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第九十八話 魔法でやっちゃいました

2016/02/19 一部『姓』が『性』になっていた場所を修正しました

2016/02/14 誤字及び一部内容の修正を行いました

2016/01/26 話数番号を変更しました

 二人に僕らの事を話して、それから三日後。今日は一日かけて魔法の授業が行われる。


 そもそも僕らが知っている魔法や魔術と、今の魔法などは色々と違いがあるみたい。


 過去の『魔力災害』とかで、失われた事も多いそうだし、逆に分かった事もあるみたい。


 もちろん基本的な事は同じはずなんだけど、だいたい一五〇〇年の経過で、昔よりも詳細に魔法や魔力の事が分かったんだろう。


 それでも魔法の原理は『火』『水』『風』『土』の四系統であり、前世の物語だとそれぞれ相反する物があったりするはず何だけど、この世界の魔法は必ずしも相反しない。


 前世の物語にあるような『聖』魔法や『闇』魔法に該当するような魔法は、今でも発見されていないのだとか。


 ただ、例外として『全属性』と『無属性』はあるらしいのだけど、かなり条件が厳しいらしく、少なくともここ二百年ほどは使える人はいないという。


 魔法の属性と効果だけど、水の魔法で氷を作るにしても、水そのものは水魔法だけど、温度を管理するのは火魔法だったりする。


 風魔法がないと火魔法の弾であろうと、土魔法の弾であろうと、当然前には飛ばない。


 風魔法は推進力としての役割があるので、火魔法だけだと薪に火を点けるだけとか、そんな単純な事しか出来なかったりする。


 この事については、実はあまり分かっていない人も多いのだとか。それ故、初歩魔法を訓練するような所もあるらしい。


 ただ初歩魔法で『魔法使い』を名乗るのは、一般的ではないみたいだ。それこそ火種程度しか使えない人も多いそうだ。まあ、生活魔法としては便利だろうけど。


 全員が全員、目に分かるような魔法をちゃんと使う事は出来ないのだけど、それでも大抵の人が少しは魔法を使える。


 魔法を使った肉体強化などで攻撃力を上げたりする事は普通に行われていて、魔法をあまり使えなくても魔力がある人は、そういった使い方で剣術などを訓練している。いわゆる武器を用いた前衛職などの人がこれに該当する。


「――と言うわけで、魔法は確かに高度な戦闘を可能としますが、接近戦に向いているとは必ずしも言えません。なので、通常の剣術なども十分に必要なのです。また、能力が有れば魔法剣と呼ばれる魔法を用いた戦い方も可能なので、どの方法が自分に向いているかを確認するのが良いでしょう。魔法剣以外にも、槍や斧などでも出来るので、魔法剣が習得できたなら、他の武器に挑戦すると尚良いと言えます。通常の武器に比べて威力は通常の武器の数倍はありますから、応用性が格段に広がります」


 教員が様々な魔法の扱い方を教えるんだけど、今の時間は魔法と関係ないように思えた武器関係。


 でも内容を聞くかぎり、確かに魔法で属性を与えた武器は、通常の武器よりは強いのだとは思う。


「私達の頃には、魔法剣以外のこんな方法なかったわよね?」


 エリーが小声で聞いてきたので、小さく頷く。


「魔法技術が発達したんだろうね。でも、使えたら確かに便利かも」


 一度は色々と魔法に関して失われたらしいけど、それでも数百年の年月が、魔法を発達させたのは間違いないと思う。何より、魔法があるとないでは便利さが違うからね。


 前世でいう所の、科学技術の発達に似ているのかも。方法は違うにしても。


「後ほど外で魔法剣などの実技を行います。では、次に進みます。魔法剣は、魔力を物質化する具体的な方法の一つに過ぎません。魔法剣は基礎でもあるのですが、魔力を物質化する最も簡単なのは、実は魔法そのものです。例えば水魔法ですが――」


 授業が続けられる中、僕とエリーは昔学んだ事と照らし合わせている。今の方が論理的に魔法を考えているみたいだけど、必ずしも論理的に考えるのが魔法じゃないと思っている。


 実際今も説明されている水魔法で水を生み出すのは、確かに魔力を水に置き換えた物と考える事も出来るんだけど、昔試した方法だと説明がつかない事もある。


 特に僕なんかの場合は、一度に大量の水を発生させる事が出来るので、当然その元となった魔力はどこからという話になるんだけど、同時に空気中から水分が抜けている気がしていた。


 多分だけど、魔法は空気中からも水分を奪う事が出来るんじゃないかというのが僕の予想。大量の水魔法を使った後に、空気が乾燥していた気がしていたから。


 これは使い方次第では便利でもあるけど不便にもなる。


 例えば井戸に水を供給しようとして、周囲の水脈を枯らせてしまった場合には、結局のところ根本的な解決にならない。


 あとは火事の時に水魔法で消火するときだけど、周囲の水分を奪うはずなので、周囲が逆に燃えやすくなるんじゃないかというのが僕の予想だ。


 もちろんこんな事になるには、相当な魔力が必要になるはずだけど、僕とエリーに関しては気をつけなきゃいけない。


 それ以前に、前世の記憶が多少ある僕としては、この星の大気成分がどうなっているのかを知りたかったりもする。


 ただ、僕程度の頭では、正直こればかりは調べられないし、仮に冷却魔法で『絶対零度』を作り出しても、そこで分離する液体が確実に酸素や窒素なのか分からない。一度は絶対零度に近い環境を実現した事があるだけ、正直これは悔しいんだけどね。分析できる方法があれば一番なんだけど。


「――なので、魔法に暴発があるように、魔力の物質化にも暴発はあり得ます。ただし、頻度としては魔法よりも遙かに少ないと言えるでしょう。理由は、そこまで魔力の物質化を行える人は、ほぼ常識的に考えられないという事でしょうか」


 教員がそう言った後に、僕らを見たのが分かった。そのせいか周囲の人も一斉に僕らを見ている。たぶん僕らは例外とでも言いたいんだろうけど、流石に口に出して言う事はしないみたいだ。


 それでも僕らは互いに顔を見合わせると、思わず苦笑しちゃったけどね。


「えー、授業を続けます。魔力の物質化が出来るという事は、同時にそれを用いた道具も作成できるという事です。これは一般に――」


 簡単に纏めると、どんな種類でも魔法が使える人がいれば使えるのが『魔法具』で、魔力が全くない場合でも使えるのが『魔道具』と呼ばれるそうだ。当然魔法具の方が値段は安いけど、汎用性では魔道具に劣ってしまう。


 じゃあ、魔道具がとんでもなく高価な物かというと、道具自体はさほどでもないらしい。高くても一般的に魔法具の三倍程度という事だ。


 ただ、魔道具には魔石やが必要な場合が多く、天然の魔石の大きさは大きさがバラバラ。


 この時代には人工魔石の製造方法がほぼ失われてしまったので、余計に高価になったようだ。僕としては、昔の事を思い出すからちょっと嫌だけど。


 そして肝心の魔道具だけど、その魔石が別売りだという事。魔石まで含めた値段だと、軽く魔法具の十倍はしてしまうのだとか。


 そもそも多めの魔力がない場合でも仕えるのが『魔道具』らしいので、その為の魔石となると仕方ないと思う。


 まあ、魔石の魔力は限界があるし、魔道具に組み込める魔石の大きさも、魔道具によって決まっているらしいので、こればかりは仕方がないとも言える。


 それと、魔法具も魔石や魔方陣を組み込むと、通常よりも性能が上がるらしい。


 一応大半の魔石を使用できる大型魔道具もあるらしいけど、それはそれで持ち運びに難があるし、そもそも大きな魔道具だから値段も高価になる。そして大きな魔道具だから、効率よく使うとなればそれなりの魔石を用意しなきゃならない。なので殆ど普及していないらしく、一部の貴族や大商人などが所有しているくらいと言っていた。


「――というわけで、確かに研究中の人工魔石もありますが、天然の魔石も需要は断然高い傾向にあります。昔に比べて一度に使用する魔力は格段に下がりましたが、そのぶん人口も増えているので、魔石不足は未だ解消されていません。そこで魔石を確保するために冒険者という存在があるわけです。何より、未だ人工魔石の製造方法は復活していませんから」


 この時代でも、魔石は道具として必要不可欠な存在らしい。


 確かに魔法という物が使えて、その補助として利用できるので、利便性は絶対的なんだと思う。前世での石油とかの燃料天然資源に近いのかも。


 それにしても、この国でも石油や石炭の実物はまだ見た事がない。


 元は原油だけど、確か主成分は炭化水素だったと思う。流石に詳しくは知らないけど、炭化水素が主成分なら、大昔の木々などの生物が変化して石油になってもおかしくないんじゃないかと思うんだけど。


 前世の歴史では『燃える水』ということで最初の石油が発見されたと思った。流石に地下から採掘するようになるのは、ずっと後の時代のはずだけど、天然に湧き出している所が全くないとも思えない。


 まあ、前世でも生物由来なのか無機物由来なのか分かっていなかったはずだから、これ以上は僕だって分からないけど。


 それと石炭は植物由来の天然資源で正しいはず。石炭の中に植物の化石があるって話も聞いた事があったし。


 鉱山は普通にあるみたいなので、当然石炭が見つかってもおかしくないはずなんだけど、もしかしたら利用法が分かっていなくて放置されているのかな? それなら一応納得いく。


 この世界では魔法を燃料と出来るので、大量発電とかそういった用途がない限りは、石炭のような物も意味をなさない可能性がある。


 ただ、化石燃料に頼っていないおかげか、空気はずっと澄んでいる。夜中に星々が綺麗に見えるのがその証拠。


「魔石には色によって大まかに用途が決まります。特に需要が高いのは赤い魔石で、純粋な赤に近い魔石ほど高額で取引されますし、大きさも値段に左右します」


 そう言って教員は教壇の前にいくつか魔石を並べた後、赤い魔石を手に取った。正直かなり濁った赤で、ちょっと黒っぽい気もするけど、一応赤い魔石と言われたらその通りだ。


「これはかなり低品質な赤い魔石です。大きさは拳大ほどありますが、この程度の魔石ですと買い取り価格で銅板一枚が精々でしょう。同じ赤い魔石でも……」


 そう言いながら教員はポケットから別の赤い魔石を取り出した。明らかに先ほどの魔石よりも赤が綺麗だし、若干透き通っているんだけど、大きさは五分の一程度だと思う。


「こちらのように大きさはかなり違いますが、これで中程度の品質と認められる赤い魔石です。これですと買い取り価格で銀貨一枚は超えるでしょう」


 銀貨一枚という言葉に、教室中がざわめきだつ。


 多分だけど、日本円にして百万円相当になると思うので、アレがあればそれなりの財産だ。当然見つける事が出来れば、しばらくは生活に余裕が出来るはず。


「この魔石は見本で、普段は金庫に入れてあります。オリハルコン製のケースで覆われた金庫ですから、比較的近くで見る事も可能です。授業後に標本室で確認して下さい」


 教員はそう言ってすぐに、その魔石をポケットにしまった。貴重品なので、早々は僕らにも近くで触らせるわけには行かないんだと思う。


 ちなみにオリハルコンだけど、鉱石の状態だと鉄のような色をしている。光の当て具合によっては虹色に見える場所があるくらい。


 そのオリハルコンを精錬するときに、ある種の条件下だと透明になるそうだ。


 博物館や図書館などの展示用で使われる事が多いらしく、元がオリハルコンなので簡単に割れるような事はないらしい。


 みんなが残念そうな顔をしているけど、確かに銀貨一枚の価値があるとすれば、それだけでしばらく生活には困らない。


 普通の家族が生活するのに必要な、一ヶ月分に相当する額でも銀板一枚なので、銀貨一枚となれば生活費一年分とは言わなくても、それに近い額になるらしいから。


 ただ、そんな銀貨を含めて、僕とエリーはそれぞれ銀板、銀貨や金貨などを数枚今も手元にある。なので周囲ほどは反応出来なかった。たぶん金銭感覚が麻痺し始めているんだと思う。


「では、次の授業から実技を行います。第二校庭で集合して下さい」


 そう言い残して教員が教壇から離れると、すぐにイロとベティが僕らの側に来た。


 二人とも僕らの屋敷に招待してから、普通に呼び捨てで呼んでもらって構わないと言われたので、少なくとも友人にはなれたんだと思う。時々ベティがちょっと気恥ずかしそうにしているけど、理由が良く分からない。


 いくら友人になったからとはいえ、実は教室の席がある程度決まっている。僕らは後から入学したのでちょっと例外らしいけど、必ずしも友人同士が近くに集まるとは限らないみたい。


「あの魔石凄かったですね」


「エリーは今まで見た事があるの?」


 すぐにベティとイロがエリーに話しかける。やっぱり女性同士の方が話しやすいみたい。


「私はないわね。クラディは、確かあるって聞いたけど?」


 こんな感じで、僕に上手くエリーが会話を振ってくれる。


 こんな事になっている理由は、僕らが貴族じゃないかって思われている事が原因。


 そもそも大半の貴族家は、その家長たる人は男性である事が多く、その家族は当然貴族になるんだけど、あくまでその家長が貴族だから、家族が貴族になるだけ。当然何かの拍子にその家長が貴族籍を失えば、家族も連座で貴族ではなくなってしまうのだそうだ。


 この理論からすれば、僕が貴族家の正式な一員で、エリーはそこに乗っかっているだけって事に周囲からは見えるらしい。


 でも、実際僕らは二人とも別々に貴族の位を持っていて、実は僕が婿入りする形だから、周囲は勘違いをしているわけ。まあ、婿入りと言っても、実際にはもう姓を変えているわけだし、今さらな感じがするけどね。


「昔だけど、魔石とかを売っていた商店で手伝いをしていたんだ。だから魔石自体はそんなに珍しくは無いかな? 今の魔石と、当時の魔石がどう違うかは、流石にもう分からないけどね」


 昔の魔石には一応属性があったりするけど、当然生物の中にあるので、一つの魔石に一種類の属性である事はない。もちろん基本的な属性はあったりするけど、どんな生物でも全く同じ魔力しか使わないという事はないから。


 例えば狼は一般的に風属性が強く出るんだけど、程度の差はあるにせよ土属性もある。場合によっては水属性を持っていたり、火属性を持っていたりしていたはず。なので、純粋に一種類しかない属性の魔石は無かったはず。


「流石に詳しいわね。でも、さっき授業で見た高純度も魔石は、火属性のみの気がしたけど?」


 確かにイロが指摘するように、授業中に見た魔石は輝くような赤色をしていた。普通に考えれば火属性のみに見えるんだけど、それって僕の常識からは外れる。


「あとで現物を見るしかないかな? 直接触れなくても、ある程度は属性の判別は出来るから」


 僕がそう言うと、三人は何だか納得しながら凄いという顔をしていた。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「魔石は通常一種類の属性しか持ちません。理由は不明ですが、そういう物だと理解して下さい。なので、この魔石は水属性で――」


 次の授業は校庭に移動して、僕らは魔石の解説を聞きながら、魔石から効率よく魔力を取り出す方法を習っていた。


 魔石から魔力を吸い出すのは、一応多少の危険が伴うという理由だ。滅多に起きないらしいけど、魔石が砕け散って怪我をする事もあるらしい。


 さっきも言っていたけど、どうも今の時代には魔石は一つにつき一つの属性が基本らしい。ただ、その理由は分かっていないらしく、あまり調査も進んでいないのだとか。以前は、複数の魔力が宿っていたような気がしたんだけど、やっぱり昔と違う原因が気になる。


 というか、正確には単一の属性魔力しかない魔石は存在しなかったはず。なので効率は悪かったとは思うけど、誰でもどの魔石からもそれなりの魔力は供給することが出来たんだと思う。


「魔石はこのまま使う事も出来ますが、加工する事により魔結晶と呼ばれる純度の高い物に精製する事が可能です。ですが外での戦闘中にその様な事は出来ませんし、各々得意とする分野があります。ですので、得意分野の魔石を常時予備として持ち歩く事を推奨しています。一般的に、魔結晶が必要な事はほとんどありませんので。ごく希ではありますが、魔力の使いすぎで気を失う事もあるので、魔法を使った後などに倦怠感を覚えた際には、出来るだけ早く魔石から魔力を補充しましょう。もちろん高純度の魔石を見つけた場合には、魔石を換金する事が生活のためにもなります。高純度の魔石ほど高値で買い取られるからです。また魔結晶に加工出来る魔石は、とても限られています。当然純度が高い程加工が容易との事ですが、その様な魔石は換金した方が手早いでしょう」


 魔石に関しては、僕が知っているのと多少の食い違いはあるけど、冒険者なら多分当たり前なんだろうし、きっと魔結晶は高額な代物だと思う。それに、僕らの魔力が切れる事態なんて、早々ありそうには思えないし。


 少なくとも今までの訓練で色々魔法を使ったけど、僕らが最後まで魔力を持て余す事ばかりで、他の人は早々に離脱している。下手すれば疲労から気絶している人もいたくらいだ。


 あと、魔力の使いすぎで寿命が縮む事はない事は証明されているそうだ。それに気絶したとしても一過性の物で、単にその人のコントロールに問題があるという話らしい。普通は使い切っても気絶しないらしいので、他の要因があるんだと思う。


 かといって予備の魔石を持ち歩く事はするつもりだけどね。ただ普通の魔石で僕やエリーの魔力が回復するとは、正直あまり思えないんだけど……。


 これは僕の想像でしかないんだけど、確実にこの時代と僕らが生まれた時代とでは、根本的な魔法の『差』が出来ているんだと思う。


 考えられる原因は『魔力災害』だろうけど、他にも何か原因があっておかしくない。一つ一つは小さな事であっても、積み重なれば問題にはなるはず。


 魔力補充については僕は前にやった事があるし、エリーにやり方をこの前教えたら、すぐに出来たみたいだ。ただ他の人たちは苦労しているみたい。


 一応イロとベティには教えたんだけど、彼女たちもまだ成功していないみたいだから、僕らとは何か違いがあるのかもしれない。


 魔力が無くなった後の魔石は、濁った水色から透明なガラス容器のようになっている。濁っている部分はどこに消えたか謎。ちなみに試したのは水属性の魔石。


 ただし教師の言う事では、魔石からの魔力補充に関しては、遅くても数ヶ月でマスターは出来るそうだ。効率の問題はあるみたいだけど、個人差って事だってあるだろうとは思うしね。


 もちろん個人差で魔石から得られる魔力は差が付くので、同じ魔石から百の魔力を補充できる人もいれば、一しか出来ない人もいるらしい。


 で、魔石から魔力の補充があまり出来ない人は、この段階で魔法以外を主体とした攻撃方法を模索する事になるのだとか。確かに効率を考えれば、下手に魔法ばかりを頼るよりも、専門職として武術などを鍛えた方が良いと思う。


「二人は……成功していますね。冒険者カードに補充された魔力の値が記載されるのですが、魔法をまだ使っていないので、どのくらい補充できたのかは後ほど計測しましょう。他の皆さんは、焦らずに訓練をして下さい」


 何だか僕とエリーは魔石から魔力を補充できたとしても、特に疑問すら思われていないみたい。それはそれでどうかと思うんだけど。


 ちなみに僕らの冒険者カードは魔力表示を偽装する特別仕様だ。そうしないと色々と面倒な事になっちゃうし、貴族としての身分証のカードは別にあるしね。そっちはそっちで、記載する内容が異なるし。


 きちんとした数値を表示させると、ある意味『パニック』になるらしい。それで特別に偽装した物を使っているんだけど、この事を知っているギルドの関係者はごく一部。首都にあるギルド本部でも片手で数えるほどで、地方支部には一切公表されていないそうだ。


 説明によると、僕らの魔力を訓練してまともに行使すれば、一国を潰してもまだ余る程度の魔力があるそうだ。まあ、そんな事はするつもりがないけど、それって僕やエリーが単体で、前世における核兵器みたいな事って事なんだよね。しかも戦術核どころか、戦略核兵器みたいな感じ。正直言われたときはあまり良い気がしなかった。


「なお、空になった魔石に再び魔力を補充するのは極めて難しいですが、透明化した魔石の残りは他に利用されますので、可能であれば持ち帰るようにして下さい。それに魔力を魔石に補充するのは、とても効率が悪くなります。そもそも大半の人には不可能とされています。もし行うにしても、周囲の安全が確認できる場所以外では、絶対に行わないように」


 空になった魔石はガラスみたいな感じだし、もしかしたら溶かしてガラスの類似品として再利用するのかな?


「また、魔石についてですが――」


 魔石についての授業が進む中、結局四つの属性を持つ魔石はどれも問題なく使用できた僕とエリーだった。


 ところで、最初に拉致される前には魔石に魔力を補充できたんだけど、流石に目立ちそうだので今は試していない。後で試すつもりではいるけど。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 午前中の授業が終わって昼食を摂った後、僕らはギルドの中にある武器防具屋に来ていた。もちろん装備を買うため。武器防具屋とはいうけど、実際のところは万屋的なお店であり、冒険者が最低限必要な物を揃えるために設置されたお店でもあったりする。


 昼食はギルドにある生徒用の食堂。もちろんギルドには普通の食堂なんかもあって、他にも近くのお店で食べても構わないんだけど、殆どの人が生徒用の食堂で食事をする。


 お金は一応かかるんだけど、同じギルドの中にある普通の食堂よりも安くて、物によっては半額以下。それにバイキング形式だから好きな物を選べるという利点もある。


 ちなみに僕は三種類のパンを一つずつと、肉の上に火が完全に通ったスクランブルエッグが乗った物。それとサラダが一品にスープ。スープはコンソメスープみたいな色をしているけど、単純に動物の骨からだしを取ったスープへちょっとだけ数種類の野菜が浮かんでいるだけだ。


 前世で『元日本人としては、食について~』なんてフレーズをライトノベルと言われる小説などで目にしたことは確かにあったけど、病院食か栄養が管理されたような食事が多かった前世の事を考えると、はっきり言って日本食へのこだわりはあまりというか、ほとんど無い。


 一般に病院食は『不味い』とか『味が薄い』なんて言葉があったけど、慣れてしまうとそれが標準となってしまうのも人間の怖いところだったりする。


 なのでこの世界に転生してから、食について日本食と比べることはほとんどしていない。それにこの手の話で話題になる『マヨネーズ』だけど、前世の僕は食べられなかったりする。原因は結局分からなかったけど、卵とお酢は平気なのに、マヨネーズとなると途端に食べられなくなるという理不尽さ。


 周囲からは何度も疑問に思われたけど、アレルギーでもないのに駄目な物は駄目なのだから仕方がない。


 そしてこの世界に転生してからは、少なくともソースとかその類いはそれなりにある。流石に醤油はないみたいだけど、こっちの世界の食事に完全に慣れてしまっているし、そもそも味噌や醤油に使う酵母の選定が分からないみたいだ。


 醤油とか味噌が無い理由の一つに、発酵食品があまり普及していない事が理由なのかも。


 食品にもよるけど、大抵の食品は長期保存できる魔法がある。なので保存食としての発酵食品は進化しなかったのだろうし、お酢は一応存在しているので、発酵食品が全く無いわけでもない。曖昧だけどお酒だって発酵食品の部類になると聞いた事があった気がするので、保存食方面での発酵食品が発達しなかったのかな?


 病院の中にパソコンを持ち込んでネットに繋ぐ事は出来ても、実際に物を作るとなると究極にハードルが高くなるし(事実上不可能)、毎年とはいわなくても、最低でも月に一度は病院通いで、そのうち何度かは精密検査をしているような状況では、いくら自宅で味噌が製造可能と知識では知っていても、それを実践するのは事実上の不可能だったりする。大体、前世でも自宅で味噌とか作る人はかなり少数派になってきているって聞いた事があったような気もするし。ちなみに病院にパソコンを持ち込めたのは、入院があまりに長いとか回数が多かったので、事実上黙認されてた。パソコン等の持ち込み禁止ってなっている病院でも、案外融通が利いたりしていた。一応許可は取っていたけどね。


 そういったいくつかの理由が重なった結果、この世界に転生して日本食へのこだわりといっても、事実上無かったというのが正しいのだと思う。なのでこっちの世界の料理に慣れるのは全く問題が無かった。むしろ前世から比べたら味付けがちょっと濃いくらいだし、ソースは何種類かある。


 実際にはかなりあるらしいけど、身分的な問題で提供されるソースにも屋敷では気を使われる始末だし。


 ケチャップも名前こそ違うけどある。ちなみに名前はサオスといって、種類も沢山あったりする。分かっているだけでも二十種類は超える。


 例えばトマトケチャップだと、ドマテ サオスって名前だけど、これはあくまでトマトを使ったサオス全般を意味するだけで、使用するトマトの品種に応じてサオスも種類が分かれる。


 そのうちサオス(ケチャップ)に使用されるトマトの種類は五種類ほどらしい。他にも芋系統や前世でいう所のキャベツに似た野菜など、サオスの種類が何種類あるかは流石に知らない。


 流石に人によって苦手な物とか色々あるみたいだけど、それはサオスの種類があまりに多いので、一般的には好き嫌いの範疇とされる。


 それと、サオスにはお酒入りの物もあったりして、未成年……とはいえ、種族によってその基準となる年齢は違うけど、一応規制があるらしい。守られているのかちょっと疑問らしいんだけど。


 話を元に戻して、基本冒険者ギルドの生徒とはいえ、授業も肉体を使うことが多い。なのでどうしても食事は多くなりがちだけど、当然授業で体を使うので、今のところ太ったりはしていない。


 エリーはむしろちょっと体重が減ったらしい。なので今日は僕とほぼ同じメニューだけど、さらに肉料理を少量一品追加していた。


 使われる肉は養殖された動物の場合もあれば、魔物の肉の場合もある。魔物の肉は人によって好みが分かれるけど、養殖の肉にしても、多少は好みがあるので仕方がないと思う。


 ただ、この世界での宗教観では、特に特定の肉を食べてはいけないだとか、そういった類いの話は無いみたいだ。お酒についても同様。


 魔物は名前も知らない物もあれば、ファンタジーで常連とも言えるオークなども肉として供給されている。もちろん『人』としてのオークでは無く、魔物としてのオークだけどね。


 残念なのは、昔起きた最初の大規模な魔力災害で、一部の種族が軒並み減少し、残った種族も魔物化が進んでいるらしい事。オークもその例で、事故を防ぐためにオークのみでの狩りなどは禁止されていたりする。


 卵なんだけど、実際に採取で持って来ることもあるとのことで、用意された卵を見たことがある。大きさはウズラの卵くらいから、ダチョウの卵よりもずっと大きな感じの物まで。


 もちろん人工繁殖させた鳥の卵もだいぶ出回っているらしいけど、絶対数としてはまだまだ足りないのだとか。


 特に地方の小さな村や町程度では、卵は超高級品扱いの場合もあるという。


 じゃあ肝心の味はどうかというと、一番大きな物が前世の鶏卵に味は似ていると思う。ウズラの卵みたいな物は、ちょっとイクラのような感じかな? ただ、全体的に卵はそのまま茹でた物でも、味が濃い物が多い気がする。この辺は環境による物だと思う。あと、前世の日本と違って生食はあり得ない。


 そもそも前世日本での鶏卵生食文化は、確か安全性がかなり確立されてからのはず。この世界にサルモネラ菌がいるのかは知らないけど、火の通りが十分でない場合、時折食中毒を起こす人がいるらしい。魔法で治療できるので、死に至る事は希らしいけど。


 今日の僕の食事はその量で銅貨五枚。多分五百円相当だと思うけど、かなりボリュームがあるのでお買い得感がある。一品追加しても銅貨一枚程度なので、はっきり言って安いと思う。


 イロとベティも、それぞれ好きな物をチョイスして、一緒のテーブルに座って食べるんだけど、基本的にみんな食事は早い。というか、速いという表現が正しい。


 冒険者は外で食べるときに、いつ襲われるか分からないということで、原則食事はスピード命らしい。最初はちょっと大変だったけど、流石に僕らもだいぶ食事は早くなった。屋敷ではゆっくり食べるんだけどね。


 むしろ屋敷では『貴族としての食事』をまだ教わっている段階だったりする。マナーはだいたい覚えたけど、油断すると注意される事もあるので、なかなかに厳しい。


 他にも冒険者訓練の一環で、昼食が保存食の場合もある。大抵の場合は干し肉系統と、日持ちがするパン。


 パンはきちんと箱で保管しておくと、だいたい二ヶ月は食べる事が出来る。その代わり、乾パンに近いような感じなので、水分が必須だったりするんだけどね。


 食後のデザートというと、大抵は栄養を固めただけにしか思えないようなクッキー状の物。栄養重視の品なので、当然味は期待できない。そこに長期間保存が利くジャムなどを付けたりして食べる事が多い。


 町中で売られているパンは、既に酵母が使われているみたいだ。物にもよるけど、ふっくらとしたパンが普通に売られているし、味も様々。


 前世日本の味ほどじゃないとは思うんだけど、そもそも僕の味覚がこの世界に慣れてしまったので、普通に美味しいと思っている。それに種類もあるので飽きは今のところ無い。


「それにしても、冒険者ギルドの中に武器屋があるなんてね。てっきり武器屋が他にあると思っていたわ」


 エリーの言葉に思わず頷く。


 冒険者ギルドの中にあるお店は、かなり品揃えが豊富だ。そして値段も比較的安いらしい。初心者向けとはいえ、中級冒険者もそれなりに購入しているのだとか。


 それなりに実力が上がっても、格安の武器を半ば使い捨て感覚で使用しながら大型の魔物を狩る事があるそうで、そんな時に重宝するらしい。


 他にも原因の一つには、きちんとした武器を用意するとなると、それだけで銀貨が飛んでいくから。討伐でそれなりに稼げれば別だけど、一度の討伐や狩猟で、銀貨が何枚ももらえるほど世の中甘くはないらしい。


 実際一日の収入が銅貨一枚という人も多く、日本円にして多分一万円ほど。なのにそれにかかった経費が銅板七枚なんて事も希にあるようで、そうなると一日の収入は銅板三枚。日本円で三千円ほどになる。


 まあ、こういう事は初心者に多いらしいけどね。それなりに経験を積めば、普通は七割が最終的な収入になるらしいので、そうなるまで初心者冒険者は、中級冒険者に色々習いながら狩猟をしたりするのだとか。


「普通の武器屋とか防具屋、道具屋も町の中にあるわよ? ギルドのお店はあくまで初心者向けといった感じかしら?」


「ええ、そうですね。でも、私達のような初心者はこれで十分ですから。最初から高価な物は買えませんし」


 イロとベティが付け加えるように教えてくれた。どのみちどういった装備が良いのか分からないので、僕らには初心者用で十分だとは思うけど。


「でも、お二人はその……町中のお店の方が良い物を揃えられると思うんですけど」


 ベティはむしろ、町中で買う事を勧めたいらしい。


「ここに置いてある物は、ほとんどが初心者用で、サイズも汎用品なんです。なので、ちゃんと体に合う物となると、専門店で購入した方が調整も出来ますから。もちろんそのぶん高価にはなりますけど。それに町中のお店でも、初心者用の物は扱っていますから」


 確かにサイズは重要かも。特に鎧とかとなると、体にフィットした物でないと色々と問題が起きそうな気もする。命を預ける物だし、余り変な物は選ばない方が良いかも。


「あ、でもここで売っている鎧とかも、ベルトなどで多少は調整できます。専門店でオーダーメイドや半オーダーメイドより劣りますけど、大抵はそれでも大丈夫です」


「半オーダーメイド?」


 多分簡単な調整程度の事だと僕は思うけど、ベティさんが言った意味を、エリーは分からなかったみたいだ。まあ、僕が思い描いているの違うかもしれないし、ここは黙って聞いておいた方が良いね。


「既製品に少しだけ手を加えるのよ。だからオーダーメイドよりは安いし、色々な種類が選びやすいわ。オーダーメイドを何点も作るなんて、普通は出来ないから。まあ、二人はまた違うかもしれないけど」


 イロはそう言いながら、僕らを羨ましそうに見ている。まあ、確かに僕らのお金があれば、多分オーダーメイドはそう難しくないとは思うし。それに、しばらくは国庫から色々援助がある。当然二人には話せる内容じゃないけど。


「剣などの武器もそうね。汎用で作った物は確かに安めだけど、大きさとかはだいたい決まっているから、慣れるのに時間がかかるのよ。武器は攻撃力に直結するから、早く慣れないと大変だし、普通は数ヶ月かけて慣れていくわ」


 イロは近くにあった剣を指さした。確かに何本も並べてあって、明らかに僕なんかでも汎用品と分かる。


「でもオーダーメイドだと、早いと数日で、遅くても一ヶ月程度で慣れるって聞くから、当然その後の訓練だって違ってくるの。ただ、武器に関してはオーダーメイドか既製品の二種類ね。持ち手とかを多少融通してくれるけど、それだって元の剣が変わるほどじゃないわ。武器の重さがそうそう変わるわけじゃないしね。弓とかだと絶望的。私も弓の訓練はしているけど、今でも私にあう弓って見つかっていないから」


 イロは溜息交じりに、陳列棚に並べてある弓を見ている。


「え? イロは僕らよりも早くから訓練しているんだよね?」


「ええ。でも弓だって色々な大きさがあるでしょ? 威力を重視するなら大型の弓がいいけど、持ち運びは面倒だし、小さな弓だと速く撃てるけど、威力がね。それにいくつも弓を持ち歩くなんて事はしないわ。持てる物には限界があるしね」


 そう言ってイロは苦笑した。ベティも何だか乾いた笑いを少しだけしている気がする。


 確かに言われる通りだと思う。それに弓だと、矢もそれなりの数が必要だと思うし。そうなるとどんどん荷物が増えちゃう。


「最近は魔法の袋が開発されて、小さい物ならそれに入れられるけど、それだって容量の制限も大きいし、大きさだって制限されるわ。そもそも、ナイフ程度ならともかく、剣や弓、槍なんかは入らないから」


「魔法の袋なんてあるんだ!」


 思わず驚いてしまった。今までそんな物があるなんて思ってなかったし。少なくとも僕らが生まれた頃には無かったはず。


「あるわ。でも値段も高いし、一度に入れられるのは袋の口に入る大きさで、容量だって精々樽一個分程度だったかしら? 入れられる重さも百リア程度って聞いているわ。まあ、袋に入れれば重さは気にならないって話だけど」


 確か感覚的には、一リアで一キロぐらいだったと思う。まあ、世界が違うから確信は持てないけど。だとすると百キロくらい?


 確かに普通よりは多く持てるけど、袋の口より大きい物は入れられないって言うし、汎用性はちょっと低めかも。


「一般的な物だとこれね。値段も安いけど、入れる口も小さいの。もっと大きな口の物もあるけど、そういった物だと結構値段がするわね」


 イロが近くにあった見本品の魔法の袋を見せてくれた。


 高価な物なのか、魔法の袋はサンプルしか置いていないみたいだ。口の大きさは拳が入るくらい。確かにナイフ程度なら入りそうだけど、何でも入れられるというわけにはいかないサイズ。色は茶色い皮の袋みたいで、他に色は無いみたい。


「それに魔法の袋と言っても、中を魔力で拡張しているだけで、中に入れたからって時間が止まったりはしないわ。ここで売っている物だと、野ウサギ程度が入る口のサイズはあるはずだけど、そんなサイズでも確か銀貨数枚するし、とてもじゃないけど私達では買えないわね。容量は同じだし、小さな獲物をとりあえず収納するだけなら良いけど、止血していないと中で血が固まるまでそのままだし、当然汚れるわ。だから普通はちゃんと血抜きをするか、血が固まってから入れるの。普通は血抜きをしてからって聞くわ」


 溜息交じりにイロが教えてくれる。


「でも、貴重品を入れておくのは便利ですよ? 一応魔道具に分類されて、使う人を制限できます。それ以外の人だと取り出せないようになるので、貴重品を入れている人は多いです。盗んでも取り出せないし、無理に取り出そうとすると壊れて中身がゴミになるそうですから」


 ベティが補足の説明をしてくれた。


 なるほど。確かにお金とか貴重品入れには便利かも。あとは魔石を入れておく事かな? 他にも矢とか小物を入れるには便利そうだ。もちろん制限は多そうだけど。


「あ、でも矢とかは専用の矢筒があるので、普通はそちらを利用しますね。魔法の袋と似た仕様になっていると聞きましたけど、矢筒はいくつかに仕切られていて、それぞれの仕切りの中からすぐに矢を取り出せるそうです。矢のサイズで色々あるので、まだ私達が使う事の程はないですけど」


 確かに訓練で、矢の長さも色々あった気がする。


「へぇ~、便利ね。確かにいくつかの種類の矢は必要かもしれないし、それを魔法の袋みたいに収納できるのは便利よね。他に似たような物は無いの?」


 エリーは普通の魔法の袋より、矢筒の方に興味があるらしい。


「確か、投げナイフ用のもあったはずです。他にも薬専用の袋とか。薬の種類にもよりますけど、なかには瓶に入った物もあるので、魔法の袋に入れておくと割れずに済みますから。多分その辺は店員さんの方が詳しいです」


 確かにそう言った事は、ベティよりも店員さんに聞く事だろう。まあでも、すぐには必要ないかな? そもそもすぐに必要な物では無いと思う。


「とりあえず、どんな物があるかだけでも知りたいわ。私もそうだけど、クラディだってそんなに詳しくないはずだし」


「そうだね。確かにあまり武器に詳しいとは言えないし、鎧だって詳しいとはお世辞にも言えないかな」


 結局、お昼の時間が終わるまで武器や鎧、道具などをイロとベティに解説してもらいながら、僕らはどれが良いかずっと悩む事になった。色々二人の話は参考になったけどね。やっぱり教えてくれる人がいるだけで、色々と助かるのは事実。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 お昼が終わって最初の授業は、外での魔法訓練。とはいえ、それなりに僕らもやっているので、威力の調整に問題がある以外は、基本的にやる事はいつも同じ……と思っていたら、チームごとに連携した魔法という話だ。


「多少難易度は高くなりますが、連携した魔法を使う事でより強い魔物とも戦う事が出来ます。かといってそれを過信してはいけません。連携した魔法は多くの場合時間がかかるので、危険と判断したときにはすぐに他の方法で対応しましょう。また――」


 合成魔法なら僕やエリーも使えるけど、それとは違うのかな? そもそも火の魔法だけだと火球とかにしかならないから、前に飛ばすには風魔法が必要。それは確か教えていたはずだけど、それと違うのかも。


「――が注意事項です」


 あ、すっかり聞いていなかった……。


「連携した魔法は、原則として上級魔法を使用した物を指します。ただし、三人で中級魔法を組み合わせた場合でも、連携魔法と呼ばれます。流石に初級の魔法を組み合わせても、それでは連携魔法とは呼びません」


 そう言って教員は背後の黒板に、連携魔法の定義をサッと記述する。外にある黒板なので、結構汚れが多い。


 中級魔法での連携魔法は、三人以上であれば何人でも良いらしい。もちろん上級魔法でも同じみたいだ。


「また、連携魔法はお互いのタイミングが極めて重要です。少しズレただけでも、きちんと発動しない場合が殆どです。なので咄嗟の判断で連携魔法は難しいでしょう」


 うーん……それだと使い勝手がかなり悪い気がするんだけど。


 そもそも上級魔法は発動にかなりの時間がかかる。相手は待ってくれる訳じゃ無いし、いくら距離をとった所で、その距離だって限度がある。


「待ち伏せなどには有効ですが、これも状況を確認しながら使用して下さい。最後に、連携魔法がもっとも重視されるのが治療です。治療魔法で連携を行った場合に、重傷者を素早く回復させたり、周囲の軽傷者を一度に治癒させる事が出来ます。戦闘が終わった後に重宝するので、特に治癒魔法の連携を覚えておく事はお勧めします。ただしある程度傷が深いと、治癒魔法でもそうすぐに戦線復帰は出来ません。ある程度の体力回復なども望めますが、中程度以上の傷などを負った場合は、一旦安全なところに避難する事も大切なので覚えておいて下さい」


 確かに魔法で回復させても、体力が完全に回復するわけじゃない。多分だけど、失った血までは回復できないんじゃないかと思う。もしくは回復しても僅かとか。


 回復魔法で肉体の再生も出来るんだけど、その肉体が元の体に馴染むのだって時間がかかるはず。それなら確かにすぐの戦線復帰は出来ないだろうとは思う。他にも急激に修復した傷口などが、体への負担となっている可能性だってある。


 前世の医療に比べたらもの凄く便利だけど、万能じゃ無いって事だよね。


「回復魔法自体が、水魔法を基礎とした複合魔法ですので、その回復魔法の連携は極めて難しい物と言えます。この中でも習得できる人は限られた人になると思いますが、連携魔法が待ち伏せ攻撃に有効なのは事実です。今日はその為の訓練を行います。今日は比較的簡単な火魔法を基本とした連携魔法です。周辺には通達を行っているので、多少の音や光などは問題ありません。ですが訓練場を壊さないように気をつけて下さい」


 それって僕らに言っている気がする……。この中でそれなりの威力がある魔法が使える人は、正直まだ僅か。火柱の魔法だってまともに使える人は少ない。


 教員の説明が終わると、すぐにイロとベティがこっちに来た。


 今では、訓練するときは二人も交えて四人で行う。僕らの知らない魔法もあったりするので、そういったことを覚えるのにもちょうど良い。


 それと、訓練は大抵四人から六人纏まって行う事が多い。一番の理由はそれくらいがパーティーメンバーなのと、二人や三人くらいだと訓練が難しい事が多かったりするから。


「私達は何度かやった事があるけど、二人は初めてよね? そもそも、共同で魔法を使ったりはした事があるの?」


「無いわ。そもそも……必要としなかったし、ね。クラディもそう思うでしょ?」


 エリーの返事に頷いて答える。


 そもそも僕らは単体で十分強力な魔法が使えるので、それだけで十分に通用する。それに遠距離の攻撃も可能なので、怪我をする事もちょっと考えられない。


 前の戦闘に参加したときも、共同で魔法を放っただけで連携魔法とは違うと思う。


 エリーはどうか分からないけど、僕は治療魔法を使えるし、それだって普通の治療魔法よりは強いらしい。殆ど試した事はないけどね。何せ、試す機会がまず無いし。


「あ、でもお二人は必要なのでしょうか? 魔法だけで言えば十分な実力があるので、下手に連携魔法を行うと大変な事になる気がするのですけど?」


 ベティがちょっと困ったように呟いた。


「え、そんな事はないんじゃない? クラディとエリーが一緒にやるならともかく、私達と組むなら威力は制限されると思うわ。確かに二人とも強力な魔法を使えるけど、連携魔法はある程度実力が同じでないと、弱い方に力が傾くって聞いたし」


 なるほど。魔力などで差があると、必ずしも強化されるわけじゃないって事だ。ということは、僕とエリーが連携魔法なんて使ったら、とんでもないことになりそうな気がする。


 一口に連携魔法っていっても、何だか奥が深そうだ。


「でも、一度クラディさんの火魔法を見てみたいですね。今回はお二人と初めてなので、私達との実力の差がどの程度か判断できないですし」


 今回は火系統の魔法を訓練するため、他の魔法はほとんど考慮されない。多分だけど、火柱のような魔法を共同で放つ程度が一般的なんだと思う。それなら地面に焦げ目が付く程度だと思うし。


 そういえばベティは僕の事を『さん』付けで呼ぶ事が多い気がするんだけど、何でだろう?


「そうね。そういえばエリーとクラディはどちらが火魔法については得意なの? 私達からすると、どちらも十分強いとは思うけど」


 確かに普通の人の基準だと、僕らの魔法の強さは異常なレベルだろう。その強さを知りたいのは当然だ。


「私の方が得意ね。クラディはどちらかというと水魔法が得意らしいから。でもクラディの火魔法だってかなりの物よ? ねえ、一度試してみたら? 教員も近くにいるし、許可を取れば問題は無いと思うから」


 前に試したときは、あまり魔力を込めていなかったけど、それでもかなり驚かれた気がする。それにその時はイロとベティは近くにいなかったはず。なら、近くで見てみたいというのも当然だ。


 そもそも、内密に本気で魔法を放たないようにギルド上層部などからも言われている。多分魔力などから推測したんだろうけど。


「なら、私が話をつけてきます。お二人のうち、先にどちらがやるかは、決めておいて下さい。では」


 そう言ってベティは、教員の元に走っていく。


 確かに全力で火魔法だけを試す機会はなかなか無い。多分子供の時以来だと思う。確かあの時は、火災旋風のようになったっけ……。


 だけど、今回はちょっと手抜きをしないといけないかも。やっぱり一言言っておこう。


「でも、大丈夫かな? 結構大変なことになる気がするんだけど」


 『そうなの?』といった感じで、エリーがこちらを見て、イロも『まさか』って感じの顔だ。


 まあ気持ちは分かるんだけど、昔試した時よりも威力が上がっていると思うんだよね? 成長すれば当然威力は上がっていると思うから。


 それに、前回大規模魔法を使った時だって、実際には障壁で防御されたけど、かなりの威力があったんじゃ無いかと思ってる。あの時とは条件が違うけど、それでも心配になる。


 そんな事を思っていたら、ベティが帰ってきた。一応魔法は使って良いらしい。


 ただ、ベティが教員からどの程度まで使って良いのか知らされているのか疑問。そもそも、その教員だって分かっていないかも。まあ、全力で魔法を使わなければ、多分何とかなると信じたい。


「それで言われたんだけど、場所を指定されたの。二人はあそこで行って欲しいって」


 そう言いながらベティが指した場所は、校庭の一角に設置された一段高くなった場所。腰くらいの高さが、かさ上げされているみたいだ。


「あの下は、確か魔方陣が設置されているわ。どんな魔方陣か忘れたけど」


 イロが思い出したように呟く。


「威力調整の魔方陣が設置されているそうです。あそこなら安全だろうって……」


 あー、やっぱり威力が高いって認識されているんだな。まあ、間違ってはいないんだけど。


「あそこなら全力でも大丈夫と言っていました。それで、どちらから試すんですか?」


 やっぱりベティは先日僕らの屋敷に招待してから、ちょっと僕らに遠慮している気がする。普通に接して欲しいって言ったんだけど、やっぱり難しいのかも。


 確かにこの国では、貴族とそれ以外では明確な線引きがある。


 貴族とその使用人しか入れない場所もあるし、それこそ同じ貴族でも、爵位によって入れる地域に差があったりする。


 この前二人を屋敷に招待したけど、実は事前に貴族街への入場許可証を発行してもらったりもしないといけない。まあ、これは警備上の問題らしいんだけど。


 身分差別はどんな世界でも仕方がないと重う。本当はない方が一番なんだろうけど、同じ人なんていない訳で、当然人はそこから他人と自分を比べる。最初は単なる区別かもしれないけど、それが差別になるのはどんな世界でも共通なんだろう。


 特にこの世界は魔法もあれば『ヒト』と一口に言っても、前世と違って明らかに種族が異なったりする。しかも身体的能力だってかなり変わるくらいだ。


 何よりこの国もだけど、聞いた限り全ての国が王国制らしいし、それを支えるための貴族制も採用しているみたい。


 僕とエリーの場合は何が何だか分からないまま貴族になったけど、これまでの僕らの苦労に比べたらね。


 ちょっと気になるのは、イロとベティは僕らの側室になりたいような雰囲気がある。実際に言葉にはしていないけど、特にベティはそんな感じ。


 イロはエルフ族だからまだマシなんだろうけど、ベティさんはクラニス(イヌ)族なので、身分差別の枠から抜け出す方法としてはそれしかないのかもしれない。


 エリーがどう思っているのかちょっとまだ分からないし、そもそも僕ら二人も正式には結婚していないから、どちらにしてもそんな事は後回しだ。


「クラディ、先にやってみて。クラディで魔方陣が耐えられなかったら、私がやったら酷い事になりそうだし……」


 エリーはちょっと困った顔をしてそんな事を言ってきた。でも、僕とエリーとでそんなに差はもう無いと思うんだよね。


 まあ、グタグタしても何にもならないから、僕は一段高くなった校庭の上に立つ。周囲が緩やかな坂になっているんだけど、本当に下には魔法陣なんてあるのかな? ただの盛り土に思える。


「この上でなら、どこでも大丈夫なのかな?」


 一応三人……というか、ベティに確認。


 普通は中央部に魔方陣があると思うんだよね。もし円形の魔方陣なら中心が最も制御されているはずだけど、魔方陣には形が色々あるはず。なので確認はしておかないと。


「その上なら大丈夫との話でした!」


 ちょっと声を大きくして、ベティが教えてくれる。まあ、実際の魔方陣は教員しか知らないんだろうし、あまり考えても仕方がないのかも。まあでも、中心部が普通は一番強力になっているはず。


 中心から五歩下がって、段になっている場所の一番端に移動する。流石に自分を中心にして、火柱を作るようなバカな事はしない。とはいえ、魔法を発動させる中心は台になっている場所の中央付近だけど。


「じゃあ、試すね」


 一応三人の方をもう一度見てから、台の中心部へと魔力を集中させる。今回は火柱だけの予定だし、火魔法以外の要素は一切考えない。


 まあ、正確には土魔法も少しだけ発動しているんだけどね。火柱を発生させる位置を決めるのに、土魔法で座標を決めるから。座標を決めるのは、例え水の上でも土魔法を使う。なぜ水の上なのに土魔法? って考えた事は昔あったけど、今はあまり考えても仕方がないかな。


 とにかく範囲を限定して、できる限り糸のように細い火柱をイメージ。それでもきっと両腕を伸ばしたくらいの直径にはなるはず。形も出来るだけシンプルに、円柱をイメージする。


「あれ? 魔法の効率を制限して魔方陣が埋め込まれているはずだよね? 正直あまり干渉を受けていない気がするんだけど……」


 小声で地面を見てみるけど、流石に土に埋められた魔方陣を見る事は出来ない。そもそも地上表面だと、何らかの拍子で魔方陣が機能しなくなるのを防ぐため。


「まあ、誤魔化すためにも魔力はソコソコで……」


 小声で言ってはいるんだけど、実はイロとベティは信じられない光景を目にしていた。


 今まで何度かその魔方陣が埋められた場所で魔法の訓練をした事がある二人は、そもそもまともに魔法が発動した事は一度もない。なのにクラディは、何事もないかのように魔法を発動しようとしている。


 しかもそれに周囲も気がついたのか、他に訓練していた生徒と監視役の教員が、いつの間にか訓練を中止してクラディを見ていたくらいだ。


「流石にあまりに手抜きをするのも問題だよね……」


 クラディは相変わらずそんな事を呟いているけど、周囲からすれば上級魔法どころか、極大魔法レベルの魔力を感じ取っていた。そしてその光景に圧倒されたのか、誰もがそれを指摘できずにいる。


 ただエリーだけは、クラディが手を抜いている事を見抜いていた。もちろんその理由は簡単に推測できたし、それを咎めるつもりも最初から無い。


「ちょっと嫌な予感……」


 エリーは周囲に聞こえないように呟く。周囲の反応を見れば、流石にそれくらいは気づく。


「別に呪文なんて唱える必要は無いんだけど……今はそれが一般的らしいし、仕方ないか」


 これまでの授業で、詠唱に使う呪文そのものは、その個人が最もイメージしやすければ良いと習った。といっても、これまでは無詠唱だったし、とりあえず一般的に使いそうな言葉を並べてみる。


「エクスプロシブ エリュ ラエ ゴス ヤンミ タハン トリスト プロネス!」


 瞬間、天高く火柱が出現する。それにしても呪文って恥ずかしい……。


 放った魔法は上位から二段目の火魔法で、エクスプロシブというもの。炎は直径一セル程度を目安。多分感覚で一センチ程度だと思う。高さは六メントルなので、多分六メートルほどのはず。


 ちなみに数字や範囲は、普通に使う数字の呼称とは異なり、魔術語としての数値。範囲なんかもそう。


 今回は十セルなので、エリュ ラエがそれに該当していて、高さはタハン トリストで六メントルを規定している。


 魔術語の場合は、まず属性を唱え、範囲と高さなどを数字の前に単位を唱える。最後のプロネスが柱を意味する魔術語だ。


 魔法は術者が意識している間か、術者の魔力が切れるまでの間だけ発動する。まあ、普通は術者が意識して止めるんだけどね。止めるのには停止を意味するような言葉はない。単に止まる事を意識すれば良いだけ。


 ただ出現した火柱を見ると、予想していたのと違う……というか、違いすぎる。


 範囲は軽く見積もって一メントルはあるし、高さは百メントル以上はありそうだ。しかもその火柱は螺旋状に渦を巻いている感じすらする。


 尚且つ表面は火柱なのに赤系統よりも青系統の色になっている。だからか分からないけど、輻射熱で結構熱い。火柱からは少なくとも四メントルは離れているはずなんだけど。


「なんか、おかしな……」


 火柱に向かって、明らかに風が吹いている。銀色の長髪が、その風にあおらている。


「やっぱり周囲から酸素も供給しているみたい……予想はあっていたのかな?」


 昔はあまり意識していなかったけど、よく火柱を見てみると下の方から空気を吸い込んでいるかのように揺れがある。純粋に魔力だけなら、こんな現象は説明が難しい。


 周囲には燃える物が何もない。そうなると、魔力単体でも燃焼は起きている可能性があるけど、風が説明できないと思う。酸素が混合して威力が増していると考えた方が納得できる。


 そこで問題になるのは、当然魔力単体だとどの程度の威力になるかなんだけど、教わった魔法のうち今使った魔法は最大級の一個下で、四番目に強い魔法。尚且つ、普通はなかなか使えないと言っていた気がする。つまり比較が難しいという事。


「ちょっと失敗したかな……」


 小声で呟いてから、後ろにいるエリー達を振り返ると、エリーも含めて驚いている。特にエリー以外は口をポカンと開けている人が多い。


「なんか不味いかも……」


 慌てて魔法の発動を止めたけど、すぐには火柱が消えない。本当ならすぐに消えるって聞いたんだけど。


 感覚にして二分くらいして、やっと火柱が消えた。消える間際に一瞬だけ黄色いレーザーのような物が空高く直進した気がするけど、気のせいだよね? うん、気のせいってことにしておこう!


「ねえ、クラディ。火柱の魔法を使ったのよね? 確かエクスプロシブって聞こえたけど? 最上級じゃないにしても、上級魔法よね?」


「うん、そうだよ。ただ思っていたよりも範囲が広がっちゃってね。本当はもっと細くて、高さも六メントルくらいのを予定していたんだけど……」


 エリーはそれを聞いて、どこか納得していない顔をした。他の人はまだ口を開けたままだ。パッと見は面白いけど、長時間見ると怖い。


「え、えーと、何か不味かったですか?」


 一応、担当教員に向けて声をかけてみる。他の人だと問題が多そうだし、そもそも理解してもらえなさそうだし。


「は、え? あ……あぁ、はい。え、えーと、クラウデア君だったわよね? 今使った魔法は?」


 あーあ。こりゃ完全に不味い事したかも。


「えーと、エクスプロシブの魔法にプロネスを掛け合わせました。あと、高さと範囲を指定したはずなんですけど、ちょっと失敗したみたいです」


 どの程度失敗したのかは、とりあえず言わないでおく。まあ、後で聞かれると思うけど。


「エクスプロシブ? アレが? どう見てもスプロガス以上の威力よ! え、えぇー!」


 教員が悲鳴を上げて上の空。これ、どうなっちゃうの?


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 結局授業は中断。


 まあ、どう考えても僕のせいで、しかもエリーとイロ、ベティまで呼び出しを喰らってしまった。魔法を使ったのは僕だけなのに。


 ちなみにその時の教員も一緒に、今は冒険者学校にある特別室? 的なところにいる。付け加えると、学校長と魔法学科を取り仕切っている魔法指導主任の人、ギルド長に副ギルド長まで一緒だ。


 他の人たちはというと、今は別の授業中らしい。そっちに僕らは参加しなくて大丈夫なのかな? 特にイロとベティは。


 一応魔法を使ったのは僕だけだし、事情聴取は基本僕だけ。三人は見ていた事を話しただけで、その後は無言。


 『あれがエクスプロシブの魔法とはとても思えません!』と、見ていた教員が叫んでいたり、それを魔法指導主任の人が首をかしげながら見ていたり、学校長は何だか頭を抱えている。そして不気味なのはギルド長と副ギルド長がニヤニヤ笑っている事。


 ちなみにさっきの担当教員だけが立っているけど、僕らは全員座っている。ちょっと硬めのソファーだけど、会議とかでこの部屋を使うのなら普通なのかな?


 多分だけど、一般的に冒険者ギルドの中にある椅子は木製で、そんなに品質はよくない。とりあえず座る事が出来れば問題ないって感じもするし、実際単なる丸椅子もある。ほとんどは一応背もたれが付いているけど、年季が入っているのかちょっと黒ずんでいる。


 それにしても、その怖い顔は無いと思うんだ、実際。


「まあ、君ももう少し落ち着いて。もうすぐ関係者が来るから」


 ギルド長がそう窘めながら、既に誰かを呼んでいるみたいだ。


 目の前のテーブルには、人数分のお茶が出されている。まあ、状況からしたら変な事はされないと……思いたい。ちなみにお茶はダリンという紅茶。どう飲んでも、ダージリンにしか思えないけどね。


 そんな事を思っていると、ドアがノックされた。校長が入室を即した。入ってきた人は別の教員の男性。ちなみにクーシー族に見える。確か魔法指導主任の補佐をやっている人だったと思う。


「魔方陣ですが、魔法に耐えられなかったようです。一部ですが損壊していました。これから修復の手配は終えています」


 業務連絡みたいだ。つか、魔方陣壊しちゃったの? それってやっぱり僕の責任だよね? ちょっと嫌な汗が……。


「こ、これって大問題ですよ! 施設の損壊は謹慎になります!」


 またさっきの教員が大声を上げだけど、すぐに校長が着席するように指示する。


「まあ、普通はそうなんだけどね。今回は……」


 校長はそう言ってから、ギルド長の方を見た。


「予想できた事ですからね。我々が事前に通達していないという落ち度もあるので、罪には問えませんね。むしろ今回のを基準に、もっと強固な物を構築した方が良いでしょうね。ああ、それとクラウデア君ですが、一切の罪には問われません。もちろん他の三人もです」


 それを聞いてちょっと安堵したけど、それだけでここに呼ばれたとは思わない。


「一応、規則では貴族であっても、このようなときは一般的に謹慎処分になります。この場合ですと、謹慎一ヶ月といったところでしょうか? ですがギルド長が仰った通りなんですよね」


 学校長とギルド長では、ギルド長の方が立場が上になる。当然ギルド長が『罪に問えない』と言ったら、そうなんだろう。


 確かに僕がした事は、学校の設備を破壊した事になるんだと思う。事故的な事になるかとは思うんだけど、それでも壊した事は事実だし、前世みたいに常に生徒が保護されるような世界じゃない事も学んでいる。


「とりあえず、魔方陣の修復は詳細が分かるまで一時延期だ。まあ、準備はしておいてくれて構わないが、間違っても現状であそこでは魔法を使わないように徹底させてくれ」


 校長がそう言うと、魔方陣の事を伝えに来た人は部屋を出て行く。うーん、何を待っているんだろう?


「二人については、社会勉強も兼ねてこちらでお願いしたい。実力はあったとしても、現状の事を知らないのは不味いからな」


 ギルド長が僕らを一度見た後に、校長へと念を押すように言った。いわゆる大人の事情ってやつ? まあ、一応僕らも大人扱いではあるんだけどね。


「それに二人に責任を取ってもらうとなると、伯爵家はおろか、王家にまで色々と問題が……」


 魔法指導主任の人がちょっと溜息をついている。まあ、そんな事態になったら、確かにその辺の人が黙ってないとは思うけど。


「まあ単に待っていても仕方がないか。クラウデア君。君がいずれこういった事をしてしまう事は予想の範疇だった。ただ、我々が思っていたよりも、若干速かったのが誤算だったが」


 ギルド長は、まるで分かっていたかのように話し始める。


「クラウデア君とエリーナ君の魔力が、我々常識が通用しないレベルにある事は分かっていたが、流石にここまでとは信じられなかった。むしろ、それを関係者に徹底していなかったという点で我々の不手際だろう。少しばかり嫌な思いもしたかもしれないが、この通り許して欲しい」


 ギルド長はいきなり立ち上がると、僕らに九十度の礼をする。


「い、いえ。そんな。僕も分かっていなかった事ですし……」


 流石にギルド長や校長を責める気にはなれない。


 確かに僕らには明かせない秘密があるわけだし、それを考慮した結果なんだろうから。


「こ、校長。それは一体……」


 取り乱していた教員が、かなり動揺していた。まあ、無理もないよね。


「これは極秘でもあるのだが、こうなってしまっては一部開示するしかないだろう。二人は我々が束になってもかなわない程の魔力を有している。君らにも本当は話すべきだったのだが、その結果として君らが過度に恐れるのを我々も恐れたのだ。二人には確かに若干常識を知らない点もあるが、これは生まれ持った事情もある。その点は流石に話すわけにはいかないが、君ら教員諸君に二人を過度に恐れて欲しくなかったという事もある。だが、結果としてはむしろ裏目に出てしまった。この点については、君ら教員諸君には悪いと思っている」


 流石にそう言われてなのか、唯一の一般教員である彼女は、何も言えないようだ。


「だが勘違いはしないで欲しい。確かに二人の魔力は普通では無い。しかし、二人はただそれだけとも言える。私が言うのもおかしいが、出来るだけ普段は他の生徒と同じように接してもらいたい」


「は、はぁ……」


 若干納得がいっていないような気もするけど、彼女は大人しく引き下がったみたいだ。それで彼女だけ校長から部屋を後にするように言われて、すぐさま退出した。まだ何かあるのかな?


「それよりも、二人に関しては早急に結婚を考えて欲しい。突然の事で戸惑うかもしれないが、二人とも一つの貴族家となればいくつかの問題も解決する」


 急に校長が結婚の事を話し出して、思わず何が何だか分からなくなった。


「いくつかの問題ですか? クラディの事は確かに好きですが、流石に結婚となると色々……」


 エリーが若干顔を赤くしている。


「正式な家族となれば、色々と周囲を黙らせる事も出来る。今はまだだ丈夫だろうが、それを考慮しても時間が限られている事は理解して欲しい」


 まさかここで結婚の話が出るとは思わなかった。


「それから、そちらの二人もだ。それなりの秘密は既に聞いていると思う。君らもバスクホルド子爵家の一員となってくれれば、ごまかしが利く。もちろん強制は出来ないが」


 つくづく政治の世界とかは面倒だと思う。しかも本人の知らぬところで話が進められている感じだし。


「これは私よりも、ギルド長の管轄になるだろうな。説明してやってくれないか?」


 校長に促されて、ギルド長が話し始めた。


「エリーナ君とクラウデア君は、貴族で尚且つ子爵家の身だ。当然メイドなども付けてはいるが、やはり一般常識には若干不安なところもある。なので、イロ・トルマネン君についてはエルフなのでそのままで一応は問題が無いが、ベッティーナ・カペル君については若干問題がある。しかし、我々としてはバスクホルド子爵家に嫁いで欲しい。二人に事情があるのは分かるが、政治的な問題も絡んでいるのだ」


 正直、立場的には平民扱いである二人をあまり巻き込みたくはないけど、様子を見るとそう簡単ではなさそう。


「カペル君については、種族的な問題もあるので、どこかの貴族家の養子扱いにして、バスクホルド子爵家に嫁ぐという形を取ってもらう」


 何だか色々と、僕らの知らない所で決められている。


「え、でも二人とも将来は……」


 エリーが当然の疑問を口にした。二人とも将来の夢があったし、それを無視するのはどうかと思う。


「わ、私なら大丈夫です!」


 突然ベティが大声を上げて、僕を含めてみんなが注目する。


「わ、私も夢はありますけど、で、でも、そんなのは多分無理だって分かっているんです。だったら、お二人さえ構わなければ……め、妾でも何でも良いです!」


 ちょっと焦り気味にベティが言い放った。


「ベ、ベティ? 確か、あなたは村を再興させるとか……」


 すぐにエリーが反論しながら、イロを見る。


「冒険者で稼いだって、たかが知れてます。強い人なら軍に入る事も出来ると思いますが、私にはとても……。それに、普通に冒険者をしても最後まで生き残れるかなんて、私なんかじゃ……」


 まあ、確かにそれは正しい判断なんだよね。


 確かに冒険者を全うできれば、夢のような財産は手に入る。でも、それが出来る人は本当に少ないわけだし、軍に入れるような人は、最初から目を付けられているみたいだ。今のベティさんがその立場にいるとは思えない。世の中そんなに甘くはない。


 そういえばイロさんはどう考えているんだろう? 思わず彼女の方を見る。すると、彼女と目が合った。


「私には、明確な目標と、目指す道があります。それを捨てろと仰るのでしょうか?」


 イロはギルド長にむき直してから、何だか問い詰めるように言い放った。一瞬の沈黙が支配する。


「君の事はもちろん、カペル君についても調べてはいる。我々はその上で『提案』しているのだ」


 ギルド長の言葉は、提案というより命令に聞こえた。


「そもそも君には兄弟がいたはずだ。周囲にはあまり話していないようだが。別に君一人で抱え込む必要はないのではないか?」


 一瞬だけど、イロの顔色が曇ったのが分かる。


「君が最も兄姉弟妹きょうだいのうちで戦闘センスに優れているのは知っている。しかし、一つの区画の治安を守るとはいえ、それだって戦闘力が高ければ良いという物ではないのだ。町の人間との交渉事もあるし、当然そうなれば強いだけでは務まらない。そして君は気がついているはずだ。君程ではないにしても、それなりに武芸も出来て、尚且つ交渉事にも優れた者がいる事を。親の期待に添いたい気持ちは私にも分かる。しかし、力の強さだけが町を守る事にはならない」


 そう言われて、イロは顔を沈めた。たぶん心当たりがあるんだと思う。


「わ、私は……」


「強制はしたくないのだが、ここは少しばかり涙を呑んでくれないか? もちろんこのまま学生として卒業までは面倒を見る。しかし、このままでは君は独身で過ごす事にもなりかねない。それなりの実力を持った女性冒険者が、なかなか結婚できないのは知っているだろう?」


 男性から見たら、強い女性冒険者は色々と何かあるのかも。僕は気にしなくても、他の人がどう思うかは別問題だし。


「それと、君らが了承してくれたら、学費については今後免除しよう。我々が無理を言っているのは私も分かっている。せめてもの罪滅ぼしだと思って欲しい」


 今度は校長が告げたが、何だかたたみ掛けているようにすら思える。


「無論、ギルドとしても二人やその家族にもそれなりの便宜は図るつもりだ。むしろ普通に冒険者をするよりも、我々の提案を受け入れてくれた方が、全体的にも穏便に収まる」


 再びギルド長がたたみ掛ける。こんな時、何だか大人ってずるいなって思うけど、一応僕らも大人なんだよね。正直自覚はまだ無いけど。


 そもそもエルフやその眷族は、肉体的な成長が早かったとしても、心の成長まで早いとは言えないと前にも聞いた。たぶん僕も大人になりきれていないのかもしれないし、僕らに関しては今まで色々ありすぎて、大人と自覚するのが出来ないのかもしれない。


 大体、僕とエリーは千四百年くらい魔力炉に入れられていたらしいから、その間に何が体に起きているか分からない。当然精神的な面だって、何かが起きていたって不思議じゃないはず。


「そうですか……」


 イロは一度溜息をついて、ギルド長をに向き直した。


「分かりました。ですが、先ほどまでの事を信頼してもよろしいのですね?」


「ああ。それは保証する。後で文章でも正式に残すし、これから来る者がそれを保証してくれるだろう」


 ギルド長が言っているその人とは、一体どんな人なんだろう? さっきから気になるけど、まだ来ない。するとドアを誰かがノックした。


「どうぞ」


 ギルド長がそう言うと、二人の男性が入ってくる。


 二人ともエルフで、一人は妙齢の男性。金髪だけど、少しだけ色が褪せているように思える。身長は百九十セルくらいありそうで、僕よりも高い。もう一人は身長百八十セルくらいで、黒髪の若い男性エルフ。どちらも軍服のような物を着ている。


「遅くなった。軍務卿をしているヨウシア・ニコ・リーッカネン伯爵だ。彼は私の秘書」


 軍務卿は簡単にそう挨拶すると、秘書から何か受け取る。


「心配していた事が起きてしまったようだな……」


「ええ。ですが被害は魔方陣のみですので、人的には問題ありません」


 軍務卿にギルド長が答えた。


「不幸中の幸いといったところか。ああ、そうそう。四人とも初対面だったな。私はこの国で軍関連の事を一任されているリーッカネンという。特に二人の事は聞いているよ。今回は事実確認に来ただけで、特に君ら二人や、その友人をどうかしようとは考えていないし、その予定もない。そこは安心して欲しい」


 その言葉に、イロとベティはホッと胸をなで下ろしたようだ。


「二人の魔力が高いのは分かっていた事だし、いずれこのような事が起きるとは思っていたが、人的被害がなかったのは本当によかった。我々も気にはなっていたのだが、何せ二人の魔力は前代未聞。普段の生活には支障がないにしても、安全面の事を考えると我々軍部も絡むような事案だったのでね」


 まあ、今までこの冒険者学校で聞いた限りでは、僕らの魔力は普通ではあり得ない数値らしい。当然周囲の人には伝えていないし、伝えられないけど、やっぱり軍がどこかで監視していたんだとは思う。


「とはいえ、君らを軍に迎えるつもりはない。戦力として考えれば魅力なのは否定しないが、私も君らの経歴は聞かされている。陛下からも、出来るだけこれからは普通の生活を送って欲しいと言明されているのでね。なので、これからもここで色々学んで欲しいのは変わりないし、卒業後に軍へ招待する事も禁じられている」


 まあ確かに軍とかそういった所で働くのは嫌だから、それを聞くとちょっと安心。


「ただ、君らの魔力制御に不安があるのははっきりしたと思う。報告では二級クラスの魔法を放っただけなのに、外部の意見では一級を遙かに超えた威力だと聞いている」


 魔法は基本的に五段階に分類されていて、特に攻撃関連の魔法はそれが明確に定義されている。僕が使ったのは上から二番目の威力なので、普通は二級クラスの魔法というわけだ。結果はだいぶ違ったけど。


「それで、どうされます? 二人に魔法の使用禁止は流石に命じられませんが」


 ギルド長は僕らを一度見た後に、軍務卿へそう言った。


「無論、禁止などするつもりはない。威力の調整は今後の訓練で覚えてもらう必要があるが、もっと威力を抑えた方法を模索するしかないだろう」


 そう言った後、軍務卿は秘書からペンダントのようなもをの受け取った。透明な水晶が付いている感じの物だ。


「一応、これで魔力をある程度抑える事も出来るはずだが、個人的な意見として、私はこれでは無理だと思っている。ある程度は抑えられるだろうが、これでは恐らく根本的解決にはならない」


「では、どうなさいます?」


 ギルド長の質問に、全員が軍務卿に注目する。


「二人……いや、四人でも構わないか。せっかくだからな。もしその気があれば、軍の演習場での訓練をしてみないか? そちらの方が設備が整っているし、参考になる事も多いと思う。週に二、三回程度、半日程訓練を受ければ、バスクホルド君たちには威力調整の勉強になるだろうし、そちらの友人二人も効率のよい勉強が出来るだろう。もちろん強制ではないが」


「なるほど。確かにここの設備より、軍の設備は充実していますね」


 校長が言うのだから、設備的にはそうなんだろう。何しろ軍の設備なんだから。


「二人は貴族でもあるし、基礎的な剣術などもきちんと学ぶ良い機会だと思うが。本来なら規則上問題があるが、その辺は私の方で何とでもなる。そちらのお嬢さん二人も、きちんとした訓練を学べる良い機会だと思う。それに冒険者学校では全般的な武器の訓練をするが、どうしても長所となるような武器を伸ばすのには向かないのも事実だ」


「私達は軍に参加しなくても構わないのですか?」


 エリーが僕らの中で最初に口を開いた。


「ああ。君たち二人は陛下からも軍に参加しないよう厳命されている。無論二人に十分その気があれば、陛下は許可するかもしれないが、二人は『戦争』や『人殺し』は嫌いと聞いているが?」


「はい、そうですね。魔法は生活を豊かにするためにあると僕は思っています。もちろん狩りとか、自分を守るためなら仕方がないと思いますけど。人を殺す事が前提の軍は、正直好きではありません」


 本当は嫌いだけど、相手の立場を考えないと。だから『好きではない』にしといた。


「別に我々も積極的な軍事侵攻などはしていないし、普段は訓練と、その為の狩りをしているのが実情だがな。ただ、確かに非常時には人を殺す事になる。それを好きでもない者にやらせるほど、我々も腐ってはいないよ」


 軍務卿はちょっとだけ口元を緩めて言った。


「まあ、今すぐ答えを出す必要はないと思う。じっくりと考えて検討して欲しい。一応、君らのための資料は作成してある。後で確認してくれ」


 軍務卿がそう言うと、秘書の人が僕らにそれぞれ十枚程の紙束を渡してくれた。


「それと君らは貴族なので、非常時には軍を率いてもらう可能性がある事だけは覚えておいて欲しい。まあ、そんな非常時はここ二百年は起きていないが。貴族は確かに恵まれた生活が出来るのも事実だが、同時に何かの際には国への協力が求められる。これはここだけの話にして欲しいのだが、陛下やバスクホルド伯爵家などは、本来君たちの軍役義務は除外したかったそうだ。しかし、もし将来領地を持つようになった場合、領地に最低限の警備隊や軍を置く事もある。それを考えた場合に、君らを除外できなかったのだ」


 貴族の治める領地だと、確かにその領地では貴族が実質的な最高権力者になるはず。そうなると、軍務卿の言っている事は間違っていないんだろう。


「貴族って難しいのね……」


 エリーはどこか複雑な心境をしているのか、顔色が優れない。まあ、気持ちは分かるけどね。


「それに、貴族を襲う盗賊などもゼロではない。なので、それなりに剣術程度は心得ていて損はないと思う」


 そっか。確かに貴族は他の人たちから見たらずっとお金持ちだ。実際に本当にお金がある人は、ある程度爵位が上の人たちだけだけど。でも、貴族を狙うような盗賊には、そんな事は関係ないからね。


「分かりました。僕らも真剣に考えてからお答えします。それまで少しお時間を下さい」


「ああ、それは勿論だ。では、私はこれで失礼させてもらうよ」


 そう言い残して軍務卿とその秘書は退席した。


「で、本音を聞かせてくれると嬉しいのだが?」


 軍務卿が部屋を出てから、ギルド長が尋ねてくる。


「僕としては不安はあります。でも、僕の強すぎる魔力はちゃんと制御したいのも事実です。ここでそれがきちんと出来れば問題ないと思いますけど、今までここで習ってきた事は、基本的に魔力を増やす事とその魔力を使って、どれだけ強力な魔法を放つかなどです。確かに魔力の制御に関しての授業もありましたけど、僕とエリーはまだまだだと思います。もちろんこれからエリーと相談しようとは思いますけど、考えるだけ考えてから決めても遅くないとは思います」


 何より、魔力が何かの拍子に暴走するのは避けたいし。そうなると、きちんとした訓練はした方が良いはず。


「それに、確かあと二ヶ月ちょっとで遺跡調査にも行かないといけないって聞いています。その辺の事情を話せば、調査の後にちゃんと決めてもと思います。一ヶ月や二ヶ月程度で簡単にできる事とは思えないですし。エリーはどう思う?」


「そうね……確かに遺跡調査があったわね。それまで返事を待ってもらうのは良い方法かも。さっき渡された資料だって、これからちゃんと確認しないといけないし、それで分からない事はちゃんと聞いた方が良いと思うので」


 中途半端な訓練状態で、遺跡調査は多分危険だよね?


「ふむ……確かにそんな話は聞いていたな。ギルドからも多少人を出す予定だ。その準備もしなければ」


 ギルド長が思い出したように言っている。忘れていたのかな?


「では、とりあえず二人の魔法訓練は、四級や五級の魔法で様子を見ながら、遺跡調査終了まで保留にしますか?」


 校長がギルド長を向いて聞いた。


「ああ、それが一番だと思う。軍務卿には私からそう伝えておくよ。調査隊には軍関係者も多数参加するのだし、まだ事前の打ち合わせもしていなかったな。さすがにそろそろ話し合った方が良いか。私の方から伝えておこう。それと、二人には申し訳ないが、四級や五級魔法でしばらく訓練を行って欲しい。それでも他の者から見れば十分強いと私は思うが……」


 そういう事で話し合いは終わった。


 魔力が高いってのも色々問題だよね。


 それと、イロとベティは結婚についてどう思っているのかな? 後でちゃんと確認しないと。人生がかかっているからね。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


今回は最新話『第九十七話 魔法でやっちゃいました』と、

『第二十五話 昔と今、今と昔(前二十四話)』を加筆修正

『第二十六話 魔法とは?(前二十五話)』を加筆修正

『第二十七話 人族以外の行方(前二十六話)』を加筆修正

『第二十八話 薬(前二十七話)』を加筆修正

を行いました。

各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


また、今後以前まで書いた内容を修正していますので、タイトルに一部齟齬や追加が発生する可能性があります。本文内容の修正が終わり次第、随時修正していきますので、ご理解いただきますようお願いします。


今後ともよろしくお願いします。



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