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第八十七話 さすがに待遇良すぎない?

2016/02/11 誤字修正、内容の一部修正を行いました。

2016/01/26 話数番号を変更しました

2015/09/14 誤字等修正しました

 日記をエリーも読み終わって、僕らが改めて家族の一員として受け入れられてから、更に二週間が過ぎた。


 その間に屋敷の敷地内であれば散歩も出来るようになったのは、僕らに敵対する勢力を押さえ込めたからだとか。まあ、それでもまだ敷地の外に出る事が出来ないのは、正直ちょっと残念なんだけどね。


 勿論伯爵家だから敷地はそれなりに広いんだけど、首都にある伯爵家なので、広大と言うにはほど遠い。まあ普通の男爵とか、準男爵程度の場合は、庭その物が無い事が多いらしいけど。


 ずっと本を読んでいたので、正直軽く運動をしたいくらいだったのと、敷地内という制約はあっても、外出が出来るようになったのが重なって、僕らは散歩ついでに軽い運動をしてみたりもする。とはいえ、僕ら付きのメイドさんが一緒なのは仕方のない事だと、流石にもう諦めたけど。


 そして今日は王様との謁見日。なんで僕らが? とは思うけど、王様の方からの要請なので、僕らが断るのはまた変な事になるだろう。


 王様との謁見なので、僕らは当然のように正装となる。エルフやその眷族の正装となると、男女共にドレス姿だけど、この前伯爵家に行ったとき以来の正装だし、そもそもそれ以前の囚われた後からは一度も着ていないので、前世の事を思うとちょっと恥ずかしい。エリーはそんな僕が何だか変に思ったらしく、ちょっとからかわれたけど。


 黒塗りの馬車が屋敷の前に用意され、僕らはそれに乗って城まで行く事になった。乗り心地は違うと思うけど、『黒塗り』って考えると、前世のリムジンみたいな車に相当する待遇なんじゃって思う。ちなみに窓にはガラスが使われていて、帰りに聞いたら『剣の突撃でも簡単には破れない』と教えてくれた。前世でいう所の防弾仕様みたいなものなんだと思うけど、仕組みは魔法を使った物らしい。


 馬車は六人乗りで、二人がけの椅子が三つ。一つは馬車前方にあり、その後方に対面式で僕らの座っている椅子は一番後ろ。乗っているのは僕らの他に、おつきのメイドさんが中央の座席に二人と、さらにアイラさんとお城から来たという衛兵さん……というより、かなり偉い人だと思う騎士みたいな人。


 その他にも僕らが乗っている馬車の側に、何人かが馬で追走しているそうだ。これって要人警護と同じ感じがする。それで前に乗っているアイラさんに聞いてみると、僕らはやっぱり要人扱いらしい。なので王族と同じレベルの警護だと言われた。正直唖然として何が起きているのか分からなくなる。


「クラディ、どうかしたの?」


 僕の様子がおかしいと感じたのか、エリーが声をかけてきた。


「うーん、僕らって要人って言われるような事したかな? そもそも……僕らって、本来捕虜でしょ? 今は違うのかもしれないけど」


「まあ、確かに言われてみればそうね……」


 エリーもそれに気がついたのか、何だか不安になったみたいだ。


「お二人とも、大丈夫ですよ。確かにお二人と我が国との出会いとなると、良くない印象を受けるかもしれませんが、すべてそれらに起因する事は、お二人の自主的行動では無いと分かっていますから」


 突然前に座っていた騎士が話しかけてきた。


「日記をお読みになられている事が分かっているのでお話ししますが、そもそもお二人は長い道のりを歩いて、傍目から見れば遭難者同様だったはず。それであの元バーレ王国がお二人を最終的に利用していた事は、我々も調査済みですので。むしろ、あの厄介な国を時間はかかりましたが我々の勢力下に置く事が出来たので、お二人には感謝しているんです」


「そ、そうですか……」


 この時、僕の顔は引き攣っていたんじゃないかと思う。それなりに人だって死んでいるんだし、感謝と言われても……。


「まあ、気にしない事ですね」


 すぐに騎士は前をむき直して、馬車周辺の監視をしたようだ。よく見てみると、馬車の走っている通りの所々に、兵士が立っているみたい。


 この先何が待っているのか怖くなりながらも、とにかく早く目的地に着いてくれる事を祈るばかりだ。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 こんな、見た目がまだ子供の二人が……。


 私、マルック・キンモ・エストニアムアはそんな事を内心思いながらも、二人の境遇が記された日記の事を思い出す。


 これでも一応継承権六位だが、元々貴族や王族といった環境になじめず、兵士として家を出たつもりだったが、実際の所そんな簡単には世の中が許さない。いきなり最初から騎士団入りで、今では六十三歳の若さで近衛師団の中隊長になってしまった。まあ私がエルフ族だから六十三歳でも若いと言えるのだが。


 無論、私自身にもその能力は有ったのかもしれない。部下達に言わせると『王族なので……と思いましたが、そんな素振りもありませんし、指揮もその辺の将軍よりまともです』などと言われた事もある。嬉しくはあるが、どこか納得がいかなくなっても不思議ではないだろう。


 そんな私が今回警備責任者として選ばれたわけで、この馬車の護衛は勿論、通りに配置した兵士も私の命で配置についている。実働している兵の数だけでも六百以上。支援している者も含めれば、数は三倍になる。


 二人の事を知れば、確かにこれだけの事をしてもおかしくは無いだろうが、やり過ぎ感も拭えない。かといって、大隊長からの命令……というより、王家の命令だろうが、そこから抜け出すのは無理だ。


 それにしても本当に二人は若く見える。本来なら千五百歳を超えていてもおかしくないはずなのだ。なのに、見た目はまだ成人して垢抜けない感じすらする。


 昔の記述にこの二人が生活していた頃は、エルフなら十歳から十五歳程度で普通に成人と認められ、普通に働いていたというのを目にしたが、今は三十歳まではエルフの労働は禁じられている。いくつかの例外もあるが、種族ごとに成人年齢がきちんと定められているので、田舎の農家などでもない限り成人前に働く事などまず無いだろう。それにエルフには優遇処置があるので、例え農村であったとしても、五歳から二十歳までは教育機関で様々な事を教えられる。特に田舎の出身だと専用の宿舎が用意されるし、食事も原則無料だ。


 金さえあれば教育を受けることも出来るが、事に農村部などとなると難しい。なので多くの場合エルフ族がその地域を取り仕切る事になる。エルフが王の国だから仕方がないのかもしれないが。


 しかし、この二人は陛下と会ってから、一体どの様な処遇となるのだろう?


 少しだけ誰かが『かなりの待遇で受け入れられる』と噂を聞いたそうだが、実際の所は不明だ。だが今の扱いを考えれば、そう間違ってはいないのだろう。


 とにかく私は、二人を安全に送り届ける事が仕事である。継承権の放棄は認められなかったが、今の仕事を辞めるつもりはない。ならば、満足出来る仕事をしなくては。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 馬車は王城の正面に到着すると、そのまま謁見の間へ案内される事になった。ちなみに謁見の間まで続く通路には緑の絨毯が延びており、この国では敷物は緑が最も高貴な色で、特に鮮やかな色程好まれるらしい。そんな事を聞くと、何だか前世でのおとぎ話にあるエルフの事を思い出すけど、実際はどうなんだろう? 多分あまり関係ないと思うんだよね。実際、服装で最も高貴な色は男性なら黒って聞いたから。


 さすがは一国の王がいるだけあり、謁見の間まではかなり長い通路。僕らと共に、城の入り口で待機していたキヴィマキさんも合流して、一応の警護という事で、先ほどの騎士の人の他にもう一人の騎士も同伴している。一緒に来たメイドさんは別室で待機となった。


 謁見の間までは扉はほとんど無く、入り口に巨大な木製の扉があったほかは、これまで一度も扉を目にしていない。不思議に思うと、キヴィマキさんが『緊急時には石壁が天井からいくつも降りてくる』と教えてくれた。どうも一瞬で石壁を降ろす事が出来るそうで、よく聞いてから見ると、その石壁が落ちる場所だけ、絨毯が若干違う。それに、石壁が降りる際に下には溝が現れるらしくて、かなりの重量のある石壁を突破するなど、そうそう簡単にはできないそうだ。


 まあ玉座まで一直線でいけるのなら、そういう事をする必要があるんだろうなとは思う。それに直線とは聞いたけど、途中で階段とかもあるし、遠くから狙撃みたいな事は出来辛いはず。


 しばらく歩いて、玉座の間って所に案内された。ただ、思っていた印象とかけ離れて違う。どっちかというと、見た感じ平安時代にあったような部屋で、さすがに畳じゃなかったけど床は何かの植物を編んだ物。しかも土足禁止らしい。少し先に一段ちょっとだけ高くなっている所があって、そこに二人分の文字通り『座布団』が置かれている。更にその後ろに、四枚の障子風の引き扉がある。それと段になっている前に、薄いレースが覆いのようになっていて、多分このままだとはっきり顔が見えない。


 城の中を通ってきたときは、普通に前世でいう所の西洋風だったのに、何故ここだけ和風? って気はするけど、今日はそんな事をするために来たんじゃないし、後で誰かに聞こう。


 『履き物を脱いでから、こちらでしばらくお待ちください』と、案内してくれた人が言って、僕らはその通りにする。それにしても、本当に和風な感じ。そもそもこの玉座の間? を区切っていたのは、障子みたいな物だったし。まあ、ここまで来るような人には暗殺者なんていないんだろうな。その前に調べられるはずだから。


 周囲を見渡して色々確認していると、急に鐘が鳴る音がした。まるで前世にネットで聞いた火事の時に鳴らしていたという鐘の音みたいで、妙に甲高い。


 何度目かの鐘が鳴り終わると、座布団の後ろにあった障子が真ん中の二枚だけ両端に移動し、そこから二人が出てきた。てっきりこんな場所だから和風の服装かと思ったけど、服装は二人ともドレス姿。黒と白なので多分男女で、国王と王妃だと思う。当然エルフの国であるから、二人ともエルフみたいだ。


 そんな事を思っていたら、前にあるレースが上に引き上げられ、二人がはっきりと見えるようになった。それにしても洋風と和風が変に合体した形は、僕からすると奇妙にしか見えない。


「今日は二人ともよく来てくれた。思う事は色々とあるとは思うが、まずは君らが無事であった事を嬉しく思う。私はこの国を治めるマヌ・ヘンリッキ・ラッシ・エストニアムア二世だ。まあ、大抵は陛下などと呼ばれているが、君らは畏まる必要は無い。君らの事は、バスクホルド伯爵家と同等に知っているからね。まだ九十五歳と若いが、君らに会う事が出来て嬉しい。それから、隣にいるのが――」


「妻のリーシ・ヘンリッキ・ラッシ・エストニアムアですわ。正妻という事になっていますけど、あまり畏まらないでくださいね」


 さすがに女性だからか、年齢までは言わなかった。でも多分同じくらいの年齢だろう。


「他にも妻は二人いるが、それは追々紹介しよう。それで早速だが、君らが『騎士』の身分では色々と都合が悪いのでな。君らに正式な爵位を授けたい。侯爵で構わないかな?」


 その言葉に二人して驚いてしまう。礼儀も何も、まだこっちから話すらしていないけど、その状態で爵位を、それも侯爵と言われて戸惑うなと言うのが無理だと思うのは気のせい?


「陛下、よろしいのですか?」


 驚いている僕らの横で、一緒に来ていたキヴィマキさんが聞いている。当然その表情も驚いていた。


「別に二人を役職で縛ろうとは思っていない。何をするにも二人に任せるつもりだが、二人の身分が低すぎると問題も多かろう? 必要な処置と思うのだが?」


 僕とエリーは一体何が起きているのか理解出来ず、ただただ二人のやり取りを見ている事しか出来ない。だいたい侯爵となると、キヴィマキさんよりも爵位が上になるはず。普通なら誰だっておかしいと思うだろう。


「爵位に関しては陛下のお決めになる事ですから、わたくし程度が言う資格があるとは思えませんが、さすがに二人を今の段階で侯爵にすると、批判が出るかと思うのですが」


 キヴィマキさんの言っている事の方が正しいと思う。でも確かに爵位を決めるのは、結局は王様なんだろうな。なので意見を言える事は出来ても、それ以上は出来ないと思うし。それに、僕らからしたらそもそも何が何だか分からないし。


「あなた、いくら何でも説明はすべきですよ? この場にいるのがごく一部の関係者だけとはいえ、二人が混乱しています」


 僕らの事を気遣ってくれたのか、王妃様が説明をするように言っている。まあ、その説明を聞いても、僕らが分かるか疑問ではあるんだけど。


「おお、そうだったな。済まないリーシ。二人も突然の事で驚いたであろう。とはいえ、説明となると時間がかかってしまうが」


「何も全てをお話ししなくても。それは後ででも出来ますわ。大まかな理由だけでも説明してあげるべきだと思います」


 王妃様を見ると、王様の方が暴走しているように見えるのが、なんだか本当にこの国って大丈夫と思ってしまう。


「ごめんなさいね? あなたたちの事は、私達のような立場にあると色々あるのよ。いつもこんな訳じゃないから、安心してね」


 権力としては王様が上だけど、良識は王妃様の方に期待が持てそう。まあ、王様だって早々悪い人じゃないんだろうけど。悪い人なら、もっと前の段階で何かするだろうし。


「うむ、済まない。既に日記に目を通しているはずなので、それを前提に話をする事になるが、問題は無いかな?」


「は、はい。構いません」


 最初の言葉がこれって、挨拶抜きじゃ……。まあ、形式的な事ばかりされても、僕らじゃ分からない事が多いだろうけど。


「おお、そうであった。椅子を用意させよ。立ったままでは辛かろう」


 王様がそう言うと、近くにいた人が椅子を持って来る。どこかに用意をしていたんだろう。肝心の王様と王妃様は、座布団の上に王様は胡座だし、王妃様は横座り。周囲が何も言わない所を見ると、この国ではこれが普通なのかな?


「それで今回二人に爵位を授けるのは、そもそも決定事項である事は分かって欲しい。これは、君ら二人を助け出す事が出来なかった昔からの申し送り事項なのだ」


 王様の説明によると、今から千年程前に爵位を得たバスクホルド家が代々伝えてきた事らしい。その時点で、可能な限りの爵位を授けるのが決まっていたのだとか。


 そもそも伯爵家とはなっているけど、実際王家とは親戚関係で、バスクホルド家の長女であるウルプさんは、今の王家から見て叔父に当たる人の息子さんと婚約済み。継承権は低いらしいけど。それと五男のアンットさんは継承権九位のヘルヴィ王女と婚約しているのだとか。王家からの要請であり、他の貴族からのやっかみなども抑えているし、そもそも王家と伯爵家が親戚関係なのは公然の事実との事。


 遡ると、今から八百年程前に分家したのが今の王家で、普通なら本家の方が色々優先されると思うんだけど、本家であるバスクホルド家は僕らの捜索を重点にして、分家の方に権力を集めた結果が今らしい。確かに普通に考えたらバスクホルド伯爵家が王家だった場合、自ら調査に赴くのは弊害があったのかも。それくらいはなんとなく分かる気がする。


 なので実質的には王家が僕らに侯爵位を授けても、一応は問題ないと説明されるけど、正直混乱の方が多い。というか、混乱しない方が無理だと思う。


 分家はそれを金銭面でバックアップしつつ、次第に権力を高めていき、六百年前には全盛期を迎えたらしい。でもそれはそれで拡大しすぎた領地を管理出来なくなり、それから二百年程かけて当時辺境伯領などだった所を独立させつつ、上手くその独立させた国を従える事に成功したそうだ。


 それで余力を取り戻した王家などが、今から千年程前に起きた謎の大爆発や、それ以後起きるようになった魔力災害の研究を進め、当時からある程度は確立していた方法を、今では確実な対策方法へと変えたり、大爆発が起きたときに失われた魔力文明を積極的に調査、分析して、一部だけどそれを製造運用出来るようになったり、製造は出来なくても運用は出来るようにして国力を蓄えたらしい。


 これらの事はこのエストニアムア王国が主体で行っており、近隣の同盟国というか、以前の辺境伯などが治めていた国を牽制する道具としたりして、無駄に争わずに済むようにしてきたという。前世でいう所の核兵器的存在? まあ、核兵器は発掘品ではないけど。


 そんな発掘品の中で、過去に魔石を用いず、外部から魔力を供給して使う道具が見つかったらしい。全部じゃないらしいけど、その中にはエネルギー源としての魔石が無く、動作原理が不明だったそうだ。ただ何度か試行錯誤すると、それが動くのが確認出来たので、外部から魔力を供給出来る技術があったのは確定したそうだ。問題はそんな発掘品の中に、ヒトが供給するにはあまりに巨大だったり、数人がかりでないと動かない物もあったらしく、当然それらはどうやって動いていたのかという話になる。結論として外部から魔力を供給するケーブルが見つかった事で、それらを用いて使用していたと予想されたらしいけど、その供給源はどこにあるのかが問題になった。


 発掘品その物はかなり広範囲に分布していたらしく、最初は近隣の都市遺跡などを捜索したそうだけど、これといって供給している設備は見当たらないのが百年程続いて、あるとき魔力を供給するケーブルが地中から見つかった。それは都市の外にまで伸びていたらしく、似たような物がないか再度調査した所、それなりの規模の遺跡であれば確認出来たらしい。そしてそれら全てが、ある一方向に延びているのが分かって、その中心点になる所を捜索した結果、僕らがいたであろう施設が見つかったそうだ。


 これらの事は一応日記に記載していたらしいけど、僕はとりあえず先を読む事を優先していたし、少なくとも気がつかなかった。前世でいう所の発電所が僕らのいた施設で、各都市に伸びているケーブルが送電線みたいな物なんだと思う。


 後は日記にある通りの事になったらしいんだけど、一度は死亡しているであろうと結論づけられた僕らが、生存している可能性が出てきたという事で、色々な手段を使って僕らを探して現在に至る。


 昔なら準男爵位から始まり、今でこそ伯爵位が本家になるので、その中で爵位を与えるとなると、さすがに爵位はそれより一つ下の子爵は最低限であって、王家が絡んでくるので侯爵位でもと王家が判断したみたい。


「一応理由は分かりましたが、さすがに侯爵位は僕らに荷が重すぎる気がします。エリーもそうだよね?」


「はい。事情は分かりましたが、さすがに侯爵位は受け取りません。実際私達は特に何かしたわけでもないですし、準男爵位でも戸惑ってしまいます。元々貴族の生まれでもありませんし……」


 そうは僕らが言っても、相手はこの国の最高権力者で、尚且つ隣にはバスクホルド伯爵家があり、当然立場もあるんだとは思うけど……。


「うむ……確かに本人らが希望しない爵位は、問題もあるか」


 さすがに王様もその辺は多少理解してくれたのかな?


「しかしながら、代々の申し送り事項もある。これから君らが生活をするのに、いくら何でも平民扱いは出来ないのだ。だからとは言え、爵位を強制するのも問題であるな。伯爵家としてはどう思う?」


「そうですね……確かに二人の気持ちも分からないでもありませんが、準男爵や男爵というわけにはいかないかと。落とし所として、子爵が妥当かと思いますが」


 それでも子爵……。名誉なんだろうけど、何だか煩わしさも同時に受ける気もする。


「ともあれ、君ら二人はもうしばらく伯爵家で生活して欲しい。この国の事もそうだが、色々と君らが生まれた当時とは違うはずだ。我々も最大限協力するので、まずはそれを学んで欲しい。それに君らに爵位は与えても、先ほど言った通り官職で縛るつもりは当面ない。君らは見た目の年齢としてはまだまだ若い。これから色々な経験も積んでもらいたいのだ」


「そうね。その辺は私も協力させていただくわ。今まで囚われの身だったり、自らの意思で動けない生活が続いたのですから、それなりの知識は当然としても、この国で十分に生活出来る環境を私達は用意する義務があるの」


 王妃様としても、僕らに普通の生活くらいは送れるようにしてもらいたいみたい。その気持ちは素直にありがたいと思う。


「では、爵位の授与を行う。この国では男女関係なく爵位を持つ事が出来るので、二人に子爵位を授けよう。二人とも前に」


 王様がそう言って立ち上がると、近くに控えていたエルフの人が長剣を用意して王様に渡した。


「まあ、君らの境遇の事もあるので、簡易的に済ませてしまおう。私が君らの肩に剣を置くので、私の言葉の後に『謹んでお受けいたします。この命、民のため、国のため、陛下のために尽力いたします』と言ってもらえればいい」


 王様自らの指導だなんて、普通はあり得ないよね? まあ、確かに僕らはそういった事に無縁だったかもしれないけど。


 結局僕らはそのまま子爵位を頂き、この国で正式に貴族として認められたみたいだ。


「そうそう。爵位の他に階位がある。それぞれの爵位の中で三段階に分かれており、最上位は一等で、最下位が三等だ。すっかり忘れていたな。君らは公式に一等子爵位になる。同じ子爵位でも、二等とは身分差があるので、一応注意して欲しい」


 王様がそう言ってから、近くにいた人が更に何かお盆のような物に載せられた何かを持ってきた。


「これは爵位とその階位を示した物だ。普段から身につけておくように」


 渡されたのは、金で出来たと思う横長の物。よく確認すると、小さく中央にエルフの横顔みたいな物がデザインされていて、両脇には赤い宝石がそれぞれ付いている。


「階位一位が赤のサファイヤで、二位が青のトパーズ。三位が緑色の翡翠よ。子爵位だと一番左がエルフ族の顔をデザインした物。その隣にコスモスの花の右に弓があしらわれているわ。二人は階位一位だから、左に剣もあるの。一応知識として覚えておくと便利よ? 後で詳しく公爵から聞くと良いわ」


 王妃様がわざわざ解説してくれた。爵位によってデザインも異なれば、あしらわれている宝石も違うんだ。まあ一応階位も別れているとなると、見分けは必要だよね?


「それと君らの屋敷についてだが、もうしばらく待って欲しい。いくら何でも、公爵の家にいつまでも居候では問題があるのでな。まあすぐにではないが、相応の場所と屋敷や使用人などを用意する。戸惑う事もまだあると思うが、こればかりは慣れて欲しい」


 いきなり貴族とか言われて、何だかもうそれだけでお腹いっぱい。しばらく頭の整理が必要。


 その後もいくつか注意点などもあったけど、それまでのに比べると何だか些細な事に思えるのが、何だかちょっと悔しいかな?


「ああ、それと君らの行動を縛るつもりはないが、一応正式な身分証を後で発行するので、後日連絡があると思う。それを受け取ったら、まあ自由に……とはいえ、その自由が分からないか。その気があれば、二人は魔力も高いと聞くし、それなりの武器も扱えると聞いている。希望があれば訓練の後、そのまま冒険者業などを行っても構わない。貴族でも趣味で冒険者業を行う者が多いのでな。ただ、間違っても危ない事は控えてくれると助かる」


 それでやっと僕らは王様達から解放? された。うーん、まだ色々納得出来ない気がするし、なんだかあまりに恵まれた待遇なのは気のせい?


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「全く、陛下はいきなり何を考えているのかしら?」


 一緒に同行していたアイラさんが、帰りの馬車で溜息をついている。まあ、いきなり貴族も大概だと思うけど、それがいきなり侯爵ともなれば、色々とあるんだとは僕だって分かる。僕だってまだ子爵で落ち着いたのを、純粋に喜べないし。


 そのアイラさんは、帰りは僕らと向かい合って座っている。メイドさんの一人が前の席に移動しているので、窮屈とかそういった事はない。


 それでも僕らはいきなり子爵位をもらっちゃったわけで、さっきもエリーと話をしていたけど、全然実感なんてないし、そもそも『だから?』って状態。


 これが前世で貴族だとか、昔に分かりやすく貴族の生活をしていたとかなら実感出来るんだろうけど、生憎僕らはそんな事は無関係。まあ、一応僕は今世で二歳までは貴族みたいだったけど、どんなに記憶があったとしても二歳ではまともな実感なんてあるわけないし。


 王様から服に付ける『貴族章』ってのももらったけど、まだ付けてない。そもそもそういった服をこれから用意しないといけないらしいし。今は一応正装って事で僕らはドレス姿だけど、正装にもいくつか種類があるって話だ。今着ているのは確かに正装として使えるけど、貴族章を付けるような場所がないらしい。どっちかというとダンス用に近いそうだ。


「全く陛下にも困ってしまうわね。でも、二人とも子爵になったのだから、今後はその辺も含めて学んで欲しいわ。本当なら、男爵程度から初めて、数年ごとに陞爵って私は聞いていたのに……」


 アイラさんの溜息が何だか重い。気持ちは十分に分かるし、数年ごとに陞爵なら、まだ分からなくもないかなと思うけど。


「悪いけど、これからいくつかお店に寄ってもらうわ。主に服などを買ってもらう事になるけど。お金は大丈夫よ。私達の方で出すから」


「え、でも……」


「そもそも、二人はまだまともにお金を持っていないでしょ?」


 エリーが遠慮しようとしたら、アイラさんに指摘されて思い出す。少額なら持っているんだけど、それで服がどの程度買えるのかなんて分からないし、貴族が着るような服となるとオーダーメイド? 前世も含めて縁がない服だ。当然値段なんて分からない。


 そんな調子で買い物となり、服だけで一人分だけでも二十着くらい。当然公式式典用の男性用ドレスなんてのもある。女性用と違って黒だけどね。ドレスは四着、スーツのような物が五着で、他にも貴族が普段着るらしい服が十点程。下着とか含めると、一体いくつ購入したのか分からない。


 その時聞いたんだけど、この服の代金とかは後で王室に請求が行くらしい。一旦バスクホルド伯爵家が立て替えて、請求するそうだ。その為に今日は大金を用意していたそうで、金貨をそれなりに持ってきていると言われた。ただ、その価値が分からない。それで聞いてみると、金貨が高額の通貨なのは分かるけど、もしかしたら一千万くらいの価値じゃないかと思う。それが服だけで数枚使っていたのを見たので、一体服一つがいくらなのかと怖くなった。


 他にもエリーのためと思っていたら、僕の分まで宝飾品を用意されたりと、夕方まであちこちのお店を廻る事になった。貴族となると男性でも宝飾品に気を使わなくてはならないみたいだ。さすがにエリーは宝飾品のデザイン程度は好きな物を選んでいたけど、そこに付いている価格の札を見て、それからその価値を聞いてから一瞬ふらついていたりもしているし。まあ、僕だって同じなんだけどね。


 この国で、特にエルフの習慣らしいんだけど、男性がネックレスやイヤリング、指輪をしているのは普通と言われた。でもピアスは駄目らしい。何でも肉体に後から装飾品のために傷つけたりする行為は、宗教的に問題とされるんだって。医療行為は当然問題にならないらしいけど。


 お昼はレストランで食事だったんだけど、明らかに貴族御用達って感じのお店。先に服を買ってきた理由が分かった。誰もがそれなりの服を着ているのはすぐ分かったし、かといってちょっと前まで着ていた正装のドレスだと浮いてしまう。なので先に服を選んでおいて正解だと思った。とはいえ、今着ている一着しかまだ持っていないんだけどね。残りは調整とか色々あって、実質オーダーメイドみたいなので、出来上がるのに一週間程度はかかるみたいだ。


 それとレストランで気がついたんだけど、この国の上流階級の人たちだけかまではまだ分からないけど、エルフ以外の男性でも普通に金や銀のアクセサリーをしていた。そういえば前世の中世ヨーロッパでも、男性がアクセサリーをしている肖像画なんてのもあった気もするし、庶民とはさすがに違うとは思うけど、そういう文化なら慣れるしかないと思う。


 今付けているのは左の中指に白金の指輪。それと金のネックレスに黄色い宝石が中央にあしらわれた物。僕の目の色からアイラさんが選んでくれた。服の中に宝石部分は隠れているけどね。


 レストランでちょっと見渡した限りは、同じように様々な装飾品を付けている人がいるし、中には男性なのに横に長いティアラを付けている人もいる。


 前世の日本だったら色々と陰で言われてそうだけど、少なくともここではおかしくないみたいだ。まあ、エルフの国ってだけあって、貴族はほとんどがエルフみたいだけどね。特に爵位が高いほど、貴族はエルフが多いそうだ。


      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 急に色々と話が進んで、私とクラディは貴族にされてしまったみたい。それにこの国の王様っていつもあんな感じなのかしら? 正直暴走しているように見えたけど。


 正式に貴族になった事で、私とクラディは衣装も気をつけないといけないって事になり、アイラさんが私達を馬車でそのまま洋品店に連れていった。


 到着した先は、今まで見た事もないような豪華な着物の数々。一応私達が着ている物はこの国の正装の一つらしいけど、さすがにいつもこれというわけにはいかない。それでアイラさんが服を色々と選んでくれたのは嬉しいんだけど、値段を見て怖くなった。一着で金貨一枚ってドレスもあって、しかも半ば強制的に買う事になったし。普段着としてももっと気を使わないといけないって事で、それも銀貨数枚。


 ちなみに銀貨十枚で金板一枚、金板十枚で金貨一枚になるみたい。教えてもらったら銀貨一枚は銀板十枚で、四人家族の普通の家庭なら、銀貨二枚程度で一年を悠々と生活出来るのだとか。今選んでもらっている服は銀貨数枚の値段なので、一体普通の人の何年分の生活費になるのかしら?


 服を選び終わったら、そのまま隣にあった宝飾店でいくつかアクセサリーを購入。どうも貴族用のお店らしく、最低でも銀板五枚からの物しか置いていない。遠慮はしたのに『後で王家が払うから大丈夫よ』と言われて、そのままアクセサリーも十点以上購入。アイラさんが次から次へと選んでいくので、正確な数は分からない。後でお店の人が屋敷に届けてくれるらしいけど、そのまま三つ程は付けてもらった。指輪にネックレス、ティアラ。まるで結婚式に行くかのような感じ。でも、これから行くのは昼食を摂りにレストラン。


 レストランの中は、どうも貴族ばかり。みんなお洒落をしているんだけど、この国では男性も女性みたいなアクセサリーを付けるみたい。正直なにが起きているのか、まだ私には分かっていない。


 食事が終わったら今度は靴などを購入して、屋敷に戻ったのは四十時になる少し前。少し遅くなったけど、特に用事で遅くなる人以外は夕食を待っていてくれていたみたい。私達が着席すると、早速料理が配膳される。見ていると、今日は何だか豪勢。


「先ほども伝えたが、陛下から二人に子爵位が与えられた。しばらくはまだこの屋敷で住む事になるが、それまでの間、皆二人と友好な関係を更に築いてくれると嬉しい」


 食事が始まる前に、キヴィマキ伯爵が周囲に伝える。全員真剣な表情で聞いているので、私としては何だか恥ずかしい。そもそも貴族の風習なんて縁がなかったのだし。


 食事が終わると、今日もクラディと一緒に部屋に戻った。クラディは一体どう思っているのかしら? 今日一緒にいた感じだと、クラディもまだ事情が分かっていないみたいだけど……。まあ、それは私も同じよね。


 今まではお世話になる事ばかりで、他の人の事を考える余裕はなかったのに、これからはそうも言っていられないのかしら? そう思うと、何だか余計に気が滅入るわ。

毎回ご覧頂き有り難うございます。

ブックマーク等感謝です!


各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。


また、今後以前まで書いた内容を修正していますので、タイトルに一部齟齬や追加が発生する可能性があります。本文内容の修正が終わり次第、随時修正していきますので、ご理解いただきますようお願いします。


今後ともよろしくお願いします。

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