をよろしくお願いいたします。持ちきれない物があれば、同行するメイドにお願いしたく思います」
僕らの護衛担当になっているオッリ・ペララさんが教えてくれる。僕らを守る指揮官といった立場の上、上級一等騎士でこの調査が終わったら正式に僕らの子爵家に仕えてくれる事になっている人らしい噂を、道中で耳にした。勿論実力はかなりの物らしい。
本来なら彼は王宮騎士団の道があったそうなんだけど、彼の部下を含めて僕らに仕えてくれる事になったそうだ。どうも政治的思惑がありそうなんだけど、その辺は正直疎いからなぁ。多分王室絡みなんだとは予想しているけどね。まだ本人の口からは聞いていないけど。
勿論彼を含めて護衛の人たちはそれなりの武装をしているけど、遺跡の通路はさほど広くもないらしい。なので比較的小回りの利く武器を用意している。まあ、何もなければそれが一番なんだけどね。
流石に防具は勿論だけど、自衛用の武器もすぐに取り出せる所に装備する。他のほとんどは魔法の袋に収納する事にした。携帯食料――実際には日持ちするように加工されたパンや燻製肉、水筒などはすぐに取り出せるようにしている。
魔法の袋は確かに便利なんだけど、実は取り出すのにちょっと時間がかかる。品物を思い浮かべれば取り出せるのだけど、すぐに取り出せるわけじゃない。重量もそうだけど、最初に入れた物は取り出しに時間がかかり、最後に入れた物程取り出しやすい。便利なようで、ちょっと不便な点もある。それでも、本来なら大量の物資を担いで移動する手間を考えれば、とても楽なんだけどね。
「魔法の袋には食料品もそうですが、調査に必要となる物を取り出しやすくする事をお勧めします。一度に調査出来る時間は限られておりますので」
そう言われて、僕らは魔法の袋の中身を整理する事にした。ここまでの移動でそれなりに物資は消費しているし、明日までは時間があるので整理する時間くらいは十分にありそうだ。
今回僕らは調査を主に行うので、武器防具は身につける程度の物しか用意しない事にした。護衛の人たちが突破される状況なら、僕らがどうこう出来るとは到底思えない。
「携帯食料って、正直あまり美味しくないのよね」
イロが愚痴を言いながら、自分の魔法の袋の整理をしている。確かに携帯食料は美味しくないし、パサパサしている。それでどうしても水を多く持たなくちゃならない。
水は水で革袋か陶器製の容器に入れているけど、陶器製の容器は魔法の袋だから持てるのであって、そうじゃなきゃこぼれてしまうだろう。なので普段は革袋を腰に下げたりして、必要に応じて水をそこに補充したりする。この調査が終わったら、ちゃんとした水筒が作れないか考えたいな。
「私達は主に食料ばかりだから、調査で必要な物があったら言って下さい」
ベティは既に整理の大半を終えているみたいだ。そういえば馬車の中でも定期的に整理していた気がする。彼女はきっと几帳面なんだと思う。
僕とエリーは荷物の選別だ。ある程度の食料はイロとベティに持ってもらう事にして、その分調査に必要になりそうな物を選んでいく。調査関係の荷物は多いので、仕分けだけでも一苦労。
「所で、あそこに見える廃墟は何かしら?」
一通り荷物の整理が終わったのか、イロが遠くの丘のような所にある廃墟らしき物を指さしていた。
それを見た瞬間、僕は思わず荷物を整理していた手が止まる。
「あれは……」
「クラディ、知っているの?」
エリーも気になったようで、廃墟の方を見ている。
「多分だけど、あれは昔の領主の館じゃないかと思う……僕が生まれた所かも」
それを聞いて、三人とも僕を見た。それどころか、僕ら専属の護衛の人たちや、メイドさん二人まで見ている。
「かなり崩れているけど、見覚えがある所がいくつかあるし、確か領主の館は高台にあったと思う。調べてみないと分からないけど」
元々大きな建物だし、そのほとんどが石造り。これだけ時間が経過しても、多少は残ったのかもしれない。
「そういえばクラディは、一応領主の家の生まれだったのよね? 小さい頃に育ての親に引き取られたって言っていたけど」
「うん。エリーの言う通りかな。まあ、あの状態じゃほとんど何も残っていないと思うけど」
経った二年間……二歳まで過ごした所だけど、やっぱりどこかで気になっている僕がいる。
「ねえ、ペララさん。あそこを調べる事は出来るのかしら?」
イロが近くにいたペララさんに聞いている。一応僕らの護衛で、尚且つその指揮官だ。尋ねる相手としては正解だと思う。
「そうですね……期間は十分にあるので、それは大丈夫だと思います。一応探索部隊の指揮官と話をする必要はありますが、遺跡の探索と言っても、当然入り口近くはほぼ終わっています。時間の調整をすれば、数日こちらの遺跡探索から離れたとしても、特に問題はないかと」
そりゃ、かなり以前から探索していたみたいだし、入り口付近なんか終わっていて当然だよね。
正直、あの場所に行きたい気もするけど、同時に怖いと思う僕がいる。理由なんか分からないけど、ただこの機会を逃がすと、多分永遠に行く事もない気もする。
「クラディさん、どうかしましたか?」
悩んでいるのが顔に出ていたのか、ベティに心配されてしまった。イロも心配顔だ。
「ちょっと迷っていてね。正直調べてみたい気持ちが高いけど、同時に何か怖いんだ」
「無理に行く必要は無いと思うわよ?」
「ええ、そうですね。私達の目的は、この遺跡の探索なんですから」
イロとベティはそんな僕を見て、無理する事は無いと言ってくれる。それでもやっぱり調べてみたい欲求は抑えられない。
「クラディ、気になって仕方ないんでしょ? 私が住んでいた所は見つかると思えないし、他にも何か見つかるかもしれないわ。私は行った方が良いと思うけど?」
「そういえば、あそこは調査をした事がないはずですね。この施設は何らかの研究施設という事で調査を行っていますし、外見的にもほとんど破損は見られませんから。ですがあそこは破損も酷く、昔調査を一度行ったそうですが、満足に内部へ入る事も出来なかったそうです」
ペララさんの指摘に、エリーは『なるほど』と納得していた。確かに満足に入れないようなら、調査もされないだろう。
「どちらにしても、この神殿及び研究所のような施設の調査を本格的に始めるのは、少なくとも三日後からとなります。勿論多少の調査はその間も行いますが、周囲の危険がない事を調べないと行けませんので。ですから最低でも三日は、一週間程度なら十分に時間をとれるかと。私が相談してきましょうか?」
「そうですか……分かりました。行ってみたいと思います」
「では、私の方からその様に伝えておきます。皆様は明日に備えて準備をお願いします」
こうして僕らの最初の予定が決まった。
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