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第九十九話 なんだかんだで結婚しました

2016/02/19 一部『姓』が『性』になっていた所を修正しました

2016/02/14 誤字修正及び内容の一部修正を行いました

2016/01/26 話数番号を変更しました


最大限考慮したつもりですが、直接的な表現を除いた新婚生活の話があります。

「まさか、私達の知らない所でこんな事になっているなんてね……」


 エリーは溜息をつきながら、着付けが終わった服を見つめる。


 服とは形容しているけど、純白に輝くそのドレスは『ウエディングドレス』と呼ばれる物。


 一応は前世で数回だけ見たことがあるウエディングドレスに近いけど、要所要所では異なる。そんなのを気にするあたり、僕がまだこの世界の『住人』になりきれていない事なのかもしれない。


「ま、まあ。エリーはまだいいんじゃないかな?」


 エリーは当然女性なので、ウエディングドレスを着ていても違和感はまるでない。むしろ、白を基調としながらも、さらにそれに花を添えるような装飾が、エリーを美しく見せている気がする。


「ま、まあ、そうなんだけどね。クラディも……大変よね」


 エリーはちょっと恥ずかしげにした後、僕を見て苦笑している。


「私だってエルフの正装がドレスな事くらいは知っているけど、クラディは……」


 苦笑しながら、僕の姿を見てエリーは困惑の表情を隠せないみたいだ。


「そりゃさ、僕だってエルフの正装は知っているし、これでも昔……僕が捕まって長い間眠っている前の事だけど、それなりの格好だってした事はあるよ? 僕はハーフだし、見た目ではエルフに近いから、どうしても正装はエルフの物が優先になったからね。当然ドレスだって何度も着た事があるけど、これは無いと思う……」


 そう。エリーが苦笑して、僕が悩んでいるのは僕自身の服だ。


 当然エルフの伝統にしたがってという事で、僕ももれなくドレス姿になっている。まあウエディングドレスとはちょっと異なるけど、問題はそこじゃない。


「まあ、私の場合は後ろに長すぎるスカートが邪魔なんだけどね。始まったら、お付きの人が支えてくれるらしいけど……」


 エリーの着ているウエディングドレスは、腰から下のスカート部分がいくつもの布で重ねられていて、少なくともフリルが十段以上はある。そのフリルは後ろでまとまるようになっていて、最後には薄いレースの一枚になっているみたいだけど、その長さがエリーの身長の五倍は優にある。


 それもあって、エリーは特別製の椅子をスカートの中に入れて、そこに腰掛けている形だ。まあ、その特別製の椅子というのは、エルフの結婚式ではよく使われる物らしいけど。


 対して僕はというと、当然エルフの伝統に従って……ハーフなのにという気持ちは無視されたんだけど、ドレス姿だ。


 カラードレスといえばいいのか、僕の着ているドレスは黄緑というか、ライトグリーンというべきか、明るめの緑のドレス。


 それだけでも何だか目立って恥ずかしいのだけど、着付けをしてくれた人曰く、『これでもおとなしめ』なのだそうだ。赤などの派手な色を好む人も多いらしく、『エルフの男性って何なんだろう……』って思っているのは秘密。


 そしてそれ以上に困惑するのが、エリーに負けないというか、むしろ多いのが一目で分かるフリルの多さ。胸から下は、ほぼ指一本分の間隔で派手なフリルになっているし、微妙に色も変えているので、そのフリルが目立つ気がする。黄色系統の明るい色と、緑系統の色が何段にも、何色にも重なっているので、明らかにエリーより目立っているはずだ。


 そして困った事に、僕のドレスもスカートの長さが身長の三倍程度はある。なので、僕もエリーと同じ椅子に腰掛けている状態。


 ちなみに僕らがいる部屋には、イロとベティはいない。


 とはいっても、彼女たちも僕らと一緒に結婚する事となった。形的にはエリーが正妻で、イロはエルフだけど身分が低いので側室。ベティはそもそも種族が違うのだけど、それでも過去に例がないわけではないらしく、準エルフの扱いでイロさんの次の第二側室という形。


 じゃあ僕の立場はというと、実は僕がエリーを娶る?という形ではない。


 理由は簡単で、僕が見た目はエルフに近いけど、ハーフエルフだから。エリーが正妻なのは間違いないのだけど、僕はあくまでエリーに婿入りする形? みたいだ。まあ、既に少し前からエリーの姓を名乗っているので、あまり困惑はしていないけどね。


 ただ、正式に結婚となると身分差が出てきてしまう。


 実はエリーが正妻なのは当然として、イロは庶民だけどエルフだから、正式な結婚後の地位は僕よりも高くなる。その次が僕で、ベティと続く。なのでバスクホルド子爵家の中では、エリーが最上位となり、次にイロ、僕と続き、最後がベティだ。必ずしも男性が家長となるわけではないらしい。それが一夫多妻制の中であっても。


 そんなわけで、僕はエリーとイロから命じられたら、拒否権はないみたいな物。


 もちろん事前に『対外的には』と教わったけど、エルフの国では当たり前なんだろうなと思うしかない。俗にいう『ハーレム』とは、簡単にいかないみたいだ。まあ、正直それ自体にはあまり興味が無いし、色々と外的要因で決まった事だから実感が無いのかも。


 僕のドレスの話に戻すけど、フリルの所々というか、特に前面と側面には沢山の花があしらわれたアクセサリーがあり、色もドレスのベース色であるライトグリーンを映えさせるような物が使われている。ちなみにエリーのドレスは、ドレスと同じ白を基調とした物なので、僕のドレス程は目立っていない。これって確かコサージュって言うんだったかな?


 その他に、僕とエリーの左胸元にある一輪の花をあしらった飾りの中央には、ナデシコの花びらに似た物と、その後ろに小さな弓がデザインされていて、花びらの上側には三つの赤いサファイアが輝いている。


 右胸には同じく赤いサファイアが、正三角形の頂点に三つ並んでいる形になっている装飾がある。


 これは僕らが子爵家の階位一位を示す物で、仮にこれが階位二位だと青いトパーズが二個、三位では緑翡翠が一個になるし、男爵なら飾りの花びらが緑の葉っぱ状らしい。身分差でこのような分け方があるのは、やっぱり貴族制なんだと思わされる。


 この僕らが付けているのは『貴族章』の一つらしく、主に結婚式などで付けるタイプらしい。裏面のごく一部だけとても軽い金属製で、そこにピンの留め具がある。留め具は二カ所で斜めにならないようになっている。その他の部分は材質は分からないけど、まるで本物の花びらのような感じだったりと、多分これだけでもそれなりに高価な物なんだと思う。


 アクセサリーといえば、エリーの頭にはティアラが乗っているんだけど、その半分程の大きさのティアラが僕の頭にもある。どちらも緻密なデザインになっていて、かなり高価な物だと一目で分かるんだけど、ドレスも含めてこれらは全部王室からのお金。いわば税金でこんな格好をしているのが僕らな訳だ。本当にこんな事をしていて良いのかな?って思う。


「失礼します」


 ノックの後に声がして、一人のお付きの人と、イロが入ってきた。着付けが終わったみたいだ。


「イロ・トルマネン様をお連れしました。こちらにおかけ下さい」


 イロも、もちろんドレス姿。何だか恥ずかしそうだ。


 僕らと同じ椅子に座るように即されて、おとなしくイロが顔を赤らめながら座った。


 イロの衣装はシンプルな白のウエディングドレス。フリルは三段程あるけど、子爵家を示す二種類のアクセサリー以外の飾りはないみたい。この辺が身分差なんだと思う。


 僕よりは短いけど、一応ドレスはやっぱり後ろが長い。側室だとしても、エルフなのでその辺が加味されているのかも。でも、やっぱり僕らから見れば、ずっとシンプルだ。


 イロは僕らを見て、何だか圧倒された顔をしていた。まあ、気持ちは分かるんだけどね。


「エリーナ様は、何というか本当にお美しいですね。クラウディアも凄いですけど……」


 イロがエリーに様付けなのは、今日だけは身分差を意識するように言われたため。なので、この場で一番なのはエリーだし、今のところ僕の立場が最下位。だからイロは僕に様付けどころか、さん付けも許されないそうだ。本当に身分差って面倒。


「で、でも、身分差って大変なのね……」


 イロが何だか落ち込んだ顔で僕を見た後、エリーを見る。


「エリーナ様は当然だけど、クラウディアにも私は感謝しているわ。なのに、今日だけ……じゃないわね。公式行事とかでは、こんな風に振る舞わないといけないんでしょ? 対等にって私は思っているのに」


 まあ、僕らだってイロの言う事は十分に分かるんだけど、この国の決まりだから仕方がないと思う。


「その事であれば、明日以降は大丈夫です」


 側に控えていた給仕の人が、僕らに紅茶を差し出しながら言った。


「これからは皆さん夫婦となるのですから、個別にいる状態ならともかく、ご一緒にいるときは気にする必要はありません。何より、結婚式は最大の儀式のような物ですから」


 なる程と、思わず三人で頷いてしまった。


「それにしても、僕のこの格好は何とかならないのですか?」


「給仕の私にその様な言葉は必要ありません。まあ、クラウデア様は過去に色々とあったと聞いておりますので、私もこれ以上は言いませんが。それと衣装の方ですが、エルフの婚姻であれば、今回はかなりおとなしめです。男性は特に婚姻の時ともなれば、これでもかという程ドレスにお金をかけるのが常ですから。特に男爵以上ともなれば当然ですし、子爵一位であれば、不躾ながら私でも控え目というか、着飾っていないと申し上げます」


 えぇ?……普通のエルフの男性って、特に貴族の場合は結婚式の時どんな格好をしているんだろう?


「恐らく疑問に思われるかと思いまして、こちらに姿絵をいくつかお持ちしております」


 前世でいう所の、A4サイズくらいかもしれない。そんな大きな本に、いくつかの姿絵が描かれている本を見せてくれた。


 この国というか、この世界には写真がどうも無いみたいだ。あるのかもしれないけど、貴族ですらまともに使えない程高価な物なのかもしれないし、その辺の事情は分からない。


 中に描かれた絵は、一体どちらが女性なのか分からないくらいに、アクセサリーなどはもちろんの事、派手なドレス姿の人が描かれている。ちなみに女性のドレスは白と決まっているので、対で描かれていても色つきの衣装であれば、間違いなくそちらが男性のはずだ。そして、結婚式では男性が白のドレスを着る事は許されないらしい。


 いつの間にかエリーとイロも姿絵を見に来ていて、何だか複雑そうな顔をしている。


 まあ、確かにそれはよく分かる。だって、エリーのしているティアラが粗末な物に見える程、まるで王冠とでもいいたげなティアラが描かれていたり、全ての指に宝石付きの指輪をしていたり、胸元には豪華なアクセサリーがあるのが嫌でも分かる。


「ここに描かれているのは、準男爵、男爵家と子爵家、公爵家の主立った方々です。中には質素を好まれた公爵家などもいらっしゃるようですが、基本的には皆さん婚姻の時には得に豪華にされますので」


 確かに渡された絵姿は、どれもかなり装飾過多な物が多い気がする。この辺が僕らの認識の差かもしれない。


「また、結婚式が終わると同時に、イロ様とベッティーナ様は、子爵家の階位一位扱いとなります。正式には貴族に叙勲されるわけではありませんが、実質的には同じ扱いをされるという事です。これからはその様なお立場になる事をお忘れなきようお願いします」


 決まり事なのか、既にイロとベティの姓は、一度もここでは呼ばれていない。恐らく僕と同じように、バスクホルド子爵家に入っている物と見なされているんだろう。


「お待たせしました。ベッティーナ様、こちらでございます」


 扉の外からそんな声が聞こえて、すぐに部屋に待機していた待女じじょさんだか、メイドさんが扉を開ける。この人だけは唯一剣を帯刀していて、いわゆる僕らの護衛らしい。


 侍女さんは話しかけても最低限の言葉しか出てこない。というか『私の事はお気になさらずに』と最初に言った後は、特段返事もないくらいだ。まあ、他のメイドさんだか給士さん達も、実際必要最低限の事しか言わないんだけどね。


 例外なのは、先ほど紅茶を淹れてきた人くらいかな? 僕らが知らない事はちゃんと答えてくれるので、唯一この中では頼れる存在。


 ベティが入室してくると、やはりドレス姿。ただ、僕らのとはやっぱり違う。これが身分差なんだろう。


 ベティのドレスは一応白なんだけど、はっきり言って飾り付けはまるで無い。


 子爵家を示すアクセサリーはあるけど、ドレスにフリルは無いのはもちろん、ドレスのスカートもごく普通の物で、少なくとも床を引きずる事もなさそう。正直そのドレスの方が楽そうに見える。


 あとベティだけは同じ白のドレスでも、色はちょっとくすんでいる。エリーとイロは同じ白系統でも、ちょっと明るめの感じ。ベティのをオフホワイトとすると、エリー達のは純白というか、パールホワイト?みたいな印象を受ける。


「それでは式場にご案内いたします。どうぞこちらへ」


 着付けが終わったからなのか、これから結婚式の本番だ。前世では親族と数人の知人の結婚式には参加した事があっても、僕自身は結婚なんかした事が無いし、今は貴族の立場。


 嫌でも緊張しちゃう。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 この国の結婚式は、少なくとも前世の結婚式とは色々と異なる。


 式場は教会風だけど、必ず神父が執り行うとは限らない。特に、今回のような僕らの場合は。


 誓いを立てる場所は演壇の前になるし、そこは三段高くなっていたりで、多分前世の教会とそんなに変わりは無いと思うけど、ステンドグラスは無く、普通の四角い窓があるだけ。


 で、最初に演壇の前に行くのはエリー。エルフの四人がスカートの裾後部をそれぞれ支えている。まあ、それでも引きずっているんだけどね。


 エリーはドレスの後ろを支えている人を除くと、誰かに連れられていくという事はない。エルフの結婚式では、両親や親族といった人が付き添う習慣は無いそうだ。


 次に演壇に向かうのはイロ。これも同じく付き添いの人はいない。裾を支えるのは三人。


 それと、側室が既に決まっていたりする場合は、同時に式を挙げるのが通例だそうだ。


 そして次に演壇に向かうのが僕。前の二人のように、ドレスのスカートを少し支えてもらって入場。僕の場合も三人の人が、裾を支えるために付き添っている。


 最後にベティが入場だけど、彼女の場合はスカートの裾は長くない。だけど一応背後に二人付き添いの人がいる。


「本日はエリーナ・バスクホルドの婚姻をヤルテアンの神へとお伝えします」


 目の前にいるのは神父とか牧師という人ではなくて、前世で言えば修道女シスターとかと呼ばれる人。


 ただし性別が異なるから呼び方が異なるかというと、全然そんな事はない。目の前にいる人は『最高司祭枢機卿』という役職なんだけど、前世の事を考えると色々重なっている気がする。まあ世界が違うから、そんな事を考えるのがおかしいんだろうけど。


 名前はクリスティーナ・カロラ・アンニェリカ・タトゥ・リク・ウトリアイネンという大公家の方で、この国では事実上の最高位を持つ教会関係者。


 それにしても、凄く長い名前だと思う。一応周囲から見えない所に名前のプレートを置いてあるので、僕らが名前を間違える事は無いのだけどね。


 実はさらに上に『最高教主司祭枢機卿』という役職があるそうなんだけど、色々と決まりがあって今は空席になっているのだとか。


 ヤルテアンの神とは、エルフの始祖と言われている人物の名前で、一応実在したとされている人。正式には『ブリギッタ・ヴィルヘルミーナ・ヤルテアン教』と呼ぶらしいけど、教会関係者でも『ヤルテアン教』と呼ぶのが普通で、結婚式や葬式でも滅多に全ての名称が出る事は無いそうだ。それと『ブリギッタ・ヴィルヘルミーナ・ヤルテアン』という人は女性だったとされ、当然最高神は女神。


「汝、エリーナ・バスクホルドはこの三名との婚姻をし、生涯共にする事をここに誓いますか?」


「はい。ヤルテアン様の名にかけて」


 結婚式では、特に貴族の場合だと、婚姻する中で最高位の人がまず名前を呼ばれて、前のやり取りを行う。


「次にイロ・トルマネン、クラウデア・バスクホルド、ベッティーナ・カペルは、この婚姻の式において、以後エリーナ・バスクホルドと共に、生涯を尽くす事を誓いますか?」


「はい」


 僕ら三人は一斉に返事をする。一人一人が別々に返事はしない。主役はあくまでエリーであって、僕らはいわば付属品みたいなものだ。付属品はちょっと変な言い方かもね。


「では、婚姻の証を」


 ウトリアイネン最高司祭枢機卿の側にいた人が、エリーの前に銀色のナイフのような物が乗ったトレーを差し出す。ちなみに渡している人は枢機卿の一人らしい。


 ナイフに見える物だけど、実は刃は付いていない。それと、銀じゃなくてミスリルとオリハルコンの合金。子爵の婚姻で使われる婚姻の証だそうだ。まあ後で指輪も渡されるんだけど、それは式場では行わずに、式場から出る馬車に乗るときに渡される。渡す人は司祭だったり司教だったり、枢機卿だったりと、その時によって違うみたいだけど。


 そのナイフみたいな物だけど、柄の部分には家紋が描かれている。急遽、僕とエリーで相談して決めたんだけどね。


 僕とエリーは丸一日相談して、弓で矢を射る形にして、矢の先端は赤いサファイア。さらに後ろには六芒星の魔方陣を描いた物に、それぞれの魔方陣の点には、小さなエメラルドをはめ込んだ物を図案したら、何事も無く貴族院の方から許可が出た。


 同時に同じ図柄の印も作る事になったのはビックリしたけど、それは封印の時や、重要な書類に使うための物だそうで、それぞれサイズ違いの物を四つ作ってもらっている。


 また刃は無いけど刃にあたる部分には、コスモスに近い葉っぱの文様を二つ、花びらを三つ描いている。両側に葉があり、真ん中一列に花びらが並ぶ形だ。子爵家の一般的な装飾らしい。


 指輪は宝石などは無いシンプルな物だけど、純ミスリル製。貴族家では一般的な指輪で、指輪の幅がその貴族家の爵位を示している。僕らの場合は一セルのちょうど半分で、多分五ミリくらい。


 これが男爵家だと、一セルの四分の一程度、伯爵家だと一セルらしいんだけど、一セルが見た目一センチくらいに思えるので、正直大きすぎな気もする。しかも常時着用が基本らしいから、貴族って本当に面倒だ。一セルもあるような指輪を常時着用だなんて、指がおかしくなりそうな気がする。


 昔は材質こそ違え、婚姻の証は弓を送るのが通例だったらしいんだけど、今では廃れた風習らしい。少なくとも六百年以上前から、今のような形になったそうだ。王家の婚姻の場合は、弓が今でも使われるらしいけど。


 イロ、僕、ベティの順にナイフを受け取る前に、それぞれエリーにスカートの裾を掴んでから最敬礼。これが慣わしらしい。そしてからナイフを受け取る。受け取ったナイフは、後ろに控えている従者の人に渡すのもまた決まりだ。


「これにてバスクホルド子爵家婚姻の儀を終了とし、神ヤルテアンへの報告とします」


 ウトリアイネン最高司祭枢機卿が宣言して、結婚式が終わる。この後には、当然披露宴みたいなのが始まる。こればかりはどの世界でも、大体同じなのかな?


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 披露宴は、まあ前世と似たような物だったんだけど。


「まさか陛下もそうだけど、主立った王族が全て出席だなんて……」


 イロは疲れを隠さずに、ソファーでグッタリとしている。


「それと、バスクホルド伯爵家の方々も、全員出席されていましたね。あとは、バスクホルド伯爵の息がかかった貴族も、ほぼ出席していたようです。正直、私の父が何だか可哀想に思えました……」


 ベティも疲れた顔をしながら、メイドさんが淹れてくれた紅茶を口に含んだ。


「その他にも、主立った閣僚が出席していました。その補佐の方も含めてですが。ベッティーナ様には申し訳ございませんが、これが貴族社会というものです。慣れていただかないと」


 紅茶を淹れながら、メイド長のリハヴァイネンさんが告げる。


 まともに話した事がない人がほとんどなのに、一応関係者という事で呼ばれたらしいんだけど、何が関係しているのかサッパリ。なので、僕とエリーも当然グッタリ。


「それでですが、エリーナ様から順に、イロ様、ベッティーナ様の順で、本日これからより『夫婦の契り』を行っていただく事になります」


 リハヴァイネンさんの言葉に、思わず僕も含めてみんなの視線が集中する。


「当然でございます。まだ年齢的にはお若いとはいえ、お世継ぎは貴族家にとって最も大切な事。それから陛下及びバスクホルド伯爵様より、避妊薬の使用は禁じられておりますのでご理解下さい」


 避妊薬と聞いて、僕らは一斉に顔が赤くなったと思う。


 まあリハヴァイネンさんが言っている事は分かるんだけど。分かるんだけど、なんだか実感も無ければ、正直急ぎすぎな気もするし……。


「お疲れなのは分かっておりますが、(わたくし)どもも仕事がありますので」


「仕事?」


 エリーが真っ先に聞き返した。


「イロ様とベッティーナ様はご存じないと思いますし、エリーナ様、クラウディア様もご存じないようですのでお知らせいたしますが、一般に婚姻してから二週間は、それぞれ男性と女性とで契りを結んでいただきます。その際に、必ず(わたくし)どものうち一名は、お側でそれをご確認させていただく事になっているのです」


「ち、契って、ま、まさか、夜の……」


 イロが顔を真っ赤にしながら聞いた。


「分かりやすく言わせて頂きますと、子を成す行為です。皆さんは貴族の籍に入ったので、これ以上のはしたない言い方は出来かねます。また全員と契っていただくことになっています。一般的には本妻の方と、精々側室の方がお一人だけですが、今回はさらにもう一人側室がいらっしゃる形になりますので、出来れば早い方がよろしいかと」


 つ、つまりエリー達との行為を、間近で見られるって事? ちょっとどころじゃ無くて恥ずかしすぎる!


「あ、あの……それは絶対なのですか? しかも、必ず見られるのですよね? それは、別の部屋で耳を澄ませて聞くとかではなく?」


 ベティが若干青い顔をして尋ねた。


「申し訳ございませんが、衝立かカーテンをご用意するのが精々です。また、男性の行為が一度終わるごとに、(わたくし)どもが確認をさせて頂きます。これは王族といえど例外ではありませんので」


 ベティが今にも泡でも拭きそうな顔をしている。まあ、僕だってかなり動揺しているし、正直どうかと思うし、何を質問してよいのかすら分からない。


「男性用の回復剤もありますし、女性用の痛みを和らげる薬もございます。今からですと、何とか女性用のお薬を飲めば、痛みも多少和らぐかと。ですが、初夜に関してはあまり女性の方がお薬を飲むのは良しとされておりません」


 今日は何だかリハヴァイネンさんの冷静沈着振りが、逆に怖い。


「き、決まっている事なのよね? じゃあ、私が最初よね」


 エリーも動揺しながら確認する。


「はい。いかがなさいますか? お部屋の用意は終わっておりますが?」


 決定的に逃げ場は無いみたいだ。


「わ、分かったわ。クラディ、行くわよ!」


 エリーは突然立ち上がって、僕の手を引っ張った。それを案内するかのように、リハヴァイネンさんが先導しようとする。


「ふ、二人もじゅ、準備しておきなさいよね!」


 エリーは一度振り返ると、そう言い残してから僕を引きずるように部屋を後にした。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 結論からすると、何とか一晩で三人と契りを結ぶ事が出来た。


 問題は、一人か二人のメイドさんが、必ず衝立の裏にいる事と、たまに前触れも無く監視というか、観察している事。恥ずかしい事に、明らかにメイドさんの誰かが時々見ている。音を聞く程度じゃ無くて、実際に見ているから恥ずかしいにも程がある。部屋はずっと同じ部屋で、一度目の『行為』が終わった後は、トイレ以外での退室は禁じられていた。そのトイレも付き添いがつく始末。


 最終的には僕が三人と順番に『行為』を行っている間、待っている二人が衝立の向こうで待っていて、しかも専門の回復魔法が使える人に体力回復すらさせられている。僕も一度行為が終わるごとに回復魔法で体力を回復させられる。


 一度『行為』が終わるごとに十分程度お茶の時間は確保してくれるんだけど、ただそれだけ。そのお茶の時間も、実はベッドの清掃などをするための時間だと気が付くのにさほど時間はかからなかったし。


 ちょっぴり苦情を言ってみたけど、当然のごとく『行為』の方に集中するよう促されるだけ。


 エリーも含め、三人とも最初は痛がったけど、最後にはみんな慣れてくれた。


 エリーは行為が始まると、何だかとても甘えてくるし、イロはちょっと押しが強い感じ。ベティは何だかひたすら求めてくる感じで、ちょうど二人の中間みたいな存在かな?


 結局朝まで四人で頑張ったんだけど、最後は監視役のメイドさんが一礼をして部屋を出て行った。


 それからお風呂に急いで入って、朝食にしたんだけど、これが後十三日間続く事を念押しされたときには、流石に僕らも疲れた表情を隠せない。


 この国の貴族って、本当にこんな事しているのかな?


 そんな事を思いながら、結局昼は冒険者学校へ、夜は四人で頑張る。


 流石に十日を過ぎたあたりから、夜は何だか途中で記憶が飛んでいた気がするけど、流石にそれについては何も言われなかった。


 とにかく僕らは、これで正式に夫婦というか、家族になったわけだ。

各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。


また感想などもお待ちしております!

ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


今後ともよろしくお願いします。

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