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第八十八話 一応貴族らしいけど、やる事がないから

2016/02/12 誤字及び内容の一部修正を行いました

2016/01/26 話数番号を変更しました

 僕らの屋敷? が用意できるまでの間、まだしばらくはバスクホルド伯爵の屋敷でお世話になる事になった。まあ、他にお世話してくれそうな所もないんだけどね。


 それと、昨日子爵位を授けられたからなのか、外出も自由になった。おかげで屋敷の中で暇になる事も少なくなる。


 実際、今の世界やこの国の常識はほとんど問題なく覚えられた。まあ、以前とほとんど変わりがなかったってのもあるし。


 一応出かけるときにはメイドさんが最低一人はお付きで付いてくるんだけど、これは貴族とかその家族だと当たり前らしい。例外があるのは、貴族が冒険者として狩りに出かけるときとからしいけど、それだって強い護衛の人が一人は付く事が多らしいし。まあ、冒険者というのは名ばかりで、近くの森で狩りを数時間する程度らしいけど。


 それ以前に僕らは貴族としての知識なんて皆無。本当はそっちを先にしなきゃならないと思うけど、貴族としての云々はある程度年数をかけて覚えていけばいいらしい。


 そもそも貴族の生まれって訳じゃないから……って、本当は僕は貴族の生まれ? まともな記憶にない事を上げたらどうしようもないから、十年くらいかけて学んでいって欲しいと言われた。何だか前に言われたのと違う気がするけど? 楽できるならいいけどね!


 それで、僕らは町中にあるちょっと高級な喫茶店に来ている。


 本来ならもっと普通のお店が良かったんだけど、身分とかの手前、そうそう簡単にはいかないみたいだ。それに下手にそんな所に行くと、貸し切りにしないといけないらしい。主に防犯の意味で。それはそれでかなり面倒になりそう。


 高級店だと当然ある程度入れる人は絞れるし、貴族用の専用客室もある。なので防犯対策が簡単になるからと言われたけど、確かに時々お付きのメイドさん以外にも誰かが周囲を見張っている気がする。


「当然です。お二人に何かあれば、それこそ国としての問題にもなりかねません。常時最低でも十名は警備が付いております」

 やっぱり僕には、貴族とかそういう生活はちょっと無理な気がする。少なくともまだ無理かな?


「警備が必要なのは私も分かるけど……多すぎじゃないの?」


 エリーの質問に、今回同行してきたヴァイノラさんが首を振って答える。普通なら僕らそれぞれに一人ずつメイドさんが同行してもおかしくないと思ったけど、どうも違うみたいだ。


「一応の安全が確保されたとはいえ、貴族の方が一人で護衛も無しにとはまいりません。最も身分の低い準男爵でさえ、騎士一人は同行するものですから。本来なら今日も騎士二人を同行させたいところなのですが、生憎まだお二人に付く正式な騎士が決定しておりませんので、このような対応となりました。正式に護衛が決まれば、影での護衛は減ります。さすがに直接護衛しているとなると、普通の暴漢程度であれば問題にもなりませんから」


「暴漢? 僕らって、そんなのに狙われるような状況なの?」


「いえ、一般論ですね。この辺りは比較的治安も良いのですが、場所によっては治安が悪いところもありますし、貴族同士のやっかみもあります。それを事前に防ぐのが、我々メイドや騎士ですから」


 え、もしかしてメイドさんもそれなりに強かったりするの?


「一応(わたくし)達も訓練は受けておりますが、得物は常備出来ないため、護身術に毛が生えた程度です。剣などの武器を持った者には太刀打ちは難しいでしょう。(わたくし)達は、むしろ緊急時の盾としての役目がありますので」


 盾って本人は簡単に言っているけど、それって身をもって守るって事だよね? それはさすがに……。


「お二人とも思うところがあるようですが、(わたくし)達はそれも仕事ですので、それは割り切ってお考えになられる事をお勧めします」


 本人はそう言ってもね……。


「ねえ、ヴァイノラさんはそれでも良いの?」


 さすがにエリーも違和感を隠せないみたいだ。表情にも表れている。


「良い、悪いの問題ではありませんから。それに、貴族の家に仕えるという事は、そのような事も含めての事ですので。ですが、お気遣い感謝いたします」


 やっぱり貴族って面倒だと心底思う。


「それと、今朝方奥様からのお話で、(わたくし)達クラウディア様とエリーナ様にお仕えしている者は、お二人が屋敷に移り住んでもそのままお仕えする事が決定しました。詳細は後ほどお伝えになられるかと思いますが、重々ご承知ください。その時には、警護の騎士も決まっているかと思いますので」


「あ……そ、そうなのね」


 エリーは何だか上の空って感じ。まあ、僕も寝耳に水だけど。


「クラウディア様担当の執事は、そのまま筆頭執事になられます。(わたくし)達メイドの方は、メイド長を誰にするかで少々問題になってはいるのですが……」


「え? 普通なら僕かエリーのメイド長をしている人がなるんじゃなくて?」


「通常はその通りなのですが、クラウディア様のメイド長と、エリーナ様のメイド長では年齢と経験にいささか問題がありまして。クラウディア様のハーパサロメイド長は、年齢こそ上ではありますが、メイドとしての経験では、エリーナ様お付きのリハヴァイネンメイド長の方が経験が長いのです。最も無難な解決方法は、お二人が指名される事ではありますが、何分お二人ともこのような状況に慣れていない様子。それで問題になっております。ですが、お二人が気になさる事ではございませんので」


 よくよく聞くと、一応年配者の方が優先権があるらしいけど、メイドとしての経験はリハヴァイネンさんの方が長いらしい。それでお互いに譲り合っているそうだ。


「みんなに異論がなければ、私は経験が長い方が良いと思うわ。でも、年齢が高い分知識もあると思うから、その辺は柔軟に対応してもらいたいのだけど、それって可能なのかしら?」


 それは問題ないと言われた。まあ、ど素人がやっている訳でもないはずだし、能力的にはどちらでも構わないとは思うけど。


「分かりました。エリーナ様のご意見として一応伝えておきます。お二人が過ごしやすいよう取り計らう事が、護衛を含めた我々に課せられた使命ですので。それから、正式に屋敷に転居された後は、メイドも増える事になります。さすがに(わたくし)達だけでは無理がありますので、その辺りはご承知置き下さい」


 貴族って本当にどこまでも面倒だな。


 それからすぐに、飲み物とデザートが運び込まれた。勿論数は僕らだけ。いくら一緒にいるとはいえ、メイドという身分では一緒に食事をする事は出来ないらしい。


(わたくし)の事はお気になさらずに。これはあくまでお二人のためですから、遠慮は必要ございません」


 そんなこんなで、僕らは用意されたデザートとお茶を口にする。さすがに高級店だけあり、味はデザートもお茶もすぐに一級品と分かるような物。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「それで今日の予定となりますが、特に用事も入っておりませんし、いかがなさいますか?」


 僕らは喫茶店を後にした後、比較的治安の良い商店街に足を運んだ。どれもそれなりの値段はするみたいだけど、一見してそれなりの価値があるものみたいばかり。とはいえ、今のところ購入予定もないのだけど。


「そういえば、私達は貴族の扱いみたいだけど、冒険者登録って出来るのかしら? 前の町では一応登録はしたのだけど、結局たいして何もしていないのよね」


 確かに僕らは冒険者登録をしているけど、今のところそれが役立つようにも思えない。


「出来ますよ。お二人には今のところ公職に就く予定もございませんし、必要であれば、この国で再度登録をする事をお勧めします」


「え、もう一度登録しないといけないの? 一応僕らは前に登録はしてあるんだけど?」


「本来なら問題ないと言いたいところなのですが、政治的な理由となります。端的に申し上げれば、登録をされた場所が問題なのです」


「それって、前の国って事よね?」


「はい、エリーナ様の仰るとおりです。また、こちらで再登録する際に、お二人には冒険者ギルドではなく兵士能力判定の方で一度検査を受けて頂くように指示を受けております。冒険者ギルドにある検査機器よりも、そちらの方が細かく判定が出来ますので。貴族の方が検査を受ける場合は、原則として兵士能力判定で行うのが常です。適正魔法は勿論ですが、武器や防具などの適性も検査できますから」


「えーと、つまり貴族となるとちゃんとした能力が分かっていた方が良いって事なのかな?」


 リハヴァイネンさんは『はい』と返事をしながら、頷いた。


「もし検査をご希望なさるのであれば、早めに行かれた方が良いですね。二人には特別枠で検査が受けられるとは思いますが、通常は貴族といえ一般兵などの判定の合間に行われる事が多いのです。ですので予約をする必要があるかと。今から行かれますか?」


 早めに手続きはしておいた方が良さそうだし、僕らは喫茶店を後にしてリハヴァイネンさんの案内の元、兵士判定能力を行う場所に向かう事になった。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「お待ちしておりました。いつでも検査は可能ですので、今から行いますか?」


 僕らが到着した先は、お城の近くにある入隊試験所の一角。基本的に軍関係の人しかいないみたいで、通りにいるのは兵士と分かる人たちばかり。


 でも、なんでいきなり『お待ちしておりました』なんだろう?


「お二人の話は陛下から伺っておりまして、尋ねて来た場合は最優先で検査をせよとの事なのですよ」


 ヨーセフ・サミ・プルクネン騎士というエルフの男性が説明してくれたけど、僕らは正直驚いてばかり。リハヴァイネンさんもさすがに驚きを隠せないようだ。


「前の取り調べの際に一応は把握していますが、実際の検査となるとまた別ですから。それに子爵のお二人を蔑ろになど出来ませんし、先ほども申し上げたとおり、陛下の命ですので」


 見た目は僕らよりもずっと年齢が高いはずだけど、僕らに対してはえらく丁寧でちょっと変な感じすらする。あ、でも実年齢は違うのか?


「ですが陛下の命とはいえ、優先順位があると私は伺っているのですが?」


 さすがにリハヴァイネンさんも、優先順位の事は気になったみたい。まあ、誰だって気になるよね?


「詳しくは存じ上げませんが、お二人は望めば『侯爵』にもなられると聞いております。その様な方々に失礼があっては、こちらとしても問題になってしまうのです。ここだけの話にして頂きたいのですが、伯爵以上の階位を持つ方または、その継承権一位の方は、常に最優先で検査を行うのです。ですから思う事はあるかと思いますが、この国ではこれが普通だと思って頂ければ。勿論、外部には秘密に願います」


 まあ貴族というだけでも特権階級なのだし、さらに爵位が云々となればそういう事になるのかな? そもそも王様が許可しているのだから、僕らが断るのもおかしな話になっちゃう。


 そのまま奥の部屋に案内されながら、検査の事を色々と教えてくれる。やる事は前にバーレ王国で行った事と、基本は変わらないみたい。


「検査結果はごく一部を除いて、原則的に他人へは非公開です。これは身分に関係ありません。身分証を兼ねる事も多いので、必要以上の情報開示は、逆に犯罪に巻き込まれる可能性もありますので。無論、(わたくし)共の方から検査結果を漏らす事はありません。検査結果の原本は城で管理しますし、一般的にはそれを写した物も、終わり次第ご本人の前で破棄する事になっております。勿論持ち帰る事は可能ですが、その場合は管理に十分お気を付け下さい」


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 検査は何の問題もなく終わった。時間にして四時間ほどの検査だけど、前世の病院で行うような検査。実際、MRIだかCTだかを彷彿とさせる物もあったりして、着実に技術水準は上がっていると思う。まあ方法は魔法とかを使った物だとは思うんだけど。


 僕らが育った頃と違って、肉体に魔力を用いた特殊な光を当て、断面画像として検査が出来るようになったそうだ。なので体内の魔石の大きさもほぼ正確に分かるし、魔力を用いているからか、造影剤を使わなくても血管も確認可能。脳や臓器も同じように検査できるので、国の兵士は年に一回の検査が義務づけられているらしい。


 ただ庶民がこれを使えるかと言えば、はっきり言って否だ。料金が一回で金板一枚、前世だと多分一千万円はかかる料金みたい。とても庶民が行える検査じゃない。


 一応普通の人向けに血液検査などもあるらしいのだけど、一回の料金がだいたい銀板一枚との事で、恐らく前世の十万円程度。義務でもないし、比較的生活に余裕のある人しか受けないらしい。


 ちなみに僕らの場合は、国が検査費用を負担してくれたので、料金は支払っていないのだけど、本来なら金板六枚相当の検査なのだとか。


 勿論それに見合うだけの検査内容だとは思うけど。触れるだけで握力や腕力などが分かる魔石を用いた検査機器に、得意属性判定は当たり前。むしろ不得意な分野でも伸ばし方の方向性すら検査で出てくるんだから。


それと検査した人も驚いていたんだけど、僕らの体内にある魔石は、ほぼ拳大ほどあるらしい。原因は不明。一般的には親指サイズが普通で、大きくても小指二本分くらいのサイズと説明された。流石にかなり驚かれたし、僕らの魔力が高いのもそれが原因じゃないかとは言われたんだけど、可能性としては『魔力災害』の影響を受けなかったからかもと。もちろんこれも推測らしくて、現状僕らしかその大きさらしいのと、僕らから魔石を強制的に取り出すのは死に繋がる。なので今までの資料を参考にして、引き続き僕らの魔石の大きさと、一般的な人の魔石の大きさについて調べるそうだ。


 それで検査結果なんだけど、案の定僕らの魔力は抜き出て高く、それ以外に一般の平均よりも体力があるそうだ。まだ証明されていないらしいけど、最初に起きた大爆発の影響で、そこを境に全体的な体力や魔力が落ちているらしい。僕らはそれを経験していないはずなので、僕らが普通と思う体力が、この時代の人たちからは高く判定されるのだとか。


 それと、どの様にして調べているのか専門家でないと分からないそうだけど、年齢も確定した。僕が一五九七歳で、エリーが一六一一歳。実際に経過した時間よりも、前より年齢の差が縮んだ気がするけど、これも原因は不明。


 ただ肉体年齢としては、僕らは二〇歳±三歳らしい。実年齢は原本に記載されるけど、普段身分証として使用するカード状の物には、僕が一九歳でエリーが二一歳という事になった。これは僕らがあの魔力炉らしい場所に捕らえられた年齢にしたためだ。


 本来は誕生日も記載されるのだけど、僕は誕生日を思い出せなかった。覚えていても良さそうなんだけど……。それでエリーは僕らが生まれた頃の暦で『火の月』とは知っているそうだけど、平民だったためか日付までは知らなかった。『火の月』はこの時代でいう所の八月のはずで、日付については少し話し合った結果一日となった。まあエリーが面倒だからという適当な理由なんだけどね。


 ただ今の八月と当時の『火の月』とでは、少しズレがある可能性があるらしい。しかも対応する月日の表も無いので、証明が事実上不可能だとか。


 あと僕も便乗して、誕生日をエリーと同じ日に。思い出す事が出来れば一番なんだろうけど、思い出す事が出来ない事で悩んでも仕方がないと思ったしね。なので僕らの誕生日はどちらも八月一日だ。


 この国で使われているのはエストニア歴という物で、一年の日数に関しては四九〇日。一ヶ月は五週間で、一週間は七日。一日は四八時間でバーレ王国と同じ。一時間の数え方が、僕らの生まれた頃と違うけど、どうも前世の二四時間を単純に倍にしたと同じ感覚。そもそも一日が四十八時間というのは、一体どうやって決めたんだろう?


 カードの偽造は本来厳重処罰の対象らしいけど、僕らの場合は王国が認めているらしいので、そもそも対象にならない。カードの年齢を見て一六〇〇歳前後なんて、どう考えても誰も信じないだろうし。


 それから武器は、僕が短剣でコピスという物が良いらしい。エリーは長剣で、エストックが良いみたいだ。ただ僕は短剣でエリーが長剣なのは、ちょっと悔しいかな? さすがに相性の問題だから、訓練をすればある程度は扱えるらしいけど。勿論本格的にエリーが長剣の訓練をしたら、僕じゃ敵わないらしい。


 本来魔法の威力を上げる杖は、僕らについては使わなくても十分に威力が出るとの事。勿論使った方が更に威力が出るらしいけどね。


 冒険者ギルドでの実力は、僕らは二人とも一般的な基準として三級レベル。大型の魔物を一人でも対処できるらしいけど、あくまで目安。過信はしないようにって言われた。まあ、命がかかっているような物で、過信はしたくないよね。前にもエリーは大怪我をしたし。


 全般的なステータスについては、やっぱり僕は水魔法が得意らしい。検査結果は五級ってなっているけど、これは五級までしか表示が出来ないため。実際にはあくまで予想らしいけど、八級相当(最大魔法で洪水を広範囲に起こせるレベルとか、かなり広い湖を枯れた状態でも満水にしたあげくに溢れさせる事が出来る)んじゃないかって事だった。まあ、それを聞いたら試したくはないけどね。これって戦術級よりも戦略級の魔法と思った方が良いと思う。


 エリーはやっぱり火魔法が得意で、一瞬でそこそこの山なら木があろうが何があろうが、一瞬ではげ山に出来るじゃないかって事だった。うん、やっぱり使えないと思う。色々な意味で。


 ただ、それだけの魔法が使えるという事は、同時にかなり精密な魔法も使えるんじゃないかって事で、訓練は必要だけどファイアアローと呼ばれている火属性の矢を広範囲に打ち込んだり、僕の場合なら広範囲の土地を一瞬で水田に変えたりとか、それこそ沼地に出来てもおかしくないそうだ。


 そんな具合なので、僕には新しく造成している畑とかの手伝いをしたら、威力の調整を覚えやすいんじゃないかって言われた。エリーについては、火魔法を応用して、大量の精錬なんかが出来る可能性もあるそうだ。勿論狩りに使っても良いけど、訓練をちゃんとしてからの方が安全だろうという見解。


 どうも魔物や動物を狩るのも一つの手段だけど、農業や鉱業などにも魔法使いの需要は多いそうだ。魔法の訓練を兼ねて、町のお手伝いは悪い事じゃないはず。それに僕はそっちの方が興味がある。


「では、これがお二人の能力表と、冒険者カードになります。後ほど王国からの身分証も発行されるはずですが、冒険者カードも身分証として機能しますので、城に出入りする以外では冒険者カードでも特に問題はありません」


 ちなみにこの冒険者カードは、ミスリル・オリハルコン複合金属で作成されているらしく、討伐した魔物や動物なども記載されるのだとか。冒険者ギルドで内容を読み出すと、それまでの記載項目は消去する事が出来ると言われた。もちろん普通はそうやって冒険者カードの記録が一定以上の情報を蓄積しないようにする。そうしないと後で面倒になるのは必須ならしいので、僕らもそれに従うつもり。


 ランクも表示されているけど、今のところ表示させているのは名前と性別、それと本来は駄目なんだけど、特例として認められた新しい年齢。後は一応ランクがCと記載されているだけで、他のは今のところ表示されていない。


 以前にいたエルミティアの町の技術に似た物で、任意の物だけを表示させる事が出来るそうだ。カードに魔力を流すと、ホログラムのように表示させたい項目が羅列される。それを最大十個まで選択できる仕組みになっている。実際試したら、カードの上に十個ずつ項目が表示されて、それをスクロールして選択出来るみたい。


 色々と使い方とか説明を受けたら、結局夕方になっていたので、僕らはそのまま帰宅する事にした。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「あら。もう冒険者登録をしてきたの?」


 夕食になりみんなが集まったところで、冒険者登録をしてきた事を伝える。


「でも、何か仕事をする上では便利だから、持っておいて損はないわね。二人とも普通に生活する上では、十分なお金が国から支給されるけど」


 正妻のアイラさんは、あまり仕事をしなくても生活する上では問題ないと教えてくれる。


「まあ、でも構わないのではないか? せっかくだから社会勉強ついでに、ギルドの勉強会に行くのも良いかもしれないしな」


 キヴィマキさんがそう言うので、全員がキヴィマキさんの方を向いた。


「おかしな事ではあるまい? それなりに知識はあっても、やはり細かなところでは勉強が必要なはず。しかもここで教えられる事にも限度がある。私が紹介状を書くので、社会勉強と思って行くのも良いと思う。何よりここからなら冒険者ギルド本部にも近い。普通なら宿舎で寝泊まりするが、ここなら徒歩で三〇分の距離。本部の勉強会でなら、危険もあるまい。私は参加すべきだと思うな」


 確かに僕らは今の常識を知らない事が多々あるというか、実際の所まるで知らないと言って差し支えないんだと思う。そういう意味では、どこか学校のような所に通うのは間違っていないと思う。


 本来ならその前に貴族学校みたいな所で学ぶのが一番らしいのだけど、一部とは言え僕らは悪い意味で周囲から目を付けられているそうだ。なので冒険者学校で基礎知識を学びつつ、臨時講師が貴族としての事を教えてくれるように手配してくれると言われた。


 そもそも貴族としての知識なんて皆無だから、どんな形であっても教えてくれる人がいるのは本当に助かる。礼儀作法はもちろんだけど、言葉づかいや普段の生活でのやり取り。他の貴族とのやり取りもそうだけど、買い物の際の注意なども色々要求されるみたい。


 それにしても一般常識と貴族の常識を同時に覚えるなんて、そんな簡単にできるのかな?


「それにエルフなら特例で二〇歳過ぎての冒険者登録など普通。人によっては五〇歳を超えてからという者もいる。目立つ事もないだろう。他の種族の事も、君らが生まれた頃とは違うはずだ」


 なるほど。キヴィマキさんは色々と考えた上での賛成なんだと思う。それなら無碍にする理由もない。


「分かりました。明日にでも一度顔を出そうと思います」


「ああ、そうだな。何事も早い方が良いと思う。後ほど紹介状を届けさせるので、せっかくの機会を無駄にしないよう頑張って欲しい」


 そんなわけで、僕らは冒険者ギルドの勉強会へと参加する事になった。不安は多少あるけど、やっぱり今の常識とか、貴族としての常識はちゃんと知っておきたいしね。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


今回は「第五章 人とは何か?」の

第二十二話 助かったと思ったら、助かっていない!

第二十三話 到着した先で売られる

閑話 七 神様、忘れてる!

を同時に修正しました。


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


また、今後以前まで書いた内容を修正していますので、タイトルに一部齟齬や追加が発生する可能性があります。本文内容の修正が終わり次第、随時修正していきますので、ご理解いただきますようお願いします。


今後ともよろしくお願いします。

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