第九十五話 二人
2016/02/13 誤字及び一部内容の修正を行いました
2016/01/26 話数番号を変更しました
冒険者学校では色々な授業があるけど、その中には当然連携を前提とした模擬戦などもある。
当然見知らぬ人ばかりだし、そうなれば組める人は限られる。まあ、エリー以外とは組んだ事なんて殆ど無いんだけど。
問題は二人だけなので色々と不利な面がある。特に相手が六人や八人など多数になってくると、大きな魔法を使うわけもいかないし、剣術や槍術のみとなると、基本勝てる要素なんて皆無に近い。
そもそも僕らは魔法の威力が高すぎると言われている。もちろん自覚なんか無いけど、詠唱を含めた魔法を放つと、雷系統の魔法を放っただけで大岩が砕け散ったりもする。
ちなみに雷の魔法は水と風の混合魔法。空気中に疑似積乱雲を発生させて、それを風の力を用いて急速に帯電させる。そのエネルギーを一瞬のうちに任意の地点へ落下させる。なので真上からの攻撃からしか出来ない欠点もある。
雷の魔法は難しいと聞いていたんだけど、前世の知識を活かしたらすぐに出来た。それでエリーに教えたら、彼女もすぐに出来るようになったんだけど、他の人たちには難しい事みたいだ。
そんな事よりも、今は四人でチームを組んでの対戦練習。
色々あって今まで二人だけだったけど、今回は四人のチームを何としても組まないといけない。そして現状僕らは組む相手がいない。
どうも僕らが後から入学してきた事と、普通の貴族とは違うらしい事が分かっているみたいで、どう接したら良いのか分からない人が多いと教員が教えてくれた。
かといって教員も勝手にチームを選ぶわけにはいかないらしい。公平性が崩れるというのが名目だけど、実際仲が良いのかも分からない人同士でチームを組んだとして、良い結果が出る可能性は低いわけだし。
ただ、僕らのように四人チームを組めずにいる人はそれなりに散在している。三人組の所もいれば一人の所もいるし、その辺は相性とか色々とあるんだとは思うけど。
これが前世だったら、間違いなく一人だったろうなと思う。仲良く出来た人なんて実質いなかったと思う。少なくとも友達と呼べる人は多分いなかった。
でも今はエリーがいてくれる。それだけでも何だかホッとしてしまうのは、僕が小心者だからかもしれない。でも他の人を誘う事も躊躇っちゃう。やっぱりどこかで人が怖いのかも。
ただ、エリーは僕ほど怖がってはいないみたい。その理由は分からないけど、今世で色々あったのに何で平気なんだろう?
「あら、二人も決まっていなかったの?」
突然後ろから声をかけられたので振り返ると、エルフのイロ・トルマネンさんと、クラニスのベッティーナ・カペルさんの二人が一緒にいた。
「もしかして、二人も決まっていないのかしら? だったら私達と組まない? 私達も二人しかいないし」
「なら、ちょうど良いと私も思うわ。私もこの二人となら賛成です!」
なんだかカペルさんは僕らと組みたいようだ。理由は分からないけど。
「エリーはどうする? 僕はとりあえず組んだ方が良いとは思うんだけど……」
エリーは少し考えるような素振りをしてから、二人と組む事を了承してくれた。まあ、少なくとも全く知らない人ではないし、そうそう悪い結果になるとは思いたくない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ではこれより模擬戦を行う。今回は魔法は禁止。剣術及び槍術が主の訓練だ。訓練用の剣や槍なので、仮に当たっても大怪我をする事はないだろう。しかし打撲程度は覚悟しろ。当たり所によっては過去に死者も出ている。しかし君らはこれから冒険者となる逸材だ。いくら刃を丸めているとはいえ、覚悟して模擬戦を行うように。相手を全員戦闘不能にするか、降参を勝ち取った方が勝者となる。時間制限もあるから気をつけるように。それでは第一組、始め!」
教官の指示に従って、最初の一組目が模擬戦場でそれぞれ武器を構える。全部で十二組の対戦だけど、それぞれそれなりに腕には自信がある人が多い。
模擬戦は一応地面に白線が引かれており、その中で対戦する。その中から出たら失格。まあ、本当の戦いではこんな白線など無いけど、訓練だからという事だと思う。
ちなみに僕らの出番は七組目。相手は全員剣を装備しているみたいで、恐らく接近戦特化だとは思う。
「二人は本格的なのは初めてよね? 私達は何度か経験があると思うけど、他人の戦いは参考にもなるわ。例えそれが負けたとしてもね。だからちゃんと見ていた方が良いわよ?」
そう忠告してくれるのはトルマネンさん。エルフという事で、中々組んでくれる人がいないそうだ。別に差別されているわけじゃないらしいけど、やっぱりエルフというだけで周囲からはちょっと接しがたいのがあるらしい。ちなみに彼女の武器は槍。懐に潜り込まれると厄介だろうけど、それさえ注意すればリーチの分有利だと思う。
対するカペルさんは少し短めの反りのある剣。しかも二刀流。早さを武器にした戦法が得意と聞いた。
僕らはまだ得意な武器とかも分からないので、とりあえず一般的な長剣。彼女たち二人が実質的な主戦力だと思う。
「二人とも気を抜かない。模擬戦でも実戦形式」
そんな僕らを見て気がついたのか、カペルさんが忠告のようなものを言ってくれた。ただ、何だか恥ずかしそうにしている。それに彼女は訓練となると人が変わるみたい。なんだか妙に興奮している気がするのは気のせい?
「まあ、カペルもそんな事言わないの。二人は初めてなんだしね? でも、気を抜くと大怪我よ。だから模擬戦の様子はちゃんと見ておいた方が良いわね」
トルマネンさんはカペルさんがわざと脅している事を分かっているのかも。でも、確かに気を抜いていたら大怪我はしそうな気がする。
「でも実戦形式とはいえ、みんな素人に毛が生えた程度よ? ちゃんと相手を見ていれば、そうそう大事な事なんて起きないわ。それよりも、二人は本当に大丈夫? 見たところ、あまり戦いに向いているようには見えないのだけど?」
「そうね……私とクラディはあまりそういうのとは無縁だったから。特に魔法以外の戦闘なんて、殆どした事がないわ。逃げるつもりはないけど、怖いのは仕方ないわよね?」
エリーは何でもない振りをしているけど、やっぱり不安なのはなんとなく分かっていた。まあ、僕だって仕方ないけど。
「あら、私だって必要以上に戦いたくないわよ? 私の場合は父の跡継ぎとして町を守る力をつけたいだけだし」
そういえばトルマネンさんの実家は、町にある地区の代表か何かをしていたと言っていたっけ。確かに事件があったら、すぐに兵士が駆けつけてくれるわけでも無いと思うし、多少は実力があった方が良いんだと思う。
「私はここを卒業したら、お金を稼いで故郷に帰るつもりです。そんなに貧しいとは言えないけど、やっぱりここと比べると遅れているから。少しでもみんなの役に立ちたいし」
「あれ、カペルさんはこの町の出身じゃなかったっけ?」
「私はそうですね。でも両親は違います。今はここで生活しているけど、いずれ両親が生まれた町に戻りたいと思っているんです。何をするにしてもお金は必要ですから。それに、私が冒険者を引退する時期になれば、今度はその町で私が新しい冒険者を育てればと思っていて……」
そう言ってカペルさんは少し顔を赤くしている。
「そういえば、二人は何で冒険者学校に入ったの? 詳しくは知らないけど、二人とも貴族じゃないの? 貴族が冒険者学校に入る事はそんなに珍しくは無いんだけど、私達からすると二人は何だかちょっと違う気がするのよね」
トルマネンさんの指摘に、僕らは一瞬固まった。
「確かに私達は一応貴族らしいわ。とはいっても、私達にその自覚はないの。縁戚に色々あって、私達がその代わりに移住してきた感じかしら? 私も何で貴族になっているのか分からないから」
エリーが咄嗟に言い訳をしてくれた。元々あまり詮索はされないように対策がされているらしいけど、それだって限度がある。それに僕らがこの町の出身じゃないのは、僕らの行動を見ればすぐ分かる事らしいし。
何よりも僕なんかより素早く対応してくれる意味では、エリーの方が圧倒的に上だ。僕は何かとあるとちょっと考えちゃう癖がある気がする。これって状況次第ではあまり良くないし。
「二人とも変わっているんですね。まあ、私は貴族とかあまり目にしないからかもしれないけど」
「大丈夫よ、カペル。私から見ても二人は変わっているわ。でも、悪い意味ではないわ。犯罪まがいの事をする貴族と比べたら、出身がどうこうなんて、本当に些細な事よ」
やっぱりこの国でも、貴族だからと権力で色々とやっている人はいるみたいだ。こういうのって、ごまかしが利かないんだよね。分からないようにやっているつもりでも、大抵はバレているし。
「それよりも二人とも初めてだから、少しは参考になると良いけど……」
トルマネンさんがそう言ったので、僕らは練習試合の様子を見る事に集中する事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「甘い!」
流石はカペルさん。将来は魔物を狩ったりして、親の町の発展を手助けしようと考えているだけあり、例えそれが模擬剣だったとしても容赦の無い一撃を相手に追わせている。動きは最小限で、しかも見た感じは的確に急所を攻めているみたいだ。しかも二刀流である事で、片方を防御にしたりと素人目にもかなりの技量があると思う。
そんな状況だけど、僕はというと、一人の冒険者見習いに苦戦中。
今まで無意識で魔法を体に使っていたのか、この日のために支給された腕輪をしたら、正直動作が重い。
この腕輪は時間限定らしいけど、装着者の魔法の発動を止めるらしい。もちろん威力の高い魔法だと壊れるって話だけど、さすがにそんな事をしたら対戦相手が怪我では済まない事になると思う。なので純粋に剣だけの勝負だ。
今回対戦相手の四人組は、三人が前衛で一人が中衛の槍使い。前衛の二人は剣を持っていて、もう一人は格闘技が主体みたいだ。全員男なので、僕以外女性である僕らのチームは、やっぱり力では劣る気がする。最初は全員剣だと思っていたけど、どうも途中で武器を変更したらしい。
そんな僕が対戦しているのは、一人だけ格闘技で攻めてくる人。最初は剣を持っていたので剣術かと思ったら、始まった途端に剣を即座に捨てて、僕に突進してきた。
「剣術がまだまだ甘い!」
相手は僕が防戦一方で喋る余力も無いのに、それを見越してか言葉でも攻めてくる。とても今の僕には出来ない芸当。
いくら刃を丸めているとはいえ、腕を強打したら骨折だってしてもおかしくないのに、まるでそんな素振りは見せない。
エリーはやっぱり魔法が使えないのが裏目に出ているみたいで、もう一人の剣術使いの人に押され気味である事が視覚の端で見えた。
「そろそろ終わりだ!」
相手はそう叫ぶや否や、一瞬に僕の視界から消えた。そして説く禅背中から来る強烈な一撃。あえぎ越えすら出す暇無く、僕の視界は暗転して……。
「今回は組み合わせが悪かったのと、二人がまだ慣れていないって事にしましょう」
模擬戦が終わってどのくらい時間が経過したのか、僕とエリーは練習場の臨時救護施設で横になっていた。
すぐに治療をしてもらえたらしくて、体そのものは特に異常は無い。
「まさか、いきなり剣を捨てるとは思ってもいませんでした」
さすがにカペルさんでもあの行動は想定外だったみたいだ。
そもそも模擬戦で剣と槍は支給されていたけど、それを『使用しなければならない』とは言っていなかった。なので完全に僕は不意を突かれたし、エリーも対処できなかったみたい。僕が倒れた後、そう時間がかからずにエリーも倒されたらしい。
ただ、幸運な事に模擬戦には時間制限があった。僕の予想だけど、あのまま長時間続けていたらトルマネンさんとカペルさんさんも倒されていたのは確実らしい。戦力としては制限時間が経過した時点で相手は四人。対する僕らは二人だけ。当然判定負けで終了。
ところがトルマネンさんとカペルさんは、さほど勝敗に関しては気にしていないと言う。
「私達も二人の実力は知りたかったし、そもそもそれほど体力があるとは思っていなかったわ。むしろ制限された状態であれだけ戦えたのだから、私としては合格とは言わなくても、これから先伸びしろがあると思うの」
そう言いながらトルマネンさんは何か色々と考えているみたい。その横でカペルさんも何か考えている素振りに見える。
「まずは二人とも剣をもっと鍛えた方が良いと思います。トルマネンさんは別にして、二人ともそれなりの実力はつけた方が、やっぱり今後の事を思うと……」
カペルさんは遠慮がちに言ってくれるけど、流石にそれは今回の模擬戦で実感した。魔法が使えない状況だけど、確かにそれなりの訓練は必須だと思う。
「そうね……確かに私も実感したわ。魔法が使えない状況はそんなに多くないかもしれないけど、確かに私達は魔法に頼りすぎているのかも」
「それをエリーに言われると、僕はちょっと大変かも。さっきの模擬戦で嫌でも分かったけど、僕はかなり魔法に頼りすぎているみたいだし」
別に魔法に頼る事は悪い事じゃ無いと思う。でも、基本的な事は魔法無しでちゃんと習得したい。
別に誰かと戦いたいとは思わないけど、必要最小限の防御力となる力はあった方が良いと思う。ただ、それを僕らが魔法で行うと明らかに過剰なので、もちろん魔法の威力調整はこれからも行っていくつもりだけど、剣などもちゃんと習得しておいて損はないはず。
「ねえ、二人とも。まだ二人は正式に他のチームと組んでいないのよね? 私達二人もそうなんだけど、これから四人でチームを組まない? 私はクラウディア君の事に興味があるし、もちろんエリーナさんにも興味があるから。カペルは?」
「え? 私は構わないですよ。それに二人は魔法に関しては私達よりもずっと素晴らしいものを持っているように思いますから。こちらの町の事に少し疎いと前に言っていたので、私達がその辺は補えますから」
「カペルも私も、二人が良ければだけど、どうかしら?」
ちょっとエリーの方を見てみたら、エリーも同時に僕を見た。まあ、悪い話では無いと思うし、この町で知らない事はまだまだ多い。それに悪い人でもなさそうだし。
「うん、構わないかな。エリーもいい?」
「そうね……ちょっと迷惑をかけちゃうかもしれないけど、これからもよろしくね」
内心、男一人に女三人って、ある意味ハーレムみたいな状況かななんて一瞬よぎったけど、まあハーレムの語源は元々違うし、それにまだ恋愛感情としてトルマネンさんとカペルさんを意識していないので、今はあまり深く考えても仕方ないかと思う事にした。エリーにだって、まだ今の想いが恋愛なのか分からないくらいだしね。エリーには絶対に言えないけど。
前世での恋愛経験がマイナスな僕には、正直恋愛というのがまだ良く分からないや。
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