第一〇二話 魔法と魔力
2016/02/14 誤字及び一部内容の修正を行いました
退屈というわけじゃないんだけど、正直冒険者学校で習う魔法については物足りない。
それはエリーも同じで、原因は僕らの方が色々と知っているからというのが大きい。
そんな事もあって、僕とエリーは授業中に魔力に関する本を読んでいる。
周りのみんなは真剣に魔法の行使や魔方陣の事などを習っているんだけど、教師にすら『教える事が見当たらない』なんて言われちゃったら、僕らは自主学習するしか無いわけで。なので僕らだけこの時間は他の本を読んでいても、何ら咎められる事はない。
そもそも僕らは無詠唱で魔法を行使出来るけど、他の人たちはそれすら出来ないのだから僕らが授業に合わせるとなると眠くなる状況だし、逆に僕らに合わせる事は教師ですら出来ない状況だし。
それで僕らは一番後ろの席で、学校に置いてある魔力に関する本を何冊か持ってきていた。流石に魔法の授業中に、全く関係ない事をする程の度胸もないしね。
「ねえ、エリー。魔力って何だと思う?」
僕の突然の問いに、エリーは『え?』っという顔をした。
「僕らが使う魔法は、体内の魔石から魔力を供給しているって言われているけど、どうしてもそれだけだと説明出来ない事が多いんだ」
「まあ、それは分かるけど、証明出来ていないわよね?」
「うん。だから、何とかして誰にでも分かるように証明出来る方法がないか調べているんだけどね」
「クラディって真面目よね。ただ、普通に考えたらおかしいのは分かるわ。魔石から魔力を取り出すと、最後には魔力の無い石になるじゃない。あ、今はガラスみたいになるのかしら? どちらにしても、普通に使っているだけでどんどん減るのは間違いないわ。なのに私達が魔法を使っても、それで寿命が縮まるなんて聞いた事がないし」
「うん。それで仮説を立ててみたんだ。魔法は確かに僕らの体の中にある魔石から供給されているけど、同時に空気中の魔力を使っているんじゃないかって。それと、僕らは食べるとか飲む、呼吸する事で、自分の魔石に魔力を蓄えているんじゃないかってね」
「そういえば、前にもそんな事を言っていたわよね?」
「うん。それであの後も色々考えたんだけど、このプレートが使えるんじゃないかと思ったんだ」
そう言って冒険者学校から発行されたカードを出す。そこには名前の他に魔力などの事が記載されている。
「プレートには魔力が記載されているけど、細かい消費量まではきちんと表示出来ないって言われたよね? 普通は気にする事はないと思うんだけど、正確に表示出来る物があれば色々と実験出来ると思うんだ」
「そう言えばそうね。なんで正確な表示が出来ないのかしら?」
「それは、同じ魔法を使っても個人差があるからだな」
急に話しかけられたと思ったら、すぐ側に魔法の講師がいた。
「ああ、今は魔法の授業中だが、各個人で魔法の訓練を行わせているから安心しろ。二人が今日は何をやっているのか気になってな」
茶髪でそれなりに高身長の講師は、エルフの魔法使いだ。
「我々にも原因が分からないのだが、同じ威力の魔法を使っても、個人で魔力の消費量が異なっている。昔は表示していたらしいが、色々あったらしくて今は表示を止めたんだ」
確かに人によっては同じ魔力量でも、数回しか同じ魔法が使えないのに、他の人だと数十回だとかあり得るのかも。
「個人的な意見としては、正確に表示した方が良いとは思っているんだがな。火魔法では魔力消費が大きくても、水魔法での消費が少ないなら、そちらを使えばいい。魔法など手段でしかないのだからな。しかしそれが分かっていない者が多いんだ。まあ、冒険者をやるような人間なら分かっている者が大半なんだがな」
普通の人だと気にならない事かもしれないけど、冒険者だと気にするという事なんだろう。それに魔力量だけなら、それが多い事で羨ましがられる事があるかもしれないけど、実際には実戦ではあまり活躍出来ないような場合だってあるはず。そうすると困る事になる人も多いんだと思う。
「ただ、実際にそぐわないという意見はやっぱり多い。なので、昔のように標記するという意見が多くなっているのも事実だな。主に冒険者や鍛冶屋などだが」
「鍛冶屋ですか?」
エリーが不思議そうに聞く。
「ああ。普通に木材で炉を使う事が多いが、ミスリルなどの金属を精錬するとなると、魔法での火力調整をしないと実用にならないそうだ。なので鍛冶屋には火魔法が必須だし、それがどの程度維持出来るのかも必須になるという事さ」
火力の事はなんとなく分かっていたつもりだけど、維持の時間も確かに重要なんだ。ちょっと勉強になる。
「まあ、君らは貴族なのだし、鍛冶屋に就職するという事はないと思うが、魔力量と威力などを考えたら、鍛冶屋はこぞって雇うと思うぞ。世の中ってそういうものだからな」
貴族という身分じゃなかったら、それはそれでアリだったかも。物作りは嫌いじゃないしね。
「一応ここにも鍛冶をするための施設はある。鍛冶屋から誘いが来た場合に、それを見るための物なんだがな。気になるなら試しても構わないぞ。まあ、事前に連絡は入れて欲しいが」
試せるのなら、時間があるときにでも試してみよう。
「有り難うございます。機会があったらお願いします」
「君たち二人の魔力なら、新しい金属なども作れるかもしれないな。しかし詳細な残存魔力の表示か……。ちょっと他の教員や、校長とも話し合ってみるよ。君たちなら有効活用出来るかもしれない。テストケースとしてなら大丈夫だと思う。上手くいけば、冒険者ギルドに所属している者だけでも、残存表記がある物を配布出来るようになるかもしれないしな」
そういえばミスリル金などの技術が失われているんだったっけ。それなりの人が作れる方法を見つける事が出来れば、案外良い収入になったりするかも? まあ、実際の所お金に困ってはいないけどね。
まあそれも重要だけど、魔力とは何なのかが分かれば、もしかしたら他のみんなの魔力を増やすことが出来るかもしれないと思っていたりする。
そんな事を考えながら『まあ、色々と考えてみたらいい』なんて言葉を残して講師が僕らの元から去っていった。
「クラディ、どうかしたの?」
「あ、うん。鍛冶も面白いかなって思ってね」
「クラディらしいわね。でも今は一つのことに集中しましょう」
頷いて冒険者カードを見る。数値が分かるようになれば、色々と試すことが出来るはず。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
魔法の授業が終わって、さらに2つの授業を終えた後、僕らは会議室に呼ばれていた。ちなみにイロとベティも同伴だ。
「それで、何の用でしょうか?」
何の説明もないまま呼び出されたので、まずはエリーが質問。こんな時でも、一応貴族的な問題みたいなのがあるらしくって、基本的に最初に受け答えをするのはエリーだ。
「魔法の授業中に面白いことを言っていたらしいね?」
同席しているのは、他に校長とギルド長、そして先ほど魔法宇野授業で講師をしていた人の三人。
「魔力をどれくらい正確に消費したか分かる件だよ。前にテスト的に使っていた物が残っていてね、それを君らに渡したいんだ」
魔法の講師が説明してくれる。それなら事前に伝えてくれればいいのに。
「ただ、難点もある」
銀色に輝くプレートは、大きさが前世でいう所の免許証サイズで、あまり多くは記載出来そうもない。
「これは常時付けてないと効果がなく、そもそも最大魔力量が表示されない。常に肌身離さず持っていれば良いが、登録した対象者からある程度離れると、自動的に内容が消えてしまう。有効半径は確か3メントル程度なので、実質常に肌身離さず付けている必要がある。それでよければ今すぐ渡せるのだが、どうする?」
ギルド長がプレートを人差し指でトントンと叩きながら、僕らに告げた。
確かに有効範囲が狭いし、制限も厳しいとは思うけど、肌身離さず持っていれば良いだけの気がするけど?
「あ、お風呂とかの時の問題ですね?」
そう言ったのはベティだ。
「ああ、その通りだ。見て分かるとおり、このプレートは通し穴もなく、首から下げることなども難しい。そしてこれを加工しようとすると、効果が失われてしまうのだ。昔使っていた物は、当時の色々な事情により全て廃棄されてしまったらしい。残っているのはこれとあと数枚だけだろう。偶然ここの金庫に置いてあったのを思いだしたのだ」
校長が付け足すように教えてくれた。
うーん、そうなると確かに持ち運びに不便だ。何か良い方法があれば一番なんだけど……。
「校長先生、それの材質は何ですか?」
一番手前にあったプレートを手に取り、イロが何か確認している。
「確かミスリルの合金だな。錆びにくくはあるが、絶対ではない」
再びギルド長が説明する。
あれ? ミスリルって錆びなかった気がするんだけど、気のせいかな? 魔法金属はそれ自体が錆びなかったりするから、貴重なはずなんだけど。
「ミスリルが使われているのは一部だけと伝えられている。なので本体の大部分は普通の金属らしく、しばらくすれば錆びてしまうだろう。なので水気の多い所だと早く錆びてしまう可能性が高い。その場合に正確に測定出来るのか分からない」
校長の言葉になんとなく納得した。今はミスリルもかなり貴重な部類らしい。そもそも純度の高いミスリルは、剣や防具などに加工されることが多く、こういった物に使われることはまず無いと付け足してくれた。
でも、無い物ねだりは無理だと思う。今ある物で何とかするしかない。
「僕はとりあえずそれで構わないと思います。他に物がないなら、今ある物で何とかした方が早いと思いますし」
一斉に全員が僕を見た。エリーもどこか信じられないって感じで見ている。
「ただ、条件があります。記載出来る項目は同じ物で良いので、ミスリルで何とか用意して下さい。確かに他の物に使われることが多くて貴重なのは分かりますが、四枚程度のミスリルを用意するのは出来るはずです」
ギルド長と校長が少し唸っているけど、そんなのは関係ない。今は使える方法を出来るだけ試すことが優先。
「分かった。そのプレートは君らに渡そう。ミスリル製のプレートは少し待って欲しい。作ることは出来るはずだが、材料の件も含めて時間がかかると思う」
「はい、構わないです」
最初から全てが上手くいくなんて思っていない。出来る事と出来ない事は切り分けないとね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
屋敷に帰り、みんなでプレートを見る。既に僕らの魔力などを登録してあり、実際に数値で見る事が出来る。
「それにしても驚いたわ。数値で表示出来る事はなんとなく想像出来ていたけど、まさかこんな数値になるなんて」
エリーが自分のプレートを見ながら、その数字に呆れている。まあ、僕だって最初に見たときはそうだったし、ギルド長や校長も同じだったしね。
魔力値は、僕が九七九九一になっていた。魔法使ったかな? 置き時計を見ながら数値が変化するのを確認していたら、おおよそ十分で一上がっている。僕の魔力が満タンになる事ってあるのか、正直疑問。ちなみにエリーの回復速度も同じみたいだ。
「数値で見えると、なんだか変な感じ……」
イロが不思議そうにカードを見ている。イロとベティは魔力値は満タン。きっとそれが普通なんだろう。そもそも僕ら二人の桁がおかしいんだし。
「ねえ、結局どうするの? このプレートは水に漬けると錆びちゃうんでしょ? すぐにではないにしても、持ったままお風呂は無理よね?」
イロの疑問に対して、当然それについては一応対策を考えている。
「錆びないわけじゃないけど、錆びにくくする事は出来ると思う」
そう言ってから乾いたタオルを何枚か用意して、あと青銅板を用意した。
「タオルと青銅の板? それで錆が防げるんですか?」
「まあ、ベティも見ていてよ。このタオルで出来るだけ隙間なくプレートを挟んでから、上下に青銅板を置いて挟むんだ。最後に紐かタオルで結んで終わり。たしか青銅は錆びやすいんだ。それにタオルで一応くるんでいるから、直接水分が付く事を防げるし、縛っているから中にも入りにくい。応急処置だけど、短時間ならこれで何とかなると思う」
本当ならビニール袋とかがあればいいのだけど、そんな物はないみたいなので代用。
「これを出来るだけ直接水のかからない所に置いて、三メントル以上離れないようにするんだ。ここのお風呂は広いけど、お風呂の中に台車か何かを持ち込んで、その上に置いて移動させればいいし、とにかく離れすぎないようにすることだけ考える事が重要だと思う」
効果が失われるのは錆びて使えなくなるか、僕らの体から三メントル以上離れた場合。どうせ一時的なテストだし、今はこれで十分なはず。三メントルは三メートルくらいみたいだから、思ったよりも範囲は広いと思う。
それと確認出来ないのでテストはしていないけど、金属のはこの中に入れた場合。隙間に水が入らないようにすればそこそこ役立つと思うけど、どうもゴムは貴重品みたいだ。というか、この国にゴムの木みたいな物はあるみたいだけど、数が少ないらしい。採れる量も一日でコップ数杯らしいから、流石にそんな貴重な物は使えないと思う。それに完全密封した場合に、効果が失われる危険もあるし。
「じゃあ、お風呂に持ち込める台車を用意しないとね」
「それならすぐにご用意出来ます」
エリーが言うと、側に控えていたハーパサロさんが答える。すぐに別のメイドさんを呼ぶと、何か伝えた。
一体何を持って来るんだろうと待っていると、廊下の方から車輪が回る音がする。かなり軽い音だし、重さはさほどないんだろう。
ノックされてエリーが入室を許可すると、メイドのヴァスコラさんが金属製の小さな台車を押して入る。大きさはそんなに大きくないけど、確かに僕が考えていたようなサイズだ。
「予備のお茶会用の物ですが、当面使用する事もなさそうですし、他にも予備はありますので」
ハーパサロさんが僕らに教えてくれた。使っていないなら問題ないよね。これでお風呂対策は一応出来たかな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日も当然学校はある。もちろん魔法の授業もあるんだけど、今日は初めて授業を出ずに、とある部屋の中でエリーと二人っきり。
普通なら男女二人で……と思いたい所だけど、実際屋敷の方でやる事はやっているし、何より僕らは夫婦だ。
僕らが借りたのは魔法実験用の部屋で、多少の爆発程度なら耐えられるように設計されているそうだ。確かに扉は重厚な金属製だったし、壁も剥き出しで実用性一点張りって感じがする。前世の鉄筋コンクリートとは違うみたいだけど、話によると火炎魔法とかの耐久試験もテスト用の物で行ったって話だ。まあ、一応信用してもいいかな?
「それで、何をするの? いきなり大きな事はしないんでしょ?」
「うん、流石にね。でも、まさかこんな施設用意してくれるなんてね」
正直これからやる事を考えると、普通の掘っ立て小屋でも構わなかったんだけどね。善意で用意してくれたみたいだし、それはそれで甘えて良いのかな?
「とりあえずは、魔力を魔石から供給した場合の変動を見てみたいんだ。僕らなら魔石一つで一杯になるなんてないから」
「確かにね。それでこの魔石からどの程度供給出来るのか調べるのね?」
「うん、そうなんだけど……もう一つ試してみたいんだ」
エリーが何を? って顔で僕を見た。
「ここの人たちは出来ないみたいだけど、エリーは魔石に魔力を移す事が出来るのは知っているよね? その場合の減少も計ってみたいと思って」
「確かに言われてみればそうよね。でも、それをしてもここの人たちには役に立たないんじゃない?」
「このままだとね。でも、授業で聞かなかった? 今の魔石は4つの属性のうち一つしかないって話。僕らが知っている知識では、魔石に特定の属性だけって事はなかったはずなんだ。だから実際に魔石に魔力を供給して、その魔石が一つの属性にしかならないか、複数の属性を持つかを見てみたい。もし一つの属性だけしか無理なら、僕らが知らない所で魔石というか、魔石を持つ動物全部が何か変化したのかもって思ったんだ」
変化したきっかけは、過去の大災害と魔力災害かな?
「難しい事を考えたわね。でも、確かにおかしな話だわ。それに今なら色々試せるし、私達が知らない事も分かるかもしれないって事ね」
「そういう事。まあそもそも、魔石が一つの属性しか無いのに、魔力は種類が分かれていないでしょ。火系統の魔法しか使えない人ならまだしも、普通の人でも訓練次第で複数の魔法は使える。なら、動物とか魔物がおかしくなったのか、人も何か変化が起きているはずなんだ。そうでないと説明できないことが多くて」
「言われてみれば変よね……。私達が『ヒト』として認識している人たちは、魔法を使えるし、属性だって複数使える。なのに普通の動物とかは一種類しか出ないなんて」
「出来ればヒトの持つ魔石が手に入れば一番なんだけどね……」
「それは……」
無理な話だと思う。
ヒトの魔石も死んだ際に取り出しているらしいけど、それは国が管理しているらしい。いくら貴族扱いの僕らでも、それを入手するとなると色々面倒だし、そもそも管理するって事は理由があるはず。
大体ヒトの魔石を入手するために他のヒトを殺すなんてのはゴメンだし、そうなると一般的魔石で調査するしかない。
「とりあえずこれはテストなんだし、最初から上手くいくとは思っていないから」
テーブルに十個程の魔石を置く。手に入ったのはそれぞれの属性を持つ魔石だけ。まあ、ないものは仕方ないので、供給量を見るだけならこれで十分だと思う。ちなみに赤が火属性で青は水属性、黄色が土属性で、緑色が風属性。ただどれも純度が低いので、かなり濁った色になっている。
「それなりには集めたのね。やっぱり私達の知っている魔石は無いみたいだけど」
どれも綺麗な単色なので、僕らが知っているようなまだら模様や黒といった魔石は一つもない。
「そういえば昔から思っていたんだけど……」
「何?」
「四属性魔法は聞くけど、聖魔法と闇魔法って聞かないわね。クラディは何か知ってる?」
「うーん、僕も知らないけど、予想はしているんだ」
そう言って、僕の推論をエリーに説明する。
そもそも聖魔法や闇魔法という概念が間違っていて、誰でも正しい事や悪い事は少なからず両方持っている。なので片側だけという事はあり得ない。それに僕らが見て悪いと思う事も、他の人から見たら良い事という可能性がある。なので人によって見方が変わるような現象は無いんじゃないかという推論。
「言われてみればそうね。正しい事と思っていたら、他の人からは悪い事って事は十分に可能性があるわ」
「そんな事よりも、色々と調べた方が早いかな。色々と仮説もあるし」
「仮説? 魔法で? 初めて聞いた気がするけど、私の気のせい?」
「多分違うと思う。仮説ってのは、そもそも魔法は何だろうって事。まあ、魔法は魔力を使って放つのは説明要らないよね。じゃあ、なぜ一つの魔力で複数の魔法が使えるのか、考えた事は?」
「言われてみれば……無いわね。そもそも、そんな事考えた事も無かったわ」
魔法が普通にあれば、その魔法について何も考えない事は十分にありうるし、そもそもこの世界だと元素って言葉はあっても、原子や陽子、中性子、電子といった事なんて誰も知らないんだと思う。
それでもこの世界には、原子は確実にあると僕は思っている。なぜなら物質があるから。問題はその物質と魔法の関係性だと思っている。
「魔法を使うのに魔力が必要なのは、誰だって知っている事だけど、じゃあ魔力って何かって考えた人はいるかと思う?」
「うーん……私はいないと思うわ。いても、変な事を突然言い出したとかって言われて、結局無視されたとかかしら? それなら記録に残っていないのも分かるから」
エリーはちょっとした所で鋭い所がある。
僕らが生まれた時代の技術が発展していれば、そういった事を考えついた人だっているはずだ。それに人工魔石ってのが今でも気になる。魔力を研究していたから、そういった事を開発出来た気がする。
「そもそも考えてみると、おかしな事が多すぎると思うんだ。僕らの体の中には魔石があるし、それは動物なら全部あるはずだよね? で、僕らの常識では、死因に魔力切れはなかったと思うんだけど、ここの人たちにはあるみたいだし、そもそも魔石がない人もいるみたいだ。じゃあ、魔石って何のためにあるのかって考えたんだけど、答えが出ないんだよね」
エリーは『そんな難しい事、良く考えつくわね』って言って呆れてるけど、その先を聞く気はあるみたいだ。
「それと魔法なんだけど、大まかに3種類の魔法があると考えてみたんだ。手のひらとかから直接出す魔法で、触れていないと使えない物が一つでしょ。それから遠くの場所に火球とかを放つ魔法、あとは離れた場所へ火柱を発生させる魔法とかさ。手が触れているのはまだいいとして、飛んでいく魔法は魔力を燃やしていたりするのかな? それと、離れた所へ出す事が出来る魔法は、そもそもどうやって発生するのかって、不思議に思った事は?」
エリーは首を振って否定した。まあ、僕だって普通に生活していたら、こんな事は考えなかっただろうけど。
「何で火の魔法を例にしたかって言うと、暖炉を思い浮かべてみて。あれは直接燃える物があるから、火が燃えているよね。だから手を直接当てたりする魔法はまだ説明が出来るんだけど、飛んでいったり、指定した位置で魔法が発生する事は説明が出来ない。でも実際に魔法は使えるし、僕らはそんなのは常識だって思ってる。じゃあ、飛んでいったり指定した所で発生する魔法は、僕らの中にある魔石だけじゃ説明出来ないと思うんだ」
「た、確かにその通りね……考えた事も無かったけど、言われてみればおかしいわ」
「それで僕は、仮にこの現象を『魔素理論』って名付けようと思う」
「魔素理論? どういう事?」
「空気中に魔力が漂っているのは知っているでしょ? じゃあ、もう一歩踏み出して、その魔力の元になる物があるんじゃないかって考えてみるんだ」
そう言ってから本来教員などが使う黒板に、ペンで人の形っぽい物、○を描いてから中に魔力と書いて、その外側に魔素と書く。
「人が魔法を使うと、まずはその人の魔力を消費する。これは多分魔法が使えるなら条件は動物でも一緒だと思う。そして空気中の魔力が、火球のように飛んでいった場合にはその飛んでいく場所の空気中の魔力を使いながら、人の魔力も消費する。離れた所に直接出す場合は、実は離れた所の魔力を僕らが操っている」
簡単に線を色分けしながら説明する。
「それで、空気中の魔力が減ると、魔素がその足りなくなった部分を徐々に回復させていくんだ。同じ所に魔法を何度も放てなくなる事が多いって前にここの学校で聞いたけど、その原因はこれ。空気中の周辺の魔素も使い切っているんだと思う。まあ、その無くなった魔素が他からどうやって供給されるのかが分からないんだけどね。当然僕らの魔力も使っているけど、炎だったり水だったり、風や土だったりと魔法は一種類じゃないから、途中は空気中の魔力や魔素が補っているんじゃないかな?」
「言いたい事はなんとなく分かったけど、これからの実験と何が関係するの? 魔石を調べるのよね?」
「うん。そこで魔石を何で使うかなんだけど、僕らには空気中の魔力とかは見えない。でも、魔力の回復に魔石を使う事で、魔石の中の魔力を奪っている」
「続けて」
「まず一つ試したいのは、魔力を極力失わせた魔石が、自然回復するのかって事。するなら空気中とかから魔力が供給されているって分かるでしょ」
そう言ってから、所有者登録のされていない魔力値を表示させるプレートを置いた。
「実は内緒で試したんだけど、魔石を所有者登録が出来たんだ。これを見て」
プレートには魔力値が一二五と表示されている。
「何これ、凄いじゃない!」
「うん、後でやり方を教えるし、ここの校長とかそういった人たちにも教えるつもり。出来るかどうか、まだその時は分からなかったからね」
エリーはプレートに手が触れないようにしながら、プレートを色々な角度から見ている。まあ、僕も最初同じ事をしたんだけどね。
手近にある紙に今の僕の残存魔力を書く。値は九八一〇五。魔石の値はそのまま一二五と書いた。
「とりあえず、この魔石から魔力を回復するよ」
魔石を手にとって、いつものごとく魔石から魔力を補充する。そもそもやり方はただ魔石に触れていれば良いだけなんだけど、正直魔力が回復する原理が分からなかったりもするんだけど。
「あ、こっちはゼロで……あれ?」
魔石は透明な状態になっていたんだけど……。
「ん、どうしたの?」
「回復した魔力の値と、魔石にあった魔力の値が違う……」
今の僕の残存魔力は九八一九九。魔石は一二五なので、全部なら九八二三〇となるはず。
「本当ね……属性が関係しているのかしら?」
少し考えてから、僕なりの考えを纏めた。
「多分それは違うと思う。もしそうなら、回復する量は四分の一とかそれくらいだと思うんだ。でも実際には……九四だから、他に理由があると思う。まずは個人差もあるだろうけど、人によって魔石から吸収出来る魔力が違う可能性。もちろん得意な属性で差が出る可能性もあるけど、僕らは全部の属性を普通以上に使えると言われているんだから、僕らの場合にはあまり考えなくていいと思う。次に魔石の数字の誤り。これは他ので試さないと分からないね。あとは……僕らが生まれた時代と、今の時代では魔力補給に何か違いがあるくらいかな? もちろん他の可能性もあるけど……今はそれくらいしか思いつかない」
エリーは『それでも十分よ』って言って呆れていた。
「とりあえずこの魔石はこのままプレートと一緒に保管しよう」
事前に用意しておいた木箱に両方入れる。魔石は暖炉で使うときのトングと似た物を使った。少なくとも直接手に触れないようにしたい。木箱の上に布を被せ、それぞれの四隅を売っていた小さな釘で取れないようにする。
「屋敷に帰ったら、中が見えるように出来るか聞いてみよう。まあ、触らないようにすればいいだけなんだけどね。誰かが触って魔力を誤って流し込まないように」
「それで直接手で触らなかったのね。まあ、確かに触って変化したら、自然に回復した事にはならないわね。うーん、単に自然回復一つでも、案外難しいわね」
僕もそう思う。手で触れても影響がない事が分かれば簡単なんだけど、今は色々な条件を試したいし、その為に色々魔石を用意したんだし。
「自然に回復するなら、遅くても一ヶ月くらいで何か変かがあると思うんだけどね。まあ、とりあえずは様子をみるしかないかな?」
それからまた別の魔石を取る。今度は魔石に魔力を供給するんだけど、その前に一度魔石の魔力を測ろうとして、プレートの在庫がないのに気がついた。
「数字はともかく、出来るかだけでも意味があると思うわ。それに今思いついたんだけど、魔石の魔力上限ってあるのかしら? あったとしたら、魔石によっても差があるわよね、多分だけど」
魔石の魔力上限。確かにあると思うけど、どちらにしても今は調べられない。今度プレートの予備がまだないか聞いてみないと。
「とりあえず補充をしてみるよ」
手元のは風属性だから緑の魔石。まあ、かなり濁っているから低品質なんだけどね。
魔力を先ほどと同じように魔石から取り出し、ガラスのようになった。どの魔石も、元は同じ透明な入れ物って事?
「うーん、かなり低品質だったのかな? 回復量は四三だね。で、これに魔力を再度供給してみよう」
エリーが食い入るように見る中、僕は普通に魔力を魔石だった物に流す。すると綺麗な緑色の魔石が出来た。
「あれ、種類は特に意識しなかったんだけど?」
「じゃあ、きっと魔石によって属性が固定されているのね。それよりもクラディ、気がついてる? 私達これだけで食べていけるわよ」
何の事か分からず首を振った。
「ほら、言っていたじゃない。純度が高い物程綺麗になるって。これってきっと高純度の魔石よ」
なるほど、思いつかなかった。
「あ、でも限度があるかな?」
すぐに自分のプレートを見て、それが量産できないことを知る。今ので五千くらいの魔力を消費していた。
「消費した魔力が五千くらいある。これじゃあ量産は難しいよ」
「あら、それは残念。でも、一度鑑定してもらってみたら? ここの人なら秘密は守ってくれると思うし、きっと役に立つわよ」
色々試したかったんだけど、エリーは僕の腕を引っ張って魔石を見せに行く事になった。
その後滅茶苦茶驚かれたのはもちろんだけど、純度が高すぎてすぐに値段が付けられず、参考価格でも白金貨数枚は確実と聞いて、僕らは再び驚いたんだけどね。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
ブックマーク等感謝です!
各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。
また、今後以前まで書いた内容を修正していますので、タイトルに一部齟齬や追加が発生する可能性があります。本文内容の修正が終わり次第、随時修正していきますので、ご理解いただきますようお願いします。
今後ともよろしくお願いします。




