第八十五話 家族!?
2016/02/19 一部『姓』が『性』になっていた箇所を修正しました
2016/02/08 ルビの修正を行いました
2016/01/26 話数番号を変更しました
一週間程の取り調べなどを受けたけど、少なくとも暴力的な事だけはされなかった。
最初は僕もエリーも不安だったけど、単に僕らの身元を把握するのが一番の目的みたい。理由は分からないけど、それでも取り調べも普通に聞くだけで、脅迫じみた事さえなかった。
もちろんこれが、何かの前触れじゃないかって思っていたけど、今回は意外な事をいわれて、正直僕らは困惑している。
「あの……僕の聞き間違いでしょうか?」
「いや、私は正確に話しているつもりだし、既に君らさえ同意してくれれば、先ほどの約束も履行される。まあ、驚くのは無理がないとは思うが。私もこれを聞いたときは驚いたのだから」
まあ、ビンツスさんとイソタロさんが、同時に苦笑するのも、正直頷けるから仕方がないかな?
誰だって、本来『捕虜』であるはずの僕らに対して、あんな事を言う事になったらと思うと、僕だってどうしたらよいのか分からなくなると思う。
『私も信じ難いのだが、君らを解放する事になった。無論、条件付きだが』
『解放? 僕らをですか?』
『私が言うのも変ですけど、私達、捕虜ですよね?』
『ええ、その通りよ。でも、あなたたち二人は、特別恩赦が出たの』
『恩赦? それで解放ですか? いくら何でも信じられませんけど。そもそも、僕ら以外の人たちはどうなるんですか?』
『それは私も知らない。まあ、知らない方が良いと思う。それよりもだ、恩赦の内容だが……本来無期限の懲役罰のはずが、こちらの条件をいくつか承諾すれば、君らは一切の罪に問われない。また、今後も問われる事は一切無い。これは軍の決定ではなく、王室からの命令だ。一部には、むち打ち刑の後、死罪といった話もあったのだがな。内容は知りたくないだろう?』
『王室? 理由が余計に分かりません。そもそも僕らは、この国の王族にだって会った事がありませんよ?』
『その辺は、君らが気にする事ではない。話を続けるぞ。条件とは、今後、今までのバーレ王国での出来事は、他人の前で口にしない。我々のような立場の者なら別だが、他の者には言うなという事だ。もちろん、先日の戦闘も含まれる。それから、君らが条件を飲むなら、君を保護してくれるという家を紹介する。どの様な人物かは言えない。というか、我々も知らない。一応貴族家とは聞いている。それと、名前を変える事になる可能性もある。これは相手の貴族家の都合だな。他にもいくつか細かい事はあるが、大まかにはこんな所だ』
『答えは、すぐに出さないと駄目なの? 私達だって、考える時間が欲しいわ』
『そうね……今日中に出して欲しいと、上から言われているわ。私達も報告に行かなきゃならないので、今日中という事は、今すぐという事になるわね』
『急な話で申し訳ないが、我々が何かを言えるような状態ではないし、そもそも我々にはその権限がないのだ』
『今すぐ答えてくれって事ですか……考える時間もなく』
『済まないな』
そんなやり取りがあって、確かに一見すると悪くはない提案に思えるんだけど、本当に信じてよいのか分からずにいる。
「私もそうですけど、クラディも過去に酷い目に遭っています。今回とはちょっと形は違いますが、でも似た感じには思どうしても考えてしまいます。なので、信じてよいのか分からないです」
エリーが先に答えてくれた。
特に以前『拷問』を受けた事があるので、余計にそう思っちゃうのは仕方がないはず。あの記憶は今でも鮮明。
「まあ、私達も詳細は知らないし、それはあなたたちにしか分からない事ね。でも、拒否すると『懲役罰』って言ってはいるけど、事実上の『終身罰』よ? それに、このような場合の懲役罰は、鉱山で死ぬまで労働とまず決まっているし、扱いは奴隷と同じになるわ。どんな国でも、奴隷がどんな立場かは分かるわよね?」
イソタロさんが教えてくれる。まあ、多分そんな事だろうとは思っていたけど。結局、条件を飲まないなら『犯罪者』の扱いという事だ。
イソタロさんはこの国の騎士でエルフだけど、上司はクラニス族といっていて、僕らの知識からするとイヌ族だけど、ビンツスさんの部下らしい。
エルフが王様である事は間違いないらしいけど、兵隊のような『実力主義』だと、エルフであってもまた色々違うのかな? この国のシステムがちょっとまだ分からないから、その辺の判断が出来ない。
それからビンツスさんは『上級騎士』という役職で、イソタロさんは『騎士』という役職。騎士爵は名誉貴族の扱いらしく、領地を持たないのだとか。戦闘訓練を受けた一部の人だけがなれる名誉職らしく、上級騎士はその中でも特に名誉らしい。
騎士爵が名誉職の扱いなのは、なんだか前世のイギリスの制度を思い出す。たしかイギリスの作家で騎士爵の称号を持った人がいたっけ。有名な探偵小説を書いた人だったけど。
上級騎士は、一応それなりの情報を得る事が出来ると前に聞いたけど、それでも話してもらえない貴族家の事って、正直不安にしか思えない。
僕らの取り調べは、僕がビンツスさんが、エリーはイソタロさんがメインで行った。他の人もしたけど、この二人が主導権を握っていると思う。もちろんもっと上の誰かが命令しているんだろうけど。
取り調べは最初の二日間だけちょっと怖かったけど、それは僕らが何をされるか分からなかったから。取り調べ自体は単に質問をするだけで、拷問とかは勿論、前世の古い刑事ドラマであるような机を叩く行為すらなかった。まあ、それで簡単に信頼というか、懐柔された気もするけど。
そんな状態なので、僕らは先ほどの提案? が『懐柔行為』じゃないかと疑っているんだけど、口振りからはそう思えないのも確か。
まあ、それでも気を許しちゃっているのか、二人を『さん』付けで呼び合うようになっているから、やっぱり僕って気が弱いんじゃないかと思う。
「まあ、先ほど『王室』とは言ったが、実際には君らを引き取る予定の、とある貴族家が絡んでいるらしいが。さすがに我々も、詳細は知らされていない。なので、我々も助言できない」
ビンツスさんは、一応親切心で言ってくれているようにも思える。ただ、いくら何でも、どんな人かも分からない貴族が、僕らの身柄を引き取るって、そんな話はあるのか疑問しか出ない。あまりに話が上手すぎる気がする。
仮に二人の話を信用するとしても、普通に考えればその貴族の元で、それこそ奴隷のように扱われる可能性が高いと思う。
「まあ、急な話で不審にも思うだろう。一応部下が、もう少し期限を延ばせないか連絡に行ってはいるが、無理だろうな」
そう言ってビンツスさんは天井を仰いだ。何だか僕には、それが今後起こる色々な事を意味しているように思える。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
クラディとエリーが今後の事で悩んでいる間、別室ではバスクホルド伯爵とその夫人が待機していた。
二人が了承すれば、すぐにでもここから馬車で移動するつもりだが、さすがに直接二人に会う事は、まだ出来ない。というより、許されてはいない。
伯爵は彼らを『客人以上の扱い』で迎えるつもりではあるが、さすがに色々と事情があるので、それも伝える事が出来ないし、二人に姓を明かす事もまだ出来ずにいる。
そんな彼らの部屋をノックする音がした。二人は扉に向かって入室を許可すると、ヒト族の騎士が入室してくる。確かヘンリソン騎士のはずだ。今回の『捕り者劇』で裏方をしていた一人。
どんな戦いにしろ、前面で戦う者だけでは戦いは成り立たない。それを裏から支える者がいるから、戦う者は戦いに集中できる。だが、それをいまいち理解しない者も多い。仕方がない面は確かにあるのだが。
「何か用かな?」
実際用があるので来ているはずだが、相手からすればこちらが上位者。返事がなければ入室すら出来ないのもまた事実。面倒だが、こればかりは仕方がないか。
「ご相談がございまして。手短にお伝えします。あの二人ですが、前にお話ししたとおり、かなりの暴行を受けています。それが原因かと思いますが、こちらの提案に『裏』があるのではないかと疑っているようです。とはいえ、こちらも手がない状態でして、何かお力を拝借できればと。時間も迫っていますので」
今日中とは言っているが、実際には精々日の入りが限度だろう。この季節だから、時刻にして三八時といったところか。
話には聞いていたが、二人は過去にかなりの暴行を受けたのが、こんな所で災いするとは……。
かといえ、国王からもこちらからの接触は禁じられている。残り時間は……あと八時間もない。
そこへ、またノックする音がした。
「どうぞ」
扉を開けて入ってきたのは、ミルヤミ・タイナ・エストニアムア様。直系の王女で、継承順位は八位。男子であれば、継承順位は二位だったであろう王女だ。
「王女様……このような所へ、いかがなさいました?」
ここは兵舎の一角にある応接室だ。王族の方がお見えになるような所ではない。
「堅苦しい事は抜きにしましょう。お父様――陛下からの伝言です。さすがに私やあなたの直筆の署名を、今の段階で出す訳には参りませんが、フィリップス卿とビンツス上級騎士、イソタロ騎士の連名で、身柄の安全な保護を行うと、この書類にサインさせなさい。すでにフィリップス卿のサインは頂きました。あとは、あの二人だけです」
言い終わると、王女様は二枚の羊皮紙を我々の前に出す。
書かれていた内容は、簡潔にすると『身柄の安全な保護と保証、仮ではあるが騎士と同等の権利、生活が安定するまで、国と国王からの直接保証と保護。そして永続的市民権の保障だ』
身柄の保証は当然だとしても、永続的市民権の保障はかなり異例だと言える。私が知る限り、このような場合も当然だが、名もない一般住民が永続的市民権を得るのは、ほぼ不可能。
貴族の当主及びその妻は、貴族籍にある限り市民権を保障されるが、子供はその限りではない。軽度な犯罪などでも、場合によっては国からその貴族家から出るように命じられる。当然、一般住民の暮らしとはかけ離れた生活をしている者も少なくなく、多くの場合長生きできないと聞いた。大抵は犯罪に走るか、犯罪に巻き込まれて死んでしまうそうだ。それくらいに市民権というのは重大な物である。
「二人の事は、今回特別に陛下も気にされておりました。聴取資料をご覧になった陛下は、特例処置を今回に限り認めるそうです。ですが、この件にはあまり王室の事を探られたくもありません。しかし、この二枚の書類は陛下の直筆です。無論それは口外してはなりませんが、この二枚のうち一枚を王室で、もう一枚をあなた方で保管していただく事になるでしょう。陛下がお名前をサインできない事情は、お二人ならご理解になれるはず。よろしいですね?」
「承知しました。このご恩は、必ず何らかの形で……」
「いえ、それは結構と陛下は仰いました。ですが、この件は絶対に他言無きよう。意味は当然理解できますね?」
陛下が絡んでまでの対応である。理解できない方がどうかしている。
「それと、陛下からの伝言です。『あの二人は、君ら家族だけではなく、我々エルフ全体の始祖とも呼べる存在。故の対応である』と。さすがに私であっても、詳細は知りませんが、それだけの対応が必要な二人なのでしょう」
「それは、確かにそうかもしれませんが……陛下が気になされる事ではないかと、私は思ってしまうのですが?」
あまりの対応の良さに、妻までも驚きを隠せていない。
「それから、今の件は誰にも話してはなりませんよ? 分かっていますね、ヘンリソン?」
ヘンリソンは静かに頷く。彼も騎士団に所属する身であれば、この内容の重さは理解しているだろう。しかも王族直々の命だ。
「では、確かに渡しました。後はあの二人に任せなさい。こちらへの報告は後ほど。よい報告を待っていますよ?」
ミルヤミ王女は、その言葉を残して護衛と共に部屋を後にした。
私はすぐさまヘンリソンに羊皮紙を託し、結果を待つ事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
何だか急に部屋にヒト族の人が入ってきて、ビンツスさんとイソタロさんに何か小声で告げた後、ヒト族の人が部屋に残って二人は部屋から出て行った。
しばらくすると、二人は戻ってきたんだけど、ビンツスさんは手に二枚の羊皮紙を持っている。
「上の方からこれを見せるように言われた。私達が連名でサインしており、私のいる貴族家当主のサインもある。内容は保証されている。とりあえず中身を確認して、君らがどうするか考えて欲しい」
そう言われて僕らは羊皮紙を受け取ると、さっきまでいたヒト族の人が退室した。何かあるのかなと疑ってしまう。
「片方は、君らが引き取られる予定の貴族家に。もう一つは王家で保管をするとの事だ。なので、書き込まれた内容については、王家も責任を持つ」
何だか急に話が進んだ気がするけど、とにかく中身を確認しなくちゃ。
二人で羊皮紙を見ると、なんだか僕らの事は『責任を持って守ります』みたいな事が書かれているし、身分も保障されるみたいな事が書いてある。どの程度これが有効なのか知らないけど、目の前の二人もちゃんと両方にサインしているので、この内容が破られた場合は、この二人にも責任が発生するという事になるのかな?
ただ、引き取られる予定の貴族家が、なんでこれにサインをしていないのかも分からないし、王家が責任を持つなら、国王なりそれなりの王家の人のサインもないと意味が無いと思うんだけど?
それを指摘したら、この国では国王の権限は絶対だそうだ。なので、これを王室が保管するという事は、国王もそうだけど、王室が羊皮紙に書かれた内容を保証するという事になるらしい。それはすなわち、国家としての保証になるのだとか。
「なので、我々からするとこれ以上の信頼性のある物は無い訳だ。もちろん君らがどう思うかまでは、保証できないのだが……」
「無論、偽物でもありません。そうであれば、我々騎士団のような者がサインをする訳にもいきませんから」
補足するかのように、イソタロさんが付け足す。
こういうのって、前の世界では『公文書』って事になるのかな? 本当であれば、確かにこれ以上のない物かもしれないけど、問題は僕らにそれを確かめる手が無いんだよね。
「君らが疑う気持ちも分からなくはないが、ここは騙されたと思って、我々に従ってくれないだろうか? ここまでするのは、本来異例なのだから」
結局一時間ばかしビンツスさんに説得され、僕らは羊皮紙にサインをした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
僕らがサインをすると、手続きという事でしばらく待つ事になった。ただ、部屋を移動する事になったんだけど、正直驚きを隠せない。
今までの服は囚人服とはいわないまでも、簡素で麻を編んだだけの粗悪な服だった。色染めもしていなかったので、見た目は最悪だ。まあ、捕虜扱いだし仕方がないのかもしれないのだけど。
勿論この事に僕らが文句を言えるはずもなく、板張りに薄手のクッションと布だけがあるベッドだし、床で寝るよりはマシ。ただ、食事は三食出ていたし、量もそこそこあったので、食事についてはさほど不満はなかった。
それが急に移動となって、まずは兵舎から出た。そして最初に向かったのが、どうも衣服の保管室らしい。
そこで僕らは今まで見た事のないような服をいくつも見せられ、最終的には僕が白のシャツに紺の上着。下は紺のスカート。帽子こそ被っていないけど、鏡を見たら一瞬どこかのシスターかと思ったくらい。
どうも僕らが生まれた時代と同じらしくて、男性でもエルフやその眷族は、礼服などの場合はスカートが正装だとか。鎧を着た場合はまたちょっと違うらしいけどね。
エリーはピンクのドレスで、何だかどこかのお姫様って感じ。何枚かの生地が使ってあるみたいで、単にピンクじゃなくて、薄めのピンクやちょっと濃いピンクもあり、エリーは元々綺麗だからか、何だか本物のお姫様にしか見えない。
しかもその部屋にはフィッティングルーム――専用の着替え室まで備えられていて、着替えは周囲の人が勝手に手伝ってくれる。むしろそんな扱いを受けた事なんて無いから、疲れちゃったくらい。
先ほどまでの扱いに正直驚きを隠せないでいると、今度はそのまま待合室に案内された。待合室とは言っているけど、普通の待合室でないらしい。貴族用の待合室で、もう一つある大きな出入り口には、馬車がそのまま横付けできるのだとか。
もちろんそんな待合室にも驚いたのは当然だけど、待合室には僕ら専属のメイドさんが二人待機していたし、夕食前との事なので軽食だったけど、宿舎で出ていたのは一体何だったのかと思うような食事が出てくる。宿舎の食事だって、正直下手な物よりは美味しいと思ったけど……。
飲み物はお酒からジュースまで飲み放題みたいだけど、さすがにお酒を飲むのはどうかと思って、お勧めと言われた紅茶を飲んだ。
砂糖もミルクも入れずに飲んだら、ストレートなのに甘みがあって、香り高い。受け取ったのはティーカップではなく、前世でいう所のマグカップみたいな物だけど、高さはティーカップ程度なのでさほど量は入らないと思う。ちなみに、一杯の値段が銀貨一枚だそうだ。銀貨一枚で普通なら大人一人一ヶ月がそれなりに生活できるらしいので、とんでもなく高級な紅茶に絶句してしまった。しかもそれが飲み放題だと言われても、元が貧乏性なのか、とてもじゃないけど値段を聞いた後には飲めない。結局もっと安価な……といっても、一杯で銅板五枚――大人三人の一日の生活費相当のお茶にしてもらったくらい。それが一番安いといわれて、当然そんな紅茶だから美味しいのだけど、何だかとても複雑な気分になる。
この国では青銅貨十枚が銅貨一枚。銅貨十枚で銅板一枚。銅板十枚で銀貨一枚。十枚単位で貨幣価値が上がるそうだ。前の所よりも分かりやすいし、どうも青銅貨一枚が十円程度の価値に思う。細かい価値はちょっと違うかもしれないけど、それは今後覚える事があれば覚えればいいし。
それ以外にも待合室には豪華な調度品が揃っていて、まあ確かに貴族用の待合室と言われたら納得するしかない。
それと、この部屋には騎士団所属でも、正式な貴族以外は入れないのだとか。騎士団所属だと、一応騎士爵の称号があると言われたけど、騎士爵は貴族ではないと線引きがされているかららしい。準男爵以上が貴族なので、そもそも僕らがこの部屋にいる事が間違っている気がする。
だいたい、この世界に転生してから初めてシャンデリアを見た。ふかふかの赤い絨毯に、重厚な造りに見える家具。別の意味で異世界って感じ。こんなのは前世でも体験した事がない。
二時間程待合室で待っていると、外で馬車が近づく音がする。少しして外の扉が開けられると、二頭が引く馬車があった。
馬はいずれも漆黒の黒といった感じで、毛並みが輝いている。よく手入れをされているんだと思う。
馬が引いてきたのは四輪の馬車で、これもまた馬のように漆黒の黒。扉の所に何かの紋章が金色で付けられていて、明らかに普通じゃないのが分かる。
すぐに馬車の扉が開くと、中から基本赤で統一している騎士風の人が出てきた。その人が馬車に乗るように言うと、先ほどのメイドさん二人が乗るのを手伝ってくれたりする。騎士風の人はとても丁寧な対応。何が何だか分からない。
そのまま僕らは馬車に乗り込み、騎士風の人と一緒にどこかへ向かう事になった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
多分一時間程だと思うけど、馬車に揺られながら町並みを見た。
この馬車に何か特別な意味があるのか、歩く人や他の馬車なんかは、僕らが乗った馬車が通過するときには脇に寄ったり、止まったりしている。前世の大名行列なんかを想像しちゃう。
それで到着したのが立派なお屋敷。石造りで多分四階建て。真っ白な壁に、ちょっと夕日でわかり辛いけど、多分青系統の屋根。馬車専用の門があるみたいで、そのまま僕らは馬車でお屋敷の敷地に入る。
敷地の中ではかなりゆっくりとした移動。そして着いたのが立派なお屋敷にある、多分正面玄関みたいな所。他にも入り口があったけど、どれもそれに比べれば小さい。とはいえ、そのドアは普通のサイズのドアのはずだけど。ただ、どれも高級そうな扉。一体いくら扉だけでかかっているんだろう?
正面玄関風の所は、馬車がそのまま乗り付ける事が出来るように、一部だけ馬車の出口と同じ高さにしてある。そこ以外は階段になっているけど、階段部分はかなり広めだ。
「お待たせした。お二人を旦那様方がお待ちです」
同乗していた騎士風の人に言われて、僕らは馬車を降りる事にする。
というか、いつの間にか外から馬車の扉は開けられているし、そこから直線に人が両脇に立っている。服装からすると、メイドさんとか執事さんみたいな人たちだろう。そして、一番奥にエルフの人が何人か立っていた。
僕らはそのまま玄関に向かって歩き、扉の前で待っているエルフの人たちの前に移動した。
「よく来てくれた。私の名はキヴィマキ・タピオ・ベルナル・バスクホルドで、伯爵だ。内務卿もしている。今回君らを引き取ったのは我々だが、家族同様に思ってもらえると嬉しい」
「え……バスクホルド?」
すぐさまエリーが反応した。そういえば、エリーの姓はバスクホルドだったっけ。って、名前にベルナルも入っている?
「気がついたかもしれないが、私達は君らの遙か昔のご兄弟の子孫になる。経過している年数が年数なので、直接的な血の繋がりとなるとほとんど無いが、それでも我々は君らが一族の『創始者』であると思っている」
創始者って……。だって、僕らは千年以上閉じ込められて眠っていただけなのに。
「細かい事は中で話しましょう。歓迎するわ、エリーナさんにクラウディア君。と言っても、私達よりも年上になるはずだけどね?」
横にいたエルフの女性がそう言って、僕らは中へと案内された。
毎回ご覧頂き有り難うございます。
ブックマーク等感謝です!
やっと最悪の局面を二人は抜け出しました。
まあ、急激に変わる生活に戸惑うでしょうけどね。
でも、これまでのような扱いはほぼ無いと言えるでしょう。
次の話から、新しい章になります。
各種表記ミス・誤字脱字の指摘など忌憚なくご連絡いただければ幸いです。感想なども随時お待ちしております! ご意見など含め、どんな感想でも構いません。
また、今後以前まで書いた内容を修正していますので、タイトルに一部齟齬や追加が発生する可能性があります。本文内容の修正が終わり次第、随時修正していきますので、ご理解いただきますようお願いします。
今後ともよろしくお願いします。




